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閲覧報告と王宮召喚命令


 禁書の閲覧履歴を覚えて、灯光の賢者が読み漁っていた内容を頭でまとめた。

 大図書館を出て、すぐに東方地区行の列車の個室の切符を買う。忘れないうちに列車内で報告書を作り始めた。スケッチブックに鉛筆で薄く文字を書き込んで、絵具をとった水筆でなぞっていく。所長と側近以外に内容を知られては困る。鏡文字にして、もうひとつ面倒な色相暗号を仕込めば問題ないだろう。何度も色を変えてなぞって、遠目で見ると風景画の様に見えるように描きあげた。

 パレットを畳んで車窓の外を見れば、真っ暗な森が過ぎ去っていく。冬が近い黒い山間の上には珍しく空が広がっていて、星が瞬いていた。

 なにも考えずに空を眺めていたいな。手付かずの研究を思い出して肩を落とすと、ノックの音が響いた。扉にあるガラスからは、灰色の着物が見える。コートを羽織って返事すると、線路の音で聞き取りにくい中でもよく聞こえた。

「幻霧の王、十二番目の側近よ。開けなさい」

 急いで扉を開けると、灰色の着物の人が入り込んでくる。扉を締めれば、すぐさま椅子に座ったその人の耳に小声で言った。

「ヨツハさん、何故ここに……?!」

「主様からの命令です。貴方が帰るまでの間、監視いたします」

 帰りも監視付きなのか。久しぶりの一人旅をお預けにされて口角を下げると、ヨツハさんは手に下げた巾着から水晶玉と文字が書かれた紙を取り出した。紙の文字は通信系の魔法術式が書かれている。

「主様は即時の報告をお求めです。通信を行いますので、準備なさい」

「情報はスケッチブックにまとめました。こちらを報告書代わりに提出いたします」

 絵具が乾ききっていない暗号の絵を見せると、ヨツハさんは目を細めて画面に近付き、頷きながら姿勢を正した。

「十分ですね。乾かしましょう」

「お願いします」

 ヨツハさんは送風の魔法を使って画面を乾かしている間に、車窓のシェードをかける。折り畳みの座席を開いて座ると、ヨツハさんの膝の上に紙を敷いた水晶玉から声がした。

「やほー!王女様とのお泊りデートは楽しかったー?」

「通信機を砕いても良いですか」

 聞き慣れた軽口に言い返すと、ヨツハさんが咳払いをして話を切り替える。

「主様、レイが製作した報告書を拝読しましたが、冗談を言っている場合ではないかと」

「ふうん。じゃあ、三文で説明して」

 仕事用の口調になった所長に、指示通り答えた。

「件の禁書を二十年以内に閲覧した者は、五名です。過去六十年の範囲で、閲覧履歴の回数が十回を超えた人物は三名のみ。その三名が閲覧した図書の題名を報告書に記載しました」

「よろしい、後で熟読しよう。で、履歴を見たレイの感想はー?」

「薬の研究をするなら、届け出をしてほしいですね」

 ため息交じりに言えば、所長は布すれの音を響かせて楽しそうに言った。

「うんうん!そこから推測したことについて一言!」

「……推論を口に出すのは憚れるので、報告書をお読みください」

「あはー!だってさ!ヨツハ、後で届けてねー!」

「御意」

 ヨツハさんが右手を胸にあてて頭を下げる。数秒後には音が消えた。姿勢を正すと、ヨツハさんは目を細めて水晶玉を着物の袖の中に入れた。

 報告書を指でなでて確かめる。スケッチブックから剥がし取りヨツハさんに渡すと、報告書も袖の中に入れた。そしてにっこりと微笑まれた。

「それでは、監視任務を行います。ご希望は?」

 監視されることは確定だが、要望を提案するのは許されるらしい。微笑みを返して、最大限の希望を口にした。

「同室で過ごすのは、ご容赦いただきたく」

「却下。他の希望は?」

「コートを脱いで寝たいです」

「却下。私を殺す気ですか?」

「……ご飯は自由に選んでいいですか」

「却下、こちらが用意した物を食べていただきます」

 口角を下げて表情を消すと、ヨツハさんの顔からも柔らかさが消えて極寒の吹雪が見えた。

「私もあなたと同室なんて、苦しくて嫌です。我慢しなさい」

 そんな強い言葉で言わなくても良いのに。むしろ直球で言ってくれるだけ、親しい間柄と捉えるべきなのだろうか。ため息を呑みこんで顔をあげれば、箱を差し出された。

 受け取った木箱もどきには、白い紙が糸で止められている。白い紙には素朴な色の紅葉の判子が押されていた。もしやとヨツハさんを見れば、片目を閉じて口角をすこしあげた。

「我々の事を案じてくださった、ミナミ姉さまのご慈悲をいただきましょう」

「ぜひ!」

 側近の中でもっとも所長に重用されている、料理番のお弁当が食べられる!満面の笑みで頷いて、弁当箱の蓋を開けた。

 きのこと人参が美しい炊き込みご飯のおにぎりを頬張り、揚げ豆腐の出汁を楽しめば、個室にあたたかい雰囲気が広がった。


 冷えていても美味しい弁当を楽しみながら、東方地区に帰ってきた。夜も更けて手をさすって駅から自宅に帰り、ひとりで湯船に浸かって足をのばす。春先にとって乾燥させたヨモギと、去年の冬に天日干ししたみかんの皮を入れてある。穏やかな香りを吸い込んで、一週間ほどの事を思い返した。

「はー……楽しかったなぁ」

 毒を作る変人と毒を買い取って使う変人が居ると知ってしまった。色々とあったけれど、辛い薬を飲むこと以外に嫌な事は少なかったと思う。

 王女と研究所の番人と微笑みながらご飯を食べる日が来るとは、想像もつかなかった。所長の食事を全て作っているミナミさんの料理が、思いのほか濃い味付けだった事が印象的だった。出汁の味が豊富で、口の中が楽しかったな。

 特に楽しかったは、似たような経験をした王女と会えて、高位毒耐性持ちの価値観を共有できたことだ。口角が上がるのを止められないが、お湯を顔にかけて息をはいた。

「もう一回は……無理だなぁ」

 相手が貴族の最高位の家系の人だ。沢山増えた思い出と共に、寂しさも大切にしまっておこう。湯船で緩んでいく手足をさすってぼんやりしていると、遠くに玄関の引き戸が開く音がした。風呂場の引き度の方を見てしまう。

「……なんで?」

 北方へ向かっていた間、鍵は誰にも渡していなかった。合鍵を持っているのは、じい様と義父だけ。夜遅くに来る理由はないはずだ。

 まさか、鍵を開けて強盗に入られた?いや、金目のものは隣近所の方があるはず。他の理由は、想像もつかない。

 慌てて湯船から出て身体を拭き、寝間着のパジャマを着る。そっと廊下を見れば、台所の方に照明がついていた。息を殺しながら固形石鹸を濡れたままのタオルで包んで縛り、廊下の照明のスイッチを付ける。ぱちり、と音がすると台所から人影が出てきた。

「よ、元気だったか?」

 人影は、右手をあげて明るく笑うセロだった。ため込んでいた息を肩と一緒に落として、眉を寄せた。

「なんでセロが合鍵を持っているの……」

「フウジさんから、そろそろレイが帰って来るはずだから、薬の追加を頼まれた」

 質問に答えていないよ。半眼でセロを見れば、手招きをされる。廊下の照明を消して台所に行けば、大小さまざまな擂り鉢とガラスの蓋付き保存瓶がテーブルの上を埋め尽くし、抱えられるほど大きな物はテーブルの下の床に置かれていた。

「俺の職員寮は生薬系の持ち込みが禁止だからさ、合鍵を借りて、ここを使わせてもらっていた」

「人の家を薬置き場にしないでよ……」

 保存瓶の中には、乾燥したミカンの皮に山椒や胡椒の実など見知った物から、透明な桃色の立方体や緑の毛玉など見慣れないものが、それぞれ分けて入っていた。床にある瓶の中には、梅が浮かぶ透明な黄色の液体がある。梅酒、ではなさそうだ。

「ついでに、生薬とか薬膳の話をお前にして欲しいって頼まれた。ここにあるのは基礎教材だな」

 知らぬ間にセロから東方薬学の話を学ぶ事になっていたらしい。フウジの秘薬を知るためにも嬉しい話ではある。しかし。

「基礎教材って……この数で、基礎なの?」

 見ただけでも三十以上はある。セロは目を丸くしてテーブルの上を見渡した。

「まあ、レイは魔素関連のものが使えないし、通常の六分の一だ」

「ろく?!」

 この数以上のものを把握して、使いこなしているのか。半開きの口をそのままに腰に手を当てたセロを見上げた。

「セロって、やっぱり頭いいよな……」

「別に、半分以上はお前も知っているし、考え方は師匠に教わっているだろ」

 東方育ちなら普通だと肩をすくめたセロは、私が来ている服を上から下まで見た。

「寝るなら、飲みやすくした薬を作ってやろうか?」

「え、辛くないやつ?」

 期待してセロを見れば、片眉をあげて微笑んだ。

「効き目はさらに弱いが、寝る前には良いだろ」

 セロは台所の隅によけてあった椅子を引いて、濡れ布巾の上に手のひらにのるほどの乳鉢を置いた。そばに立って覗き見ると、幾つかの瓶から見慣れない干し草を二本、木の実と淡い赤の小石を一粒ずつ乳鉢に入れて手際よく擂り潰していった。

「東方静菜の枝と天霧紅珠の種、桃錬結晶をいれた。後でふたつ別のものを入れるが、溜まった魔素を出しつつ、身体を落ち着かせるものだ。少し酸っぱいぞ」

 幻霧郷を踏破した男の授業が始まったところに、ふと思った事を訊ねる。

「薬研とかは使わないの?」

 擂り鉢は既に細かいものを粉状にするための道具。塊を擂るには不向きだ。どうしてと訊ねるとセロは擂り潰す手を止めずに見上げた。

「薬研は石か金属で出来ている。一般的な薬とフウジの秘薬の違いは、材料と道具の選別に作成法の手順で決まる。渡した辛い奴は、この擂り鉢で作っただろ」

 乳棒をまわす手を止めて、セロは人差し指で陶器の擂り目の筋が立っているものを指さした。他にも擂り目がない代わりに、陶器に練り込まれた小石の粒が出ているもの、金属の擂り鉢、磁器の玉と保存瓶のようなもの、大小素材も異なる棒と擂り鉢がある。

「つまり、この組み合わせなら、乳鉢が最適ってこと?」

「うーん……時間はかかるが、薬研で切って擂り潰すよりも効果が穏やかになる」

「じゃあ、この組み合わせを薬研で擂った物は、効果が強すぎる?」

 再びセロが手を動かし始めて、砂利道を進むような音が響く。セロはすこし天井を見た後に言った。

「強すぎるって訳じゃないが、手持ちの薬研とお前の魔素の相性が悪い感じがする。試さないと分からんが、危険な物をやるわけにはいかないからな」

 処方する相手も想定して、道具も使い分けるのか。感心のまま手をさすって乳鉢を覗き込むと、ほのかに酸味のある香りがしてきた。

「そろそろだな。レイ、お湯を沸かしてくれ、湯呑の二杯分ぐらいだ」

「わかった」

 換気扇のボタンを押し、湯呑で測った水を小鍋にいれて火にかける。鍋に蓋をしてセロの傍に戻ると、セロが小鍋の方を見た。

「蓋はするな」

「え?時間かかるでしょ」

「水道水の中にある消毒用の薬剤とか魔素が減って、火と相性がいい魔素を増やした方が良い」

 そう言いながら黒い石の欠片をひとつ入れた後に、大きな保存瓶の中にたっぷり入っている焦げ茶の海藻みたいなものを乳鉢に入れた。鍋の蓋を取って戻ると、セロは擂るのではなく、揉むように乳棒を押し込んでいた。

「沸騰したら、これを煮出すぞ」

「お茶みたいだね」

 セロがねじって乳鉢の中身を押していくと、海藻の色が焦げ茶から黒っぽい色になり、甘さと苦さのある香りがしてきた。もう一度意識して香りを吸い込むと、何処か聴き慣れた香りだった。

「桃をいれた紅茶みたいな香りだね」

「そうだな。最後に入れた奴は、ちょっと手間をかけた紅茶みたいなものだ」

「毎日に取り入れやすいものなのか」

 そっと紅茶もどきの保存瓶を指でなでると、セロの手が止まってこちらを見てきた。

「ここにあるものは、基本的に使い過ぎれば毒になる。あまり良いものでもない」

「そうなの?」

 身近な物もあるって言っていたのに、危ないのか。首をひねって視線を合わせれば、セロは目を伏せて手を動かし始める。

「紅茶も、緑茶も、珈琲も……季節と飲み方を間違えれば、身体を壊すだろ?米も麦も、元は秋に食べるべきものだ」

「採れる時期に食べなさいって話かな?」

「そう。この場にあるものは、その効果を天気や季節の力を借りて強めている。出来ることなら普段の料理で整えて、使わない方が良い」

 季節を考えて材料と道具も選び、本人の身体のことも考える。なかなかに高度な事を要求する作業だ。顎に手を当てて考え込むと、「まあ」と溜息交じりにセロは言った。

「お前の魔素で強化された素材は軒並み薬効が激減するし、関係なさそうだけどな」

「でも、セロの薬が毒耐性で無効にされず私の魔素を発散させるのは、どうしてなの?」

「食べ物の成分が、魔素生成する臓器に影響を及ぼすからだろ。当然のことだろう」

 まばたきをしてセロは眉を寄せていた。少し俯いて考え、頷く。

「そう言えば、そっか、そうだね」

 個人の体内にある魔素が異なるように、食べ物にも様々な魔素がある。そのまま吸収する事もあるし、分解して吸収する事もある。食べ物の消化は魔素を吸収しやすい形になるように促進する事もあるはず。

 よく考えれば、私の魔素の形態が特殊なだけで、魔素の形態を変える機能そのものは微弱ながらも人体の臓器にある。腸内の細菌による分解物質は必須であるのと同様に、魔素の摂取に食べ物の栄養がなければ吸収が進まない事もある。

 ごく当然のことを忘れているなんて、また自分のことを特別扱いし過ぎていたらしい。恥ずかしさで頬をかいていると、セロは立って小鍋の前に立った。ついていくと、乳鉢の中の艶が出た黒い塊を泡が湧きたつ鍋に入れた。黒い塊はゆっくりとほどけ、お湯の中に赤紫色が広がっていく。美しい色のゆらめきに、蓋をされた。

「これを十五分、蓋をして煮出して、水で少し冷やす。大き目のボウルと湯呑をもうひとつ出してくれ」

「セロも飲むの?」

「俺もすこし寝つきが悪い。飲ませてくれ」

 棚から陶器の湯呑をもうひとつ出した。金属のボウルも出して、水道水で満たす。待っていると、小鍋から噴き出す湯気から酸味と甘さのある香りが広がっていった。胸いっぱいに吸い込むと、かすかに頭痛がやってきて、だんだんとまぶたが重くなってきた。

 時計を見ると、まだ日付は変わっていない。目をこすると、セロが大きな欠伸をした。

「セロ、もしかして……この薬は鎮静剤と睡眠導入剤みたいな物だったりする?」

「いや?緊張をほぐす効果があるから、お前は風呂上がりで眠いだけだろ」

「そっか、じゃあ……セロの分のお布団、出しておくね」

 頭痛を気にしながら、台所を出て暗い奥の寝室に向かう。照明をつけて、押し入れから布団を二組出し、畳の上に広げてシーツを整えていく。枕代わりの大き目のタオルを十枚集めて寝室に戻ると、セロがお盆片手に布団の上で胡坐をかいていた。掛け布団を半分はがして布団に座り、タオルを五枚渡す。

「枕、これで調節して作って」

「おう。……なんか、もう……歯磨きしないなら、これ、止めておくか?」

「ううん、いただきます」

 タオルを置いて湯呑を貰う。ほんのりと温かい湯呑を両手で包めば、柔らかな香りの湯気が額に痛みを広げていく。透明な赤紫色のお湯をすすると、思わず咳き込み、顔が中心に寄った。

「ちょっとじゃない……じゃん」

 酸っぱかった。蜂蜜とか入っていない塩分高めの梅干しを液体にしたような酸っぱさだ。そんな飲み物をセロは湯呑を片手でつまんで喉を鳴らして飲んでいる。

「そこまで酸っぱくないだろ?」

「酸っぱいよ……頭痛くなるし」

 今まで飲んでいた薬もそうだったが、刺激が強すぎる。酸味と頭痛に顔をしかめながら、含むたびに残る酸味を口の中で揉んでいると、飲み終わったセロが膝に頬杖をつく。

「お前、体調悪いのか?」

「なんで?」

 訊ねた後に、湯呑を取り上げられる。ようやく半分を切ったところなのに。返してと手を伸ばすと、セロは残りを飲み干して湯呑をお盆に置いて立ち上がる。

「もう、飲むな。歯磨きして寝ろ。口をゆすぐだけでもいいから」

 そして腕を掴んで立たされた。引きずるように洗面台に連れて行かれ、歯磨きをさせられる。何故か首が重くて、何度も舟をこいでしまう。口をゆすいで寝室に戻る頃には、セロの肩を借りてつま先が床を擦っていた。布団に寝かされると、セロが顔を覗き込んできた。お互いに見つめ合っていると、突然セロがため息を吐いた。

「明日、かかりつけの病院に行けよ」

「なんで?」

「予想だが、過労だ。多分、色々なところが必死で、このままいくと何処かが死ぬ」

 意味が解らない事を言われてしまった。死ぬの?何処かって、どこ?身体の臓器のどれか?疑問がしっちゃかめっちゃかに頭を駆け巡って、身体は眠いはずなのに眠れない気がした。質問をまとめる為に重い瞼を頑張って開いていると、セロのまめまみれの手が視界を塞いだ。

「だから、寝ろ」

「すごく気になるから、難しい」

「…………よし、強制入眠の香を作るか」

 そう言って照明を消し、セロは寝室を出て行った。その暗がりに、まぶたが開くのを拒否して、思考の海にもまれながら意識が沈んだ。


 起きたら、太陽の影が西側から差し込んでいた。空腹と喉の渇きに耐えかねて台所に行くと、夜中にはあった保存瓶が消えてなくなっていた。テーブルには、おたまがささったままの小鍋と小さなお椀と、書置きがあった。

 味付きのおかゆを作っておいた。棚には塩もみした野菜がある。食べたら、絶対に、医者に行け。

「……なんでお前に伴侶が居ないのか、疑問でしかない」

 優秀過ぎる友人に感謝を告げて、鶏肉の出汁がきいた御粥を食べた。生姜とネギの香りもいい。しみじみと食べ進めて、三杯目のおかわりをしようとしたときだった。玄関の呼び鈴が鳴った。口元を拭いて、だるい身体にコートを引っ掛けて玄関に向かった。

「どちら様ですか」

 そっと玄関の引き戸を開けると、深緑の詰め襟にキラキラした金糸の飾りをぶら下げた、金髪のイケメンが胸に手を当てていた。深緑は西方地区の軍隊とか近衛兵とかの制服の色のはずだ。何故ここに?

「レイ・グランド様ですか?」

「はい……御用ですか」

「こちらをお受け取り下さい」

 差し出されたのは、白い封筒。本来宛名があるべき場所に、王家の紋章が金色で描かれていた。質の悪い嫌がらせだろうか。

 目の前のイケメンは郵便を届けてくれたことには変わりない。会釈して引き戸を締めようとしたら、がっ、と力強く止められた。イケメンは涼しげな笑みを湛えて言った。

「御返事をいただきたく」

 すぐに読めということか。紫色の封蝋を剥がして中身を開くと、こう書かれていた。

 秋の王宮園遊会の召喚命令、以下の日時に平服で王宮に来られたし。当日の服装は王宮が準備する。

「あの、一週間後とありますが」

 突然参加しろというのか。回らない頭で考えても、何も理解できない。開いたままの王宮からの手紙を指さすと、イケメンは微笑んだままだった。

「はい。第一王女殿下がグランド様の参加を望んでおられます。是非ともご参加ください」

 手紙の文言を改めて確認する。召喚命令とバッチリ書かれている。

「拒否権は……ないのですね」

 笑みを深めたイケメンに、黙らされた。美味しいご飯を食べるどころか、研究さえもさせてもらえない。ため息を呑みこんで、参加の意思を伝えた。



最後までお読みいただき、ありがとうございます。

次話は制作中です。2026.8.28

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