うわさのぴんく
明けて今日。
受付のおねーさんをなんか無事にかわし、仙川ダンジョン一層へ。
「じゃあ今日は予定通りまっすぐ一層のボス部屋にいってボスを撃破。取って返して二層に入る。途中のスライムは無視だ。なにか質問や異議のある子はいるかい?」
「「「いぎなーし!」」」
「じゃあ、出発だ」
「「「おー!」」」
【鋼鉄の処女(事後)】を破って一層へ。
いつものクリア確認して、ボス部屋へと歩き出す。
「最強最大最悪のぴんくがいるといいね! おにいちゃん」
「昨今の情勢だと残ってはいると思うが、自衛隊が張り付きで駆除もしているらしいから、タイミング次第ではいないかもね」
「えぇぇぇぇぇ! 自衛隊の人サボってるといいな!」
「これこれ。お国のために頑張ってる自衛隊の人が、サボるとかありえないから」
日本は真面目なお国柄だからね。
任務中にサボるとかちょっと聞いたことがない。
海外の軍隊だとそういうこともないわけでもないらしいけど、基本そういうのはそうそう報道されるものでもないからね。
「そっかー」
「もしかしたら、最強最大最悪のぴんくでなくても。URアイテムが出ないとは限りませんよ」
「またまたそんなわけ……」
「これまで、普通? のボスがいなかったから、最強最大最悪の時の特別ボーナスだと思いこんでいましたけど」
「否定できない自分が怖い」
そういや普通のスライムでもレアアイテム出たしな。
一層スライムでレアとか、URといってもいいくらいの確率だぞ。
その後は出てないから確率はそんなに高くないのだろうけど、ボス部屋なら確率が上がっていてもおかしくない。
「だが、さすがにURってことはないんじゃないか? 討伐難易度からしてせいぜいレアかいってSRくらい?」
「わからないことを議論しても始まりません。どうせぴんくはそのら中にいますから、今日出なかったら新宿ダンジョンを中心に、山手線一週ツアーに出かけてもいいですし」
「そうだねー」
僕は気のない返事を返す。
どうせこの状況は当分続きそうだし。
ゴールデンウィークが終われば多少は和らぐかもしれないけど、自衛隊隊員もそうそう貼り付けてはいられないだろうから、通常任務に戻るだろう。そうすればボス部屋には高い確率で最強最大最悪が残るはずだ。
「あっ、他の冒険者が来てるね。少し避けようか」
前から冒険者が来たのが見えたので左に避ける
「どう見ます? 導師」
「うん、足取り軽やかにこやかだから、ボス討伐を無事終えた感じだね」
「あー。ぴんくちゃんいないのか。URアイテム、今回はお預けかな? ううん、ここはおにいちゃんが頑張ればきっといけるはず! おにいちゃんファイト!!」
「応援されても何も出ないぞ? なにせ効果も何もわからない謎スキルだからな!」
いくらなんでも普通のボスで出ないですよね? 謎スキルさん。
しばらく歩くと大型のテントが見えてきた。
「やっぱり自衛隊が常駐してるな」
「うーん。残念」
「まあ、今日の主目的はもふもふだろ? さっさと片付けて、二層に降りよう」
「そうです。それが一番重要。だめなら新宿ドサ回り」
おい、それじゃあ新宿が地方みたいだぞ。
基本的にドサ回りといえば地方巡業のことだからね!
ここからなら東京進出が正解だ。
って、一応ここも東京だったw
「うにゅ? 誰か入ってる?」
「だいぶ近づいたけどビービー鳴らないから、いないっぽいけど」
「でも誰かいるよー」
「自衛隊の人じゃないですか?」
「あー、なんかそれっぽいね。ぴんくの処理中かな?」
「一足違い?」
「どーだろ。ちょっとそこの人に確認してみるか? すみませーん」
自衛隊の人らしき人が結界の近くにいたので声をかけてみる。
「今、最強最大最悪のぴんくとか処理中ですか?」
「いえ、さっき冒険者が最強最大最悪が出たと言っていたので、現在確認中です。もしそれかそれに準ずる討伐困難対象の場合処理作戦に移行することになります。うちは遠距離攻撃できるものがおらず、特殊装備をつけての作戦になるので、三十分程度時間がかかると思いますが」
「やったー! まだ討伐されていなかった!!」
これこれ、喜ぶのはおやめなさい。
自衛隊の人困惑しているよ。
それにしても特殊装備着けて処理するのに結構時間がかかるもんなんだな。
まあ、あんな完全防護服みたいなの装備するだけでも時間がかかるだろうし、装備に不備がないか十分チェックしないと危険だから装備後の確認も時間がかかるだろう。
その上リポップにもそれなりに時間が掛かるし。
三十分は妥当な線か?
ここに前にいた冒険者はその三十分が待てなかったんだろう。
ここで待っていても、一度でも周回していたら後から来た人に明け渡さないといけないからね。
三十分待って明渡しとか嫌すぎるし、レベルがそれなりに上ってたら二層に降りてる可能性もある。
まあ、こちらとしては、最強最大最悪を出してくれてありがとうというところだね。
普通のボスとの対照実験はできないけど、今は大学もゼミもお休み中だ。そのうち検証すればいいだろう。
「もしよかったらうちで処分していいですか?」
「それは構いませんが大丈夫ですか? ああ、小学生連れということはあなたは保護責任者ですね。なら問題ないです」
まあ、僕が倒すわけじゃないけどね!
「ええ、まったく問題有りません」
「なら、中の者たちは撤収させましょう」
自衛隊員の人が無線機に話しかけると、すぐに入ってた人がボス部屋から出てくる。
「中は報告通り最強最大のぴんくだったよ。あれを処分してくれるんなら大助かりだ。特殊装備は着るのも大変だが脱ぐのも大変でね」
中から出てきた一人が僕に話しかけてくる。
「次は自分の番だったのでそれがちょっと伸びただけでも嬉しいよ。君らはここを周回するのかい?」
「いえ、討伐したらすぐに二層に向かう予定です」
「そりゃあ、ますますありがたい。手におえないやつが出るまで周回する人ばかりで、すぐに出番が回ってくるからね。これで一息つけるよ。では頑張ってくれ」
「はい」
その自衛隊員が去っていく。
「まあそういう感じなので、やっちゃってくれると助かります」
「わかりました。ちゃっちゃとやっちゃいますね。みんな、行くぞ」
「「「おー!」」」
JS三人引き連れてボス部屋へ。
いつものごとく黒い靄が湧き出てしばらく後、ピンク色の巨大ゼリーが現れる。
「どこからどう見ても最大ぴんく。そしておそらく最強」
「そういえばおにいちゃん。最大はともかくとして最強はどうやって見分けるの?」
「モンスターによって違うけど、スライムは基本的に強くなるほどアクティブになる。つまり動きが早くなるんだ。まあ、しょせんスライムだから、アスリート走りとかしないけど、一秒間に何センチ進むとか、ああやってまだ全然届かないのに粘液攻撃してきたりとか、非常に攻撃的な様子を見せるやつほど強い」
「なるほど?」
「まあ、何度も見ていればそのうち見分けが付くようになるよ。それよりちゃっちゃとやってしまおう。念のため予めカメラは切っておこうか」
URアイテムドロップ対策の為、僕のカメラも切りみんなが切ったのを確認する。
「うん、これでよし。ではエリザベート・ド・ベルナールに命ずる。最強最大最悪のぴんくを殲滅せよ!」
「命令受諾!」
「あっ、ちょっと手加減してね?」
一応釘を差しておく。
「問題ありません」
そういってリザは一歩前に出てポーズをとる。
「炎の精霊よ、我、エリザベート・ド・ベルナールの呼びかけに応えよ! かのものを精霊の焔で覆いつくせ! エレメンタル・ファイヤー!!」
とたんにぴんくの回りが炎で覆われる。
ファイヤー・インフェルノほどではないが、それでもかなりの熱風がこちらまで届くほどの熱量だ。
「りざちゃんすごーい!」
「ほ、ほんものも魔法少女です!!」
初めてリザの火魔法を見た二人は大興奮だ。
これならファイヤー・インフェルノを見てもドン引きすることはないだろう。
純華ちゃんはこれまでしょぼい氷魔法くらいしか見たことないだろうし、普段の大人しさなどどこかに吹き飛んでいた。
「成敗!」
ぴんくが光になって消えると同時に炎も消える。
うん、制御も完璧だね!
ぱちぱちぱち!
「おう、なんだ?」
背後から拍手が聞こえたんで何事かと振り返ったら自衛隊員が六人ほど並んで拍手をしていた。
全部見られていたらしい。
「さっさとここを出よう。リザ、まだ周りが熱いかもしれないから気をつけてね」
「問題ない。炎の精霊はもう妾の支配下にある。炎のみならず付随する熱も精霊界へと送還した」
「おっ、おう。そりゃあ至れり尽くせりだな」
うん、もうそこまで炎を使いこなせているとは。
リザ、恐ろしい子!
リザはぴんくのいたところに近づき、一枚のカードを拾い上げる。
「それの確認は後にしよう。みんな見ているからね」
「了解」
リザはそれを素早くポケットに仕舞い戻ってくる。
「じゃあ、お楽しみの二層に行くぞ!」
「「「おー!」」」
僕らはボス部屋を後にした。
「君すごいな! 自衛隊に入らないか? いまならぴんくなやつ燃やし放題だぞ!」
さっき話しかけてきた自衛隊員が駆け寄ってくる。
ボス部屋を隔てる薄い膜があったし距離が離れていたのと、いきなりぴんくの周りから火が出たので誰が、魔法を使ったのかわからなかったのだろう。
当然保護責任者の僕が魔法を使ったと思い込んでも仕方があるまい。
「いえいえ、この子達の引率の仕事がありますんで。それにどうせそのうちこの騒ぎも落ち着きますよね?」
その人は渋い顔をする。
「ほんと、落ち着くといいんだがなぁ。だが新人冒険者はこれからしばらくは増え続けるだろうし、免許取得ラッシュが終わるか、ボス部屋の周回規制とかしないとこのままな気がする」
「あー、それはお疲れ様、です?」
「そこは仕事だから仕方ないんだが、まあ、君らもボス部屋で取り残されているのを見かけたら処分してくれたら嬉しい」
「新しい子を引率するときとか、まあ必要があればですけど」
「それだけでも助かるよ。高レベルの冒険者になると、一、二層にはまず入ることはないからね。もっと引率とかしてくれるといいんだが」
「引率してくれるような冒険者がいますかね? 今どきダンジョン入りする新人冒険者なんて人を雇うお金とかないですよね」
「いやいや、それなりにいるぞ。息子とか娘連れて入ってくる冒険者。流石に小学生ってのを見たのはこれが初めてだが高校生くらいなら入り始めているみたいだ」
「なるほど。親族ならロハで引率してくる人もいそうですね」
「まあ、そのパーティーもレベル上げに周回するからな。流石に最強最大最悪が出て放置ってことはないようだが、ある程度回した後だから、それなりの確率になっちまってるときが多いらしいが」
あくまで確率だから、ぴんくが出てから次に出るはずの平均回数である二百十六回せばかならずピンクが出るというわけではない。
しかし、二百十六回出なかったら、そろそろ出てもいい頃合いとは言える。
確率的にいえばいつだろうと同じ確率なのだが、確率に偏りがなければ、二百十六分の一に集約するからね。
それこそ平均的な確率で出るので、二百十六回以上回せば後はいつ出てもおかしくないということになる。
たくさん回せば回すほど次に出そうと思うのは、心理的なものなんだけど。
「そういう引率者が増えるのを祈りましょう」
「そうだな。ああ、引き止めちまってすまんな。これから二層だろ? お気をつけて。我らに協力してくれた冒険者に敬礼!」
その掛け声で、後ろにいた自衛官たちと見事に揃ったな敬礼で送り出してくれる。
「はい、ありがとうございます」
「いってきまーす」
「見送り感謝」
「は、はい。がんばります」
それぞれに挨拶を返し、僕らは再び出口へと向かった。
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