うわさのかくしぱらめーた
リザの集中力と成長力は相変わらず半端ないね。
子供だからなのかそれとも彼女だからなのか。
あっという間にチャッカマンの最大出力の炎レベルに達し、今は固形燃料レベルに進化。
「どうだ? MPに余裕はあるか?」
「問題ありません」
魔法使いは一応コモン職に分類されているけど、近接系に比べると数が少ない。
そのため多くのパーティーが前衛職や中衛職のみで構成され、魔法使い系の後衛職がいるパーティー自体がレアである。
これで魔導師となると魔法系職業としてはレア職だけど、冒険者全体から見ればスーパーレア職でもおかしくない出現率らしい。
その上火魔法とかの一般魔法スキル自体がレアだから、あまり参考になる動画や資料がないんだよなぁ。
レベル低いしスキル覚えたてで使用効率だってそんなに良くないはず。MPに余裕があるとは思えないんだが、炎が小さいせいか、それとも何か別の原因か。
「なあ、MPって一番大きい炎のときって、一割減るのに何秒くらいかかるかわかるか?」
「……減るのですか?」
「はい?」
「その程度ではピクリとも動きませんが」
「……」
いくらなんでもぴくりともってこたーねーだろー!
ちょっと叫びたい気分だ。
MPの使用量は基本的に威力×秒数だ。
一秒間の放出に一MP使う魔法なら十秒で十MP使用する。
単純な算数だ。
1×10=0って算数になってないじゃんかよ!
こりゃあ、MPやINT以外にも関係しているパラメータが確実にある。
いわゆる隠しパラメータだね。
あるだろうといわれている有名なものとしては経験値、EXPとか呼ばれているやつやスキルポイント、SPなんて呼ばれている、スキルを覚えるための経験値だ。
他にも幸運値LUKはレアドロップ確率に関係するなどともいわれているが、そんな隠しパラメータのひとつがHP回復速度やMP回復速度だ。
VITやMNDがHPやMPの回復力に関係するといわれてはいるが、VITが同じでもHP回復力に差があることから、回復力係数のような隠しパラメータがあるのではと前からうわさはあった。
おそらくリザの回復力係数がめちゃくちゃ高いか、僕が見守っているせいで、僕の回復力を吸い取っているのかもしれない。
まあ、このへんはそのうち検証するとして、MP回復力が高いってことはいいことだ。
レベルが低いうちはMPも低くMNDも低いから回復力も低い。
魔法を放てる回数が少ないから練習もあまりできない。
そのため最初の頃は技量が上がりにくいのだ。
だが、リザのように使うそばから回復するのであれば体力や精神力が持つ限り練習できるわけで、技量もその分伸ばしやすいと言える。
「MPは大丈夫と。精神力や体力はどうだ? 疲れてないか?」
「問題ありません」
「無理していないよね?」
「はい、最初に比べると余裕が出てきてだいぶ楽に制御できるようになってきました」
うん、慣れてくると、その分効率が良くなるんだよねー。
これは体を動かすときも一緒だ。
普段運動していないと全身に余計な力がかかり、そのぶんエネルギーを消費し疲れる。
同じような体格の人で同じ荷物を同じように運んでも疲れ方が違うのだ。
筋力の違いもあるだろうが。
「なら、続けようか。今度はその棒を目標にするのをやめて、なにもないところに火を出してみようか。まずは一番小さい火から始めてみよう」
「命令受諾」
リザはなにもない中空を見つめ炎を出す。
「少し上下左右に揺れているね。目標もなしにそこに意識を固定するのは意外に難しい。河原の石ころでもなんでもいいけど適当なものをマーカーに使って、距離だけを意識して、視線上に炎を固定する。できるか?」
「……」
リザは頷き、視線を少し先へと伸ばす。
すると細かく揺れていた炎が次第に安定しだした。
「いいぞ。視線の先はリザの狙う標的だ。攻撃魔法を放つ時は炎を見るのではなく、標的を見るだろ? 氷魔法による攻撃も視線の先は標的だ。炎はその視線上に生成すると位置決めしやすいらしい」
魔法スキルはないから全部受け売りだけどね!
リザもコツを掴んだようで、炎はゆらぎが少なくなっていく。
「んじゃ、今度はその視線に乗せて炎を前後させてみようか」
「……」
リザは頷き、炎がゆっくり前に進み始める。
「炎の大きさが変わってるぞ。視界から遠ざかれば、当然火は小さく見える。また自分から遠ざかるほどMP消費が大きくなるらしい。MP消費と実際の威力を細かく制御しないと、同じ大きさの炎を前後させることはできないからな」
初心者には炎を前後に動かすだけでも難しいはずだ。
その上同じ大きさに保てなど、かなり無茶な要求だろう。
最初は不安定に大小を繰り返していた炎が次第に一定の大きさを保ちはじめ、ついにはまるでランプでも左右に動かしているかのようにブレることはなくなった。
「うん、上出来だ。じゃあ、ここからが本番だ。一番小さな炎を、標的と定めた石まで飛ばしてみようか」
「……はい」
もう応える余裕さえ見られる。
何という成長力か。
「ファイヤショット!」
小さな炎が河原の石目掛けて飛んでいき、そして。
「……消えてしまいました」
「MPが少ないとこんなこともある。氷と違って炎はそれ自身を維持するためにもMPを使用するからね。氷も厳密に言えば飛んでいる間にMPを消費し、温度がわずかながらに上がるとはいわれている。炎なんかよりは維持コストが安いみたいだけど。基本的に不定形のものは維持コストが高い。炎や風系統がそうだね。逆に氷や石系統は維持コストが低いんだが、氷や石の生成コストが高かったりするから、どちらが有利ということはないようだ」
最終的なダメージは敵次第であろう。
「炎魔法は飛んでいく距離に比例して維持コストがかかるから、その分を計算して予め多めのMPをつぎ込む必要がある。最適な威力を出すのはものすごく難しいらしいぞ」
「大丈夫、問題ない」
リザはそう言うと、もう一発ファイヤショットを打ち込む。
「うん、今度は消えずに届いたね。今回は固定目標だからうまくいったけど、距離と最適な威力は毎回変わるから、何度も練習して経験を積み、考えずとも最適なMP量を放出できるようにならないといけない」
「どのようにすればよろしいですか、導師よ」
「そうだな。まずは、いろんな距離で対応する訓練をしてみようか。着弾時の威力は揃えて距離は変えていくんだ。さっきの標的から少しずつ遠くを狙っていくといいだろう」
「命令受諾」
リザは三秒おきくらいに標的を遠方にしながらファイヤショットを撃っていく。
「今のはちょっと大きいぞ。同じ場所にもう一回いってみようか」
「はい」
「うんいい感じだ。じゃあ、もうすこし距離を離して」
「了解」
「よし、いいぞ。今度は逆に距離を縮めていこうか」
最初は前後に。
次は円を描くように距離と方角を変える。
同じ距離で威力だけ変えるなどなど。
ほぼ思う通りに撃てるようになるまでわずか一時間。
ぴろ~ん
レベルが八に。みまもりもななに進化。
「導師、レベルが上がりました」
ですよねー。
しっかりみまもりましたから!
「じゃあ、これでとりあえず一回戻ろうか。ちょうどいい具合に水スラが何匹か来ている。どの程度でやつを倒せるか把握しておこう。まずはさっき練習していたくらいからいってみようか」
「命令受諾」
リザはにじり寄ってくる水スラの先頭に照準を合わせたようだ。
「ファイヤショット!」
炎塊は水スラにあたってその体表面をちょっとだけ蒸発させた。
「水辺の水スラは強いぞ。あの程度じゃ屁の突っ張りにもならん。モンスターの種類や周りの状況でも最適な威力は変わってくる。ほら、反撃が来るぞ、避けてもう一発。今度は一発で倒す気でいけ!」
「来よ! 灼熱の炎よ! ファイヤーボール!」
さっきとは比べ物にならない大きさと熱量を持つ火の玉が飛んでいく。
しかし。
「撃ち落とされた! 水スラのくせに生意気」
「炎と水は反属性だからな。純粋に力の強いほうが勝つ」
ゲームだと火は水に弱いとかそういう関係性が有ったりするけど、一方的にどちらがどちらに弱いということはない。
たしかに火は水に弱いが逆に水は火に弱いとも言える。
ここらへんだと水しぶきくらいしか当たらないがけっこう冷たい。
距離があるのでその程度で済んではるが、水辺の水スラの水魔法はほとんど消防ホースの水並みだ。
それと対抗するにはそれなりの威力が必要だろう。
「ご近所さんとリンクした! 早く倒さないとどんどん手に負えなくなるぞ!!」
ご近所の水スラの誤射で激おこのお隣さん。
水をかけていた方に向かえばいいのに、こっちに八つ当たりだ。
「まとめて片付けます。エリザベート・ド・ベルナールが命じる。ゲヘナより来たれ地獄の炎よ! 妾の敵を焼き尽くせ! 【ファイヤー・インフェルノ】!」
リザの厨二病呪文が炸裂!
河原が一瞬で炎に包まれる。
その後河原全体が光の渦に。
もちろん水スラなどリンクしていなかったやつまでまとめて消滅して跡形もない。
「だー、やり過ぎやり過ぎ!! 消して、消して!!」
「どうすれば消えますか?」
「ええー。燃えてるの河原の流木とかか? 石とかなんかちょっと溶けてる気がしないでもないけど! 燃えてんじゃなくてただの熱気? 魔力に余裕があるならアブソリュート・ゼロ噛ませ!」
「命令受諾。地の底より極限の静寂よ来たれ! 我が敵に永遠の沈黙を。【アブソリュート・ゼロ】」
灼熱地獄の中に絶対零度の冷気が襲いかかる。
基本的に炎は温度が下がれば消える。
溶岩っぽいやつもスライム風に固まった。
「……うん、消えたね。ちょっと、冷気が強く残ってるけど、山火事になるよりはましか」
「またまたご迷惑を」
「迷惑じゃないさ。いったろ。失敗も経験のうちだって。怪我しない程度の失敗なら何度だってしていいさ。ただ、ファイヤー・インフェルノはちょっとシャレにならないから今後基本的に使用禁止ね。これ以外にどうしょうもないというとき以外使わないように」
「命令受諾」
しかし、あの威力の【ファイヤー・インフェルノ】の後で【アブソリュート・ゼロ】撃てるのかよ。
聞いてたMP量だとどう考えても不可能だ。
とするとまだ隠しパラメータがあるのか?
いや、まさか……やっぱ僕のMP減ってんじゃん!
ふと思って自分のステータスボードを開いたらMPがほぼ空だ。
僕、リザに吸われてる?
どうせ吸い付くならあそこにって、そうじゃない!
やはり僕のステータスなんかも彼女たちに吸われてんだろうなぁ。
まあ、こっちは見守るか、愛でていれば、ガンガンレベルは上がっていくけどね!
逆にいえば、やめると吸われっぱなし?
それともとまるのか? でもそうするとレベルも上がらないのか。
レベルを上げるためには吸われないといけないとは難儀なスキルだな。
まあ、MPは使うスキルがないから別に吸われてもいいんだが、まさかHPも吸われないよね?
僕の背筋を冷たい汗が流れ落ちる。
彼女たちの身代わりになれるのであれば吝かではないが、彼女たちのHPが削られることのないように気をつけよう。
この身で実証なんかしたくないし。
「残り火もなさそうだから一旦戻ろうか」
「了解」
二人は一旦陣地へと戻ったのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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