はじめてのでーたあつめ
僕はとりあえずネットから履歴書のテンプレートをダウンロードし、適当に埋めていく。
ダンジョン一筋でバイトもしたことがなかったから履歴書なんか初めてで、どう書いたものかと悩みつつなんとか仕上げ、とりあえず印刷しておく。
「次はレポートで使えそうなところ切り出してと」
当面はアミューズメント層に関しての授業になるであろうから、その階層に出てくるモンスターの性質や、対応方法、必要となる装備などについてまとめたものを切り出していく。
「一応、ダンジョン入場の仕方とか、アイテムの換金方法とか教えといたほうがいいかな?」
保護責任者と一緒に入るのであれば必要ないかもしれないが。
「換金したときの収入ってどうするんだこれ?」
アイテムを換金すれば当然収入になる。
これまでアミューズメント層で税金を払うほど稼ぐことはまず不可能であったが今後少なくとも三年間はそれだけ稼げる可能性がある。
「まあ、実習のときだけでそれだけ稼ぐのは無理か」
いらぬ心配だった。
去年稼ぎまくったせいで確定申告がエライことになったから、ちょっと気になったが、自分だってまともに稼げるようになったのは五層を超えてからだ。
それもサークルメンバーの助けが有ってだからな。
僕だけで潜っていたら五層だって行けるか怪しいし。三層だってゴブリンの一撃でHP全損だ。
幸いにして――不幸にしてか?――九層までは動きの遅いモンスターが出てくるダンジョン入り口を選んだので、なんとかなった。なんとかなってしまった。
当たらなければどうということないの精神で突っ込んだため、十層のボス部屋で動きが早い上に力の強いアーマードベアに当たってしまった。
ここで出てくる他の五種なら最強最大でも問題なかったんだよ。
でなけければ強さと大きさがあと一段か二段低かったらかわせたはずだし、どうにもならなかったら逃げることだってできた。
デスマッチ部屋になる条件は一つしか無いしね。
「今更言ってもしょうがないけど」
今は授業のカリキュラムだ。
「税金は心配しないでいいけど、実習のときのアイテム買い取りで得られたお金は討伐した子供で分けるのかな?」
まあそのへんは学校側と相談だな。
まさか僕がパクるわけにはいかないし。僕の給与の上乗せ分になってるとか無いよね?
とはいえ子どもたちに分けるとその分割で不公平感が出ると良くない気がする。
クラス共用費とかにして、なにかの行事の際に使うとかでもいいかもしれない。
この辺後でしこりが残らないように、学校側とよく話し合っておかないと。
パーティーの解散だの追放だのは金の分配や待遇絡みが定番だからな。
探索方針の違いとかもあるけど。
「装備や必要な道具類って、どこまで買ってくれるのかな? 補助金が出るとか言ってたけどそれを越えた分は自費かな? 安全を考えればあんまりケチりたくはないが、学校側の都合もあるだろうし、各家庭に負担させるにも金額が大きくなると大変だろうし」
アミューズメント層とは言え、相手はモンスターだ。
油断していれば思わぬ怪我や荷物や装備に損害を受けることもある。
「その辺にリュックを置いといてスライムに食われるとかありがちだし」
笑い話ではあるがこれが結構あるらしい。
なにせアミューズメント層はフィールド型ダンジョンで一面の草原と花畑、森などが茂る、なんとも風光明媚な場所が多いのだ。
ピクニック代わりに利用する人もそれなりにいるとか。
一見のどかに見えてもダンジョン内であることには変わりない。
そこでうっかり昼寝でもしようものなら、スライムにたかられて大変なことになる。
人間には保護バリアとHPやDEFと言ったステータスがあるからいいものの、荷物にはそんな物当然無いので、あっさり食われる。
もちろん服だって溶かされ放題だ。
荷物を失い半裸で逃げ帰ってくるひとが年数人はいるとか。
女性でそんな事やる人はいないから誰得だって話だが。
一応魔物からのドロップ品で作ればDEFやHPが乗るので、スライムに食われることはないのだが、かなりの高額なので、低層で買い揃えるやつはまずいない。
スライムが食わない人工素材のみで作ったスライムプルーフを謳った商品もあるにはあるのだがこちらも結構いい値段がする。
よっぽど油断しない限りスライムに着替えごと溶かされるなんてことはないので、そもそも需要が少なく、商品点数が少ない上、結構な値段がする。
さらにはこれまで子供はダンジョンに入れなかったわけだから、子供向けのスライムプルーフ商品なんかあるわけがない。
買うとしたら特注になるだろう。
結局古着とか着て着替えを用意させたほうが安上がりになる。
「こういう損害とか考えると、装備完全支給のほうが家庭に負担をかけないんだが」
まあこれも学校側と相談だ。
実習時の収入を装備の購入や損失の補填に当ててもいいかもしれない。
どうせ補助金の金額を超えるようなら家庭に請求が行くのだろうし。
学校は慈善事業じゃないからね。
「子供に教えるとなると色んな面を考慮しないといけないんだな」
考えてみて初めて分かることだ。
世の中の教師が多忙なのもわかるというもの。
ちゃんとやろうとすればするほど、考慮すべき事象が出てくる。
成人なら自己責任の一言で済ませられることも、子供ではそうもいかない。
「気軽に引き受けちゃったけど失敗したかも」
ちょっと考えただけでこれだ。
実際に授業が始まれば、更に考慮すべきことが増えていくであろうことは間違いない。
「しかも他の先生方は完全に素人。サークルの先輩方にアドバイスを受けたほうがいいかもしれないな」
とはいえこちとらサークルを追放(笑)された身。
ほとぼりも冷めていないのにいきなり顔をだすのは恥ずかしすぎる。
どうしても無理そうなら頼らざるを得ないだろうけど。
自分のプライドより子供の安全だ。
いざとなったら実習の引率だけでも手伝ってもらったほうがいいかもしれない。
お試し期間でこの辺も確認しておく必要があるだろう。
「まあやれるだけやるか」
相手は小学生だからな。
一から十まで手取り足取り教える必要があるかもしれない。
「わかりやすく伝えるのであれば、図や動画なんかも用意しておいたほうがいいな」
とりあえずアミューズメント層で出てくるモンスターの写真や関連動画のサイトをチェックしておく。
「父さんの勤め先だと、最寄りのダンジョンは仙川だが」
ダンジョンは人口の密集しているところにできるため、東京だと大抵の主要駅や繁華街、ベッドタウンのようなところに出現している。
幸いなことに駅そのものや線路が巻き込まれたということはなかった。
おそらく、駅内部は線路等により意外と人口密度が低いのと、周りにビルや商業施設などがありそっちに引っ張られたなどと言われているが本当のところはわかっていない。
わかっているのは駅周辺にダンジョンの入口が多いというだけだった。
「成城にもあるけどちょっと離れているし。いくんならバスが必要かな?」
これも要相談。いや、実際に確認に行ったほうがいいか。
出てくるモンスターはアミューズメント層なら変わらないが、地形は結構違う。
僕は仙川も成城も潜ったことはないから、実際に見ておきたいところ。
「今日のところはネットで探すか」
検索で両ダンジョンの入り口付近の画像や動画を漁る傍ら両方の評判なんかを見ていった。
「うーん、甲乙つけがたいな」
成城ダンジョンは見通しが良くてスライムなんかが見つけやすい。
仙川は少し起伏が有ったり、小さな森が有ったりして、何をするかわからない子供を連れて行くのはできれば避けたいが、人が多いので何か有っても助けを求めやすい。
森の中のスライムはアミューズメント層とは言え危険だ。
あいつらは見通しの悪い木の上からいきなり降ってくるからな。
頭からスライムをかぶると鼻と口をふさがれ窒息する可能性がある。
ある程度レベルを上げておけば怪我をしないと言っても窒息すれば死ぬ可能性もある。
窒息に対しては保護バリアも役には立たないし。
アミューズメント層で最大に気をつけなければならない事項だ。
「先生方も同行してくれるって言っているから、成城のほうがいいかな?」
なにかあってから助けを求めるより、なにか無いようにするほうがいいだろう。
なにより仙川は僕の妹たちが犠牲になったダンジョンだ。
苦い思い出が蘇るため献花のときくらいしか行っていない。
中に潜って冷静でいられるであろうか。
「実習に関しては成城ダンジョンをおすすめしとくか」
問題は学科だよな。
教えるってのプリントを読み上げるだけじゃなぁ。
何事も興味を持って面白がってくれないと身につくものも身につかない。
カリスマ先生みたいには無理としても、子供が興味を持ちそうな話題も仕込んでおきたいところ。
「興味を持ちそうなねぇ」
僕たちレベルならさっきも言った半裸で逃げ帰る事件とかが面白そうだけど、子供に話していいのか?
まあ、意外とエロい話に興味あるみたいだけど。
エロガキなんていつの時代も変わらない。
「あとはスライム同士を混ぜて合体させる遊びとか?」
ここのスライムは核を壊さず他のスライムと混ぜると同化して、両方の性質を持ったスライムに進化する。
混ぜる割合などで色々性質に偏りが出るので、混ぜ方によって新種のスライムを作ることができるのだ。
まあしょせんはスライム。新種とは言え危険度は高くないのでそのまま放置するやつもいる。
で、それを見たひとが新種発見w とか投稿したりすることもある。
自作自演かもしれないけど。
「あとは二層ならうさぎとかネズミとかいるから、倒すだけでなく捕まえ方や愛で方を教えるといいかもしれない」
二層のレッサー角うさぎは角とはいっているが、実際には頭部の毛が固まったものらしく触っても痛くない。
どうやら頭突きをした時自分の頭を保護する役割があるらしく、その角は刺すためでなくクッションだといわれている。
なので、突っ込んできたら足で受け止めてすかさず捕まえればモフり倒すことができる。
「ネズミのモフり方とかどうだろう?」
カピバラみたいなやつが二層にはいて、こいつが後ろから尻尾の付け根のところを軽くトントンするとすぐ腰砕けになってゴロンとするので、あとはモフり放題だ。
「女の子受けがいいかもしれないからネタとしてキープだな」
僕はそんな感じでネタ集めしていった。
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