現場依頼:人体に癒着した偏光魔石①
白金竜人の郷の長代理エイジャンから、彼と彼の家族を襲った謎の石を浄化し、取り除いてほしいという依頼を受けた。協力している間は衣食住を提供してもらえて、報酬は黄塵鉱石の原石となった。先払いだと渡されたそれは、手のひらに収まる大きさだったが、筋はなく曇りのない透明で美しいものだった。落とさないようにと手が震えた。
その後、ソフィアに連絡をしたいと申し出たが、エイジャンとそのお付きの人に睨まれた。この件が片付いたら、きっと怒られる。探索者資格免許停止も覚悟した。
契約内容を決めた後、長一族が住まう家の祭儀室、偏光魔石が破裂した現場に来ていた。なにか手掛かりはないかと、現場を残してあるらしい。エイジャンのお付きの人にきしむ扉を開けてもらうと、こもった空気の臭いがした。
左右と正面の石壁には、嵌め殺しのガラス窓が外の眩しい風景をうつしている。大きく長方形に切られた石が並ぶ床には深い青に黄色と白の模様が美しい絨毯が中央にあった。絨毯の奥には三段ほど高くなったところに石の椅子が置かれていて、椅子の上の天井には焦げた跡がみえる。絨毯には黒いシミが広がり、壁にもシミが飛び散っている。窓から差し込んだ光は、所々に光るものを照らしていた。
「悪しき石がそこら中に転がっている。気をつけろ」
「はい」
中に入ってみても、シミと焦げを見なかったことにすれば、使われていない部屋という印象しか浮かばない。絨毯に近づいて光るものを摘まむと、黒い透明な石だった。手袋を外した左手に転がす。
「何をしている!」
エイジャンが叫んで左の肘を掴んできた。何もない事を確かめて、エイジャンは私を睨んできた。
「如何に浄化の魔法が使えようとも、不用意に触るべきではないだろう!」
「すみません。でも、大丈夫ですよ」
もっともな言葉に苦笑いを向けつつ、転がり落ちた石を拾い上げると、石は透明になっていた。左の手のひらの上で石を見せれば、エイジャンは私と石を交互に見てくる。魔素を吸収しやすい石だと説明すると、エイジャンは腕を組んだ。
「お前は呪術の浄化も出来るのか」
出来なくもないが、狙いを定めることはできない。曖昧な仕草で答えて手袋を着け、絨毯や床に散らばった魔石を幾つか拾い上げた。どれも同じ黒色に見える。部屋の角にあった机の上にパレットを置いて、水筆の蓋を取る。
「何をしている?」
「少しお待ちください」
覗き込んでくるエイジャンを横に、パレットの中で大きな黒の六角形を作った。それぞれの角には、赤と黄と青の角、その三色の間に橙に紫と緑の角を作って、内側に絵具から出した黒を置いて色をならした。
「石の色は、この中のどこに近いですか。指さしてください」
エイジャンは石を見比べて、私をちらりと見た。促すと、人差し指を中央付近にむけた。なるほど。
「呪術の可能性は低くなりましたね」
「こんなに簡単にわかるものなのか?」
分かってたまるかと苦虫を噛みつぶしたような顔をしているが、汗でずれた眼鏡を押し上げてエイジャンを見上げる。
「魔石が周囲から魔素を取り込むと、濁った黒色を示します。術式を組み込んだ魔石は、作成した人物の魔素の色に近付きます」
偏光と名にあるように、魔素が溜まった魔石は単色の魔素を注いでも、黒くくすむ。私にも黒く見えるのだから、物理的に黒くなる石なのだ。
「黒色の魔素を発する人が作成した場合、小粒に砕けた後も呪術が有効になるというのは本体がある場合のみ。この場の魔素濃度が高く、黒くなったままの魔石か……そのどちらかと」
「呪術であると証明するには、どうすればいい」
「本体となる魔法具を探すしかありません」
窓の外はオレンジ色に顎に手を当てて考え込むエイジャンに小さく手招きをして耳打ちする。
「この階層に仲間がいるのですが、その人に探し物の魔法具を借りますか」
「だ、駄目だ!外の物は、使わない!」
エイジャンは首を大きく振った。外の物が怖い気持ちは残っているか。息が荒く顔色が悪くなったエイジャンを気遣って、話題をずらした。
「では、当時何があったのか、詳しく話してください」
「あれは、薄い本のような見た目の箱に入っていた」
「真っ黒の石が、ですか?」
「あぁ。板状のもので、よく探索者協会の職員が持ち歩いている連絡用の通信機の様だった」
返してもらった鞄からスケッチブックを出して、見慣れた黒い板を描いてみせる。エイジャンは「そんな感じだった」と頷く。大きさも私の手のひらに収まるほどだったらしい。
「弟さんが触った時、人の姿でしたか?」
「そうだ。風邪を引いていて、魔素の制御があいまいになって溢れさせていた」
その後も質問を続けて、長が持ち帰ってきたお土産を開いていて、弟さんも風邪をひいていたけれど同席していた。長は開けてみなさい」と直接弟さんに渡して、開いた瞬間に小さな音がしたと同時に、何かが割れる音がしたらしい。
「咄嗟に姉上が取り上げて、兄上がかばった。私は席が離れていて、破裂する瞬間を見た」
「どんな感じでしたか?」
「膨らんで白い火が出た後に、黒い石が砕けた。一瞬のことだから、あまり詳しく覚えていない」
エイジャンは顔を撫でて眉を下げる。聞き取った内容を書き留めて、首をひねった。
通信機が発火して爆発したようにしか思えない。ただ、通信機は一度買ったら一生使える高価なものだ。商品のおまけに渡すような道具ではない。
意図的なものとして考えるべきか、ただの偶然か。証明するには、やはり探し物の魔法を使って呪術の本体がない事を確かめないといけない。
現場の確認を終えて、祭儀室に落ちていた米粒ほどの偏光魔石をひとつ持って出た。落ち着いたところで相談したいと頼めば、客間に通された。石の床に絨毯が広げられ、奥にカーテンがおりた寝台がある。靴を脱いで絨毯にあがり、足をのばしてスケッチブックを開いた。
窓にある街並みは赤みを増してきた。胡坐になったエイジャンが「軽食をもってきてくれ」と頼むとお付きの人はお辞儀をして部屋を出た。姿勢を正して訊ねる。
「エイジャンさんも破裂した石が刺さったままですよね。背中の傷口を見せていただけますか?」
「構わない」
服の左袖を脱ぎ、長い金髪をかき分けて、左の肩甲骨周りを見せてくれた。そこにはやはり、鋭く頭が平たい石の釘があった。手元の偏光魔石と似ている。見せてくれた感謝を告げて、話を切り出した。
「エイジャンさん、魔法の基礎は知っていますか?」
片眉をあげて口角を下げたエイジャンに、何の感情も向けずに続けた。
「外の魔法具が嫌なら、エイジャンさんに探し物の魔法具を作って頂こうかと。作り方は教えますので」
「そ、そん、な……お前が呪術を教えてきたらどうする!!」
エイジャンが立ち上がって指をさしてきた。距離を取ろうとしたエイジャンに、小さく息を吐いて言った。
「ドーグ・モジャグ著、風臣飛竜の秘法魔術書の第二版は、ご存知ですよね?」
スケッチブックに大きな長方形を鉛筆で描く。中に波模様や草木を描き、最後に三角形を中央に書こうとして、一辺を塞がずに止めた。その模様を見せると、エイジャンは目を見開いて呟いた。
「これは、鎮静の祈りだ」
震える指でスケッチブックをなぞる手に、パレットと水筆を差し出した。
「外の魔法がお嫌いでしたら、郷で使われている術で作ってしまいましょう」
私の指示の下、エイジャンは新しい紙の上で戸惑いながら筆を動かし、郷で使われている魔法術式を描いていく。お付きの人が持ってきてくれたお茶と果物に手を付けずに描き進め、出来上がった時には、窓の外に紺色の濃淡の中にランプの火が灯っていた。
「これで、いいのか?」
エイジャンがスケッチブックを見せてくる。描きあげた鮮やかで細かい絵を確かめて、「いい出来です」と頷く。エイジャンは安堵した様子で息を吐いた。
郷の絨毯は、色と図形を四角の中に描く魔法術式――彩図魔法陣だった。小さい頃に魔法を身近に感じる為に教わるもので、西方では安息や鎮静の魔法陣を両親の誕生日に渡す子供も多い。義塾の図書館にも関連書籍があって、私の卒業制作に使った魔法体系のひとつだ。
「初めて描くものは緊張する」
「確かに、ここまで細かいと……疲れましたよね」
スケッチブックには、波におされる船に指を前に向けた船頭と、ひとつ目の人が両腕で丸を頭の上に作っている。波の周りには色とりどりの三角や四角が散らばっていて、そのすべてを細い四重の黒線が囲っている。絵具そのままの色を使っているからか、目頭が痛くなってくる。
「風おこしとひらめき、道標の秘術を合わせるなど、考えた事もなかった」
エイジャンは感慨深そうにスケッチブックを眺めていた。
「新しい秘術をつくろうとは思わないのですか?」
「この秘術は、女性たちに受け継がれているものだ。長の男児は教わるが、使いこなせるのは女性たちだけだろうな」
家事をする合間に何年もかけて、郷の女性たちは絨毯を作っているらしい。見てみたいという気持ちを心の隅によせて、偏光魔石を取り出す。エイジャンは神妙な面持ちでスケッチブックから破り取って、左手にのせた。
この魔法陣の上に物をのせると紙が動き、のせたものと似た性質を持つ品の方向に船頭の指が向く仕掛けだ。呪術がないなら、最も近いエイジャンの背中の魔石を示すはず。他を示したら、より大きな呪術の本体があるという事になる。
「では、のせますよ」
「頼む」
そっと魔法陣の中央に偏光魔石を乗せた。すると、柔らかな風が頬を撫でる。石と紙がエイジャンの手から浮き上がり、紙がくるりと回って客間の扉を示した。エイジャンと顔を見合わせた。
「成功です!」
「あぁ、頑張った甲斐があった!」
魔法が成功したという喜びもつかの間、エイジャンの眉が八の字になる。
「これで見つけられる」
そう言って左の肩越しに偏光魔石を見ていた。暗い影が落ちたエイジャンに、何も言えなかった。
呪いの本体があるかもしれない。途端、エイジャンが客間の扉からを飛び出した。ついて行こうと靴を履き、ランプを持ってエイジャンの足音を追った。
「何処にある……!何処だ……!」
小声なのに地を這う低い声は、吹き抜けの中庭に居た。エイジャンのそばに着き、膝に手をついて息を整えていると、「こっちか」とエイジャンは走り出した。整わない息のままエイジャンを追って、建物の中を駆けずり回った。
「は、は、はひ……キツイ」
三階の階段を登り切って、壁に手をつく。あの魔法陣、左右は反応するけど、上下は反応しない。何度も階段を上り下りするなんて。額の汗を拭ってエイジャンの足音を探すと、吹き抜けの星明りで照らされた廊下の奥に、紙を右手にのせた人を見つけた。
息を整えながら歩いてその人に近付く。隣に立って見上げれば、エイジャンだった。目の前には大きな両扉がある。
「エイジャンさん、ここ、ですか?」
訊ねてみても、魔法陣を凝視して動かない。紙の船頭が示す扉を開く。鼻につく草花の臭いとランプが露わにした部屋の中に顔をしかめた。
星の明かりがさし込む花が飾られたベッドに、両腕と胸の付近にびっしりと石の破片が突き刺さっている長身の男女が横たわっていた。特に女性の手のひらには、肌が見えないほどついていて、手のひらよりも大きい黒い結晶が生えているようにも見えた。
エイジャンの手にある魔法陣は、女性の手にある頭が平たくなった大きな結晶を示していた。
「これは」
「……両親だ」
ようやく口を開いたエイジャンは、扉を大きく開けて中に入った。ランプをかざして女性の手首をよく見てみる。
「母は浄化が得意だった。外の魔法も学んでいて……」
震える声を聞きながら、手袋を着けた指で魔法陣が示す石をなでる。石の先端が透明になっていて、寝台のシーツの上には透明な石が幾つも転がっていた。隣の男性に刺さっている石は黒いままだ。
「母の両手に石が多いのは、浄化できるからと、私と姉上に刺さった石を誘導して引き受けてくれたからだ」
そう言ってエイジャンは自身の顔をなでた。泣き出しそうな顔を見ていられなくて、女性の傷口に視線を移した。
「……石を受けた後、すぐに動けなくなったのですか?」
「いや、一週間を超えたぐらいから動けなくなっていった。一か月後には、私以外の皆が伏せていたな」
男性の方も眺めると、顔と胸元に大きな破片が幾つかあった。その破片のどれもが、頭が平らになっている。楔と呼びたくなる理由もわかった。
「お兄さんふたりは、どのような感じですか?」
「ふたりは、父と似ているが、ジース兄上は胸から首のほとんどを石でおおわれている」
正面から受けたのだろう。ランプの光が揺れる部屋に沈黙が落ちる。前向きな話をしようと口を開くと、エイジャンは魔法陣を床にたたきつけた。
「なんでだ!母上なわけがない!!絶対に!」
とっさに偏光魔石を受け止めようと手を伸ばすが、つかめなかった。偏光魔石は石の床で跳ねて、割れることなく絨毯に転がった。
「そんな訳がない!」
エイジャンは叫んで頭をかきむしり、頭にのせた額冠を握りしめる。身体を振り回して装身具を鳴らし、次第に身体が膨れ上がる彼を、傍から見て気付いた。
「あ!わかった!」
そうだよ、これは呪術じゃない!そう気づいた瞬間、黒い影が右の横腹を襲った。受け身を取る事も出来ず廊下に吹き飛び、割れたランプから油と火が広がった。痛む額に手を当てれば、ぬめる黒い液体が付いていて、鉄の匂いもしている。立ち上がる煙にむせると、口から血が垂れた。
どれほど吹き飛ばされたのか。肘をたてて痛みできしむ身体を持ち上げると、転がっていた白眼鏡が黒い影に踏みつぶされた。
影を見上げると、筋骨が一層たくましく、手の爪が鋭くなった巨人が立ちふさがっていた。
「なにがわかった」
がなる声は、酷く耳に響いた。頭がぐらついて体中が痛い。床に肘をついて、荒くぬるい息を吐く巨人の正面で向き合った。
「母上を貶めようというのだろう」
猛禽類のような爪の右腕がゆっくりと持ち上げられる。振り下ろされれば、死ぬ。けれど、この怪我の処置が遅れれば、どちらにしても死ぬ。
ならば、なにをするか。
「反応していたのは、呪術ではなく……身体依存型の、規格変更魔法です」
咳をして、眼がまわる。痛い、それでも。目の前の人に、伝えねばと口だけは動く。
「簡単に言うと、人の大きさに合わせて、形を変える……魔法です」
「命惜しさに、言い訳か」
身体も精神も、エイジャンに背を向ければ殺される。視界が暗くなってきた。説明の時間はない、これだけは言わねば。
「あなたのお母様は、今も浄化を、行っています。魔素が、少ないところに」
顔をあげて言いたかったが、声が響いて背中を丸めてしまう。重く震えた指で女性が横たわる寝台の方をさした。
「連れてって」
「また嘘を」
「どうせ死ぬから……死にかけを殺すより……助けられる人を、助けろよ!!」
声をはって、急かす。行ってくれなくては、困る。頼むよ、と心の中で叫ぶと、視界の端にあった巨人の足の爪が下がった。そして寝台の方へ足音が向かった。大きな羽音が外に飛んでいくと、廊下に冷たい風を運んできた。
石の床にへたり込む。遠くに何人かの足音と声が聞こえてきた。長く息を吐くと、身体が石にへばりついたかのように重たくなった。そばにはランプの火が燃え盛っていた。
生まれた時から火が傍にあった人間は、死ぬ時も火が傍にあるのか。不思議なものだと目を瞑った。
もし死者の国があって仕事の時間が少ないのなら、のんびり絵を描いて、本を読みたい。そう期待してみたが、現実は残酷だ。
気が付いたらあおむけで、脇腹が痛い。消毒液と血が混ざった臭いがする。服は知らない肌触りのものになっている。身体は疲れ切っているのか、瞼は重かった。
生き延びてしまった。思わず息を長く吐いた。
死ぬから行けと言ったのに、生き延びたら殺されるという事はないよな。もう一度、痛い思いをするのは嫌だ。嫌だな、と想像を重ねて気付いた。
魔素暴走した時の痛みより辛くないな。息を吸っても脇腹が痛いだけ。嫌な気付きに瞼を閉じたままため息をつくと、そばに布ずれの音がした。
「起きていらっしゃるなら、目を見せていただける?」
鈴のような軽やかな声だった。言われるままに何とか目を開けると、光が差し込む部屋の天井が見えた。天井の色ガラスのランプの下には、乾燥した花の束がつり下がっていて、足元の窓には青空が少し見える。声がした左側を見ると、目元の優しい金髪の女性がのぞき込んできていた。目の色が黄緑色で、肩口に突き刺さった透明な石を見つけた。
「あぁ……なんて静かな」
女性は黄緑色の眼を細めて、微笑んだ。けれど眉尻が下がっていて、悲しそうにも見えた。
「どう、して……」
郷の人はエイジャン以外に関わろうとしてこなかったはず。女性は微笑んだまま言った。
「ひとりで戦っていると、疲れ切って絶望していた私を見つけてくれたからですよ」
水を絞った布を手に、首元を拭かれる。首筋に冷たさがやってきて、涼やかな香りが鼻を通った。薄荷の香りだ。馴染みのある香りを吸い込むと、女性が椅子を引いて立ち上がった。
「あなたが起きたことを、伝えてきます」
そう言って部屋にひとりきりになった。この後に殺されるのかな。
待っていると、女性が出て行った方向から足音が幾つも近づいてくる。目線をそちらに向ければ、部屋の扉が豪快に開いて、エイジャンが寝台のそばにきた。息を切らして見下ろしてくるので、訊ねてみた。
「殺しますか」
「そんなこと……!」
「こら」
なにかを言いかけたエイジャンの背後から女性がひょっこり現れた。頭をさするエイジャンの表情は、すこしだけ嬉しそうだった。
「けが人のいる場所で、走らない。あと大声も控えるのですよ」
「はい……母上」
そうか、助かったのか。安堵の笑みを女性に向けると、彼女は口元を隠して眉を下げた。
「お疲れでなければ、お話を聞いて下さるかしら」
頷くと、女性は椅子に座って話し始めた。
「夫が、末の息子に通信機を買い与えて、いつでも話せるようにと実演してみせようとしたのです。末の息子は魔素の流出量が多く、魔石の形状変化に追いつかないほどの魔素だったのでしょう」
魔石が壊れて爆発し発火、ヴィージャの腕は吹き飛んだ。女性は引き抜くのは難しいと気付いて、魔石が大きくなり過ぎないように魔法を上書きして形を固定し、自身に突き刺して破片を切り取った。結果、女性は異なる魔素を体内に宿し続けることになり、浄化に時間がかかっていた。
「何年も、ひとりで」
「ええ」
女性は顔を落とした。けれど、下から見えた女性の表情は笑顔だった。
「あなたは気付いてくれた。ありがとう」
そういう女性の眼には涙があふれていた。女性が涙を拭って顔をあげる。落ち着いたのを見計らって、質問をした。
「他の、方は」
エイジャンのお兄さんやお父さんは無事なのか。女性は肩をすくめた。
「摘出手術を行ってくれた方に、枯れ河の方で摘出手術をしてもらっています」
頑なに嫌がっていた外に、助けを求めたのか。エイジャンを見上げると、顔を逸らして俯いた。どうした、落ち込む所ではないのに。そこに「そうそう」と女性のつぶやきが挟まった。
「伝言です」
誰のだろう。目を細めたら、女性は口元を隠して言った。
「治療費はソフィア商会が立て替えておきます。お義兄様、覚悟して下さいまし……とソフィアさんが言っていたわ」
女性がころころと笑う中、目をそらした。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
次話は制作中です。2026.7.20




