第52話 近衛騎士団
「その時ね、美奈ちゃんがなんて言ったと思う?」
「えー、何かしら。教えて、ミウちゃん」
帝城のとあるティールームでクララとお茶をしている時に出た話だった。
「しょうがないなぁ。美奈ちゃんはね、大きくなったら、お姉ちゃんと結婚するって言ったの」
「うふふ、姉妹なのに結婚?」
「そうなのよ。私が男だったらわかるけどねぇ」
「ふふ、それだけ美奈ちゃんに愛されていたのね。美羽ちゃん」
「うん……そうだね。あ……」
美羽の桜色の目から涙が溢れる。
美奈に愛されていたのに、もうそれがないのだと思うと悲しくなってきてしまったのだ。
「まあ、ミウちゃん。大丈夫?」
「うん、ごめんね、ごめんね」
美羽が慌てて涙を拭って、涙を止めようとするが、止まらない。
クララが美羽の横に回り込んで、美羽の肩をそっとだく。
「ごめんね、ごめんね。今涙を止めるから」
「ミウちゃん、悲しいのは当然よ。美奈ちゃんのことがそれだけ大事だったんだもの」
「でも、いつも私、泣いちゃって」
「好きなだけ泣いていいのよ。気持ちを抑えてしまってはダメ。きちんと泣かないともっと苦しくなるよ」
クララの言葉に美羽は堪えられなくなって泣いてしまった。
「ふえーん、美奈ちゃんに会いたいよぉ」
「そうだね、会いたいよね。よしよし」
クララが美奈の頭を優しく撫でる。
美羽はクララの服にしがみついて泣いた。
クララは好きなだけ泣かせることにした。
ようやく泣き止んだ美羽ははにかんでクララに謝る。
「ごめんね、また泣いちゃって。面倒な子だよね」
そういうと、クララはイタズラっぽく笑みを作り、美羽に言う。
「こう言ってはなんだけどね、ミウちゃんがこうして私に縋って泣いてくれると、とても幸せな気持ちになるのよ。
私はミウちゃんに頼られるのが好き。だから、私のためにたくさん縋って泣いてね」
そういわれると、美羽は頬を少し赤くして膨らます。
「もう、いつも私が泣いてるみたいに聞こえるよ。本当だけど……。でも、ありがとう。また泣きたくなったらお願いね」
クララはにっこりと笑う。
「ええ、もちろんよ。あなたはまだ5歳なのだから、気にしなくていいのよ。それと、もう一つ楽しみ見つけたわ」
「なに?」
「泣いた後のミウちゃん。とっても可愛いの。いつも見たいわ」
「もう、やめてよー」
「うふふ」
「えへへ」
二人はニコニコして笑い合った。
そのままお茶会は続行していく。
美羽とクララはお互いの話をしながら、穏やかな時間が過ぎた。
ふと、クララが思い出したように言う。
「そういえば、ミウちゃん。騎士団の訓練に興味あるのだっけ?」
「ああ、うん。剣を使って訓練するのを見てみたいなって思って」
「剣って言っても基本的に訓練は木剣でしているわよ。それでもいいなら見に行く?」
「いいの?」
「うふふ、御使い様が望むならどこでも入れるわよ」
「もう、クララまで御使い様って言わなくてもいいでしょー」
「うふふ、ごめんなさい。それじゃあ、行きましょう」
「うん!」
二人はティールームを抜けて、練兵場に向かって歩いていた。
帝城は広い。しかもどこも似たような作りになっていて、道を覚えづらい。
「なんで、こんなに似た場所ばっかりなの?」
「外部の者が侵入した時にわかりにくくして迷わせるためなの」
「へぇー、そんなこと考えてお城って作られるんだねぇ」
「ええ、城は国の最後の守りだからね。兵が侵入しても、皇族が逃げる時間を作るためにあるのよ」
美羽は話に飽きたのか、鼻歌を歌っている。
「ふんふんふーん」
話している最中に鼻歌を歌っている美羽を不審に思ったクララは尋ねる。
「随分ご機嫌なのね。そんなに訓練を見るのが楽しみなの?」
「それもあるけどねー」
「あとはなんなの?」
「あのねー……。どうしようかな。言ったらクララ怒るかなぁ」
「怒らないわよ。早く教えてよ」
「じゃあ、言おうか。クララね」
「え、私?」
クララが不思議そうな顔をする。
自分が原因で鼻歌を歌われているとは思わなかった。
「お城の外では妹みたいなのに、お城の中ではお姉さんみたいなの」
「え、なんか嫌だった?」
「ううん、このクララも好きだよ。お姉ちゃん」
クララはお姉ちゃんという言葉に真っ赤になる。
言った当の本人は全く気にせずにニコニコしているが。
(お姉ちゃん? 私、お姉ちゃんぽい? ミウちゃんの友達でお姉ちゃん? やだ、嬉しいんだけど。それにそう言うこと言う美羽ちゃん、超可愛い)
クララは顔がニマ〜とするのを抑えられない。
美羽から顔を逸らして、顔を覆い隠す。
美羽が、不思議に思って尋ねる。
「どうしたの、お姉ちゃん」
「きゃー、もうだめ。ミウちゃんが可愛いのがダメなんだからね」
我慢できなくなって、クララは美羽を抱きしめ持ち上げる。
平均身長の美羽を年齢にしては背が高いクララが持ち上げれば、美羽は抱かれたぬいぐるみのようになる。
「もう、可愛いんだから〜」
「ちょっと、クララ、やめてよ」
「ダメー、お姉ちゃんって言って」
「え、言わないよ」
「言って言って言ってー」
「わ、分かったから下ろして」
「先に言ってから」
そんなクララに美羽はため息を吐きながら言う。
「お姉ちゃん、大好きだよ」
「きゃー、もう、嬉しい」
「ちょ、ちょっと下ろしてよ。お姉ちゃん」
「きゃー、また言ったー」
美羽が何を言っても火に油を注ぐ結果になるだけだった。
結局、練兵場に着くまで美羽はクララに抱っこされたままだった。
前向きに抱っこされているので、足はダラーンとしている。
美羽はすでに諦めていた。
練兵場に行くと、そこは400メートルのトラックを作れそうなくらいの広さがあり、その周りにはギャラリー席が並んでいた。
そこで、訓練着をきた屈強そうな男たちが、鬼気迫る勢いで、木剣や木槍などで撃ち合いながら、訓練に励んでいた。
騎士たちの何人かがクララに気がつき、膝をつこうとした。
「そのまま続けて。邪魔する気はないわ」
すると、大柄の騎士たちの中でも輪をかけて大きく逞しい男が、全体に声をかける。
「殿下のお許しが出た。皆、そのまま続けよ」
そう言うと、騎士たちは元の鍛錬に戻って行った。
それを見届けると、大柄の男がチラチラと美羽を見ながら声をかけてきた。
「して、クララ皇女殿下。ここへはどう言ったご用件でしょうか?」
「ミウちゃんが、見てみたいって言ったのよ。見学させてもらって良いかしら」
「それはもちろんかまいませぬが、その子は……御使い様!?」
「ええ、この子は御使い様のミウちゃんよ。ミウちゃん、彼は近衛騎士団の団長でクラークよ。帝国一と名高い剣士なの」
男が膝をついて話し始めた。
「御使い様、お初にお目にかかったのは謁見の間でしたので、挨拶できなかったことはお許しを。私、近衛騎士団 団長のクラーク・クレオと申します。
以後、お見知り置きを」
「私は小桜美羽。よろしくね」
美羽はクララにぶら下げられたまま挨拶を返した。
そんな美羽の様子を気にするそぶりもなく、クラークは美羽に問いかける。
「御使い様は、剣術に興味がおありですか?」
「うん、やったことないから、気になったの」
「そうですか、では、不肖この私がお教えさせていただきましょう」
近衛騎士団長クラークは、いかつい顔で不器用に笑顔を作って言った。




