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審問会召喚:暗殺疑惑と意見陳述


 円卓を囲むのは、私と王女、ローブの三人組、もとい灯光教会の三賢者だけ。私から左手に座る王女の背後には、王女の侍女さんとソフィアと弟が椅子に座って控えている。右手に座る三賢者には、それぞれ一人ずつ同じ色のローブを着た人が背後に立っている。この面々は、私が提出した報告書に対しての疑問があるとして出席している。

 この審問会は、自称神様から渡されたランタンについて、灯光教会の人から質問される予定だった。もっと大勢の前での審問会に吊るしあげられると危惧していたが、ランタンの機能を隠したい灯光教会側が箝口令を敷きやすい人数にしたとも言える。どちらにせよ、言葉攻めにあうことは確か。しかし、予定は大きくずれる事になった。

 私の右隣にはじい様が座っていて、椅子をぴったりと付けて寄り添ってくれている。何処か重々しい空気を切るように、真ん中のお立ち台に立ったテトは右手をあげた。

「では、中立地帯への凶器の持ち込みに際し、公然聴取を執り行います。聴取は警察官の仕事であり、秘匿性の高い場所で行う事でございますが、この場所の特性上、裁定者テオドール・エル・ビオス・タルディート・テト・オゼルギオン・バンデルが務めます。異議のあるものは、挙手を」

 公然聴取とは、集団による晒し上げではなく、議論型の当事者の会話を裁判に利用できるようにした聴取方法である。簡単に言えば、現場に居合わせた人が口裏合わせする前に録音してしまおうということ。もちろん、公然聴取後には個人の聴取が控えている。

 テトが円卓を見回す。誰もが円卓に手を出してあげようとしない。右手に霧吹きを握り込めば、テトは小さく頷いた。

「異議なしと判断。では、私は議題提示と司会を行います。挙手の後、司会が名指しした方が発言するように」

 了解の意味を込めて頷けば、テトはお立ち台を下りて円卓の外に出た。テトが王女の左隣に座っても、沈黙が続く。そこに左の奥に居る王女が右手をあげて、「ホーリア様」と名指しされた。

「裁定者殿、今回の審問会において、あなた方の参加は予定されていなかった。この場に居ることの説明を願いたい」

 テトは再び立ち上がり、右手をあげて宣誓のように声を張った。

「かしこまりました。裁定者権限を行使し、私以外の発言権を剥奪。発言中の質問及び反論などの発言を禁止致します」

 自由に話せる聴取方法なのに、発言を禁止されることもあるのか。国家の一大事になる話だろうか。テトは右手をあげたまま言葉をつづけた。

「裁定者五名より、黒白の間において第一王女の暗殺の予言及び予知がなされておりました。回避不能と判断され、裁定者は中立地帯の定義更新、および事件後の対処にのみ対応する形を取ると、半年以上前から決定しておりました」

 がたん、と椅子が揺れた音がした。静かすぎる部屋の中では大きな音で、後から聞こえてくる王女の荒い息に気付くのが遅れた。ソフィアに肩を叩かれた王女が座ると、テトは話を続けた。

「ですが、暗殺予定日が変更、予知予言が無効に。再度調査を行った結果、裁定者の介入が殆ど行われない状態で暗殺未遂になると判断されました。国家の要人の暗殺の防止が可能と判断し、残る不確定要素の確定と防止策の把握を行うために審問会への出席が決まりました」

 つまり、王族の暗殺を契機に、中立地帯の在り方を考え直すつもりだった。その暗殺を止めることが出来ると予言が変更されたことにより、その現場を確認したかったという事か。

 予言が出来る面々が、防止策を理解できなかったとはどういう事だろうか。テトはとうとうと続ける。

「過去に、暗殺と目されるものの事故と判断された要人の死亡案件は、探索者協会発足以降大小関わらず、百件近くに上ります。そのうち、暗殺を防止出来た案件は、一桁のみ。被害者が傷つかなかった案件は、観測されておりません。本件は希少かつ重大な、裁定者でも観測できない特異点となる事象が発生したと目されます。その起点と目されるレイ・グランドの発言権を回復し、到着後から暗殺道具の発見に至るまでの、黒白の間における行動履歴の証言の提出を求めます」

 自分のことを指でさしてみると、テトは大きく頷き、視線がこちらに集まった。行動履歴を話せと言われても、したことを言えばいいのか?戸惑いつつも、話してみた。

「入室してからは、掃除と換気を……ジン・オギワラとテト・バンデルさんと、黒白の間の扉に立っている警備員さん二名と行いました。ほとんどの掃除を終えた後、窓際の椅子で休んでいると、実弟であるアレン・グランドが来ました。話をしていたら、ガラスが割れる音が扉の方からして、ガラス食器が割れていたので、手袋をつけて破片の回収をしていたら……その、食器の高台に、ノーノ・エルドリアジー三進法魔法術式の改訂版形式の刻印を発見、薬物及び劇物の効果促進術式と判別しました」

「行動履歴の提出、感謝します。この場の全員の発言権を回復。質問を行いたい方は挙手をして下さい」

 王女や白いローブのフードを被ったままのシリスの表情に困惑が浮かんでいた。そこに赤いローブの人が手をあげた。テトが「ワイズマン様」と言えば、赤いローブの人が私のことを睨んでから腕を組んだ。

「レイ・グランドの証言の補強をしたい」

素っ気ない物言いに、テトは短く「許可します」といった。

「術式の型について、聖具の賢者の権限をかけて正しいと証言する。お前、術式の登録年代も言ってくれるか?」

 発言を促されて、手をあげるとテトさんが許可を出してくれた。いちいち話を区切るのは、白熱したいためだろうか。

「エルドリアジーの三進法魔法術式は五十二年前、西方魔法具博覧会にて発表。五十年前に新規魔法記述法として魔法図書館の所蔵。一般利用は四十八年前から現在も利用されている、毒物感知を行う銀食器に付与された商品が有名です」

「俺よりも詳しそうだ」

「ワイズマン様、挙手のない状態での発言はお控えください」

 特技資格三番の筆記試験に必ず名前が出る魔法だ。定型文を言って褒められるとは思わなかった。テトがすまし顔でとがめれば、赤いローブの人はフードの下で笑って手をあげた。テトがすかさず彼の名を呼べば、赤いローブの人は立ち上がった。

「俺が気になるのは、黒白の間は魔法術式が付与された物は壊れるにも関わらず、付与を施された食器を持ち込もうとした事実だ。シンジャールの爺、なんで、持ち込もうとした?」

 犯罪の理由よりも、凶器が持ち込めると思っていたことが気になるのか。青いローブの老人を見れば、ゆったりと手をあげて指摘されると同時に手を下げた。

「長時間に及ぶ審問会に臨む為の茶器を、自ら用意して何が悪いのだ」

 自分が使う予定のものだったらしい。ポットとコップに、茶葉をいれた器を持ち込んでいたと青いローブの老人が言えば、納得できた。高台の数も三つだったので、多くても二人分のコップしかなかったと思われる。

 自分で用意したなら自殺願望者、誰かが用意したならその人を捕まえればいい。場所を選ぶべきだが、確かにそうだよな、とうなずいた。そこに、隣に座るじい様が手をあげた。テトが許可をすると、じい様はかすかに笑い飛ばすように言った。

「問題はそこではないだろうに。裁定者バンデル殿、儂から裁定者の面々に対し、魔法具の利用できない中立地帯で利用できるようにする方法の仮説を提出したい」

 誰かが息を呑んだ気がした。とんでもないことを言いだしたぞ。隣に座る美少年の横顔を見れば、こちらに目配せをした後に微笑んだ。

「一時、司会とジン・オギワラ以外の発言権を剥奪。オギワラ様、仮説であっても重大な発言となります。根拠なしと判断された場合、偽証と認定されることをご確認の上、発言を行ってください」

 テトが重たい口調で言えば、じい様は軽く頷いて口を開いた。

「この場の清掃を行った理由は、このレイ・グランドが黒白の間に入る前に、血まみれであると言ったからである。この者が十歳の時に同席し起こった、異界門階層自治区会合にて病原菌による大量殺人事件の心因性外傷によるものだと思ったが、不審に思ったのでレイ・グランド本人の魔術を利用して清掃を行った」

 私の魔術と言った瞬間、青いローブのフードがこちらを向いた。目元はこれでもかと見開かれ、口角は酷く下がって不満げである。

「床どころか、壁天井、我々が座る椅子にまで血痕があった。しかし、その血痕は規則的で、魔法術式の視認を阻害していると判断した」

 人の血液で術式を隠していたという事?もしや、術式そのものも血液だったのでは。気持ち悪い、と顔をしかめれば、背中をさすられた。

「書かれている術式内容は、魔法感知術式の阻害。描かれた術式そのものを感知させて、他の術式に反応できないように仕組まれていたと思われる。その上に認識阻害をかけられていて、魔法による浄化以外の清掃が行われていなかった可能性が高い。提出する仮説は以上だ」

 話を区切った後、テトが口を開こうとしたところにじい様が手をあげる。まだ話すのかと思ったら、じい様は腕を組んだ。

「探索者資格免許一級の権限、犯罪行為に対する事情聴取権利を利用することを宣言する」

「……承認します」

「シンジャール、毒殺未遂の嫌疑をかけられるか、中立地帯にて魔法具が使えると知っていたと証言するか、どちらかを選べ。知らぬと証言しても良いだろう。どれにする」

 じい様、灯光の賢者が犯人だと思っていないか?何かがおかしいと思って手をあげかけて、発言権がない事を思い出す。力なくおろせば、青いローブはおもむろに手をあげて、そっと言った。

「黙秘しよう。公然聴取にて、王女の耳に入れるには聞き苦しい事があるのでな」

 頭の片隅で、「失敗した」という声が聞こえた。気のせいだと思ったが、嫌な予感がする。何が気に掛かるのかと思っていたら、青いローブは両手の指を組んで頭を下げた。

「それに、暗殺行為を止めきれたとは言い切れないでしょう。審を決するには、早計であると具申いたします」

 老獪風を装った口調から、はきはきとした口調に変わっていた。そして、顔を伏せたまま言った。

「逮捕されるとしても、結構でございます。ですが、灯光教の目下の問題である物事の解決に至ってからにしていただきたい」

 その声には勝ち誇ったような音色があった。勝手に勝負を始めて勝った気になっているような。変な人だなと他人事のように首をひねった。


 王女が暗殺されるかもしれない上に、魔法具の持ち込みを棚上げにして、灯光教会からの審問会が始まった。テトは席に座ったまま、審問会の発言管理を続けることになり、白熱した言葉の応酬は出来ないようにされた。その点は問題ないのだが。

「灯光教にまつわる遺物を、遺跡から持ち帰ることは盗人も同じ。信徒が神とのつながりを求めての行動だったと思えば理解出来る事もない。しかし、信徒でないものが持ち出し、あまつさえ神を詐称する者と会合したなどと報告するなど……我ら信徒を侮辱する行為と捉えられても仕方がない。言葉を選んでいただきたいものです」

 ずっと青いローブの人が話している。灯光教側の主義主張を宣言して、公的記録に残そうというつもりなのだろう。だけども、私の報告書に対しての感想ばかり言っているので、質問と反論、一緒に考えて議論したいことがスケッチブックの白い画面を半分ほど埋め尽くしていた。

 まず、暗殺未遂の話題が出た時点で審問会が中止にならないことがおかしい。止めようという選択肢がないと思っているのかも。

 所長とじい様が言っていた灯光の賢者の場の支配だろうか。ソフィアが対向しないのも不思議だ。

「灯光の証こそが我らが信仰する神であり、その神に来ていただいているというのに、管理するという文言も許し難い……失礼、長々と話過ぎましたな。レイ・グランドが作成した報告書に対し、灯光教会は異議を申し立て、詳細の追加報告、場合によっては書き換えを要請する」

 やっと満足したようで、青いローブは口を閉じた。目を伏せた王女の後ろで、弟が組んだ腕を指で叩いている。じい様は半眼で遠くを見ているし、シリスは申し訳なさそうにこちらを見ていた。長話に文句を言う権利は、私に任されたらしい。そっと手をあげると、テトに発言を許された。

「レイ・グランド様、これまでの発言や質疑についての見解や反論など、意見陳述を行ってください」

 全員の視線がこちらに向いたので、一度深呼吸をしてから話を始めた。

「指名された、レイ・グランドです。……まず、いただいた言葉に対してのまとめた感想を言わせてもらいます」

 関係ない事を言うと前置きしてから、青いローブの人をしっかりと見て言った。

「公文書の書き換えや異議申し立てについては、探索者協会を通して文書で申請し文書内容の変更届を頂きたく。信者の皆さまに対する配慮が足りなかったことは謝罪いたします。ただ、私は文章の最終確認をしてくれないかと連絡を灯光教会側に致しましたが、文書による返答はありませんでした。にもかかわらず秘匿した情報を扱う責任能力が無いと語られるのは……いささか首をかしげたくなります」

 赤いローブの人が吹き出し、肩を揺らした。忙しいとはいえ、情報の秘匿するための相談ぐらいはさせて欲しかった。笑っている場合ではない。応じなかったのは、そちらの方だとローブ三人を見回した。

 あまり怖くはない。さっきまで黒白の間におびえていた割に、はっきりと喋れているので、私自身も驚いた。それをいいことに青いローブの方をしっかりと見据えた。

 長い話は興味深いと思える内容ならば嫌いじゃない。ただ、己の意見が灯光教会の総意のように語るのは、両隣に座った賢者の顔を見てからにしてほしいものだ。本当に所長と同格扱いされる賢人なのだろうか。まあいいやとスケッチブックに視線をおとした。

「まず、灯光教会側から提示された疑問点の集約を行います。テトさん、不足があれば修正を願います」

「かしこまりました」

 青いローブから提示された疑問点をまとめると、みっつだ。

 開闢の尖塔の地下にあった、導きの賢者たちの声の詳細。

 尖塔の破損を行った、神を自称した人物の詳細。

 原初の日篭の出所。

 信者としての気持ちを全面に出していたが、聞きたいことはそれだけだと思う。問題ないかと見回せば、テトが頷いた。

「では、開闢の尖塔地下に発見した遺体や血文字については、現場検証を推奨します。王位継承の儀の期間中のみ動作する可能性が高いものの、灯光の証がない方であれば地下に降りる事が可能ですので、王国軍との共同調査してください」

 ついでに開闢の尖塔の地下構造把握、破損修復も提案すれば、赤いローブの人が手をあげた。テトがこちらを気にしたので、「質問でしたら、どうぞ」と指摘すれば、赤ローブの人はフードの下でこちらを真っすぐ見た。

「破損とは、修繕できそうだと判断したという事か?」

「開闢の尖塔の正常な状態を知りません。修繕の可否及び、修繕個所の詳細の数を含めて、調査を行うべきだと考えます」

 ヤエコさん特性スプレーの効果については、報告書に書き込んでいない。もしかしたら直せるかもしれないけれど、灯光教会側が協力を望むまでは踏み込まない。赤ローブが納得したように頷いたので、次の疑問点に移る。

「続いて、原初の日篭の出所について。神様を自称した人物の説明に重なるため、そちらに集約させていただきます。自称神様についての容貌については、私が作成した人相書き以上のことは説明できません。ご容赦ください」

 残る自称神様の会話について話そうとしたら、王女が手をあげた。テトが指摘すると、王女は瞼を開いて口を開いた。

「人相書きに対しての注釈に、レイ殿の記憶から抽出された人相、意思疎通のために対話形式を変更している所作を認める……とあった。これは、相手に合わせて、姿も話し方も変えると捉えて良いのだろうか」

「この点については、注釈の前書きとして推測であると記載しております。不可解、妄想と断定されても仕方がない事です。その妄想で気を引かせて、遺物を窃盗した事実を隠そうと想像されることも、想定しております」

 神様と会ったなんて、私も信じていない。自分の理解を越えることを行える存在という点では、審問会に出席している面々も自称神様も同じだ。その規模感の違いや自身への損得で名前を変えるだけであり、超常の存在と呼ぶにふさわしいなら、そう呼ぶべきだ。

「回答感謝する。見解に戻ってくれ」

 王女は軽く手をあげて感謝を示した。会釈で返せば、テトは話に戻るように促してきた。私の見解を語る。

「お会いした存在は自身のことを、パートタイムな神様で管理人だと言っていました。つまり、開闢の尖塔地下の管理をしていると、自称しています。私は神の存在の可否ではなく、開闢の尖塔が何者かの管理下にあるという事を重視しております」

 あの人が神様かどうかよりも、もっと大事な事がある。三賢者の方を見ると赤は興味深そうに、白は申し訳なさそうに、青は感情を隠すように口角を下げている。その面々がどのような反応をするのか、かすかな恐怖を胸に続けた。

「この報告書は、未記載の情報が多数あります。開示しない方が良いと独断で削除した内容です。その一部は盲目の賢者シリス様からも未記載を要請されたことと関わることです」

 赤いローブと青いローブのフードの口が、白いローブの方へ向かう。何を言った、と咎めるようなやり取りに、手のひらで待ったをかけた。

「シリス様から伺った、原初の日篭の機能についてではありません。灯光の証の本来の権能と副作用についてです」

 問題なのは灯光の証が太陽の権能であり、権能を分与した結果として異界門との接続がし易い、という内容の方である。

 青いローブの口が素早くこちらを向いたので、私は左手を胸にあてた。

「私は、その内容を聞いた事もありませんでした。灯光教会は、この不明確な疑念を隠しておきたいのだろうと推察し、勝手ながら共犯となる事を選びました」

「レイ・グランド様、裁定者として質問します」

 テトが手をあげたので、「どうぞ」と言えば、黒い眼帯の奥の眼が厳しく細められている気がした。

「秘匿した情報を開示する事は出来ないのですか。それともしたくないのですか」

「……どちらとも、と回答したします。社会の安定を欠く可能性を否定できないため、公的記録に記載された事実を残しておきたくありませんでした。この審問会を灯光教会が持ちかけたことに、私は非常に残念に思ったほどです」

 自称神様のことを訊かれるにせよ、ランタンのことを訊かれるにせよ、灯光の証がこの惑星から消えつつあるという話に触れないように話すのは難しい。同時に、灯光の証がある事によって、異界門の接続しやすくしてしまった。人類の存続危機に晒したという事実にも触れてしまう。

 よく考えれば、異界への接続が難しくなるというのは、増え続ける人口を抱えられる居住地区の拡大が出来なくなる、ともとれるのだ。異界門があちら側からつながってしまう不利益はあっても、人の安住の地を求める事を阻害したくない。

 その秘匿責任を、青のローブは私にだけ押し付ける気なのだろうか。一緒に隠しますよ、と開闢の尖塔地下で見たことを紙の枚数だけ多い薄っぺらな報告書にして提出したのに、隠し立てするなと言われても困る。賢者として教会の不手際について発言することを避けたいだけなのかもしれない。

 三賢者を見れば、赤いローブの人が両手をあげた後に、片手を下ろした。テトが当てれば、口を開いた。

「レイ・グランド、我々はこの報告書を呼んで、お前は灯光の証と灯光教を嫌っているのだと思っていたが……違うのか?」

 薄い紙の束をもって、紙面を叩いた。眼鏡の奥でまばたきをした後、首を傾げた。

「……質問に、質問をお返しするのは……心苦しいですが、その見解に至った理由を伺っても宜しいですか?」

「灯光の証は、東方で言うところの御神体そのものだ。その管理するものが存在するというのは、神格を落とすと同義なのでな」

 分かりやすい例えに、開いた口が塞がらない。神格を落とすという行為は侮辱と取られても仕方ない。報告書の書き方を間違えて、相手に喧嘩を売られたと勘違いされたらしい。青ローブが配慮に乏しいと言ったことに納得しつつ、席を立って謝罪した。

「その、灯光の証は身近なものであり、存在そのものが神位にあると認識しておりませんでした。申し訳ありません」

 下げた頭をあげたあと、弟とソフィアの方を思わず見てしまった。神の権能を宿した人が、弟である。そんな考え方をしたことはない。聖剣に選ばれたあと、探索者資格免許一級という地位に上り詰めたのは、弟の努力の結果だ。神の加護があるからじゃない。

「灯光の証持ちは、証に選ばれし民である……そう教えているが」

 赤ローブは陰に隠れた顎に手を当てて呟いた。テトが口を開く前に、言葉を遮った。

「そんな寂しいこと、言わないでください」

「さみしい?」

 シリスが、そっと言葉を繰り返した。テトが顔に影を落としたが、頷いて続けた。

「勝手に特別な人にしないでください」

 特別扱いして区別されることは、寂しいときもある。弟をそっと見れば、眉間にしわを寄せて泣き出しそうな顔をしている。隣ではなく、弟というライバルの前を歩いていくには、過度に特別にするわけにはいかないだろう。三賢者の方に視線を戻して、はっきりと言った。

「力だけで、人を識別しないで下さい。皆、生きている人ですから」

「皆様、挙手のない自由な発言はおやめください」

 言い切った後、テトの事務的な声が響いた。しんと静まり返った黒白の間に、テトの咳払いが響く。

「レイ・グランド様、質問に対しての回答にずれがございます。神を自称した存在についての言及をして下さい」

 ちょっと文句を言いたいがために、話の脱線が甚だしかったかな。テトに「失礼しました」と告げてから、元の話を続けた。

「件の存在の注目点は、管理者を明言した部分です。灯光の証は管理されなければならないものであるにもかかわらず、開闢の尖塔の一部を破損させた可能性が高い。つまり、破損の修復も行える可能性も高いのです。私個人としては、この存在との接触及び関係の構築を、灯光教と王国に具申いたします。もちろん閉塞の地の探索に際して、要請を頂ければ出来る限りの助力を惜しみません。これにて私の見解発表を終わりといたします」

 破壊できるなら、直せるだろう。それは暴論のようだけれど、自称神様と会う事で、直し方の手掛かりは見出せるかもしれない。あと、あそこに行けた時点で会えると思うので、真偽は自分たちで確かめに行けばいいと思うのだ。

 人の研究で気になる部分があったら、自分も試してみるというのは相手の研究の補強にもなる。そう言う助け合いを灯光教会もしてほしい。そんな気持ちでお辞儀をすれば、地を這うような声が聞こえた。

「悪しき思惑と関われというのか」

 声を発した青いローブの下には、仄暗い目がこちらを睨んでいる。不意にじい様が組んでいた腕を解いたので、あまり良くない状況だと察した。私の頭にフードがないかと確認していると、とがめられる前に青ローブは片手をあげた。

「シンジャール様」

 テトが指摘すると、青ローブは椅子から立ち上がって両手を広げた。

「我ら神の加護を頂く、赤の賢者として……この赤きローブをかけて宣誓する!」

「へ?」

「悪しき思惑も不信心な者の協力がなくとも、我ら灯光教会がはじまりの塔の再建をいたしましょう!」

 青ローブの背後にいる人が拍手をした。他に立っている赤と白のローブの人も拍手したが、何とも微妙な空気である。王女が言いにくそうに手をあげた。

「レイ殿の助力なしで、どのように行くのだ」

「元は我ら西の民が扱っていたものでございます。灯光の証を携えたものでも、迎えるような仕組みがありましょう」

 まあ、それも疑問だが、そこじゃないだろ。私は話が続きそうな隙間に、「待って、ちょっと待ってください」とすかさず手をあげた。

「どうしましたか、レイ・グランド様」

 テトに指摘されて、眼鏡を取り、失礼覚悟で青いローブを指さした。

「その、シンジャール様は……青いローブ着ているのですが、宣誓はどうなってしまうのですか」



最後までお読みいただき、ありがとうございます。

次話は制作中です。2026.10.25

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