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うわさのひまほう

 三人でやれば陣地構築はすぐに終わる。


「じゃあ、千紗と純華ちゃんは陣地防衛ね。水スラが出たら確保しておいて、あとはおトイレ用にクリアを何匹か確保したら、後は討伐でいいから。水スラ遊びはとりあえず僕とリザが戻ってきてからね」

「はーい」

「わかりました」

「リザはもう少し川岸の草が生えていないところまで行こうか。足元に気をつけてね。このへんは草や葉っぱがあるように見えても、水の上に浮いているだけってこともよくあるから」

命令受諾(オーダー アクセプト)


 水草なんかが大量に水の上に浮いている池に、人や犬がそこに地面があると思って足を踏み出し落ちるとかの動画を見たことがある。

 ダンジョン外の池ならおもしろ動画で済むけど、ダンジョンでは非常に危険だ。


 僕らは慎重に足を進め、石や流木がゴロゴロしている場所に到達した。

 この石の大きさからして、このフィールドは比較的上流側にあると思われる。

 上流はこのエリアでは確認できないけど、そういうお約束? はダンジョンが作ったにしては正確だ。


「河原の割合に対して川の水量が少ないだろ? それからけっこう大きめの石や木がゴロゴロ転がっているね」

「はい」

「こういうところは、よく鉄砲水が出るんだ。少なくともこの草が生えなくなっているところまでは水量が上がると考え、緊急時を除きこれ以上は近寄らない方がいい」

「わかりました」


 なにしろダンジョン様のことだ。

 人がいる時に限って鉄砲水を発生させているとしても僕は驚かないね。

 どこで雨が降っているか、そもそも本当に雨が降って鉄砲水が起こっているかすらわからないんだから、用心に越したことはない。


 河原を超えての増水はさすがのダンジョン様でも、十年に一回の頻度とはいわれている。

 まあ、ダンジョンは七年前にできたばかりだけどな!

 某ボジョレーと同じように、ちょっと大げさな表現のほうがインパクトがあるからそんなふうに言われるのだろうけど、まあ、珍しいことだけは確かだ。


「さて、リザの新しいスキルは火系統ってことでいいんだよね? で、レアスキル?」

「その通りです。妾の記憶に間違いなければ」

「……火系統は練習が難しいんだよね。うっかりすると火傷しちゃうし。まあ、リザの現在のステータスならよっぽど力加減を間違えない限り大丈夫だと思うけど。ポンチョとかに火が着かないように気をつければね」


 スキルを覚えるのが大体レベル十くらい。

 本当は少しレベルが足りないのであるが、レベル以上にステータスも伸びているから、DEFはすでにレベル十の平均値に迫る。

 ただ、ポンチョとかも燃えてしまうと火魔法のMATにポンチョの基礎能力? が載ってしまうので思った以上に総合MATが増えてしまう。

 いわば武器を持って攻撃するとその武器の基礎能力が載って総合ATKが増えるような感じだ。


「氷魔法と同じようにまずは小さな火から出してみようか。マッチの火とか思い浮かべてみるといいかもしれない」

「導師、妾はマッチをつけたことがありません。存在は知っていますが、触ったこともありません」

「ほぇええええええ! マジで?」

「はい」


 まあ、小学五年生だし、この頃はマッチなんか見なくなったからそれも当然なのか?

 オジサン年取ったね~

 うちはばーさんちに仏壇があったから、たまにろうそくに火をつけさせてもらっていた。

 仏壇とか無いと今更マッチで火をつけることはないよね。

 僕だってマッチなんかばーさんちにいかなくなってから触る機会もなくなった。


「そっかー。ライターの火とかは?」

「ファーザーもタバコは吸いませんし、ライター自体見かけたこと有りません」


「ですよねー」


 僕だってタバコ吸わないっていうかまだ吸えないから、普段ライターなんか持っていないからね!

 成人はしているけどタバコは二十歳から!


「あと、うちはロウソク厳禁なので灯したこともありません。千紗ちゃんちでお誕生日ケーキのロウソクを見たくらい?」


 ああ、あのお屋敷じゃ、ロウソクは使えないよねー。

 アンティーク家具とかアンティークのレースとかあるらしいから、火事でもおこしたら相当な被害が出るだろう。


「理科の授業とかでアルコールランプとか使ったこと無いの?」

「ありません」

「えー。火を使う授業とかあるよね? その時どうしてたの?」

「カセットコンロ? なるものを使用しました」


 ジェネレーションギャップ、キタコレ。

 今使わないの? アルコールランプ?

 そんな歳離れてないよね? 十年ひと昔っていうけどまだギリギリ九年だよ!


「じゃあ、蝋燭の火とか思い浮かべられる?」

「? ……難しいかも。一回だけで半年以上前のことなので」


 ですよねー。

 子供の一年は長いって言うからね。

 半年前などかなり昔に感じてもおかしくない。

 しかも一回だけって、さ、さみしい。


 さて、困った。

 ちっちゃい火とかどうやってイメージさせれば?

 って、キャンプ用品にあったよライター!

 チャッカマンだから思い浮かぶの時間がかかっちゃったよ。

 ぴんくを凍らせた時に確認のため固形燃料に火をつけたりもしたけど、危ないから自分がやったからリザもよく見ていなかっただろうし。


「すまん。一度戻ってチャッカマンを取ってこよう。その火を見ながら練習したほうがいいだろう」

命令受諾(オーダー アクセプト)


 せっかく来た道のりを二人で戻る。

 一応火消し用に二リットル入りのペットボトルも持ってきてたから地味に重い。

 特に今の道のりが徒労だったと知ったときには!

 これ、また持っていかなきゃだめなんだぜ?


「あれ、おにーちゃんとリザちゃん! もう練習は終わり?」

「いや、これからだ。必要な道具がなくてな」


 僕はリュックを漁ってチャッカマンを取り出す。


「一応大きな火もイメージできるように、固形燃料も持っていくか」

「持ちます」


 河原に枯れ木とかあったような気がするがあまり入りたくないしね。

 チャッカマンと固形燃料はリザが持ってくれたから良かったけど、二リットルペットボトルはもう一度持っていかなければならない。

 賽の河原の気分。ちょうど河原だしね!

 水と新たに取り出した装備を持って来た道を戻り、再び河原へ。


「んじゃ、火を着けるぞ。よく見てイメージするんだ。だけどまだ魔力を込めちゃだめだからね。ちゃんとイメージできないと思わぬ大きさや火力になっちゃうから」

「はい」

「あと、氷の時は手のひらに出したけど、今度はそれやっちゃだめだよ? 何もない所に出すのは難しいから、双棒w を使って目標にするといいと思う」

命令受諾(オーダー アクセプト)


 リザは護身用にいつも身につけている百均のポールで作った棒を一本手にする。

 準備ができたのを確認し、着火した。


「まずは一番火力を弱いやつにしてある。よく見てイメージを固めるんだ」

「了解しました」


 リザは真剣な眼差しでそれを見つめる。


「……行けそうな気がします」


 しばらく見続けた後、リザはそういう。


「じゅあ、火はこの棒の近くで着けておくから、よく見ながらこの先端に灯してみて」

命令受諾(オーダー アクセプト)


 リザは目を見開き、そして。

 火は着いた。

 だけど小さすぎて、すぐ掻き消える。


「威力が小さすぎました」

「いや、それでいい。慎重なくらいでないと、マジ火傷するからな。少しずつ炎を大きくしていこうか」

「はい」


 リザは再度挑戦する。

 しかしやはりすぐに消える。

 なかなか制御は難しいようだ。

 だけど彼女は諦めるようなことはなかった。

 それどころかますます真剣にそれに打ち込む。

 もともときれいな子だった。

 将来どれだけの美人さんになるかと期待させる、幼くとも美しい顔つき。

 その真剣な眼差しも相まって、神々しささえ感じられる。


 僕はその顔をじっと見守った。

 そして。


「いいぞ。チャッカマンと同じ大きさにできたな」

「……」


 応える余裕もないのか、汗を浮かべた顔でわずかにうなずく。

 基本的に魔法ってやつは長時間維持するほうが難しいらしい。

 人間の集中力なんてそんなに続かないからね。

 だけど、同じ大きさ同じ火力の炎を維持できるようになれば、そのうちさほど意識しなくても維持できるようになっていくものらしい。

 まあ、人間ってちゃんと練習すれば大抵のことは無意識でもできるようになるからね。

 パソコンのキーボードだって、最初は一文字一文字確認しながらじゃないと打てないけど、習熟すればキーを見ないでも打てるようになる。

 そういうものらしい。


「じゃあ、こっちの火は消すぞ。そっちはそのまま維持してね」

「……」


 リザがうなずいたのを確認し、こっちの火は消す。


「っ!」


 ちょっとリザの出す火が揺らいだが、それも僅かの間だけで、炎は安定した。


「いいぞ。そのまま維持して。だけど無理はしないで。炎が一瞬でも乱れたら、魔力の供給を切ってね」

「……」


 額から汗を流しながら炎を必死に維持する。

 汗を拭いてあげたいが今それをすると集中を乱して一気に炎が大きくなるかもしれないから、ただ見守ってやることしかできない。


「ふぅ」


 どれだけ時間が過ぎたのか。

 リザが炎を消し一息つく。


「氷のときより難しいです。あっちは冷たいだけでそれほど危なくはなかったですけど、こっちはちょっとでも大きくしたら大変と思うとなかなか思う通りに制御できませんでした」

「人間として当然の反応だ。前にも言った通り、道路の縁石の上なら平気で歩けるのに、高いビルの縁はまともに歩けなくなる。恐怖がからだを萎縮させるんだ。だから絶対の自信がつくまで、からだは恐怖に怯えることになる。それを乗り越えるためには訓練するしか無い」

「はい。もう一度やってみます」


 リザは汗を拭き、持ってきた水筒から水分補給。


「水スラが何匹かこっちに向かっている。始末してからにしよう」

命令受諾(オーダー アクセプト)


 リザが氷魔法で簡単に始末していく。

 三本の光の柱が立って、とりあえず脅威は去った。


「では続きをお願いします。今度は少し火を大きくしてください」

「わかった」


 僕はその要請に応え、つまみをちょっといじって、再び火をつけた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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script?guid=on異世界のジョブズに、僕はなる ~定年SEの異世界転生業務報告書~
もよろしくお願い致します。こちらは異世界ファンタジーになります。
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