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うわさのおべんとう

 みんながきゃっきゃっうふふでお弁当を食べた後、一人寂しくお弁当をつつく僕。

 今日も千紗の愛妻弁当だからいいんだもん!

 あいも変わらぬハートマークを今日は隠さずに食える。

 恋人じゃなくてもこういう行為は嬉しいよね。

 だれかが誰かを思うってのは素晴らしいことだしね!


「さすが主婦歴長いw といっていた千紗だけに、それなり、いやけっこうな腕前だ。肉じゃがに、きんぴらごぼう。タコさんウィンナーは定番だね。うん、この肉じゃがもきんぴらも、ばーさん時込みだな!」


 なんかこの間のばーさんちで食ったのと同じ味だ。

 うん、家庭の味はこうやって受け継がれていくのね。


「そういや、この味。かーさんと同じだ」


 そう思ったら泣きそうになった。


「そっか。ばーさんの娘だもんな。そりゃあ、一緒の味になるか」


 そういや妹もよく母の手伝いをしてたっけ。

 時々失敗作が出てきてよくからかったもんだ。

 今思えばほんとガキだったよな。まあ、今もあんまり変わらない気もするけど。

 不意に、もう食べられない妹の失敗作が食いたくなった。

 あれも僕の中では大切な思い出なのだ。

 これまで罪悪感もあってあまり過去を思い出そうとしなかったが、これからはもっと昔を懐かしんでもいいかもしれない。


 殺しても死ななそうなばーさんだけど、いつまでも生きていられるわけじゃないからね。

 娘たちが事実上失われた今、千紗が受け継いでくれなければ、もう二度と味わえない味になるところだった。

 千紗にはほんと、頭が上がらないよな。

 幼い千紗を僕が助け、今度は千紗が僕を助けてくれる。

 人の営みはこうして紡がれていくのだ。


 自分だけでなんとかしようとがむしゃらにやってきた七年間はなんと傲慢だったのだろう。なんて愚かだったのだろうかと今更ながらに思う。

 きっと今冒険者としてやっているひとたちの中にも僕と同じような思いで潜っている人だっているに違いない。

 お金目当てならもっといい仕事もあるし、もっと安全な仕事だってある。

 正直なところ冒険者はお金を稼ぐにはあまりいい仕事とはいえない。

 基本的に、高額になるアイテムであればあるほど強い敵を倒さなければならないのだ。

 金額が上がれば上がるほどリスクも上がるから、リターンとリスクの関係はいつまでたっても変わらないことになる。


 最近はどうか知らないけど、昔の冒険者はお金以上のなにかのためにダンジョンに挑んでいたのだろう。

 なにせほぼ未知の世界。

 未知というのはリスクがほぼ無限大ということだ。


 株などの相場であれば、過去の経験からある程度のことは予測できる。

 ダンジョンの新層では全てが未知だ。

 最初に突入した人はどれほどの勇気を振り絞って先に進んだのであろうか。

 もちろん株だって未知のことが起こり得るだろうが、自殺でもしない限り命は失われない。

 しかし冒険者がかけるのは命だ。

 リスクヘッジできない一発勝負。

 お金のためだけにここまでできる人はあまりいないだろう。

 いや、お金のためであるなら、誰かが試してある程度情報が出揃ってから行くべきであろう。

 それ以外リスクをヘッジする術はないのだから。


 そんなことにもこれまで気が付かなかったとは。我ながら呆れかえるほどだ。

 千紗の作ってくれたお弁当にはこれだけの気付きを与えてくれる力と思いがあった。


「こりゃあ、心して食べないとな」


 愛妻弁当が僕にとってとても愛おしいものとなった。

 この間はハートマークにいきなり亀裂を入れたりして悪かったな。

 今日は崩さないように周りから食べていく。

 最後までハートは維持だ!

 昨日も恥ずかしがらずに堂々と食べればよかったんだ。

 コソコソしていたから、味もよくわからなかったし。

 この弁当なら大丈夫。たいーほw されるわけでもあるまいし。

 ちょっとへんな噂が広がるだけだ。

 なんか、社会的に殺されそうだけど!


 お弁当を十分味わって食べて、トイレを済ます。

 後片付けしてテントを出ると、旗が一本立っていて、それ以外のスライムは処分されているようだった。

 僕はその残っているスライムにエサ? を与え、手を拭いて女の子たちのところに向かった。


「なにか変わったことはあった?」

「ぴんくが出たので純華ちゃんが一人で倒したー」

「大丈夫だった?」

「はい、大丈夫です。たくさん練習したおかげで、粘液も吐かれずに倒せましたし」

「レベルはまだ上がっていないよね?」

「はい、まだです」


 やはり、みまもるかめでないと経験値が入らないらしいな。

 レベル三ともなると通常百体以上のスライム討伐が必要になる。


「じゃあ、陣地を解体して移動しようか。また純華ちゃん中心で、千紗とリザは手伝ってあげてね」

「わかりました」

「はーい」

命令受諾(オーダー アクセプト)


 三人が陣地構築と逆順で片付けていく。

 いくら僕が見守っているとは言え、『結界』から撤去したら、中に入られちゃう可能性もあるからね。


「しまう前には必ず汚れを落として、破損をチェックするんだよ! スライムの粘液が知らないうちに付着してたり、石とかに擦れてほつれたりすることもあるから」

「はい、汚れは拭き取りました。破損しているところもありません」

「問題なしと認めます」


 三人で確認しながら作業を進めていくさまは本当に微笑ましいね。

 とかのほのんと見守ってたらクリスラがやってきた。


「至福の時間を邪魔すんじゃねぇ!」


 半ばキレ気味にそのクリスラを処分。

 それにしてもスライム多いなぁ。これ、マジやばくね?

 人が増えたくせに間引きが全然追いついていないぞ。

 僕が言ってどうなるもんじゃないと思うけど、やっぱり局の人にも言っとくべきだろう。

 このぶんだと仙川の一層でまともに狩りをしているのは、うちらぐらいの可能性がある。


「先生、撤収作業終了しました」


 純華ちゃんが撤収作業終了を報告してくる。


「はいおつかれさん。すぐに陣地構築あるけど疲れていない?」

「大丈夫です」

「なら、移動しようか」

「はい」

「わかったー」

命令受諾(オーダー アクセプト)


 一番レベルの低い純華ちゃんを真ん中にして川に向かって歩き出す。


「川に近づくと、地面が湿っぽくなっていき、ウィンドより水スラが出やすくなる。普段は水の中に暮らしている、なんてこともいわれてるけど確認はされていない。だいたいダンジョンのオブジェクトをコイツラは食わないからね」

「そういえば、人間はダンジョンの中のもの食べられるんですか? 先生」

「食えるね。僕も時々、ダンジョンに生っている果物とかつまみ食いする時があるし」

「ほんとうに!? 美味しいの?」


 千紗が食いつき気味に割り込んでくる。

 おやつにでもしようと考えたのかな。

 だが残念。


「……微妙?」

「えー、美味しくないの?」


 千紗のテンション、だだ下がりだ。


「基本的に野生種だからね。日本の日本人向けに品種改良された果物とは比べ物にならないよ」


 日本の果物はものすごく糖度が高い品種が多いからねぇ。

 昔はいちごだって練乳や砂糖をかけないと、まともに食えないほど酸っぱかったと聞くし。


「がっがりだよ、だんじょん」

「まあ、たまにダンジョン以外では見当たらない、ダンジョン固有種もあるぞ? 一応食品衛生何とかで毒性がないか大抵のものは確認されているから、一応食えるはず。うまいかどうかは知らんけど。十層程度だとまあ、外でも見かけるようなやつばかりだし。下に行けば行くほど植生がファンタジーになっていくらしいからね」


 光ったり動いたりは普通で、時には人を食いに来る。

 トレントや食虫植物のようなものが出始めるのも十層を超えてからだ。


「うん、じゃあそっちに期待しよう!」

「うん、がんばれー」


 とりあえず気の入らない応援をしておく。

 画像とか食べてみた系の動画を見たことがあるけど、ドラゴンフルーツとかあんな感じの見慣れない形状だから、うまいかはともかくとして、口に入れるのに勇気がいる。


「じゃあ、このへんでいいかな。済まないが陣地構築をお願いする。一人でやると負担が大きいだろうからみんなで役割分担しながらやってね。監視は僕がするから」

「わかったー」

命令受諾(オーダー アクセプト)

「はい、先生」


 河川敷から少し離れたところに陣地構築。

 水スラは水に近いほど強力になるので、あまり川岸に近いと、人間は大丈夫でもテントや置いていた荷物にダメージがあるかもしれないからだ。

 あと、時々近くに水が湧いているときもあるし。


 水辺の近くだとその周りをちょっと掘るだけで水が湧き出ることがある。

 そんなところに水スラがひそんでいるといきなり強力な奇襲とかあり得るからね。

 できるだけ離れていて地面が乾いているところを選択。


 陣地ができたら次はリザの訓練と。純華ちゃんの水スラ遊びの準備だ。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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script?guid=on異世界のジョブズに、僕はなる ~定年SEの異世界転生業務報告書~
もよろしくお願い致します。こちらは異世界ファンタジーになります。
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