第53話 模擬戦
美羽とクラークは木剣を持ち練兵場の空いているところまで移動した。
その間にもクラークは美羽の歩き方を観察していた。
「御使い様は」
「美羽でいいよ」
「では……美羽様は足腰が年齢の割にはしっかりしていますな」
「そう? そう言ってくれると嬉しいな。
多分ね、帝都に来る旅の途中で、馬車に乗らないで、ずっと走っていたからだと思うよ」
「なるほど、基礎体力はすでにできていると言うことですな」
「うん、そうかも知れない」
「それでは、基礎鍛錬は必要ないとして、
早速剣の振り方をお教えしましょう。まずは私が振ってみます。それを真似ればいいです」
そう言うとクラークは構えて木剣を振り下ろす。
ブウォン
剣の勢いで風が起きて、美羽の頬に当たった。
「おお、すごい! 強そう」
クラークはいかつい顔を不器用に歪めて笑顔を作る。
「ありがとうございます。それでは、美羽様も振ってみてください」
「うん! 振ってみる」
美羽は思い切り木剣を振る。
「えい」
ヒュッ
「うーん……」
もう一度振る。
「やっぱり違う。クラークのはもっと、鋭くて勢いがあったなぁ」
「はっはっは、最初からできたら、我々も苦労しませんよ」
それを聞いて、美羽ははにかむ。
「それはそうか。何回も練習しないとね」
「その意気です。美羽様」
「よし! やるぞ」
そう言って美羽は構えた。
ヒュッ
ヒュッ
ヒュッ
……
1時間ほどクラークはその場を離れていた。
(少し、所用に時間を取られてしまった。1時間ほどか。
ミウ様も流石に飽きて木剣を振るのもやめてしまっただろうな……おや?)
練兵場に行くと美羽がまだ木剣を振っていた。
(むう、まだ振っていたか。しかし、最初から無理はよくない。
ましてはミウ様は5歳。
体がまだできていないはずだ)
そう思って、止める気で近づいたクラークは、美羽の木剣を振る姿を見て驚いた。
ビュン
ビュン
ビュン
すでに正確に木剣を振れていたのだ。
(驚いた。完璧に振れている。これが御使い様の力なのか、ミウ様の才能なのか?)
美羽はクラークを見て、木剣を振るのをやめて、笑顔で声をかける。
「クラーク、どうかな」
「美羽様、素晴らしいです。この短期間で熟練の騎士のように振れていますぞ」
「本当? 嬉しいな。でも、クラークみたいな音は出ないけどね」
「私と美羽様では体格にも差がありますしな。」
「ありがとうね。練習してもっとうまく振れるようにするね」
「ええ、それがいいですな。ところで、模擬戦などいかがですかな?」
「え、いいの? 私、まだ習い始めたばっかりだよ」
「剣は振るのが目的ではありません。剣を振るのはあくまでも強くなるための手段です。
目的は強くなるためでしょう。それなら、実践的な稽古を積むことで、より目的に近づけます」
「そっかぁ。じゃあ、お願いするね」
にっこりと美羽が微笑む。
硬く引き締まっていたクラークの顔が微かに歪んだ。
クラークは相貌を崩した自分に驚き、誤魔化すように早口になった。
「さ、さあ、始めましょう。どこからでもかかってきてください。
まずはこちらからは攻撃しませんので」
そう聞くと、美羽は少し真剣な顔をする。
「よーし、いっくよぉ」
ダッ!
美羽が地面を蹴って、クラークに一直線に向かう。
身長差があるため、振り上げはしないでまずは横に薙いだ。
ビュン
すると、クラークは一歩後ろに下がりそれを避ける。
美羽の攻撃はそれだけで終わってしまう。
「一撃だけで止めなさんな。常に2撃目3撃目も考えなさい」
「うん」
美羽は再度前に出る。
先ほどと同じで横に一閃。
ビュン
クラークも同じように一歩下がって避ける。
すぐさま、2撃目を繰り出す。
今度は頭上に振り上げて斬り下ろした。
ビュン
クラークは横に体を開いて避けた。
美羽の追撃は続く。
再び横なぎ。袈裟斬り、斬り上げ、再び横なぎ……。
美羽は止まらない。
攻め続ける。
次第に周囲で訓練していた騎士たちの注目も集まる。
「あの子、ずっと団長に切り掛かってるぞ」
「あんなに小さいのによく持つな」
「あれ、なんだか花びらが舞ってるぞ」
「ああ、本当だ。あの子から出ているような気がするが」
美羽は斬り続けながら、神気を発動して回復をしていた。
(せっかく強い人とできるんだから、疲れてられないよね)
そして、振れば振るほど美羽の動きが洗練されていった。
クラークは内心驚いていた。
(わずかな時間で、無駄な動きが信じられない速度で修正されていく。
この模擬戦で動きを最適化していっているようだ)
模擬戦はしばらく続いたが、相変わらずクラークは避けるだけだった。
しかし、その避ける行為が徐々に余裕がなくなっていった。
そして、その時が来た。
美羽が切り上げから、横凪に行くと見せて突きに行った。
ガキーン……カランカラン
クラークが回避が間に合わずに、自らの木剣を振り上げて、美羽の木剣を弾き飛ばしたのだ。
美羽は木剣が飛んでいった方を見ながら手をさすった。
「あてて、負けちゃったね。降参。と言っても、クラークは本気じゃなかったもんね」
しかし、クラークからは反応がない。
(ま、まさか、私が今日初めて剣を振った子供の攻撃を避けきれなくなるなんて)
「クラーク?」
「……」
「おーい」
「ハッ……あ、その、ミウ様、素晴らしいです。
この私に剣を使って受けさせるとは」
「でも、負けちゃったね」
「5歳の子に剣を使わされた時点で私の負けなんですが、そう言うのも嫌ですよね。
それでは、こう言いましょう。最後の攻撃は良かったですが、詰めが甘かったですね。
フェイントを入れていましたが、中途半端だったのでしっかり入れてください。、こちらを完全に崩しておけば避けられない一撃でしたぞ」
「そっかぁ、もっと強いフェイントかぁ。練習してみるね」
「ええ、また来てください。空いている時ならばいつでもお相手いたしますぞ」
クラークがそう言うと、美羽は嬉しそうな顔になった。
「うん、今日は楽しかった。またよろしくね、クラークちゃん」
美羽が花が開いたような笑顔になった。
美羽の笑顔に硬く引き締まったクラークの顔が赤くなり、不器用な笑みが溢れた。
「クラークちゃんはちょっと……」
「なんで、可愛いよ。クラークちゃん」
「ぐふふ」
クラークは思わずニヤけて笑ってしまう。
「……クラークちゃん、その笑い声は可愛くない」
「ぐ!」
クラークが顔を引き攣らせ、美羽がそれを見て開いた手を口に当てコロコロと笑った。
少し離れたところで見ていたきんちゃんがつぶやいた。
「美羽様が初めて男性にちゃん付けをした……」




