はじめてのしょくぎょうこうかい
急ぎ戻ってきた冒険者免許センター。
幸いなことにまだ試験は終わっていない。
「そういえばお弁当食べていなかったよー」
「これもすべてもふもふがいけない」
「そうだねー」
付き合った僕も当然お昼抜きだ。
「どうする? 試験終了までまだ三十分くらいあるから、食堂で食べていくか?」
「そうだね。せっかく千紗が早起きして作ってきたのに無駄になっちゃう」
「同意します」
「なら食堂に行こうか」
二人を連れて食堂へ。
昼時はとっくに過ぎているので、現在はカフェスペースになっているようだ。
まあ、ダンジョン管理局と兼用なので冒険者用に一部軽食も提供しているようだけど。
多分僕らみたいに冒険に夢中になって食べそこねるやつがいるからだろう。
繁忙期は過ぎているようなので食堂はガラガラだ。
なので適当な一角を占拠し、お弁当を広げる。
「はい、おにいちゃんの分。愛妻弁当だよ!」
「そりゃあ心して食べないとな」
「うん、召し上がれ、だーりん!」
「それはやめて!」
捕まるから!
嫌な予感がしつつ千紗から弁当を受け取り、その蓋を開ける。
思った通りハート型の桜でんぶ入りだ。
知り合いには見せられません!
幼女からハート模様の入った弁当渡されるとか、多分通報される。
「いただきます」
誰かに見られたらやばい物件を処分すべく、とりあえず真ん中にガッツリ箸を入れ、亀裂を作る。
うん、ハートブレイクだ!
これならセーフだろう。
と思ったら人参もハート型でした。
諦めて食おう。
時間もないことだしな。
ということでガツガツ食う。
左手が使えないからほとんど犬食いだね!
「おにいちゃん、おべんと付いてるよ? しょうがないなー」
「っ!」
なにしてくれてんの!
僕の口の周りについた米粒とってそのままパクリ。
どこの新婚さんじゃーい。
これはアウト? セーフ? 従妹だからセーフだよね?
「あっ、導師。こっちにも」
「うはっ」
エリザベート、お前もか。
こっちは従妹じゃないからアウト?
「やっぱり片手じゃ食べづらいよね。千紗が食べさせてあげるね! あーん」
千紗が僕の弁当箱からたこさんウィンナーを取って手ずから食べさせようとしてくれる。
これは食うべきか食わざるべきか、それが問題だ。
小学女児侍らせていかがわしいお世話させてるようにしか見えませんよね!?
ガラガラの食堂なのになぜか視線が痛い。
とりあえず目の前にあるたこさんをパクリとして証拠隠滅。
「導師、からあげはいかがですか? あーん」
安心した途端に隣からあーんが。
人間諦めが肝心だよね。
これも試験終了時間までの辛抱だ。
針のむしろに座らせられた気分で食事を終えた僕だった。
食事を終えて待合室に。
直後に大勢の人が試験会場から出てきた。
「すみかちゃーん! こっちこっち!」
純華を見つけた千紗がジャンプしながら手を振る。
「千紗ちゃん、リザちゃん。おまたせしました」
「おう、おつかれ。試験の方はどうだった?」
「はい、手応えはあったと思います」
「んじゃ、問題文、思い出せるだけ書き出して。採点しようか」
記憶が新しい内に問題文を書かせて、点数を予測。
「問題なさそうだね」
「おめでとう純華ちゃん!」
「これで一緒にもふもふできますね」
「はい!」
うん、純華ちゃん嬉しそうだよね。
そうこうしている内に合格発表の時間となった。
「あっ、純華ちゃんの番号出てる」
「あっはい。ちょっと行ってきます」
「ハイ、いってらっしゃい」
僕らは手続きしに行く純華を見送る。
すぐに免許を持って戻ってきたけどね。
「先生! ちゃんと取れました。ありがとうございます!」
「うん、おめでとう。これでダンジョンに入れるようになったわけだけど、予定通り明日から入ダンでいいのかな? 疲れているようであれば別途スケジュールするけど」
「大丈夫です。一刻も早く立派な冒険者になりたいので」
「そうか。なら一旦学校に戻って、明日の予定について確認しておこう」
「わかりました」
二人の時はまっすぐ家に帰らせたが、なにせ促成栽培。
あまりに時間がない。
まっすぐ学校に戻り、千紗といリザは装備の確認とお片付け。
その間に明日の行動について純華に説明する。
「明日は最低三時間はダンジョンにいなければならない。その後最低レベル一、できればレベル二に上げる。おそらく六時間から七時間ほどダンジョンの中にいることになるが大丈夫だね」
「はい。ゴールデンウィーク中は暗くなるまでに帰ってくればいいといわれています」
「なら、トラブルがあったときのために一五時には引き上げる。九時には入りたいから朝八時集合だな。千紗たちも大丈夫だな」
「だいじょうぶだよー」
「問題ありません」
お片付けしながら返事する二人。
「今回は初めてということで、近場の仙川ダンジョンに入る。ここならなにかトラブルがあっても家が近いから日が落ちるまでには間に合うだろう」
「お気遣いありがとうございます」
「みんなおんなじような条件だ。気にするな」
まあ、小学女児をそんなに遅くまで連れ回せないしね。
最近の小学生は塾なんかでけっこう遅くまでやってるらしいけど、流石にそれと同じにはできない。
「で、今後みんなとやっていく上で色々と話しておかないといけないことがある。千紗とリザもお片付けが終わったらこっちに来てくれ」
「うん、もう終わるよ」
「これをしまったら終了です」
二人がロッカーに最後の装備をしまってこっちに来る。
「これから話すことは許可なく他の人には話さないと約束してほしいんだ。職業やスキルについて話すからね。これは個人の秘密に当たるから、こういった情報は絶対口外してはいけない。職業やスキルを知られることは場合によってはとても危険なことなんだ。君だけではなくそれを漏らされた人にとってもね」
「はい。講習会でも十分注意するように言ってました」
「うん、ならいい。これが守れない、守るつもりがないというのであれば今更だけど君には退部してもらう他ない。君のためにみんなを危険な目に合わせるわけにはいかないからね。入部のときの説明でも聞いたと思うけど」
ここはちょっと特殊な部活なので、入部希望者にはそのあたりの守秘義務などを説明しているはずだ。
一応ここで念押ししておく。
なにしろやばい秘密をいくつも抱えているからね。
「はい、大丈夫です」
「けっこう。では話すことがあるのだけど、あまり時間もないから、もっとも秘密にしてほしい事柄から話してしまおう。あとはまあバレても影響はないとは言わないがインパクトは小さい」
「えっと、そんなに大変な秘密が? なら別に話さなくてもいいのではないですか?」
「そうもいかない。おそらくみんなで一緒にダンジョンに入っていればいずれ気がつくからね。中途半端に知ってそれが漏らしてはいけないものだと知らずに漏らされる方が怖い。漏らしてもらったら困るものをちゃんと認識しておいてほしいんだ」
何も知らずにつぶやいた一言が致命的なものになるかもしれない。
無知無意識の行動は自分でも制御出来ないため、どんな結果を招くか想像もできないのだ。
想定外のリスクほど怖いものはない。
想定できれば対応も可能だし。
漏らしていいのは女児のお小水だけだ!
おっと、これじゃマジ変態だ。
自重しよう。
「というわけで、僕たちの職業とスキルについて君に話しておく。君もここの仲間になったのだから、職業とスキルを得た場合は話してもらうことになる。自分の職業やスキルについて話したくないというのであればやはりここから立ち去ってほしい」
「もちろん覚悟の上です。千紗ちゃんとリザちゃんのことは信用していますし、二人が信用しているなら先生のことも信用できると思います」
「ありがとう。千紗もリザも君のことは信用できると言ってたから、僕も君のことを信用するよ」
「ありがとうございます」
「じゃあ、時間もないしちゃっちゃと済ませようか」
「じゃあ、千紗から発表するね! 千紗の職業は【きし】だよ! スキルは【とっしん】。レベルは今日五になりました!」
「えっ? レベル五? スキルもあるの千紗ちゃん!」
「えっへっへへ、そうだよ! すごいでしょう!」
「すごいというか……早すぎませんか? ネットでいろいろ調べていたんですけどスキルが得られるのってレベル十前後が普通って書いてありました。あとレベル五まで上がるのに普通の人はひと月くらいはかかるって」
君んちはチャイルドロックしてないのね。
まあ、心配いらないようないい子だもんね。
「妾もすでにレベル五です。職業は【まどうし】スキルは【こおりまほう】」
「ええっ、リザちゃんもなの!」
「はい。それもこれもおそらく導師のおかげ」
「まあ、僕のおかげかどうかはっきりとはわかってないんだけどね。僕の職業は【しんし】スキルは【みまもり】と【めでる】の二つ。どんな効果があるのか詳しいことはわかっていないが、僕が君らぐらいの女の子を指導すると、発動するのではないかと考えている。だから君にもその効果が及ぶ可能性がある」
「わたしにもですか? どんな効果が?」
「千紗たちのレベルやスキルを聞いてわかると思うが、普通と比べて異常とも言える成長の早さだろ? おそらく成長力アップや、スキル取得促進等の効果があると思われる。ただし、さっきも詳しいことはわかっていないと言った通り、どういう条件でこれが発動するかもよくわかっていない。もしかしたら千紗やリザ限定かもしれない。そうなれば、君にはまったく恩恵がなく君だけレベルもスキルも置いていかれるという状況になるかもしれない。また逆にこの効果が君にだけ移り、千紗たちからは失われるかもしれない」
可能性だけならなんとでも言える。
正解などどこにも書いていないのだから。
「僕のこの職業はおそらく世界で唯一。いわゆる【天職】というやつだ。スキルについても見たことはないのでおそらく完全ユニーク。【天恵】何てもいわれている。というわけで、僕たちには大きな秘密がある。もしかしたら君もその秘密の一端を共有するかもしれない。ずっと秘密保持の必要性を強調してきたのもこの事が大きい。理解できたかな?」
「は、はい。ちょっとだけネットでダンジョンの知識をかじっただけのわたしでも、ことの重大性がわかり……ます」
「ならけっこう。まだいくつか秘密があるが、それはまた明日にでも聞かせてあげよう。今日はもういっぱいいっぱいみたいだからね」
「はい、そうしていただけると助かります。ちょっと家で頭を冷やして考えたいです」
「うんそうしてくれ。でもこれを聞いた以上、ここをやめようがやめまいが秘密は守ってね。うっかり漏らすと僕たちだけでなく君も君の家族も危険に晒すことになるかもしれないからね」
「っ! は、はい」
彼女は真剣な眼差しでうなずく。
ちょっと脅かしすぎたかもしれないが、まだよくわかっていない職業とスキルだけに用心するに越したことはない。
「じゃあ、今日は解散で。明日八時ここに集合だから遅れないでね。純華ちゃんはこの間ばーさんの家から貰ってきた服やお弁当水筒も持ってくるのを忘れないように。あとはこっちにあるから大丈夫だ」
「はい、分かりました。お弁当と水筒の件はママに言ってありますから大丈夫です」
「そうか、なら解散だ」
僕たちはそれぞれ帰路につく。
明日、また僕のスキルの適用範囲や制限がわかるだろうか。
少なくとも判断するデータは増えるだろう。
それよりもまずは純華ちゃんの安全を考えるべき。
準備期間が短かったから、ほぼ現地でいきなりの実践になる。
緊張して失敗することも考えられるからフォロー体制をしっかりしておかないとな。
千紗とリザにも手伝ってもらう必要があるか。
僕は寝るまで、フォロー体制と起こりそうな事例について考え続けた。
これにて第1章終了です。
次章は準備でき次第投稿いたします。
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