うわさのびっぐまうす
小一時間ほど、少女たち三人のお昼寝を見守る。
寝顔もかわいいよねこの子たち。
もふもふのお腹に顔を埋めてなんとも幸せそうな寝顔だ。
「きゅ~~~」
あ~。
純華ちゃんてばパンダうさぎを抱きまくらのように抱きしめて寝ているものだから、助けてとばかりにこっちを見て鳴き声をあげる。
「ありゃ、結構ダメージ入ってるな」
総合ATKがDEFを上回ればHPが減る。
これがダンジョンの法則だ。
純華ちゃんはすでにレベル五。
一層でのカンストレベルで、二層なら無敵と言われるレベルだ。
そんなのが無意識に力いっぱい抱きしめるものだから、ベアハッグのようになっている。
抱きしめているのはうさぎだけどね。
アミューズメント層のモンスターはそもそも弱い。
毛玉のように防御力全振りのやつもいるが、大抵のやつはDEFが低く、このレベルになればうっかりすると撫でただけでHP全損する。
体も弱く、普通この大きさの動物が幼女に絞め殺されるとかありえないんだけど、HPがなくなると即消滅するようなやつも多い。
パンダうさぎもこの図体のくせしてHPゼロで即消滅するタイプだ。
そこへ純華ちゃんのベアハッグ攻撃。
小一時間ほど拷問? に耐えたあと、パンダうさぎは光になって消えていく。
「「「きゃん!」」」
それを枕にしていた三人はブルマのお尻を突き出して、地面に突っ伏した。
「えっ? なになに?」
「びっくりです」
「あっ! うさちゃんがいない!」
地面にもATKがあるから、顔からもろに突っ込めば多少のノックバックはある。
彼女たちほどのDEFがあれば、痛みを感じるほどのノックバックじゃないだろうけど。
「先生! うさちゃんがいません!」
「あー、うさちゃんは光になりました?」
「はい?」
「君たちが載っかった圧力でHPが全損したみたいだね」
さすがに純華ちゃんが絞め殺したとか言えずに、不可抗力だったと説明。
「あんなに大きいのに載っかっただけで消えちゃうんですか?」
「モンスターの耐久力は大きさとかはあんまり関係ないから。スライムなんかはHP全損しても直接核を破壊するか、蓄積ダメージが一定量を超えないと消滅しないし。逆にこの辺の動物系はHP全損であっさり消える。スライムよりHPやDEFは高いんだけどね」
「そうなんですか。残念です」
あれだけもふってもまだ物足りなさそうである。
「うん、消えちゃったものはしょうがないよ! 次の子を探そう!!」
「同意」
「そうですね。新たなもふもふを求めていざゆかん!」
「「「おー!」」」
三人は新たな生贄? を求めて旅立っていった。
「「「きゃん!」」」
と思ったらいきなりコケた。
「大丈夫か?」
結界を出ていくらもしないところだったので僕も結界を出て様子を見に行く。
「なになに?」
「なにかいます」
「なんだかもふもふしてます」
見れば三人は何もない場所を撫で回していた。
「おー。珍しいな。それがビッグマウスだ。まさかこんな近くにいたとは」
公式名称:ビッグマウス。通称ホラ吹きマウスといわれるでっかいハムスターみたいなやつは擬態が得意だ。
その擬態レベルは光学迷彩と言われるくらい完璧で、これだけ近くで見てもその輪郭すらよくわからないくらいだ。
まあ、ダメージを与えたり、動いたりすると擬態が解けたり、擬態が追いつかなくてそれなりに見えたりするんだけど、偶然蹴飛ばしたりでもしない限り見破ることは困難だ。
僕でさえ数度しか見たことのない超レアなモンスターだ。
まあ、ボス部屋に一定確率で出るから、一般フィールドではとの但書きがつくが。
ボス部屋だと最初の出現時に例の黒い靄が出るから、よっぽどのうっかりさんでもなければ見失うことはないんだけど。
まあ、見失ったらボス部屋に入り直せば済むんだけどね。
「なにこれ? おもしろーい!」
「なにもないようにみえるのに、触るとそこだけ地毛が見えるとは。なんとも面妖な」
「それにしてもおとなしいですね。押さえつけなくてもいいんですか?」
「ああ、そいつは基本的にほとんど動かないからね。動くと擬態が解けるから動かないとは言われている。攻撃もしないし逃げもしない。ただそこにあるだけという、基本的に無害な存在ではあるんだけど、意外と生息数は多いらしくて、つまずいて転んだとかいう話は稀によく聞く。このへんなら転んでもまあ大した危険はないけど、下層でモンスターから逃げているときなんかだと結構危険だから、決して油断していいやつじゃない」
動くデス・トラップなんて言われることもあるのがこのビッグマウスだ。
探知系のスキルでもない限り、まず見分けられないので、他のモンスターとセットで出てこられると、危険が危ない。
「じゃあ、モフリ放題ですね!」
純華ちゃんはいい笑顔でモフりまくる。
うん、いいんだよ。
この階層に危険なモンスターはいないし、純華ちゃんのレベルなら、ボス部屋だって危険はない。
「程々にね」
「はい!」
良い返事が返ってきたけど、程々ではすまないだろうなぁ。
まあ、ビッグマウスはDEFやHPが比較的高いから、多少乱暴に扱ってもすぐに消えるってことはないだろう。
生きた障害物だけあって、高レベル冒険者に蹴飛ばされても消滅しない程度のDEFとHPはある。
ひと蹴りで消滅してたんじゃ、障害物にならないからね。
ダンジョンのモンスターというやつは、一見危険がないように見えても、組み合わせや状況次第では、危険な存在となる。
決して油断してなならないのだ。
とりあえず彼女たちが十分モフれるように、周りを警戒する。
ここは一応結界の外だからね。
本当ならこいつを結界の中に入れたほうが良いんだが、なにせ動かない。
動かざること山の如し。
人が見ているところでは絶対に動かないという徹底ぶりだ。
そのくせ、三百キログラム超の体重があるから、いくらレベルが上ったとはいっても、この子達と片手が使えない僕ではどうにもならない。
「ちょっと結界こっちまで広げるから、交代で見張りしていてね」
「はーい。最初は千紗が見張りするね!」
「あ、はい。おねがいします」
「すまぬ千紗よ。妾はこの魅力に逆らえぬ」
ですよねー。
ふたりとも理性が飛んでいる。
比較的まともなのは千紗だけだ。
ちさは猫派らしいからな。
ネズミとは天敵? だからだろう。
それでももふもふは好きなので、いつまでもお預けさせておくのも可哀想だ。
僕は結界セットを取り出し、現在の結界を膨らますような感じでビッグマウスの周りを取り囲んで、真ん中を区切る古い結界を回収。こちらは一旦リュックの中へ仕舞った。
結界を一部張り直して不要な紐を回収しただけなのでさほど時間はかからない。
「リザ、もう見張りはいいぞ」
「はい!」
純華ちゃんに見張りが回る前にもふってよしをだすと、二番めの見張りであるリザが思いっきり地面に突っ込む。
かのように見えたが、ちゃんとマウスのお腹にちゃんとダイブしたようだ。
透明にしか見えないからちょっとびっくりするよね。
撫でたりするとわずかに毛なみが見えるから、ソコにいることは確認できるんだけど。
そんな彼女らを横目に僕は監視をしながら近づいてくるスライムを処理していく。
キープくんまでキープしているので、目につくスライムはすべて処分だ。
おトイレは大事だけど予備も含めて十分な数を確保したら後はそれを維持するだけでいい。
用意した旗にも限りがあるのだから。
僕は少女達が汚物を抱えてウロウロする羽目にならない程度のスライムを残して、不要なスライムを処分しながらビッグマウスをモフり続ける少女たちを愛でる。
「こうしてみると皆モフり方が違うんだな」
モフり方にも個性があるようで、千紗はブルマのおしりフリフリ腕全体をこすりつけるように撫でているし、リザは顔を埋めてすーはーしているし、純華ちゃんはおなかぺろんして抱きついている。
おなかぺろんはやめなさい、純華ちゃん。
ビッグマウスの向こう側にいるのに、透明だからその様子が丸見えだ。
まるでガラス窓に張り付いているかのように見える。
「これは単なるビッグマウスの擬態だからセーフ? いや、映像と一緒だからアウトか?」
なんかアウトっぽいので、ヘルメットを少しずらして映像に映らないように調整。
うん、証拠がなければセーフだ。
たぶん。
それからしばらく、三人が満足するまでもふもふの狂宴? は続いた。
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