調査:人体付与型魔法術式
ツグミとの面会の報告をした後、その足で研究所に向かった。廊下で何度も「おめでとう」と声をかけられたが、ぎこちない笑顔で応えることしか出来なかった。保管物の管理記録と閲覧の許可をする窓口で手続きをし、地下五階の保管庫に小走りで入った。
透明な箱が床と壁一面に並ぶ中、蒸し焼きした二枚貝の様に蓋が開いている箱が、部屋の右奥の角にあった。蓋はゆっくりと閉まっていくので、急いで角に走って蓋を掴んだ。
「あっぶ、な……」
保管庫の箱の蓋は時間が経つと自動で閉まる。地下五階の通路の状況によっては、蓋が閉まる前に辿り着けない日もある。所長は「そういう時は見ちゃいけない日だよ」と改善する気はないようで、一部の研究員に不評だったりする。
今日は間に合った。早く打つ心臓の音を聞きながら額の汗を拭って、箱の中身を確かめた。
茶色の革を赤い糸で継ぎはぎにしている表紙に、びっしりと幾何学模様が描かれて、題名や著者などは判別できない。手に取ると、ずっしりと重たくて、鉄錆の嫌な香りが鼻をかすめた。思わず顔をしかめると、本が手から滑り落ちそうになった。慌てて掴み、箱の底に触れていないことを確認してため息をついた。箱の中に戻したら、閲覧終了扱いになる。また一往復するのは嫌だ。
「さて、それでは、失礼します」
本に頭を下げてから、ぎちぎちと嫌な音をさせて開いた。表紙と同じような幾何学模様が並んでいる。目的の内容を探して分厚い頁をめくり、本の頁の真ん中を通り過ぎたところで見つけた。
「あった……」
「何をお探しかなー?」
驚いて本を放り投げそうになった。何とか堪えて見上げれば、銀色の羽織に桃色の首巻をした所長が頭上に浮いていた。
「びっくりさせないでください……!」
「あははー。レイが変なものを見ているって、ヨツハが言うからさー。心配で来ちゃったー」
どうやら危険性が高い内容だという事を把握されている。監視の目があるというのは、相談相手が出来たとも言える。ここぞとばかりに所長に質問した。
「所長、人体に付与する魔法術式技術は、西方地区の方が優秀ですよね」
「魔術理論の代用だからねー」
「東方では、刺青をいれることはあまりないという事ですよね?」
「うん。その本も、西のどこかの馬鹿が作ったやつだしね」
不快感を増幅して読ませる気のない本を作ろうと思うのは、すごいとは思う。鼻につく臭いに慣れないでいると、所長はそっと言った。
「それ、人の肌と油で」
すぐに本を箱の中に入れて蓋を閉じた。手袋を外して床に投げつけ、肩掛け鞄から新しい手袋を出した。半透明な袋を裏返し、投げた手袋を袋越しに掴んで包むと、所長のクスクス笑う声が聞こえた。口を結んで、鞄の中に突っ込み、所長を睨んだ。
「なんてものを……!」
禁忌とされる中でも、作成手順に禁忌行為が関わる物品――禁忌行動遺物に分類される書物らしい。ヨツハさんが気にするのも致し方ない。やるせない怒りを堪えきれず所長を睨み続ければ、肩をすくめて言った。
「ここに在るものは、そんな感じのものしかないって言ったでしょー?嫌ならさ、僕にきけばいいのさー」
「所長の手を煩わせると、面倒ごとが一層面倒になりそうなので、嫌だったのですよ!」
片方の眉が動いて仕方ない。長く息を吐いても落ち着かず、所長に肩を叩かれた。
「さ、長居しても仕方ないでしょー?聞いてあげるから、教えてみなさいなー!」
そのまま背をおされて保管室の扉に向かう。誰も居ないことをいいことに、呟いた。
「特技資格七級未満には、開示できない規模です。じい様以外の側近の面々に聞かれない場所でしか話せません」
すると背中を押す手が離れて、頭上から所長の美貌が現れた。
「へえ?面白そうだね」
薄く笑って細められた瞼の奥には、仄暗い目があった。もう黙って帰る事は出来ないだろう。口角が下がったまま、短く息を吐いた。
「人助けにもなるので……関わるなら、全力で付き合ってもらいますからね?!」
「いいよー!」
内容も知らないのに、二つ返事で所長が手伝ってくれることになった。なんとでもなれと内心で叫び、所長の執務室の奥にある実験室に向かった。
炭の匂いが充満した部屋で、ふたり椅子に座ってスケッチブックにまとめた内容を話した。説明を終えた直後、所長は言った。
「私たちを隠れ蓑に蔓延るクズは、私が処分して良いかな?」
「駄目ですって」
あまりにも怒気がこもっていて、顔に布が掛かっていて良かったなと思った。
人体に魔法術式を刺青で施す技術は、幻霧郷大戦以降はあまり利用されない魔法技術になった。異能の制御を出来ない人の為に存在したものであり、ほか治療や機能向上の効果は副産物だからである。
その原点は、灯光の証が人体に収まった状態で現れたことに由来する。成長と共に人体の魔素を吸い上げ、体質体調によって制御が出来ない人々の為に作られた、制御装置だったのである。
「やっぱり、北方よりですね」
「東方だと半分以下に出来る感じがしてきたよー」
所長にツグミの刺青の話を伝えた後、実験室で向かい合いながら、描かれていた術式の解読をしていた。所長が出した机は、半紙とスケッチブックの紙で天板が見えなくなっている。面会して頭を抱えていた理由は、みっつ。
使用されている術式は、魔素を制御するもので、東方地区で利用される魔法魔術の術式と酷似していること。
利用されている図形の配分が、東方の人が作ったように見えること。
魔法として設計するには省略しても良い部分が残っていること。
どうみても東方の人が犯罪まがいな事をしでかしているように見える。けれど、東方で術式に慣れ親しんだ人にとって、教科書や教本のような、酷く真面目過ぎる術式に見えた。例えるなら、話し言葉と書き言葉のような差だ。
古式ゆかしい術式だとしても、もっと効率が良く簡単に描ける。ここまで美しく描けるというのに、省略しないのはおかしい。そこで、所長の「東方地区の人を隠れ蓑にしている」何処かの誰か、という発言に繋がるわけである。
どこの誰かを判別するためにも、術者の癖を見極めないといけない。省略されていない部分が他の地域の術式で、必須の要素かも知れないと考えて、各地の術式に書き換えていくことになった。
所長には原案を東方地区で使われている魔法術式に、省略改変してもらっている。破り取った術式を見ながら、半紙の上で薄墨の筆が踊っている。こちらの手元には、スケッチブックに鉛筆の文字が列をなしている。北方で革製品加工に使われている、刻印型魔法術式に変換していた。
書き進めていると、所長が筆をおいて伸びをした。
「……あまりにも馬鹿らしい術式で、嫌になってきちゃったー」
そう言いながら両手を振って首を回すので、ため息交じりに筆を右手に握らせた。
「最後まで書き切って下さいよ、捜査に使うかもしれないのですから」
「えーん……!僕の側近がいじめてくるー!」
特技資格七級以上には、自身が発見した犯罪と思われる事物について調査できる。その権限に見合うだけの精度の情報を求められる。知ってしまったら、他の人の為に仕事をしろという事である。
やりたくないと駄々をこねる所長の肩を叩いて、続きを促す。黙々と書き進めていれば、金属の扉から鈍い音が三回した後に声が聞こえた。
「閉鎖時間が迫っております。レイさんはご帰宅を」
「え」
もう帰る時間か。書きかけのスケッチブックを見て、所長が金属扉に声を張った。
「機密保持義務が発生している作業があるから、ここに泊まってもらうよー!閉めちゃってー!」
書き出さねばならないものは、まだ多い。家に帰っても気になって仕方がないはずなので、所長の申し出を有難く受けることにした。扉の先の誰かも「かしこまりました」と言った。足音は聞こえないが、居なくなったはずだ。
作業に戻るかとスケッチブックに向かえば、所長が肩を指で叩いた。
「夕飯はこっちで用意するよー。希望はあるかな?」
「あ……ありがとうございます。薄味にしていただけると、助かります」
頭を軽く下げると、所長は左右交互に首を傾げて白い布が大きく揺れた。
「薄味が良いのかい?」
「味覚障害がありまして、塩味と酸味を感じやすいようです」
「ほーん?じゃあ、御粥にしてもらおうねー」
そう言って所長は席を立ち、扉を開けて部屋を出た。重いきしむ音を聞いて扉が閉まったところで、はっと気付いた。
「ちょっと!逃げないで下さい!」
筆文字の半紙は、未だ書きかけだ。少しの休憩くらいはいいか。目の前の紙をまとめて重ね、魔法術式を書き替えていった。
所長が出て行ったあと、蓋付きのお椀と蒸した野菜と魚がのった皿を持って戻ってきた。スケッチブックを取り上げられ、机の紙の束が姿を消す。お椀を押し付けられて、「お塩が掛かっているから」と蒸し料理を目の前に置かれ、鉛筆と箸を取り替えられた。所長の分はないのかと訊ねれば、「持ってくるよー」と言ってまた部屋を出た。
皿とお椀は小ぶりなものだ。どう考えても、時間をかけて作業を遅らせているように見える。まあいいか。所長が戻ってくるのを待っていると、「あけてほしいかもー」と微かな声が聞こえたので扉を開けたら、目の前に丼ぶりが現れた。塩の香りがする湯気に面食らった。
「あー、ごめん!今日の夕飯は麺なのさー」
日ごとに主食が変わるように作ってもらっているようで、所長は拉麺と蒸し料理を食べるようだ。席に戻って食事の挨拶をした後、御粥に手を付けた。蓋を開けると、お米の中に豆ともち麦が見えて、とろみのある水が多い御粥だった。
すすれば、もち麦の弾力にとろりとした触感があった。もち米の御粥だ。お腹が温まる感覚を味わっていると、麵を豪快にすする音がした。布をめくり上げていて、美人の口へ麵が消えていく。麺をすするだけでも絵になるのだから、美人は怖い。
「所長って、塩味が濃い料理が好きなのですか?」
北方の帰りの列車で食べたお弁当は、味が濃かった。所長の好みかと聞けば、咀嚼しながら首をかしげてのみ込んだ。
「毎日食べるには飽きるから、味が濃いものは好かないかもー。どうしてー?」
北方の帰りの時点で、味覚障害を発症していたらしい。そのことを伝えると、所長は目を細めた。
「立っているのが辛いとか、目眩とか、食欲がないとか、そんな症状はないよね?」
「はい。目立って疲れている気はしないのですが……お医者さんには過労だろうから、よく寝て、食事を適切にとりなさいと言われました」
必要な栄養は足りているはずなのに、味覚障害だけは残っている。どうしてだろうと蒸された人参を口に入れる。甘さを引き立たせる程度の塩味で、とても美味しい。所長は箸をおいて腕を組んだ。
「じゃあ、味が丁度良くなれって、魔術かけてみればいいかもよー?」
その手があったか。早速試そうと思ったが、自分の料理は食べた時にちょうどいい感じだった。すでに美味しいものに手を加えて不味くなるのは嫌だな。そう思ったら、宙からレンゲが降ってきた。とっさに受け止めると、所長が拉麺の器を指さして差し出してきた。
「ひと口、どーぞ!」
「いただきます」
実験に付き合ってくれることに感謝しつつ、拉麺の透明で黄色を感じるスープをすくう。鶏の香りとネギと胡麻油の香りが湯気と一緒に漂ってくる。ちょうどいい味になれ、と念じて飲めば、思わず目を見開いた。所長は頬杖を付いて微笑んでいる。
「どうだった?」
「……美味しく、ない……」
渋い顔で返せば、所長は驚いた風に目を丸くした。塩味がなくて、旨味ばかりの、ぼんやりとした味だった。飲むには適した味だが、拉麺には合わない。味だけを調整しても意味がないと、料理の基本を思い出させてくれた様だった。美味しくなれ、が正解なのかも知れない。
「あの、もうひと口、いただいても良いですか」
「いいよー」
もうひとすくいスープを貰って、味を確かめた。舌を刺す塩気に顔をしかめながら、スープに美味しくなれと念じてみる。そして飲んでみた。
「あ、いい感じになりました」
美味しくなれと念じれば、市販のものや屋台の料理も食べられるかもしれない。嬉しい発見に口角が上がるのを感じていると、所長が拉麺の器を引き寄せて言った。
「見た感じ、成分が変わった訳じゃないのにねー」
「魔素が注がれている感じですか?」
「そこは調べることでもないと思うねー」
どういう意味だろう。首をひねれば、所長は箸を持ち直して微笑んだ。
「美味しいことは、揺るぎなく良いことだ。理論などという誰かが勝手に付けた名前を、わざわざ確かめる必要もない」
大事なことだからと真面目な口調で告げられた言葉は、過去の助言と通じていた。魔術が起こる理由を探すことは、料理が美味しい理由を探すことなのかも。理論で説明できるけど、経験則で扱えることか。
「そう、ですね」
様々な言葉が血肉になった気がして、つられて笑顔になった。所長はその変化に気付いていたようだけれど、何も言わずに麺をすすり始めた。中央で楽しめなかった食事を思い出しながら、食事を楽しんでいけば、夜は降り積もる雪と一緒に更けていった。
所長の執務室で睡眠をとり、身体の気の向くままに起きた。太陽の光が障子を照らして、格子の陰が掛け布団の上に描かれている。
角度からして、たぶん昼過ぎである。立ち上がると背中が固まっているのか、ぽきぽきと身体の中から音がした。
「あだだだ……寝すぎたな」
コートに袖を通して手袋をしたら、板張りの通路の方から足音が近付いてきた。障子が、すぱん、と小気味よい音がして開くと、肩を上下させた銀の羽織を着こんだ所長がいた。
「大丈夫そう?!」
「……え、はい」
なにを問われているか解らないが、ひとまずは生きて立ち上がれている。頷けば、所長が詰め寄ってきて、私の手を握った。
「心配したよー。丸一日経っても、寝ているからさー!」
どうやら一日寝過ごしてしまったらしい。起こしても反応がなく、義父やじい様に連絡するか悩んでいたところだったようだ。
「ご迷惑をお掛けしました」
人の家で眠りこけて心配をかけるなんて、大失態だ。深々と頭を下げれば、「今日も御粥だからね!」と所長に叱られた。
米の粒が溶け切った重湯とすりおろした野菜の味噌汁を食べて、刺青の術式の書き替え作業に戻った。体調悪いならやめなさいと言われたが、作業をしていた方が落ち着くと、無理を言って押し切った。
北方の刻印術式をまとめると、余分なところが五文ほど残ってしまった。私が寝ている間に、所長は南方の代表的な刺青に書き換えて、他の派生にも手を伸ばしている所だった。ちらりと所長の手元を見ると、呻き声が聞こえてきた。
「あー、もう……!」
そして半分ほど埋まった半紙を握って丸めて、背中の方へ放り投げた。丸まった半紙は壁にぶつかり、お札が三枚剥がれ落ちた。
「イライラするー!本当に腹立つー!!」
犯罪者の術式など、気分が悪いだろう。術式を読み解ける我々は、目的も理由も、術者の思惑をくみ取れてしまうからこそ、腹立たしく思う。首肯で返しながらスケッチブックに西方で有名な刺青の術式に書き換えていると、所長が机を強く叩いた。
紙は落ちなかったが、驚いて顔をあげると、所長の白布の奥から怒りの言葉が出てきた。
「なんでさ、南方の術式は、こんなにも無駄が多いの?意味わからない!なんで、装飾をするのさ!必要ない要素を足すから、術式が長くなるって解らないのかなあー!!ああー、もっといい感じに短くしたいよー!!」
そう言いながら叩く手は、所長自身が書いた南方の術式だった。設計した術者への不満ではなく、南方の魔法術式への不満か。揺れる机の上で筆が転がり、何も書かれていない半紙を汚した。筆を拾い、そっと筆置きに戻した。
「西の人からすれば、東方の術式は短すぎて気味が悪いと思いますよ」
南方の刺青の基盤は、災いを掃う為の魔除けの要素が強い。一週間で色が落ちる刺青があり、服装のひとつとして扱われている。意味のない要素が多いのは、施術する時に様々な変更をして楽しめる、寛容さの表れでもある。
と、事実を言っても、所長の不満は消えることはないだろう。解った上での不満なので、個人の好みの問題として反論をした。所長は机に項垂れてため息をつく。
「……僕は、効率重視のつまんない奴かな」
「魔法との触れ合い方が違うだけです」
「レイは正論ばかりを言うから、つまんない」
不貞腐れたまま言うので、私も鉛筆を置いた。
「面白くないのは、所長がやったことがないからでは?」
作業を滞らせた前科がある以上、所長の駄々に付き合うのは覚悟している。やってみればいいのにと遠回しに言うと、所長は頬を膨らませた。
「だって、僕に刺青入れても効果ないもん」
所作が子供っぽい。ひとりで作業していたせいか、構ってほしいのかもしれない。
「効果がなくても、綺麗なものは入れたいと思いませんか?」
「えー、刺青って暫く残るしー」
行為そのものが好きではないようだ。そんな人もいるだろう。「割り切るしかないですね」と言えば、所長は渋々ながらも筆を取った。
地道に各地の術式へと書き換えて、西方の術式に置き換える術式も残り半分になった頃、違和感を覚えた。
「所長、南方の術式は何種類終わりましたか?」
「よっつおわったー……いま、いつつめの、まんなかー」
意思の溶けたような口調で返事をする所長に質問を投げかける。
「余った術式は、いくつでした?」
「東方は五文、南方は一文だったり、三文だったりするー」
「余ったものは書き替えましたか?」
「したよー。気になった事でもあるー?」
「見せてください」
所長は空いている手を宙にふるって、積み上がった墨まみれの半紙の束の中から数枚の紙を抜き出し、私の目の前に滑らせた。五枚の半紙には余剰分と表題を書いた後に、各地の特徴的な術式が描かれていた。その術式を見て、確信した。
ツグミの身体にあった刺青の内容を確かめて、スケッチブックの新しいページに文字を書いていく。所長は席を立ってスケッチブックを覗き込んできた。
「何か解ったー?」
「はい。これは余っているのではなく、署名と宣誓です」
魔法術式から古代文字に書き換えて、五つの文章に仕上げた。そして翻訳すれば、おのずと答えは出てくる。
「やっと違和感に納得できました。天輪なんて言葉、つい先日見たものですから」
書き終えた文言を見せると、所長はスケッチブックを手にとって読み上げた。
「悪しき思惑は信徒の身を蝕む。導きは我らの手に。安住の地は天輪の火と共に在り。加護を留める守護者……灯の叡者」
言い終えると、所長はスケッチブックを机に放り投げ、冷たい視線でこちらを見下ろしてくる。にっこりと笑顔を作って、首をかしげてみた。
「最後の署名は、現代風に言うと、灯光の賢者ですね」
首謀者が誰なのか、予想がついた。ため息をつけば、所長は机に手をついた。そして肩を揺らしながら笑いはじめ、紙の束をなぎ倒した。
「ははは!!あの性根の腐った凡俗を!!やっと、やっと!!引きずりおろせるぞ!」
腕を振り回し、紙が舞う中で笑う姿は、さながら悪役である。遠い目をして「後始末、面倒だな」と、笑い声に隠した。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
次話は制作中です。2026.10.16




