はじめてのもふもふ
やってきました二階層。
「おー! って、なんかあまり変わらないね。と言うかおんなじ?」
「あの木に見覚えがあります」
「うん、そうだね。出てくるモンスター以外、まったく同じなのがこの二層だ。これはどこのフィールドでも同じだね」
木を伐採したり穴をほったりすると一層と二層で違いが出るが、そのうちいつの間にか修復されている。
季節固定型はどうも同じ時間を何度も繰り返しているらしく、いつも同じ風景が広がっている。
なのでネットではアニメなんかでよく使われる『バンク』なんて呼ばれてたりする。
魔法少女とかの変身シーンと同じ、悪く言えば使いまわしだね。
とはいえ地上の固定オブジェクトは使い回しのくせに、天体の運動や気象状況なんかはまた別の現象で動いているらしいという謎現象。
なにか意味があるかもしれないし、ないかもしれない。
こうなっているということはできても、なぜそうなっているかはよくわからないのがダンジョンだ。
「一層と二層は同じフィールドだって勉強したけど、本当に木の一本までおんなじなんだー」
「不思議です。どうなっているのでしょうか?」
「まあ、ダンジョンがそもそも不思議空間だからね。神の手抜きとか同じデータ使い回しとかいわれている」
地下を掘ってもそこにダンジョンはない。
階段のある空間も一応掘れるが、あっという間にリポップして元に戻るらしい。
掘った土もリポップと同時に消えるとか。
僕は試したことないけど。
なので別空間の切り張りか、完全な創造かなどといわれているが、一、二層がまったく同じことから完全創造論のほうが優勢だ。
どこかの空間を切り貼りしただけじゃ、一層にいる人が二層にもいなきゃおかしいからね。
「二層に来る人はそれなりにいるからさっさと入り口から離れるぞ」
「はーい」
「命令受諾」
二層はモフリ天国なので、下層を攻めている冒険者でも癒やしを求めてたまにやってくる。
だいたいむくつけき野郎共なので、傍から見ても癒やしには程遠いが。
「とりあえず、草原フィールドならうさぎ系が多く、荒野フィールドならネズミ系が多いようだ。吉祥寺ダンジョン側に進んでいけば両方見られるからそっちでいいんだな?」
「本日で、もふり全制覇します!」
「お、おう。じゃあ先導よろしくな」
「命令受諾」
いつになく気合の入っているリザ。
方位磁針とマップを持って先導する。
「第一もふり発見」
リザが早くもモフリ、もといモンスターを発見。
僕より発見が早いだと! しかもマップ見ながら。
リザのモフリ愛半端ねぇ!
「どうすればいい? 導師」
「ありゃ、レッサーホーンラビットか。この距離なら足音立ててそのまま待ってればやってくる」
「承知しました」
リザがその場で足踏みする。
その途端白ウサギがピクリと起き上がった。
うさぎ系は耳が良いからね。
結構離れても音を検知して寄ってくる。
「授業でも言ったと思うが、寄ってきたらまっすぐ対峙して、足か膝のプロテクターで受け止める。できれば膝を曲げてプロテクターで受け止めるのがいいな。角が柔らかいからHPが全損していても基本的にどこで受け止めても痛くはないんだが、攻撃に失敗すると脱兎のごとく逃げ出すから、捕まえるんであれば姿勢を低くして、待ち受けるといいと思う。倒すんならそのまま蹴り飛ばすとかだな」
「蹴るなんてかわいそう。受け止めます」
リザはヤンキー座りになってうさぎを待ち受ける。
「そうそう、股を開いてると、そこに入り込むことがあるから気をつけろよ。君たちのDEFならHPが減ることはないと思うが当たりどころが悪いとHPが削られるぞ。全損しない限りは軽いノックバックで済むはずだが男ならけっこ洒落にならないことになるらしい。女の子なら平気かもしれないが」
もふもふうさぎ最大の攻撃は金的だ。
時たま受け止めに失敗して悶絶するやつが出るとか。
DEFはしょせん補正値なので、人間の急所ほど総合的な値は低くなる。
一層階層ボスなんて、ぴんくとか一部を除けば大体レベル二もあれば安全に倒せるので、二階層にはその程度で降りてくるやつが大半だ。
うちの子たちをレベル三まで上げたのは、ものすごくレアなケースと言えるだろう。
子供ということもあり基本スペックが低い可能性があったため念を入れたわけだが、レベル二程度のDEFだと二層ではちょっと心もとない。
大したことのない攻撃でも総合ATKが総合DEFを上回り、HP全損することはないとは言えノックバックは発生する。
ノックバックの程度は削られたHPの比率に比例するが、当たる面積が狭いとそこにノックバックで掛かる力が集中するため、怪我をするほどではないにしろそれなりに痛みはあるようだ。
女の子だとどうなるんだろうな?
ちょっと気になる。試してほしいとはいわないけど!
ちょっと股間にその角突っ込ませて見せてくれなんて、言えるわけがない。
「了解」
リザは開いていた膝を閉じた。
どうなるか試す気はないらしい。
残念、じゃないぞ。
「来るぞ! 今は様子見しているが距離が近づいたら一気に駆けてくるからな。けっこう早いからタイミング外すなよ」
「承知しました」
「千紗と僕は背後に回る。前の方にいるとタゲが分散するからな。あとリザが受け止めそこなったらフォローするぞ」
「わかった!」
千紗と僕はリザの背後で中腰になって迫りくるうさぎの様子をうかがう。
そして。
「来た! もふもふ!」
だからもふもふじゃない。
モンスターだ!
っていってもだめだろうなー。
レッサーホーンラビットは射程距離に入ったと認識したのか、一気に駆けてくる。
「はや!」
千紗がびっくりして叫ぶほどやつは早い。
赤くないのが信じられないほどだ。
いや、地域や気候によっては色が変わったりはする。荒野フィールドなんかに行くと赤っぽいのがまじりだす。
運動能力に変わりはないけどね!
ばふん
そんな音を立ててリザの膝に衝突するうさぎ。
「逃しません」
すかさず捕まえるリザ。
暴れ出すがリザからは逃げられない!
哀れ虜囚の身に。
「導師! こんなに暴れたらもふれない!!」
「そのまま確保してろよ。すぐに大人しくなる」
僕の言葉通りに三十秒もそのまま確保していると、うさぎは抵抗をやめ大人しくなった。
「基本的に動物系モンスターはこっちが絶対的な力を見せつけると恭順する。群れのボスみたいな認識になるらしい。こうなればもうモフリ放題だぞ。手を離しても逃げることはない」
「やったー。もふー!」
いきなりうさぎのお腹に顔を突っ込むリザ。
猫吸いならぬうさぎ吸いかよ。
まあ、モンスターは病原菌も寄生虫も持っていないから猫吸いより安全なんだけどな!
危険なダンジョンのほうが安全とか気が変になりそうだけど。
そんな暴挙にも抵抗せず、吸われ放題、もふられ放題のうさぎ。
「リザちゃん! 千紗にももふらせて」
「いいよ」
「あっ!」
リザがうさぎを千紗に受け渡した途端、うさぎが暴れだした。
「あっ、逃げちゃう!」
いきなりだったので、千紗はうさぎを取り落としてしまう。
文字通り脱兎のごとく駆け出すもふもふ。
「リザちゃん、逃しちゃった。ごめんなさい」
しょんぼりする千紗。
「すまん。言ってなかった僕が悪いな。さっき群れのボスみたいな認識になるって言ったろ? だから屈服させた相手以外はボス扱いしてくれないんだ。二人一緒にモフりたいなら、二人で一緒にやる必要がある」
「大丈夫、気にしていません。ここにはまだまだ、未知のもふりがある。出会うもふりもあれば別れるもふりもある。さあ、未知なるもふりを求めて旅立ちましょう!」
なんか深いこと言ってる気もするけど、しょせんはモフリ!
欲望まみれでした!
「わかった! 今度は一緒に捕まえよう!」
「命令受諾」
二人は新たなるモフリを求めて旅立つ。
僕を置いてけぼりにして!
なんともしまらない第二層初討伐? だった。
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