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特別講師業務:魔素研究について②


「ご紹介にあずかりました、レイ・グランドです。魔素暴走後で療養中の身ですが、お話の機会をいただけて嬉しいです」

 宿舎の中庭の東屋にて、じい様と義塾生の少年三人と石のテーブルを囲んだ。木のベンチに座り直してお辞儀すると、右手に揃って並ぶ少年たちはお辞儀を返してくれた。向かいに座るじい様はそのまま話を切り出す。

「先日の作戦については、この後にしよう。この者どもは午後から山に行くのでな」

「わかりました」

 そういえば、お見舞いと授業が被っているのは教員として良いのか。折角の年下との対話機会なのだし、なにも聞かない方向で話を進めよう。了承した後に、少年たちを見比べた。力が程よく抜けた良い姿勢の少年たちは、私の方に身体を向けている。大きく息を吸ってからマスクの下で微笑んでみた。

「では、先ほどの紹介から、質問したいことはありますでしょうか」

 知りもしない興味もない人の話をだらだらと聞かされるのは、大人も苦行だと思う。けれど、要点をまとめた演説というものは、直ぐに用意できる訳がない。彼らの自己紹介で時間を奪うことよりも、お互いに話しやすい話題提供をしてもらおう。何が知りたいのかと問いかければ、手前に座る緑の長髪を結い上げた少年が小さく手をあげた。

「側近に指名された方とお伺いしましたが、どのような理由で指名されたのでしょうか」

「それは、幻霧郷領主に一勝をあげたからです」

 すこし身体を傾けて笑いかけるように言えば、少年たちは口を引き結んだ。向かいのじい様は眉をあげて頬杖をつくだけで、補足をしようとしない。一番奥に座る耳にイヤリングを付けた少年が手をあげた。

「領主指名の試合は、一本勝負ですか?」

「幻霧郷の正式な御前試合ではなかったので、三本勝負で二本を先取。内容は、一本目は私が有利な勝負を決めて、二本目以降は敗者が決定するというものでした」

 突然、勝負をしろと宣言されたのだ。びっくりしたよね。「驚きました」と腕を組んで頷くと、三人の真ん中に座るハチマキを額に巻いた少年が身を乗り出して質問してきた。

「領主の方から挑んできたのですか?」

「ナツメ、挙手をしてから発言せよ」

 じい様がかすかににらむと、少年は姿勢を正して口をつぐんだ。「大丈夫ですよ」と言えば、じい様は息を吐いて頬杖の腕を変えた。

「お酒屋さんの席で成人のお祝いをしていたら、領主様が突撃してきまして……どちらがお酒に強いのか、酒飲み勝負をしようと持ち掛けられました」

「酒飲み勝負……」

 少年たちは眉をひそめた。期待していたような勝負事ではなかったからだろう。しかし、向かいに座る少年は不敵に笑って言った。

「この酒飲み勝負は側近の間で、伝説のように話されるものだ。実に素晴らしい勝利だとね」

「それはどんな」

 緑髪の少年がじい様を見た後に驚きを浮かべたまま顔を向けてきた。信じられないと言いたげだが、苦笑交じりの声で答えた。

「量は当然、飲めません。体格差がありましたし、お支払いが滞る事があれば、お酒屋さんに迷惑ですからね。なので、東方で最も強い酒、烈火進撃を割らずにいただくことにしました」

 烈火進撃とは、アルコール度数九十八の蒸留酒だ。炭酸水で割ると甘い香りがかすかにするお酒で、お店では頼まない限りストレートで提供されることはない。有名なお酒だからか少年三人も名前は知っていたようで、閉じていた口元が引きつって、緑髪の少年の身体が私の方からわずかに離れた。

「一杯目は、双方ともに美味しくいただきました。二杯目は領主様が苦しそうでしたね。そして三杯目の半分で、領主様の手が止まりました」

 そこまで言い終えると、じい様が喉を鳴らして笑い始める。少年たちは眉をひそめているが続けた。

「時間制限を設けておりませんでしたので、時間が経てばお飲みになられると思いました。なので、瓶に残っている烈火進撃を一気飲みしました」

「あっはっはっは!!」

 ついに堪えきれなくなったのか、じい様が声をあげて破顔した。何もそこまで笑わなくても。小さくため息を吐くと、イヤリングの少年が控えめに手をあげた。

「一気飲みは、御体に障るのでは……」

 眉を下げて実に正しいことを言った彼に、頷きながら答えた。

「ご紹介の通り、私は特技資格三番の八級です。八級に合格した方々には、それぞれ体質が特殊な方が多いですが、私は毒耐性が抜きん出ているのです。お酒に含まれるアルコールは長くても五秒で抜けます」

 私の身体にとって、酒とジュースはあまり区別が付かない。アルコールは体内で分解できてしまうものなので、酔った事がない。それでもお酒を飲むのは、香りと味と舌触りがそれぞれの瓶で異なるからだ。いつも同じ味の飲み物も安心するけれど、一期一会の味を楽しみたくて瓶のお酒を買っている。所長との勝負を思い出して、のど元を指でなでた。

「まあ、烈火進撃の一気飲みは刺激的でした」

 少年たちの表情は苦々しい。戦闘技能は無いけれど、びっくり人間ではある。最後の締め括りとして、両手を開いて言い切った。

「かなり美味しかったので……もう一本下さいと頼んだら、領主様は降参を申し出て来られたので一本目は私の勝利となったのです」

 とうとう口が開きっぱなしになった少年たちに、「耐性を求めてお酒を飲むのも、飲み物の一気飲みもやめましょうね」と指をたてる。気を取り直して、話を戻した。

「一本を取った私は、領主様に次の勝負について訊ねたのですが、拒否をされました」

「あやつは、レイの勝ちでよいと、負けを認めたのだ」

 子供の飲酒の衝撃から帰ってきなさいと、じい様が補足を入れると、少年たちは気が付いたかのように姿勢を正して私の方に向き直った。

「聞けば、魔素分解の異能を見出しておられたようで、領主が得意とする魔素攻撃は無効。対して物理的な攻撃を伴う勝負は、確実に私が死にます。勝負をけしかけたうえで、相手を殺すことをよし、としなかったそうです」

「そこで、こやつは頼んだ二本目の烈火進撃をグラスに注いで言った」

 じい様は右手の人差し指を向けてきて、不敵に笑う。恥ずかしさのあまり口を閉ざすと勿体ぶってからいった。

「もう一杯いかがですか。美味しいですよ、とな。領主殿の驚き様は、それはもう傑作だった!」

 そして声をあげて笑った。美味しいものは共有したいじゃないか。笑わないでよ。いたたまれなくて、赤くなっている顔が隠せていることが救いだった。手前の少年がいっそう私から離れたところで、せき払いをして締める。

「というわけで、領主様とお酒を酌み交わした結果、側近に指名されました。ご期待に副えるような内容ではないと思いますが、そういった経緯がありました」

「あ、ありがとうございます……」

 イヤリングの少年は頭を下げた。気をつかわせて申し訳ない。こんな話でも感謝を言える少年は、素晴らしい子だな。「次は何を訊きたいですか」と言えば、ハチマキの少年が手をあげた。

「研究者ということでしたが、なにを研究しているのですか?」

「それは……」

 一番に問われると思っていたことを訊かれて、じい様に確認をした。

「ジン師範、彼らは魔法基礎教本を理解できていますか」

「履修は済んでいるが、お前さんの研究で使われる言葉で理解できるほどの知識はないだろう。短めに、簡単に頼む」

 なんて難しい注文をしてくれるのか。幼い頃に見た魔法の教本を頭の中で開いて、要点をまとめて話すことにした。

「では、出来る限り簡単な、概要をお伝えします。適宜質問を受け付けますので、気になったところで手をあげてください」

 少年たちが頷いたのを確認して、私も頷き返した。

「私の研究は、魔素を分解する自身の異能を魔術化する研究です。操作と実用化を目標としていますが、魔素暴走の解除魔法の開発を行うことを最終目標としています」

 質問があるかと首をかしげると、少年たちは手をあげずに眉をひそめていた。ないと判断して続ける。

「詳しい内容の説明は、魔素構造の観測実験が主です。どのような反応を示すのか記録し、魔素の変化や動き方の傾向を調べて、魔素の性質を調べています。皆さんに想像していただきたいのが、体内の血液です」

 奇妙な図形を見せられても少年たちが困るだけ。例え話で乗り切ることにした。

「血液には、人の身体を維持し生き抜くために必要なものが溶け込んでいます。水に食べ物を消化吸収した栄養、もちろん魔素も含まれていますね。ここで質問ですが、他者の血液を体の中に入れると、どうなると思いますか?」

 手前に座る少年がすっと手をあげて答えた。

「ふたつの魔素が反応して、拒絶反応が出ます」

「半分正解、半分間違いですね。魔素が類似していても、血液の違いで拒絶反応が出ることもあります」

 ここから詳しい話になる雰囲気を出しておく。首をひねる少年に頷きながら、続けた。

「人体が生成する魔素は、様々な成分と体内で作られた物が入っている血液と同様に、ひとり当たり百種ほどの細かい魔素が混ざったものです。天蓋島に他の異界門領地に住んでいる人類や異界人は、自己生成した八割の魔素の種類が同じといわれていて、魔素の拒絶反応が出るのは、残りの二割の魔素によるものなのです。魔素光色が似ていても、ひとりひとりの魔素は違うものなのですよ」

 もっと言えば、二割の内の数種類だけが悪さをすることが多い。研究者としての細かさは脇に置いて反応を見る。少年たちは知らなかったとこぼしていた。

「特に私の魔素は変な形の魔素が多く、種類も人より少ない。魔素を分解する魔素は、私の身体が作った魔素の中で一種類しかないと証明は出来ましたが、どういった作用があって、どういった事が出来ないのか……地道に探していくことが、私の研究です」

 過去の研究結果を非常にかみ砕いて伝えると、奥の少年が手をあげた。

「グランド先輩の体内では、今でも魔素が分解され続けているということですか?」

「そうですね。生成したところから分解され続けています」

「それは生命維持に必要な魔素が無くなっていくのと、同じではないのですか?」

 この少年は魔素に対しての知識もあるし、想像力も豊かなようだ。マスクの下で満面の笑みになってしまう。頷きながら少年の問いに答えた。

「私は異能使い、生まれながらの異常体質です。生成する魔素の構造そのものが大きく複雑で、単体では有害なものだったり、なぜか味覚を刺激して美味しいと感じさせたり、細胞を著しく攻撃して老化させたりと、魔素の性質として異常な構造の魔素が沢山確認されています。その魔素を分解することで、必要な魔素に変化させて生きているのですよ」

 例えるなら、人は水と好みの塩を買ってきて塩水を作っているのに、一から塩酸と水酸化ナトリウムを作ってから、ふたつを混ぜ合わせて塩水作っている。周りの人より手間が多く変な生成をしているのだ。毒を食べる方が、健康なのではと思った時もあったよ。吐き戻したけどね。

「加えて、魔素を分解する魔素生成量の割合が多く、今着ているコートや手袋なしで直接触るか、長時間同じ空間に閉じ込められるだけで、魔素で出来た物はすべて壊れてしまいます。学生時代に試合が断られた理由も、試合に使われる結界も破壊して危ないですし、大切な魔術回路の破損を恐れたからですね」

 じい様の話に補足をして、私の体質を伝える。すると、イヤリングの少年が腰を浮かせて、じい様が彼の肩を掴んだ。

「何処へ行く」

「え、あ……その」

「魔術回路は接触しないと壊れませんので、ご安心を」

 怖がらせてしまったかな。強張った顔の少年に「大丈夫」と言ってみても、明るさが消えていき警戒の色が辺りに広がる。眼鏡の下で眉を下げると、じい様がふと目線を東屋の外に向けた。そしてため息を吐いた。

「レイ、急用だ。生徒の監督をしてくれるか」

「……構いませんが、授業中なのに良いのですか?」

「幻霧郷領主殿から招集だ。すぐには戻れん。しばし歓談でもしていてくれ」

 そう言ってじい様は居なくなった。私はよくても、生徒の少年たちが良くないだろう。気まずい雰囲気に、ハチマキの少年がおずおずと手をあげた。

「すみません、厠に行っても良いでしょうか?」

「もちろん。行ってください」

 了承すれば、少年三人はベンチから立ち上がる。東屋を出るときに、三人は小声で言った。

「こっわ。マジで、こわ!」

「魔術回路壊すなんて、化け物」

「僕、隣に座って変な風になってないかな」

 次々と出てくる恐れの言葉に、苦笑を声に出して忠告した。

「会話の隠蔽系の魔法は丸聞こえなので、私がいない場所でしましょうね?」

 少年たちの顔がざっと冷や水を浴びたように固まった。「怒っていませんよ」と言っても、三人は逃げるように宿舎に走っていった。


 中庭をぼんやりと眺めて暫く、向日葵の影が短くなって、お腹もすこし減ってきた。あと一時間で昼ご飯かな。しかし少年たちは帰ってこない。

 彼らからすれば、異界門階層に現れる危険生物よりも関わりたくないだろう。秘密の会話も聞いてしまったから、彼らの居心地は良くないだろうし、懇親会はお開きかな。ベンチに深く座り込んで息を吐くと、宿舎から走る足音が聞こえてきた。中庭の出入り口に、少年たちがいた。

 息を切らした三人は東屋に入ってきて、テーブルを挟んだ向かいで頭を下げた。

「申し訳ありませんでした」

 三人は小声で頭を下げてきた。何に謝っているのかわからず応えかねていると、少年たちは頭を下げたまま話し始めた。

「お待たせした事、悪口を言った事、そして侮っていたことの非礼……心よりお詫び申し上げます」

 聞けば、酒が強いだけの男だと思って、得るものはないと判断した。魔法を貫通する恐ろしさも相まって、彼らは自習の為に図書館に行った。どうせ目覚しい記録もないだろうが、白ずくめの変人を卒業生目録で調べた。そこで見た文字に驚いて戻って来たらしい。

「栄華の学年の魔術理論学科主席の方とは思わず……」

 頭を下げたままの少年たちは鍛えた身体を震わせていた。自習室に行く彼らの真面目さをほめようと思っていたのに、あまりの怯え様に言葉に詰まった。

 十五歳以上が通う、義塾の高等部にはいくつかの学科がある。その魔術理論学科で、魔法魔術の実演が出来ない私が首席卒業した。けれど、同期には幻霧郷踏破の最年少記録を更新した戦技学科のセロ、卒業論文で魔導師資格を取得したミリアム、他の学科の優秀な面々ばかりで、陰に埋もれた私を知らないのは当然だと思う。というか、所属していた学年が栄華なんて言われている事の方が驚きである。

「まことに申し訳ありませんでした……!」

 三人はその場に膝をつけそうな勢いで謝ってきた。義塾の中では実力主義が基本。先輩という生き物はカッコいい人に映るのも分かるし、ここで変に受け答えすると彼らに心労を与えかねない。

「謝罪は置け取りましょう。頭をあげてください」

 努めて明るく言って席を勧めると、少年たちは私のそばに座って、触れんばかりに近寄ってきた。ひとりは「ずるいぞ」なんて言いだしている。ちやほやされるなんて気恥ずかしいけれど、ちょっと嬉しい。しかし、両手で三人を制した。

「あの、魔素暴走直後で、魔素過敏症なのです。近寄られると……」

 三人が、ざっと距離を取って私の正面に座った。理解が早くて助かるが、寂しく思ったのは秘密だ。打って変わって目を輝かせる三人に、苦笑のまま首をかしげてみせた。

「皆さんは主席卒業を気にしているかもしれませんが、自身が主席卒業にふさわしいと思っていません。気軽に質問して下さいね」

 義塾の首席卒業は、探索者協会でも依頼主からも注目される。仕事が選べる立場になれるのだ。主席を目標とする人は多いが、私の出来ないことの多さからか実際に求められた数はミリアムよりも少なかった。凄くないよ、と遠回しに言えば、ハチマキの少年が身を乗り出していった。

「なにを言っているのですか!義塾の魔素浄化機構を提案した発起人じゃないですか!」

「安全に実技授業を受けられる恩人ですよ」

「お名前を忘れていた僕たちが馬鹿だったのです」

 しまいには涙ぐんで「さっきの自分を殴りつけたい」と悔しがり始めた。良いことをしたと言ってもらえるのは、嬉しいことである。ただ、堂々とは胸を張ることはできなかった。

 提案した話から材料を探し当てて実物にした友人たちが賞賛されるべきであり、口出しをして論文調にプレゼン内容を書き上げただけの私は何もしていないも同然。論文も協力者の末尾にお情けで書かせてもらったのに、魔法工学科のナーナミが「え、お前が先頭だよ?何言っているの?」と勝手に書き換えたことで勘違いしているだけだ。教員を前にプレゼンするのが嫌だっただけだろ、まったく。研究者が名前の順番に神経をすり減らしていることを知っていて書き換えたのだから、より質が悪かった。

 そんな裏話があるとは露知らず、目の前の変人が凄い卒業生だと思い込んでいる彼らに笑いかけた。

「まあ、してしまった事よりも、これからのことを考えましょうか」

「はい。先輩のことは絶対に忘れません」

 座っているのに、小石につまずいた気がした。手を振って違うと伝える。

「感想文は十分に書けそうですか?」

 はた、と少年たちが目を丸くした。すっかり忘れていたな。咳払いをして、彼らを我に返した。

「ジン師範の小論文は比較的緩いです。指定が千文字なら、千二百文字を書くつもりであれば十分間に合うと思いますが……質問はもうないのですか?」

「あ、あります!」

「教えてほしい理論が!」

「お願いします!」

 少年たちは池の鯉の様に、答えを求めて質問してきた。答えられることは答え、わからないことは参考になりそうな義塾図書館所蔵の本を教えた。怒涛の巻き返しをして、突発の懇親会は賑やかになった。

 いつの間にか石のテーブルの上はメモで埋め尽くされていた。じい様の弟子候補は熱心な人が多い。ほほえましく目を細めると、緑髪の少年が手をあげる。続いて他のふたりも手をあげたが、彼を指名した。

「最終目標は魔素暴走の浄化魔法の開発であると伺いましたが、先輩はその魔法で何がしたいのですか?」

 もし、顔にマスクがなかったら、表情が抜け落ちた顔に彼らは驚いたのだろうか。動揺を隠せるわけもなく、率直な言葉を告げた。

「……考えたことがなかったですね……うん、ないです」

 少年たちは顔を見合わせているが、自分の愚かさに体が震えた。ヨツハさんに言われた「人を助ける為に作った魔法を使いこなせるようになればいい」という質問の次に、自身が思いつかないといけない問いかけだった。

 その魔法で、何がしてみたいか。改めて考えると、なにも思いつかない。そして、頭の中にヨツハさんの声が響いた。「そんな空虚なものを作れると思っているのですか」と。その奥にノボル先輩の「レイってそういうところあるよねぇ」という声も聞こえた気がした。

「うわぁ……質問してくれて、有難うございます」

 思わず少年たちに感謝を告げ、頭を下げた。キョトンとしている彼らをよそに、思考の海に駆り出す。

 魔素暴走を止める浄化魔法は、私がその場に居ることと同じだ。コートを脱ぎ着するだけの私の代理を作ろうとしていたのだ。例え話で言えば、私が踏み台になっている。制御云々は無視しても、人を道具扱いしていたのは、私のほうだったのかもしれない。

 義塾の信念は、己が技は人を救う。魔法は自他共に楽しみ幸せすることが良い目標と教わる。初心忘れることなかれと言うが、すっかり抜け落ちていた。感慨深く東屋の天井を見上げて、マスクの下で満面の笑みになった。

「この答えについては、思いつかないです。私の宿題とさせてください。いつか、貴方たちに提出しますね」

 困惑の色が残る緑髪の少年は「わかりました」と小さなメモにペンを動かした。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

次話は制作中です。2026.7.3

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