はじめてのうるとられああいてむ
いくぶん千紗の【とっしん】攻撃で体が飛び散っていたが、一番でかい塊とは大きさがまったく違う。
場所はすぐにわかった
「千紗リザ、カメラの映像と音声を切れ!」
「う、うん」
「命令受諾」
二人はすぐさま僕の命に従う。
僕も視線を一旦外し、管理局のと自分の二つのカメラの映像と音声を切った。
「どうしたのおにいちゃん?」
「全部切ると十分で警告が鳴るから、手早く説明するぞ」
僕は地面に落ちていたアイテムを拾い上げ、二人に見せる。
「? トレーディングカードでしょうか?」
おう、リザは知っているか。
厨二病ネタ満載だからな!
「まあ、似たような感じだが、これはゲームじゃない。現実にトレーディングカードゲームのように使えるカードだ。まあ、ダンジョン限定だが」
「まさか、モンスターを召喚したり? とか?」
「そういうのもあるらしい。まあ、アイテムとしてはウルトラレアなので、出ている数が少ないし強力なカードの場合秘匿される可能性も高いので、どんな能力があるカードが出るかは詳しくわかってはいない」
「夢が広がります!」
「まあ、ワクワクしているとこ悪いが、URだからといって必ずしも『使える』とは限らないんだ」
「? どういうことです? 導師」
「スキルのところでも説明したと思うけど、得られたスキルが必ずしも得た人が欲しいものじゃないってことさ。カードも同じ。魔法使いを目指しているリザにとって近接系のスキルや武器が不要とは言わないが重要度は低い」
「なるほど? でも有っても悪いものじゃないんですよね?」
「いや、そうとも限らない。例えば近接系のスキルには魔法使いにとって重要なINTが下がってしまうやつがある。INTが下がればMATも下がるからな。いくら近接戦闘には有効だからって、魔法使いを目指すリザには不要なスキルだ。武器なんかも重いやつはAGIにマイナス補正が入る。魔導師などの後衛職はSTR補正が低い傾向にあるから、重いものを持つとその分負担になるし、体格も小さく筋力も低いリザには大きな負担になる」
「確かに、それなら不要ですね」
「だけど自分やパーティーにとって不要なやつでも他の人やパーティーではどんなことをしてでも欲しいという人もいる」
「喉から触手が出るとかいうやつですね?」
「それを言うなら『食指が動く』か『喉から手が出る』な」
喉から触手が出るとかどこのエロゲだよ!
「まあ、そんな人のために、カードやアイテムのオークションサイトがあるんだが、数千万から時に数十億とかの値が付く時がある」
「!」
「えっと、金貨がっぽがぽ?」
「まあ、中には数百円とかもあるけどね。ピンキリだよ」
「なーんだ。これも、高くは売れないの?」
「オークションだから、どんなカードなのかとその時そのカードが欲しい人がどれだけいるか、その人がお金を持っているかで値段が大きく変わってくるからなんとも言えないな」
「出してみないとわからないってこと?」
「まあ、一応相場観というやつはあるけどね。URとは言えまったく市場に出てこないわけじゃないから、それなりに取引の実績はあるし、まったくの初アイテムでも、大体似たような機能や性能のアイテム価格が参考になる。完全にどのアイテムとも似ていない新規アイテムなんて最初の方を除けばもう早々ないしね」
「それで売るといくら位になりそうなの? おにいちゃん」
ラノベでも人気の高いアイテムだからな。
まあ、このダンジョンだと機能も限定されるんだが。
「そうだな。開始価格が一億。もしどうしても欲しい人の競り合いがあれば十億を超えてもおかしくないね」
「はい? ジンバブエ・ドルで?」
「ジンバブエ・ドルってよく知ってんな、千紗さんや」
「いく? のーべる賞? とかで貰ったって前に聞いたことがある」
「イグノーベル賞ね」
イッてどうする!
「円です円。海外にもバイヤーがいるから場合によってはドルになるけど」
「はいぃぃぃぃぃぃぃ。円。本当に円で? 圓でもなく?」
「ウォンじゃ十分の一だろ。違います。紛れもなく円です」
「それで導師、それは何のカードなのですか?」
「これか? これはいわゆるアイテムボックスのスキルカードだな。ストレージとかインベントリともいわれているやつだね」
「ファンタジー定番のスキルですね、導師」
「ボックスの方? ポーチだとあんまり入らないんだよね?」
「そりゃゲームの話だろ。こっちはどちらともちょっと違う。同一アイテムの重ね合わせはできないが、袋や箱詰めすれば一つのボックスにまとめて収納が可能だ。ボックスひとつあたりの大きさは二メートル四方で、全部で四十八の箱があるようだ」
僕はカードの説明を見ながら答える。
ご丁寧に日本語で書かれているように見えるが、英語ネイティブの人が見るとちゃんと英語で読めるファンタジーアイテムだ。
ぼくの場合全部ひらがなでみえるんだけど!
「四十八個は少ないような気もするけどどうなの?」
「一メート四方の箱だって水を入れたら一トンだぞ。二メートル四方といえば。八トンだ。それが四十八個だぞ。隙間なく詰めれば四百トン近い」
「おー、すごい?」
「すごいな。箱を一列に並べたら約百メートルの棚ができるぞ。まあ箱の大きさに制限があるので隙間なく詰めるとなれば水とかの液体になるし。もちろんダンジョンの外でこのスキルは使えない」
「えっ、それって中に入れてたのはどうなるの?」
「全部外に放り出されるから、意外と使い勝手は悪い」
「意外とっていうか、全部台無しだよー。ダンジョンまでは自分で運ばないといけないんでしょ?」
「もちろんそうだが、ダンジョンまでは車だって使えるし、カートなんかにも乗せていける。中にはリヤカーを持ち込む冒険者もいるくらいだ。ダンジョンで入れ替えするにしても、中で持ち運ばなくていいのならより多くの荷物が持ち込めるし、戦闘のときだって荷物をおいたりしないで済む。うっかり目を離すと荷物がスライムに食われていたとかよく聞くからね。スライムはちっちゃな隙間からでも潜り込むから、完全防御は意外と難しい」
「確かに、荷物持ち歩かないで済むのはありがたいよね」
「それに大量の荷物を持ち歩きたいのって、自衛隊とか大部隊を抱えている国だ。国がオークションに参加するから、値段が跳ね上がるんだよ」
冒険者パーティーの荷物なんてそんなにないからね。
どの階層でも比較的簡単に行き来できるからそもそも泊り装備がほとんど必要ない。
軍隊だと一度に入る人数も持ち込む荷物も半端ないからね。
この手のアイテムやスキルは喉から手どころか触手が出るほど欲しいに違いない。
「というわけで、売る? 売らない? パーティー財産だから売るなら一人頭三分の一の金額が手に入る。少なく見積もっても一人一億円程度は手にできるんじゃないかな? うまく行けば三億とかになりそうだ。この金額になると、普通に税金も取られるけど、ダンジョンアイテムの取引で得た利益は税制優遇があるから、税金を払っても手取りでこの金額は優に受け取れるはずだ」
「ちょっとまっておにいちゃん。金額が大きすぎて実感がわかない。千紗の、一ヶ月のお小遣い千円だよ? おばあちゃんちに遊びに行くと、ぱぱには内緒だよっていくらかくれるけどそれでも三千円超えないもん」
「うちもそのくらいです」
「じゃあさ、それうちのパーティーには必要なアイテムなの? さっきも言ってたけど必要ないから売るんだよね? 必要なら売らなくていいの?」
そこが微妙なところなんだよな。
「このままアミューズメント層やせいぜい十層程度までしか潜らないのなら必要ないな」
「ということは、最下層までいくとなると必要あるってこと?」
「無ければ無いでなんとかなるだろうが、あると助かるだろうな。そこまで行ける冒険者となれば装備品も立派で重かったりかさばったりする。予備の装備まで持っていこうとすれば、重さはともかく嵩がどうしても増えるし、きちんとパッケージしておかないとスライムに食われるから、高い装備がおじゃんだ。その点アイテムボックスに入れておけば邪魔にならないし、なによりスライムに食われる心配もない。スライム防止のパッケージもする必要もないから取り出してすぐ使えるし、使い終わったらそのまましまえる」
必須じゃないけど便利グッズではあるな。
これが軍隊であれば輜重部隊なんかが必要だが、このスキル持ち一人がいれば、戦闘部隊だけでダンジョンアタックが可能になる。
「すぐには結論でないだろうから考えておいてくれ。この件については親とも相談してね。現金化するとなると口座作ったりしないといけないし。さて、そろそろ十分経つからカメラの映像と音声をつないでおくように」
僕はカードをパスケースに入れて懐にしまう。
ここが一番安全だからね。
それからカメラの音声と映像を二台分復帰させた。
「入れたよー」
「こちらも入りました」
「じゃあ、今日は引き上げるか。ボス部屋で意外に時間くっちゃったし」
「そうだね!千紗も頭ぐちゃぐちゃ」
「同意します」
「よし。外の陣地解体して撤収だ」
いつものように撤収作業は任せ、奥は寄ってくるスライムの監視と討伐。
まもなくダンジョンを退出したのであった。
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