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暗殺道具の調査依頼①


 母の葬儀から帰ってきた翌日、朝食の前に手紙をしたためて郵便局に出した。空には雲がかかっていて、透ける太陽の光は弱い。コートのポケットに手を突っ込んで、首を埋めて自宅に戻る道を歩いた。

 仕事というのは、渡された仕事をしなければ給料という信用はもらえない。仕事を相応しい方法と手順で進めなければ信用は得られないのだ。

 勝手に怪我をして、取ってこいと言われた物を渡さずに、届け出ひとつで休職させてもらえるとは思っていない。だから、納品と休職届に記載した内容について相談したい旨を書き、「貴重な時間を私のために使ってくれませんか」と自ら怒られに行くための手紙を出した。

 解雇通知で返信をされないことを願うばかりだ。研究成果が乏しく、損失の補填をしろと借金を背負わされるかもしれない。自分で会う覚悟を決めたとはいえ、先の見えない創造ばかりが捗ってしまう。狭い路地を進んで自宅に帰って来ると、塀越しに玄関に人影があった。

 誰だろう。玄関前に来ると、和服姿の親子のような身長差のふたりがいた。思わず声が出た。

「じい様、と所長?!」

 灰色の羽織と袴を着て白い布の下の表情はうかがえない所長と、焦げ茶の絹の着物に濃い灰色の道行を合わせたじい様が冷ややかな眼でこちらを流し見ていた。ポケットに入れていた手を出すと、じい様は目を伏せる。

「相談とやらに来てやったぞ」

 十分も経っていないのに、返事が自らやってきた。じい様に家に入れろと顎で言われて、焦ってポケットの鍵を取り落とす。地面に落ちた鍵束を拾おうとしゃがむと、鍵が消えた。そして玄関の方から鍵を回す音がして、扉が引かれた。

「え、あの」

 勝手に鍵を開けないでほしい。そう言いかけたふたりの背中は玄関の中に入っていて、じい様が肩越しに言った。

「茶を出せ」

 そしてピシャリと扉を閉めた。痛みが残る脇腹を抑えながら立ち上がり、嵐を覚悟して家に入った。

 上司が自宅に突撃してくるとは、微塵も想像していなかった。ほうじ茶を切らしてしまったので、取手付きのカップに紅茶を注いで所長とじい様に出した。無言で動きを追ってくるじい様の視線を横目に、お盆を置いて、畳の上で正座して机を挟んで向かい合う所長に頭を下げた。

「所長自らご足労いただき、依頼物の納品を直接行えることと、説明の機会をいただけたこと、感謝申し上げます」

 言葉を丁寧に噛みしめて言い切った後に、畳に手をついて頭を下げた。時間を取るのすら無駄だと、解雇通知一枚で処分されなかっただけ温情である。小さく品定めする声がした所に「それで?」と続きを促された。顔をあげて、懐から紙の小箱を出し、紅茶の湯気が立。

「所長に依頼された品の納品をいたします。ご確認ください」

 再び顔を畳に向ける。かすかな布すれと箱の蓋を取る音がしたかと思えば、爪で机を叩いた音がした。

「品質、数は問題なし。納期について明言していないので、不問とする。それで?」

 黄塵鉱石は満足してもらえたらしい。あとは、簡単な経緯と今後の方針提案をするしかない。

「まず、文書でお伝えした内容の確認をいたします。砂塵山河の採取にて、現場の緊急依頼に対応しました。その際に身体能力に負荷の掛かる高濃度魔素地域に進入。魔素生産量の適応能力が無かったため、帰還後に魔素暴走一歩手前に陥りました。浄化業務で高濃度魔素地域に踏み入れる依頼や業務が多い私には、致命的な欠陥です」

「そこまでは理解している。冠婚葬祭の休暇取得も構わない」

 聞きたいのはそこではないと釘を刺されたが、確認は大事だ。口にした言葉を前提にして、言わねばならない事を言った。

「一か月の休職、および三か月後までに適応能力が身に付ける猶予をいただきたく思います。そして、出来なかった場合、自主退職」

「させないよ?」

 覚悟をのせて言いかけたところに、所長の声で遮られた。言いかけの口のまま顔をあげると、白い布がこちらを見下ろしていた。

「今回の帰還と納品が遅れたことも、学会に論文提出を出来なかったことも、休職申請すらも、問題じゃない」

「研究員としての成果を出せない人員に、給料は出せないと」

「それは、ヤエコを黙らせるための名目だから」

 開いた口はふさがらず、瞬きをしても所長は首をかしげるだけ。なにを問題視して怒っているのか理解できないでいると、所長は「わかってなかったか」と溜息をついて机にのせていた指でこちらを指した。

「正直に言うよ。死にたいの?」

「……といいますと」

「研究所は中立地帯だ。職員というだけで、幻霧郷の民は手出しをしない。それでも側近だからという理由で、果たし状が届く。職員を止めた瞬間どうなると思う?」

 顔を落として考えてみる。幻霧郷内では、階層に住んでいる人とも仲良く会話できていると思う。不都合もあまりなかった。

「解りません」

 きっぱりと想像できないと言えば、所長はおもむろに懐から紙を摘まみだして目の前の畳の上に滑らせた。「拝見いたします」と手に取ると、思わず息を呑んだ。

 表題に、暗殺対象人物名と書かれた隣に、レイ・グランドと書かれていた。その下には、名前が伏せられた依頼主の名簿と賞金額が連なっている。中には、備考欄に臓器や皮膚などの検体として買い取ると書かれた依頼もあった。

「これって」

「君は多くの人に死んでほしいと望まれている。けれど、勝手に死なれるのは困る」

 待ち伏せしてナイフで一刺しすれば死ぬ男に、どれだけのお金を支払う準備があるのだろう。怖いというよりも疑問が勝って、書類を返しながら眉をひそめてしまった。危機感が無いと思われたのか、所長は布の奥でため息を吐いた。

「言っておくけれど、幻霧郷の領主としての判断だから」

「それはそうでしょう。利がないなら解雇するべきです」

「あ……そういう事じゃなくてね」

 所長は実益がなければ、真っ先に損切りをする人だろう。なにが違うのかと見上げていると、所長は頭をかいた。

「ジン、なんでこの子は政争に関して疎いのかな。ちゃんと側近としての教育をしたの?」

「話しかけるな、カス」

「え……ひどぃ……」

 紅茶をすするじい様が喋ったかと思ったら、罵倒が飛んできた。所長は戸惑いつつ咳払いをした。

「ともかく、私がレイを守っているのは、幻霧郷の秩序を保つため。正確には、私を殺せる存在が傍にいてほしいからだ」

「相手に居ると困るからですか」

 天敵が手元に居れば、監視することが出来る。暗殺という脅威の排除と戦力増強も出来る、一挙両得だ。納得していると、所長は「違うよ」と手を振った。そこにじい様がため息交じりに言った。

「他の側近たちや幻霧郷の強者が、戦争を起そうという気持ちを削ぐためだ」

「へ?」

「まあ、西は何時でも滅べと思っているけれど……レイとジンが居ると無理だなぁ……って、思うからね」

「はい?」

 眉間に深い谷を刻んで所長を見上げても、頷くだけ。理解できないというか、勘違いだと信じたくて訊ねてみた。

「所長は、私とじい様が居なければ、西に対しての第二次侵攻をする心づもりがあると?」

「んー?僕個人の立場だけでいうなら、王家の一部以外は消し炭にしたいねー」

 聞きなれた言葉遣いと白い布の奥に、不敵な笑みが透けて見えた気がした。嘘だろと声をあげようとした喉は、上手く震えなかった。正座に戻って天井を仰ぐが、衝撃は抜けきらずに頭をめぐり、顔を両手で覆って今の話を総括した。

「戦争抑止として、所長を殺せると周囲に脅していると……」

「だから、退職はさせないし、休職届も破り捨てて、燃やしましたー」

 楽し気に言う所長に、身体から力が抜けて畳に手をつく。幻霧郷の民を最優先にする人だから、戦争反対主義だと思っていた。民というしがらみがなければ、戦争と仕掛けても良いと思っているなんて、分かるわけがないだろう!

 自身に課された側近という肩書の重さを知って、脇腹が痛くなってきた。そこに所長は指で作ったハサミを開け閉めして言った。

「まあ、レイとジンがそろって世界征服を一緒にしようぜ!……って言ってくれたら、天蓋島なんて半年、いや三か月で征服してみせるよー!」

「ぜったいに、言いませんからね!!」

 解雇される覚悟よりも重い責任を押し付けないでくれ。そう思いながら叫んだ。


「それで、相談というのは、元を正せば魔素生産量の調節の話だったね」

 突如降ってきた戦争防止任務に、疲れ切った身体に紅茶を流し込む。所長はそんな気疲れを知らないままに、話を変えた。

「ジン、どんな感じかなー?」

 話をふられたじい様は、目を伏せて紅茶に口を付けた。

「……だから、話しかけるな。魔素が揺れる」

「はいはい。じゃあ、僕からのお願いの話をさせてもらうよー」

 休職届を破り燃やしたと聞いた時点で予想していたが、所長からの最後の時間外業務を頼まれるらしい。姿勢を正すと、机の上の暗殺依頼が書かれた紙のある場所を指でさして所長は言った。示された列には、依頼主の隣に北方地域を経由した依頼だと書かれていた。

「僕の暗殺依頼を出して情報の経由地や実行者、使用される道具などを探っているのだけど……変だと思わないー?」

 所長自ら犯罪に関わっていると聞いてしまった事に目を瞑って、紙面から視線をあげた。

「北方経由の情報網が少ない事ですか?それとも、経由地が均等すぎることですか?」

 情報の経由地は中央や南方、東方、西方から直接出ている数がきっかり同じ数ある。隠蔽のために依頼そのものが偽装かも知れないが、たったひとつしかない北方の依頼が浮いて見える。所長は頷いた。

「そう。どちらも気持ち悪いけれど、北方の一件が非常に変。生死問わずの捕縛なのさー」

 指が置かれたままの備考欄の中を確認すると、生きていても瀕死ならば、身体の回収をしろという依頼だ。そこには依頼主が用意した道具で暗殺をしろという不思議な文言が続いていた。

「まるで、レイを使って、暗殺道具の試用実験をしているような気がしてねー。他の暗殺依頼に似たような物がないかと調べてみたら、幾つか引っ掛かったよー」

 もう一枚の紙が机に差し出されると、眉をひそめてある欄をなぞった。

「姉さんの名前……所長も、ありますね」

 人数は十二人。その中に知人がふたり、自分も含まれている。特技資格三番の上位の資格取得をしているひとりも書かれていた。思い当たる節はひとつしかない。

「使用するものは、赤光の泡……いや、禁忌魔法劇物ですか」

「そうとしか思えないよねー。で、この面々を見て思うことはあるー?」

 赤光の泡で暗殺されそうな人の名簿を流し見る。知らない名前の方が多くて、首をひねった。

「対象は天蓋島各地に散らばっているようですけど……」

「第一王女派閥だ」

 じい様が紅茶を飲みほしたカップを置いた。まばたきをしていると、じい様は立ち上がってふすまを開いて廊下に出て行った。相手を変えて「どういうことですか?」と訊ねれば、所長は肩をすくめて腕を組んだ。

「近々、立太子の儀式が行われるって、聞いた事があるかなー?今、第一王女と第二王子が外遊に出ているのだけどー」

「いえ……もしや、国王誕生日に立太子の発表がされるのですか」

 もしもの推論に、所長は「そう!」と指を弾いて気持ちの良い音を鳴らした。

「立太子したと報告する為に、事前に儀式を終えないといけないけれど、儀式の参加には貴族や各地の領主に推挙してもらわないといけない。推薦人数を減らし、そして儀式に連れて行きたいはずの特技資格三番取得者を潰そうって計画がうっすら見えるよねー」

 またしてもよく解らない政争の話が降ってきた。お偉いさん方の思惑で寝込む羽目になるとか、やめてほしい。昔から変わらないな。ため息を吐くと、所長は僅かに身体を前に屈めて言った。

「最悪の場合、王家の誰かに使われるかもしれない。毒物の生産や運搬販売のルート、禁忌魔法で毒物を作る輩の情報が欲しい、というわけで……」

 囁くような声に、目を伏せから応えた。

「北方の大図書館で、禁書利用履歴を見てきてほしい訳ですか」

「そう!お願い!」

 手を合わせて頼んできた。所長は王女が立太子することを望んでいるのか?最後の時間外業務に、頭をかいて首を傾げた。

「所長でも閲覧できるのでは」

「僕じゃ、劇物類の所に行けないよー」

「わかりました。承ります」

 了承したら、廊下に続くふすまが開いた。入って来たじい様の右手には、玄米おにぎりのお皿と湯気の立つお椀を乗せたお盆があった。机の上の紙を容赦なく払い落としたじい様は、私の前にお椀とおにぎりの皿を置いた。

「レイ、悪いが御勝手を使った。朝食をとりなさい」

 ふわりと味噌の香りが漂ってきて、お腹の虫が鳴いた。頬が熱くなって、じい様はここに来て初めて微笑んだ。


 じい様が作ってくれた朝食を食べ終えて、お腹も落ち着いた。食べ終えた挨拶をして食器を片付けようとしたら、じい様が手早く持って行ってしまい、再び所長と二人きりになった。

「それで、じい様は所長の見張りで来たのですか?」

「魔素生産量の調整についての話で、ジンの眼を借りようと思ったのだけどー……なんか、時間がかかっているみたいでねー」

「時間がかかっている訳ではない」

 不意にじい様の声がしたかと思ったら、机に茶菓子の皿と湯呑がみっつ増えていた。じい様は湯呑を傾けると、伏せていた目を開いた。

「なんだ、じろじろと見て」

「じい様の魔術は、私が長時間いた場所でも無効にされないのですよね」

 幼いころからのことなので驚きもしないが、物凄く速く歩くという謎の魔術は私の魔素の分解速度を越えているのだろう。感心の眼で見ていると、じい様は片眉をあげた。

「されている部分もある。ただ、お前さんとは相性がいい」

「相性が良いのですか……?」

 なんでも等しく魔素を分解してきていたと思っていたが、相性がいい魔素があるとは知らなかった。身近にあるとも予想していなかったので、じい様の言葉の続きを待つと、所長が口を挟んできた。

「もしかして、ジンの魔術のことを知らないの?」

「……物凄く速く歩く魔術としか、聞いていませんが……」

「何も教えていないのと同じじゃないかー」

 所長の訝しげな声に、じい様は素知らぬ顔をして湯呑を置く。そして私の眼を真っすぐに見て言った。

「儂と同じ時間で生きている者に、何の説明が要ると?」

「大ありだってー。魔素生産の話だと、ジンが似ているようなものだって言わなきゃー」

 ふたりが交わしている会話に追いつけないまま聞いていると、じい様は小さく肩をすくめた。

「お前の魔素の生産量が不安定という話だったが、それを改善する魔法魔術的な手立てはない」

「……そうなのですか?」

 さっぱりと言い切ったので、机に身体を乗り出した。改善の手立てがないという事は、義父さんからの許しを一生得られず、探索者資格を返上する事になる。そんな無茶な要求だったのかと視線で訊ねれば、じい様は所長の方を見て言った。

「そもそも、魔素の分解や生産という概念自体が、お前や私の魔素の感覚とずれている」

「魔素の、感覚ですか?」

 身体強化の魔術の体感が人によって違うように、魔素に対しての認識も違うのか?検査機器で調査し続けた人からからすると、すこし不思議な印象がある。知らないものの考え方に首をかしげると、じい様は目を伏せた。

「魔素は、血肉であり、骨でもある。お前はささやかな臓器の反応を、一大事だと判断するようになっただけだ」

「えっと……花粉症とか、自律神経の不調と近しいということですか?」

「儂が言える改善法は、しっかり休め。それだけだ」

 頷くじい様の結論は、不養生の結果が魔素暴走に繋がる不調だと言っている。身体が過剰反応した症状もアレルギーに似ているし、あながち間違っていないのかも。しかし腑に落ちない。

 頭の中で推論を立てていると、じい様が茶菓子のおかきを頬張った。小気味よい音を聞いていると、じい様は呑みこんで頬杖をついた。

「お前の場合、休み方が間違っているのだろう」

「ど、どうすれば良いのですか?」

 答えを知っているのではと聞けば、ばっさりと言葉で切り捨てられた。

「しらん。お前のことは、お前で見つけろ」

「でも、ジンには体内の魔素の色に、流れまでわかるじゃないか。分かる事はないー?」

「えぇ?!」

 私の魔素光色は、計測機器でも観測できなかった。推測の色はあるが、魔素光色を断定して見たと明言した人はいない。「なんで、教えてくれないのですか!」と机に手をつくと、じい様は眉を寄せた。

「お前の魔素の色は、黒だぞ?誰が見ても明らかだろうに」

「いや、知りませんでしたよ!」

 所長に同意を求めると、「そうだねー」と頭を傾けた。じい様はまばたきを数度してから静かに立ち上がった。ふすまに歩いていくじい様を目で追っていくと、「外に出ろ」と言われた。付いて玄関先の庭に出ると、じい様は私と距離を取った所に立った。

「一歩ずつ、近づきなさい」

 言われるまま、じい様の所に向かって歩いていく。じい様の前に立つと、美少年の顔がこちらを見上げた。

「そのまま、下がりなさい」

「え……」

 前を向いたまま、後ろに戻れということか。下がって玄関の前にたどり着くと、じい様は腰に手を当てた。

「あるべきそのままにある。魔素は、そういうものだ」

「……どういうことですか?!」

 前後しただけでは、何もわからないよ。意味が解らないと叫べば、所長が肩を叩いてきた。

「レイ、すごいことをしている自覚がないとは思うから、説明をするね」

 口元を隠しながら囁く所長に、「お願いします」と耳をそばだてた。

「ジンは速く動く以外に、物体との接触による衝撃を操作できる。その魔術を人に使えば、他人の身体の動きも操作出来てしまう」

 空気や物の抵抗を操作して壁抜けしたり、有るはずのない場所に抵抗を作って人を動けなくしたりできるという事か。「そうなんだ」と呟くと、そばにじい様が近寄ってきて、所長の腰を蹴った。

 長身の所長が吹っ飛び、前に二回転がって顔面を大きくうった。よろめきながら起き上がる所長に、じい様は言った。

「そんな無粋な魔術ではない。物凄く速く歩く魔術だ、異論は認めん」

「魔術で人の妨害をする癖にー!嘘つきだー!!」

 所長は拳をあげて文句を言うが、じい様は鼻で笑ってこちらを見上げてきた。

「お前の異能も名前を変えれば、すこしは落ち着くかもしれんぞ」

 私の魔素がどういった物なのかを、言葉では教えてくれないらしい。言葉で表現し難い事なのかも。

 それにしても、異能の名前で変わるような事でもないと思う。納得できないままに、ふと砂塵山河で言われたことを思い出した。

「そう言えば……ある人に、魔素に夜を告げる異能だと言われました」

「よき眼の持ち主だな、よく解っている」

 じい様は腕を組んでにこやかに頷いた。そして、空を見上げた。

「眩しく騒がしい空に静寂が来れば、さぞかし美しいだろう」

 どきり、と胸が鳴った気がした。目を細めるじい様に訊ねてみる。

「空を見えるように、出来ますかね?」

 すると、眼を見開いた後に顔をほころばせた。

「お前以上に適格な者など、居るまいよ」


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

次話は制作中です。2026.8.16

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