うわさのせいまほう
三人がじゅうぶんレーザーマウスを愛で、僕が三人をじゅうぶん愛でた後、めでたくお役御免となったレーザーマウス君はよろよろとダンジョンの奥へと消え去っていった。
もう人間に捕まるんじゃありませんよw
心温まるw セリフをつぶやきながら僕はその様子を見守った。
「すごいです! すごいです!! 手触りがもうたまりませんでした!!」
テンション高いなー、純華ちゃん。
いつもちょっと控えめな感じなんだけど、こういう純華ちゃんもかわいくていいね。
「うむ、同意」
クールぶってるけど、お顔が緩んでますよエリザベート様w
「うんうん! 可愛かったね! ほんとにすべすべもふもふで、お持ち帰りして枕にしたいくらい!!」
いつにもまして、千紗は可愛いね。
おにいちゃんは君をお持ち帰りしたいw
いつまでも愛でていたいけど、そうもいかない。
ここはダンジョンなのだ。
「おいおい、はしゃぐのもいいが、時々は周りにも気を配れよ」
「「「ごめんなさーい」」」
「ここはダンジョンなんだ。まだまだもふもふはいるぞ。そんなことでは次のもふもふに行く前に力尽きるぞ」
「あっ! そうでした。ここにはまだ五種類の未知なるもふもふがいるんでしたね。しかも模様違いが無限に! こんなところで立ち止まっている場合では有りませんでした。先生、先を急ぎましょう」
前のめりな純華ちゃんをちょっぴりクールダウンさせる必要がありそうなのでちょっと水を指しておこう。
子供は興奮すると周りが見えなくなっちゃうからね。
アミューズメント層は命の危険はないけど丸裸の危険性がまったくないわけじゃないからね!
僕がクールダウンに選んだネタはこれ。
「その前に音声を切って、ステータス確認しておこうか。君らも上がってない?」
僕と女の子たちは一斉にカメラの音声を切る。
みまもりつつ愛でていたせいで僕のレベルはすでに十。じっさいには【じゅう】の表記だけどな!
スキルも【みまもり はち】と【めでる ご】に。
二層で上がるレベル最大値である十に達した。
「千紗も上がってた! レベル九だ!!」
「妾は十になりました」
「あ、あの。わたしは四なんですけど……」
純華ちゃんが言いよどむ。
「他にもなにか?」
「……スキルも覚えてて」
「おお。良かったじゃないか。千紗とリザはレベル三で覚えていたから、ちょっと遅いくらいだけど」
「そ、そうなんですか? ネットで調べたらレベル十くらいから覚え始めるとかだったんですけど」
「そうだよー。千紗もリザちゃんもレベル三で覚えたんだ!」
「そんなに早かったんですね。最初レベル五とか聞いていましたので、その時に覚えたのかと。それでもかなり早いと思いますけど」
「とりあえず君を含め、僕と一緒に冒険するとレベルアップもスキルを覚えるのも早いのは確かだね。で、支障がなければ純華ちゃんのスキルを教えてもらっても?」
「えっと。【せいまほう】です。ひらがなで」
性魔法じゃないですよね? ダンジョン様!!
清純そうに見える純華ちゃんが性魔法を唱える。
どんな効果があるか、すごく気になります!
「聖魔法ってのはあるとは言われているけど、実際にある人見たのは初めてだな」
「えっ、そうなんですか?」
「ああ。いわゆる回復、癒やしなんかを聖属性魔法っていうんだけど、それを統括する一般スキルが生えたって人は聞いたことないな」
珍しい職業を研究するゼミ生だから、教授や先輩方が集めた職業と、それに付随する能力値や覚えたスキルなんかの資料がたくさんあった。
職業というやつはステータスの伸びや生えるスキルにも影響を及ぼすからね。
ファイヤー・ボールや、ファイヤー・ウォールのような火属性魔法すべてを使える【火魔法】のスキルを千紗が持っているように、他の氷属性の魔法や水属性の魔法を統括する【氷魔法】や【水魔法】といった各属性の魔法スキルについてはそれなりに生えた人はいて、スキルとしてはレアレベルで、そんなに珍しいものではない。
しかし聖属性魔法を統括する聖魔法は、あるのではと言われつつも、生えたという人はこれまで現れていないはず。
おそらく純華ちゃんの例から考えて、【聖女】の職業を持つものにしか生えないとすれば、【聖女】そのものが希少なので、噂さえ聞こえてこないのも当然だろう。
職業はともかくスキルは自分の能力そのものだからね。
これを知られれば自分が何をできるかがモロバレになる。
まあ、【聖女】持ちが全員【聖魔法】を授かるかはわからないけど、職業のレア度からして確率は高そうな気がする。
誰か【聖女】持ちとつなぎを取って情報交換したいところではあるが。
オークションの伝手探しと考えていたけど、このアイテムを情報提供の報酬としてもいいかもしれない。
純華ちゃんの性女姿は惜しいけど!
まあ、そんなことをみんなに説明していく。
「えっと、じゃあ、これの使い方とか能力はよくわからないってことですか?」
「そのスキルそのものはね。ただしその名前から聖属性魔法全般が使えると想像はできる。聖属性魔法については色々実例があるからそれを参考に練習すればいいさ。
ただ、他の属性魔法と違って聖属性魔法はその適用範囲が広い。例えば【火魔法】なら結局のところ形や威力は違っても火を制御することに変わりはない。ところが聖属性は回復系はもとより、ターン・アンデッドやホーリー・ランスなんて攻撃系やホーリーシールドといった防御系。そして祝福なんてステータスを上げる付与系なんてのもある。他の属性はほとんどが攻撃特化で、後はせいぜい防御や付与が使えるくらいだ。その防御や付与だって、結局のところ火の形を変えただけだったりするからね。全部を使えるにしても全部を使えるようにするのは難しいだろうね」
「……ということは特定のものに限定すればそれほどでもないということですか?」
「そうかもしれないし、そうでないかもしれない。なにしろ初見のスキルだからね。ひとつひとつはものすごく簡単に覚えられるかもしれないし、ひとつを覚えるのも難しいかもしれない。あるいは最初のひとつを覚えるのは難しいかもしれないが、その後はその応用ですんなり覚えていけるかもしれない。先例がない以上純華ちゃん自身が確かめていく必要がある」
「わたしじしんが……ですか?」
「そう。【聖女】の職業を持つ人自体が少ないというのは前に言ったとおりだ。数が少ないがゆえに情報も少ない。レアになればなるほど情報は減っていく。一応【聖女】の職業持ちとコンタクトできないか手配してみるつもりだけど期待しないほうがいいだろう」
「はい、分かりました。ところで、もし一つ聖魔法を覚えるとしたら何がいいでしょうか?」
「そうだな。まずターン・アンデッドはアンデッドがいないと練習にならない、というか練習しても発動しているかわからない。ホーリーランスなんかの攻撃魔法は一応モンスター一般に効くけど、攻撃魔法系はMP使用量が高く練習回数が限られる。リザの火魔法や氷魔法の時は小さな火や氷で練習できたけど、ホーリー・ランスがダメージを与えるのはモンスターだけなのでDEFを超えるダメージを与えないと、傷ひとつつかない。HP回復系や怪我の治療系もこの階層じゃまずHP自体が減ることは考えられない。純華ちゃんはレベル四だから、ボスにならHPを削られる可能性はあるが、練習でそんな危険なことはさせられないからね」
本番だってHPが減る事態は避けるべきだ。
レベルが低いうちはHPだって低いのだから、クリティカルでも喰らえば一気にHP全損する可能性は否定できない。
「なら、何から練習すればいいのですか?」
「まあ、無難なのはバフ系だろうね。祝福とかは対象者のステータスが上がるからステータスボードを見ていればすぐに確認ができる。祝福なら歩きながらでもできるから、MPがなくなるまでいつでも練習ができるしね」
「わかりました。やってみます。とりあえず対象者は先生でいいですよね?」
「ステータスが変化すればステータスボードが勝手に開いて、変化があったことを知らせてくれるから誰でもいいぞ。ただ基本的に僕は後ろにいるから、斜め前方にいる千紗やリザを見ながら練習したほうがいいと思う。攻撃魔法もそうだが対象をよく捉えておかないと魔法が当たらないこともあるからね。祝福もちゃんと狙わないと当たらないこともあるそうだ。それに一度ステータスが上がったらその後は変化しないってことが普通だ。バフ系で重ねがけできる魔法スキルはまだ報告されていないから、効果が切れた方に掛け直すとかしたほうがいいだろう」
「わかりました。千紗ちゃんリザちゃん、いいかな?」
「ばっちこーい!」
「了解しました。存分に練習してください」
「他になにか聞きたいことはあるかな?」
「いえ、とりあえずやってみます」
それがいい。
僕だって答えられないことのほうが多いのだ。
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