うわさのぼうけんしゃかんりきょく
最後の水スラが消えると、少女たちのポンチョブルマが謎の光に包まれる。
ちゃんと服着てるのに謎の光で覆われるだけでなんかエロいのは何なんだろうね!
「あーあ、終わっちゃった。おにいちゃんもう水スラいない?」
「いなかったぞ。一応クリアはいくつか確保しておいたけど。まあ、いたとしてももう終わりだ。時間だぞ」
「えっ、もうそんな時間?」
「もうすぐ三時だ」
もう帰宅と定めた時間になる。
リザの魔法練習と水スラ遊びで時間を使いすぎた結果だね。
「じゃあ、ボス討伐ともふもふも?」
「明日にお預けだ」
「純華ちゃんごめんなさい。妾が魔法練習に時間を使ったから……」
「ううん、気にしないで。水スラ遊びは面白かったし。話には聞いていたけど、水スラが消えると出した水も光とともに消えるなんて不思議だったし、濡れた服着替えなくていいなんてすごく便利ですね」
純華ちゃんは満面の笑みで答える。
その表情に嘘はない。
それをリザも悟ったのか曇っていた顔が笑顔に包まれた。
「それなら良かった」
「うん、三人だとまた違った遊びができたしね。二人だけだと水のかけっこくらいしかできないけど、協力プレイとかでたくさん虹も作れたし」
「そうね。妾も楽しかった」
「はい! 最初はダンジョンとか怖かったんですけど、こんなに楽しいなんて知りませんでした」
「楽しくなるのはまだまだこれからよ。明日にはもふもふが待っている」
「そうでした! でも残念ですけど、今日は帰りましょう。初日で遅くなったら母たちも心配しますから」
「一応部室に戻ったら今日の反省会と明日の打ち合わせとかあるけど、そんなには遅くならないようにするから。じゃあ、戻ろうか」
「「「はーい」」」
おトイレは問題ないというので、三人仲良く陣地の撤収作業。
三人がかりならすぐに終わる。
そのまま荷物を担いで出口へ。
途中見かけたスライムも放置だ。
まっすぐ出口に向かった。
「ダンジョンの入口って、改めて見るとおっきいですよね?」
まるでスカイツリーなど目じゃないくらい天高く伸びているダンジョンの入り口。
ダンジョンに降りる階段部分がそのままぶっ刺さっているように見える四角形の物体は一辺が二十メートルほどだろうか。
一枚岩のように見えるそれは、その太さのまま宇宙に消えていっているかのように見える。
実際に三角測量なんかで測った人によるとや二千メートルほどだったらしいけど、この細さじゃ、先の方はほとんど見えない。
「上の方に見えるのは単なる幻影だっていわれているけどね」
「そうなんですか?」
「本当の岩でこんな大きさの物体があれば、すぐにポッキリ折れてしまうだろうし、その前に重量で下の方から潰れてしまうだろうと言われているからね。出入り口になっている部分の周りは岩としての手触りはあるけど、壊すことは愚か傷つけることもできない。破壊不可能オブジェクトなんていわれている。そして岩にはわずかに模様というか色に濃淡があるんだけど、約二十メートルごとに同じパターンで繰り返しているらしい。つまり実際の岩は約二十メートルの正四面体で、その上に見えるのは単なるコピー。合わせ鏡のように無限に繰り返し映し出されているだけなんだ」
「それでも不思議です」
「まあね。幻影ではあるけど実体がある幻影なんだ。二十メートルより上に向かって石を投げるとちゃんと跳ね返ってくるぞ。だから上と下の実体とを空間を捻じ曲げてつないでいるなんてもいわれている。まあ、ダンジョン様に聞いてみないと確かなことはわからないんだけど、ダンジョン自体空間がねじ曲がっているからね。何が起こっても不思議じゃない」
「不思議なのに不思議じゃないんですね」
「不思議なことが起こりすぎるとそれが普通になる。だからここでは何が起こってもびっくりせず冷静に対処を考える必要がある。たとえ今、天地がひっくり返ろうとね」
「そ、それはびっくりしそうな気もしますけど、がんばります」
まあいきなりポドリアルスペースとかできたら僕だってびっくりする。
「うん、とりあえずはそういうものだと思っておけばいいさ。ダンジョンを出るまでは、いや、ダンジョンを出た後でも今の地球じゃ何が起こってもおかしくない世界になっちまった。ちまたではモンスター溢れが問題になってるけど、それ以上のことだって起きないとは誰も言えないんだ」
ダンジョンが生えた七年前。
あの日からこの世界はファンタジーになった。
突如天空の城が現れたり、超巨大な世界樹が生えたり、巨大な剣が地表に刺さったりとか、山が二つに割れたりとか。
そんな不思議現象が起こらない保証などどこにもない。
まあ、だからって気にしたからといってなにかできるものでもない。
何かが起きてもだいじょうぶなように心と体を鍛え、来るべき時に備える他にできることはないのだ。
「あんまり見上げていると首が痛くなるぞ」
じっと、いつわりの塔を見上げる三人を促し、僕らはダンジョンを後にした。
「あれ? 受付のおねーさん。今度は退場のおねーさんなの?」
いつもの受付のおねーさんが退場カウンターにいた。
「入場カウンターメインですけど午後は退場者のほうが多いので、手が空いてる時はこちらにいるのよ」
入退場者の導線を分けるため、一応入退場カウンターは分かれてはいるが、カウンター内はつながっているからね。
退場カウンター側には買い取りカウンターや、アイテムの預かりカウンターなんかも有ったりする。
外に魔石とかを持ち出すと検査が面倒になるので、とりあえず換金が不要なもの、外で換金したほうがお得になりそうなものとかはここで預けたり、そのままパックして配送に出してくれたりもする。
保管料取られるし、預けたものの個数とか種類なんかが詳細に記録されるから、僕たちは使ったこと無いけどね。
「そっかー。じゃあ、退場手続きお願いします!」
「千紗ちゃんはいつも元気ですね。じゃあ、いつもの通り保護責任者からね」
「はーい。おにいちゃんからだよ!」
「はいはい」
僕は免許証を出し、ライブカメラを返却する。
「無事にご帰還できて何よりです。他の子達も問題なさそうですし、今日はおまわりさん呼ばずに済みそうですね」
「今日はってなんですか今日はって! これまでも呼ばれたことはありませんよ!!」
「犯罪者はみんなそういうんです」
そうかもだけど!
自分の前科、吹聴して回る人って箔付けしたい暴力団員とかくらいだよね。
「かんべんしてくださいよ~」
「そのくらいあなた達は注目されているんです。行動には十分注意してくださいね。はい、問題有りませんので退場を許可します」
僕は免許書を受け取りポケットにしまう。
「そういや、一層のスライム。なんかすごく多かったですよ? 討伐追いついていないんですか?」
「……」
こっちを睨みつけていたおねーさんの顔が曇る。
「日本中の低階層のボス部屋が初心者では対応困難な最強最大最悪種だらけになったらしくて、自衛隊はここのところその対応にせいいっぱいで、対応が追いついていないそうです。うちに来る苦情も増えているんですよね。最低限のレベル上げしたらボス部屋前で自衛隊の出待ちをして、討伐が終わったらそこで次階層の安全レベルまで連戦していく冒険者も多いので、あっという間に討伐不可能なボスに戻ってしまい、そこから離れられないとか」
やっぱそうなってましたか。
日本のダンジョンだけで千二百あまり。
この分だと三層以下でも同じような事が起きているだろう。
三層まででも一人張り付きで三千六百人。
三人貼り付ければ一万人を超える。
更に対応する階層が増えれば、動員数はもっと増えるだろう。
やはり手が足りなくなってたか。
「ボス部屋を放置したほうがいいんじゃないですか? ボスが倒せないんなら一般フィールドでレベル上げする人も増えるんじゃ?」
「効率厨? っていうんですか? 今はネットで効率のいいレベルアップ法とか出回ってますから、そんな地味なことする人、今どきいます?」
「そう……かもしれませんね」
なにしろスライムは見つけづらい。
だいたい自身が見つかりにくいフィールドにしかいないからね。ぴんくのようにどこでも目立つのは稀な存在といっていいだろう。
その為一日平均三十匹くらいってのもある程度慣れた人の話だ。
初心者なら、十匹も見つけられないかもしれない。
その上うっかり歩きまわると、スライムふんづけからの激おこで装備全損なんてこともないわけじゃない。
引率者がいればともかく、初心者だらけのパーティーでスライムを見つけるのは地味なうえに効率の悪い方法とは言える。
ダンジョン内のモンスターたちも多くは地球の生物と同じように、保護色やら擬態やらでその身を隠しいきなり牙をむく。
そんなのがうじゃうじゃいるのだ。
「今冒険者になってるひとたちって、バイトとか正規の仕事の合間にやる副業の人が多いらしく、バイトより稼げないとなるとそっちを頑張ったほうがお得と思う人が大半なんですよ。ここで下に行けずに稼げないとなると一気に冒険者が減る可能性があって、ボス部屋の状況も放置できないというかなんというか」
おねーさんの言葉も歯切れが悪いね。
おねーさんのせいじゃないんだけど、なんともできない状況に歯がゆく思っているのだろう。
「このゴールデンウィークが終われば、多少はましになるとは思いますから、短期でも自衛隊総動員するとか一時的に冒険者雇い入れるとかして一斉掃除でもしてくれるといいんですが」
「それは予算が下りないことにはなんとも」
「ですよねー。まあ、しばらく入ダンするときは、特別に注意しときますよ」
「そうしてください。この子達に傷一つでもつけたら局の職員一丸となって追い詰めますからね」
見ると受付のみんながこっち見てうなずいていた。
マジか!
いつの間にやら千紗達女児が管理局のアイドルと化していたらしい。
いやまあ、いかつい男どもしかいなかったところに、アイドルばりの可愛さの女の子たちが、やってきているのだ。
そりゃあ守ってあげたいってなっちゃうよね。
「き、肝に銘じておきます」
背筋を伸ばして答える。
茶化したらころころされそうな殺気だ。
「はい、千紗ちゃんおまたせしました。退出手続きしましょうね」
「はーい。カメラと免許証です!」
「はい、お預かりしますね」
僕に発した殺気などまるでなかったかのように満面の笑みで対応するおねーさん。
この人まさか高レベルの冒険者じゃないよな。
モンスター溢れでもない限り、ステータスもスキルも地上じゃ無効になるけど、そこで培った経験まではなくならない。
人形モンスターだっていっぱいいるからな。
見方を変えれば大量殺人しているようなものだ。
世の中にはオークのようなおじさんもいることだしw
そういや管理局職員は全員冒険者免許取らされるとかの噂を聞いたことがある。
たしかにある程度ダンジョンのことを知らないと、オペレータになってもアドバイスとかどういう状況かの確認はできないかもね。
怒らせないよう十分注意しようと誓う僕だった。
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