はじめてのまうす
その後はもふもふ、もといモンスターは見つからず、荒野フィールドに到達してしまった。
「どうする? うさぎ系狙うのなら草原フィールドが見つけやすいんだが」
生息数も草原のほうが多いし、色も白が多いから比較的見つけやすい。
これが荒野フィールドになると生息数が少し下がり色が茶色や黒系多くなり、保護色となっているので見つけにくくなる。
「吉祥寺と仙川を往復するように歩けば全制覇できるはずです!」
「お、おう」
ふんすとばかり拳を握るリザに圧倒される。
逆らうな! 死ぬぞ!!
僕の本能がそう告げる。
「そうだな。千紗もそれで大丈夫か?」
「うん! 新たなもふもふを求めて! ごーだよ」
こっちも気合が入っているようだ。
さっき逃しちゃったから余計に力がこもっている気がする。
「とことんお付き合いしましょう」
僕は黙ってその後を付いていくしかなかった。
僕、保護責任者だよね?
これでいいのかと思ったが、逆らったら殺られる。
なにせ、リザは【氷魔法】、千紗は【突進】のスキル持ち。
どちらも攻撃系だ。
対する僕は【みまもり】という謎スキル。
おそらく攻撃系補正は一ミリもない。
ステータスはレベルアップによりわずかに伸びているがそれでもリザたちに比べて半分程度。基礎スペックに違いがあるとは言えひどすぎない? 僕のステータス。
しかもそれにスキルによる補正値が乗るのだ。かないっこない。
リザの【アブソリュート・ゼロ】なんか食らったら僕のDEFなんか一発で全損だ。
つまりすでにこの時点で、僕のほうが遥かに弱い。
とほほ。
せめて殺られるではなく、犯られるならまだ許容範囲だがって、それは社会的に死ぬやつだ。
どっちにしても死ぬには変わりないので、トボトボとついていく。
「もふもふレーダーに感あり! 二時の方向!!」
「対象を発見、追尾します!!」
今度は戦闘機ごっこでもしているのか、そんな事を言いながら、もふもふ目掛けて歩き出す二人。
「毛玉? と思われる物体を視認! 指示を請う!!」
リザがワクワク視線で僕を見る。
期待しているところ悪いが僕はやらないからな、エリザベートよ。
さすがに小学生のお遊びに付き合うのは恥ずかしすぎる。
「はいはい。公式名称:モップマウス。通称毛玉マウスだね。基本的にネズミ系は攻撃するまでノンアクティブだから近づいていって確保するだけだ」
僕の塩対応にめげることもなくお遊びを続けるリザ。
「命令受諾。作戦開始します。二番機、遅れるな!」
「らじゃー!」
ぎゅいーんと旋回してネズミを追い詰めていく二機。
こうしていると無邪気なJSなんだけど、僕より強いんだぜ!
「これより攻撃に移る! タイミングを合わせろ! 五、四、三、二、一、今!!」
「とりゃー」
二人が同時に飛びかかって、毛玉を確保。
「作戦終了!」
「なにこれー。手がめり込むー」
「もふもふ、もふもふー」
リザ、理性がトンでるぞ。
二人がかりでモップもとい毛玉を取り押さえていると、やはり三十秒くらいで大人しくなる。
「これは異次元のもふもふ。地球上にこれほどのもふもふは存在し得ない!」
「うんうん。羽毛布団みたいな柔らかさだよ! どうなってるのこれ!?」
うん、うん、ダンジョン自体異次元だからね!
間違いではない。
二人共ご満悦のようだ。
なにせ本体の大きさが毛の大きさの半分もないからな。
体高は毛の部分が一メートル以上あるのに、本体は半分以下の五十センチ以下。
半分以上が毛という、けっこう毛だらけな生き物だった。
「埋まるー!」
「全身もふもふです! ここは天国か!」
今にも絶頂しそうなアヘ顔ですよ、エリザベート様。
いつもクールな顔がちょっと見ていられないくらい崩れている。
小学女児がイっちゃってる顔は、なんかちょっとエロい。
「僕はいつまでみまもっていればいいんでしょうね?」
そう思ってたら、ぴこん、とステータスボードが開く。
【すきる:みまもり よん】
「早すぎませんかね! スキルレベル上がるの!!」
相変わらず効果は謎だが、少女たちを見守っていると勝手に上がる【みまもり】スキル。
訳がわからん。
「あれ? レベルが上った?」
「妾も」
少女たちの方は本体レベルが上ったようだ。【職業レベル】なんても言うけど。
そのせいかちょっと正気に戻ったようだ。
「またモンスター倒してもいないのに上がっちゃったよ」
「詳しくはわかりませんけど、これって相当に変ですよね? 導師」
ようやく二人も疑問に思ってきたようだ。
なにせもうレベル四だからね!
しかもこの二層では一匹のモンスターを狩ってもいないのに。
なんと言ったものかな?
まだ僕の職業やスキル効果の詳しいことはわかっていないし、予断を与えると意識しすぎて経験値が入らなくなる可能性もある。
「あー、それは。……ダンジョン内は、何を体験し何を感じたかが経験値になるって前に話したよな?」
二人はうなずく。
「だから君たちがこの階層に入って、いろんなことに感動したり考えたり気付かされたことが多ければ多いほど経験値が入る。確かにモンスターを倒せば経験値が多く貰える場合が多いが、それはモンスターを倒すという非日常的な行為を経験値として得ているからと僕は思う」
「なるほど?」
「受付でも話したけど、君たちが子供だからモンスターを倒すより、他のことで得られる経験値のほうが多いのかもしれない、とも僕は考えている」
実際のところ僕の謎職業や謎スキルが関係しているともはっきり決まったわけではないし。
彼女たちが子供だからという可能性は捨てきれない。
「子供だから? ですか? 導師」
「そう。子供のほうが大人より様々な出来事を体験していないからね。体験が多ければ、それだけ似たような体験と感じることが多いんだ。草原によく行く人なら、ダンジョンの草原フィールドはある意味見飽きているから、感動も少なく気付きも少ない。君たちはほとんどのことが未体験だから、それだけ感動も大きく経験値も多く入るってことだね」
どうだ?
これでごまかせたか?
「なるほどー」
「新しい体験をするほど経験値が入るのですね?」
「新しいだけじゃだめだ。それで君たちが何を感じるかが重要なんだ。同じ体験だろうが新たな感動や気付きがあればそれが良くも悪くも経験になるはずだ。大いに感じなさい!」
なにいっちゃってるの僕は!
JSに感じろとか卑猥すぎる。
だけど聞いてるJSの顔は真剣だ。
「感じれば感じるほど経験値がもらえるんだね!」
「わかりました。大いに感じましょう!」
君ら二人がそれ言うとアウトだからね!
人前ではいわないように!
僕がタイーホされちゃうから!
「うん、程々にね。そればっかりに気を取られていると警戒が疎かになっちゃうから」
「そういえば、今回はポンチョ着てこなくていいって言ってたけど、警戒しなくていいの? おにいちゃん」
「ああ、この階層ではぴんくの奴は出ないからね。新規六種の他に出るのはクリアとウィンドとアーススライムだけだ。この三種は溶解力が弱いから多少粘液を浴びても素早く倒せば服が溶けるようなことはない」
「そうなんだ! なら大丈夫だね!! てっきり千紗が裸ん坊になるところ、おにいちゃんが見たいからと思ってたよ!!」
見たくないとは言わないが見ちゃだめなやつです!
「他でそんなこと言ってはいけませんよ、千紗さん。僕が社会的に死にます」
「わかったー」
ほんとにわかってるのかね? この子は。
いつも自然に僕を殺しにくるよね! 社会的に!!
もう物理でも殺せるけど。
「さて。そろそろ十分毛玉を堪能したか? あんまり時間をかけていると、全制覇が難しくなるぞ」
「この子も捨てがたいけど、新たなもふもふも捨てがたい。お持ち帰りしてはだめですか?」
どこで覚えてくるんだろうね。
この上目遣いのおねだりの仕方は。
「あんまり一体をモフってると光になって消えるぞ? いちおうそのモフリにもATKが乗ってるから、今の二人のステータス的に言って確実にDEFを上回ってるはずだ」
うん、二人はすでにレベル四。
基礎能力が上乗せされなくても各能力の補正値だけでも雑魚にダメージを与えられるほどの値のはず。
レベル三の時点で一層ボスでも過剰レベル。
基本的に上階のボスより直下の階層の雑魚は弱いからね。最弱ボスでもない限りは。
この階層程度なら二人が触るだけでモンスターたちにダメージが入るはずだ。
まあ、よっぽどもふりまくらなければ、HP全損させた上で、体にダメージが入ることはないはずだがこのモフリ方を見ているとそれも怪しい。
マジモフり殺しそうだ。
「ざんねんですが、ここでリリースします」
「うんそうだね」
本当に残念そうな二人。
「倒さなくていいのか?」
「こんなに可愛いの倒せません」
「おにいちゃんひどい! こんな可愛い子倒せなんて」
「お、おう。すまん、んじゃ、消えない内にリリースするぞ」
「はい、お願いします。導師」
僕は毛玉に触れて、我に返らせる。
こいつもこの状態になれば脱兎のように逃げ出す。
マウスだけどな!
「さらば、愛しい人よ」
「リザちゃん! 新しい出会いを求めて一緒に旅立とうよ!」
「おお、友よ!」
ガシッと抱き合う二人。
抱き合う二人の姿は尊い。ちょっと百合っぽいけど!
ぴろん!
おい、ここで開くかステータスボード!
【みまもり】というより覗き見スキルじゃないのか?
百合っぽいとか思ったら上がったぞ!
今度上がったのは【職業レベル】の方だけどな!
僕の職業がJSのエロっぽさで経験値が入ってるのか?
なんか、嫌な予感がしてきたぞ。
僕のよくわからない職業の秘密が解き明かされようとしていた。
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