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はじめてのぼすとうばつ

 三人が中に入ると中央付近で黒い靄が湧き上がる。

 モンスターがポップする前兆だ。

 これは、ダンジョンが生えたときと同じもの。

 モンスターのポップとダンジョンのポップ。

 基本的に同じものなのだろう。規模が違うだけで。


「おいおい、最強最大最悪のスライム、ピンクじゃないか!」


 運がいいのか悪いのか。

 あるいは必然か。

 そこに現れたのは超でかいピンク色の悪魔。

 おそらく最強の。


「なにこれ!? おっきい!」

「ぴんくだけどかわいくありません」


 ボス部屋のモンスターは倒さず放置するか、メンバーが全滅すれば、次回も同じやつが出てくる。

 僕が遭遇したデスマッチ部屋もそうやってできたのかもしれない。

 ボス部屋で全滅なんて話になれば入ダン前に受付で教えてくれるはずだが、直前だと間に合わない可能性がある。

 あの時は後ろが詰まっていたから部屋が空き次第、飛び込んでいた。

 慢心もあったんだろうが、前の人間のお残しか、それともご新規なのか、そういや管理局に確認したことないな。

 デスマッチ部屋だから当然ご新規だと決めつけていたよ。

 前のパーティーが全滅してたとしたら、新規の確率とプラスして二一六の半分。一〇八分の一の確率に跳ね上がる。

 一パーセントに迫る確率だ。


「可能性はあるかと思っていたが。こりゃあ何人か遭遇したけど放置したまま離脱して、報告もしてないな」


 確かに報告の義務はないんだが、アミューズメント層一層でこんなの出たら、装備がないと倒せないぞ。

 いや、なくても倒せないことはないけど全裸必須の討伐になる。

 なにせ頭まで突っ込まないと核に手が届かないからな!


 誰だってそんな目に合うのは嫌だろう。

 たとえ着替えがあろうとも、一時的に全裸をパーティーメンバーに晒すことになるだろう。

 着ている服は全損間違いなしだから、全裸で飛び込むか、全損覚悟で飛び込むかどっちかになる。

 飛び込む方も嫌だが周りで見ている方も嫌だろう。

 万が一があるから飛び込むやつを監視しないわけにもいかないし。

 これだけの大きさがあると、うっかり核の取り出しに失敗したら窒息する可能性も大きいからね。

 頭からかぶれば普通のスライムだって危険だ。

 ましてやこれだけの巨大スライム。

 危なくない訳がない。


 一層程度で全身ゴム装備とか用意しているやつなんかいないよなぁ。

 こいつを全裸にならずに始末するには、ゴム製かビニール製で水などが染み込まないドライスーツのような防護服が必要だ。

 雨合羽とかでやるやつがいないわけじゃないが、下に着ているものは当然溶けるため全裸雨合羽必須。

 つまりラバースーツを直接肌に身につけることになる。

 ドライスーツならまだインナーとかあるし、内部に粘液が入ってこないだろうが、雨合羽じゃ中に入りまくりだし。

 粘液まみれのラバースーツ男。それってどこの変態さんw


 しかしそこまでしてもしょせんスライム。

 レアドロップでもない限り魔石の値段はたいして変わらないw

 当然装備代だけで足が出る。

 一層じゃ稼げないし。

 赤字覚悟で装備を用意するにしても、巨大スライムに頭から突っ込めば、当然呼吸はできない。

 これだけデカくても核の大きさは普通のスライムとほぼ一緒だ。

 粘性のあるスライムの体内でそんな小さな核を探すにはそれ相応の時間がかかる。

 うっかり粘液を飲みこんでしまったら、粘性がある為吐き出すことは困難だ。

 仲間に引っ張り出してもらえば抜け出すことは困難ではないとはいえ、一回で見つかればともかく何度も潜ることになれば、当然窒息の可能性は上がるし、実際一度でうまく核を取り出せることなどまずないらしい。


 ピンクのやつだってただ黙って核を晒しているわけじゃないからね。

 核を取られまいと動かし始める。

 せいぜい一分程度の潜水時間では、動きにくく見にくい粘液の中という悪条件で核を掴み取るのはものすごく難しいため、安全にやるにはガチの潜水装備が必要で、しかもボンベ等もゴムなどで密閉した特注品が必要になる。

 巨大ピンク専用w という恐ろしくニッチな商品のため、その値段はほぼ言い値で、数百万~一千万クラスだとか言われている。

 当然そんなの用意しているのは自衛隊くらいのものだ。

 西東京エリアのダンジョンに潜るのなら西東京エリア内のどこかの階層ボスを倒せば、下の階層にはいけるからね。

 そのため、厄介なボスは放置される。


「こりゃあ、参ったね。今回はいいとして、授業で行くときこいつと出くわしたら始末できるひといないぞ」


 ボス部屋へ侵入できる人数は六人までで、引率を含んでだと一度にクリアできるのは五人しかいない。

 八〇人を引率してきたら一六回の挑戦が必要だ。

 つまり最大ピンクが出る可能性は七・五パーセントくらいか。

 ピンクでなくても最大が出れば、誰かが潜って討伐する必要があり、窒息のリスクがある以上子供たちにはやらせられないよなぁ。

 かといって片手の使えない僕では潜ってもろくに動けないだろうし、危険な状態になったときに引っ張り出してもらう必要もある。

 子供たちにそれを判断して引っ張り上げろっていうのも酷というもの。

 失敗して万が一僕が死んだりしたら子供たちに大変なトラウマを与えてしまうだろう。

 となると僕ともう一人潜る人が必要だし、僕だって片手でうまく引っ張り出せるかわからないので、最低でももう一人必要になる。

 安全を考えれば大人最大人数の六人で入り直せば対応できないこともないか。


 それでも最大ピンクなら全裸かラバー粘液必須なので、やりたがる人はいないだろうし、僕だって見たくはない。

 岩崎先生がやってくれるのであれば大歓迎なのだがw


 冗談はともかく、運悪く最大が出たら、ここみたいに放置して他に移動するか、日を改めてってことにしたほうが良いかもしれないな。

 となると、全員が一層をクリアするには相当時間がかかりそうだ。

 一層より下に行けないとなると、最大レベルは五。現実的には四まで、いや、授業時間の少なさを考えると三でも厳しいか?

 まあ、ゴブリン程度ならさほど危険はないレベルではあるが、あくまでフォローしてくれる仲間がいて装備もそれなりに整っていたらの話だ。

 素手では流石に厳しい。


「おにいちゃん、どうするの? 打ち合わせどおりやっちゃっていいの?」

「ああ、今回は、運のいいことにスキル持ちがいるからな! では先生、よろしくおねっしゃっす」

「導師が先生ですよね?」

「リザちゃん! ここは私に任せてもらおうかと偉そうに登場する場面だよ!」


 千紗は時代劇にも精通してるんかい!

 女子なのに精通とはこれいかに! ってのはセクハラだね!

 きっとじーさんばーさんの影響だろう。

 時代劇とか好きそうだもんね。


「ここは妾にまかせて先にいけ?」


 それは死亡フラグ!

 なにしちゃってんのリザさんや。


「とりあえず打ち合わせどおり、氷弾適当に打ち込んで」


 そうこうしているうちにぴんくの塊がのそのそ近づいてくる。

 バトルフィールドはけっこう広いから、このペースでは攻撃範囲に入るまであと十分はかかるだろう。

 これがアミューズメント層が安全な理由である。


「千紗は一応ここから脱出できるか確認しておいて」

「おっけー」


 千紗とリザ二人まとめて飲み込めそうなほど巨大な塊に、リザは氷弾を打ち込み始める。


「こっちは大丈夫、行き来できるよー」

「デスマッチ部屋にはなっていないな。リザー、できるだけ温度下げて凍らせることを意識するんだ」

命令受諾(オーダー アクセプト)。地の底より極限の静寂よ来たれ! 我が敵に永遠(とわ)の沈黙を。【アブソリュート・ゼロ】」


 エリザベートの気合の入った一発。

 一瞬空間が歪み、雫が垂れる。


「おーい。やり過ぎ。空気が液化してるぞ」

「当然のこと。絶対零度の地獄の前には何者も沈黙せざるをえない」


 ここで厨二病全開はいりませんでした!

 確かに【アブソリュート・ゼロ】はかっこいいけど!

 春の陽気が一転。

 一気に冬が来たようだ。


「りざちゃん、寒いよー」

「同意。ブルマは寒いです」


 そりゃあ生手足出まくりだからな!

 いくら肘や膝をプロテクターで覆っているとは言え、他は丸出しだ。

 寒いに決まっている。


「えっと、火魔法をお持ちのお客様はいらっしゃいませんか?」

「おにいちゃん。現実逃避は良くないと思うの。どうしたらいいのこれ?」

「みんな外に出たらまた最初からやり直しだからな。しかも冷気は残して!」


 ボス部屋から全員が離脱すれば、こいつは消えて、もう一度入り直せばまた黒い靄からリポップして始まる。

 まるで何もなかったかのように。

 しかしすでに物理現象として顕現している冷気は消えない。

 スライムの代わりにその分空気が冷やされる。

 かといって、ガチガチに凍ったスライムを溶かすすべもない。

 一応やむを得ずお泊まりになったときのために、煮炊き用の固形燃料とか持ってきているが、焼け石に水、液体窒素に金魚程度も役に立たない。

 ある程度温度が上がるのを待つしかないだろう。

 最強種だとこれだけガチガチになっても死なないのかよ。


「千紗が核を壊したらスライムは消滅するんじゃない?」

「危ないから近づくんじゃありません。あの周りしずくが垂れているだろ? 多分空気が液化してるんだ。まだマイナス二百度優に超えてるぞ。千紗なんかあっという間に氷漬けだ」

「そんな危ないの?」

「まだ学校じゃ教えていないかな。液体窒素とかにバナナを入れて釘を打つとか、金魚入れてカチカチにした後水に入れたら泳ぎだす実験とか」

「あー、見たことあるよ! そういうテレビ」


 まあ、定番で見映えのする実験だしね。

 リザは漫画かなんかですでに知識は仕入れ済みのようだが。


「まあそんな感じであの近くに行くとカチカチに凍りつくぞ」

「それはやだなぁ」

「とりあえず、交代で見張りながら溶け出すの待つしかないな。荒野フィールドなら火スラ捕まえて放り込むんだが」


 あいつは核を抜いてしまえばゼリー部分がよく燃える。

 燃料としては最適なんだが、残念なことに草原フィールドでの出現率は高くない。

 草原フィールドだと枯れ木や枯れ枝もないし。この辺で枯れ木や枯れ枝が手に入りそうなフィールドもない。


「そうだ、緑のやつ何匹か掴まえてこよう。空気をかき回せば、多少は早く温度が上がるかも」

「でもその分周りが寒くならない?」

「うっ、その可能性はある。まあ、周りの空気と混ざってそれほど寒くならない可能性もある。やってみてだめなら、諦めよう。ちょっと取ってくるから、二人はここにいてくれ。ウィンドをぶち込んだら交代しよう」

「わかった。早くしてね」

「お手数をおかけします」

「すぐ戻る」


 僕は結界の外に出て緑のやつを探す。

 しかしこういう時に限って出てきやがらない。

 見つけ出すまで十分程度かかった。

 僕は素早くそいつを抱えると、ボス部屋にとって返す。

 旋風が巻き起こるがせいぜいポンチョが翻るだけだから問題ない。

 僕はブルマも履いていないしな!


 ということで捕まえたウィンドスライムをぴんくで凍らない程度の近くに放り込む。


「遅いよう、おにいちゃん」


 見れば生足に鳥肌が立っていた。


「なかなか見つからなくてな。外に出ていいぞ。出たら陣地を作っておいて。あとウィンドを見つけたら連れてくるように。とりあえずそんなに寒くはならないみたいだし」


 いい感じで空気がかき混ぜられ下に溜まっていた冷気が平均化される感じ?


「あと、僕の荷物の中に着替えの予備があるから、次に交代するほうが着てこい。とりあえず十分ずつで交代すようにしよう」

「わかったー」

命令受諾(オーダー アクセプト)


 二人がボス部屋を出ていく。

 途中リザがウィンドスライムを放り込んでいき、予定通り十分後、千紗が僕の古着を着て入ってくる。


「えへへ。やっぱりおっきいね! でも温かい」


 まあ、一応長袖長ズボンだからな!

 ブルマが悪いとは、いやいいんだが、ジャージとかなかったんですかおばー様!

 まさか自分の古着着せることになるとはね。

 自分の古着を女の子に着せてると『事後』のような背徳感を感じるなおい!

 ダブダブの服着てる千紗はかわいいんだけど!


「導師、お湯沸かしているから、スープでもどうです?」

「おっ、気が利くな」

「妾たちもあたたまるために飲んだので。一応温かい麦茶もありますけど」


 お泊りセットの固形燃料と小さな鍋、それにスープや携帯食料なんかを持ってきている。

 それで交代のタイミングを見計らってお湯を沸かしておいてくれたらしい。


「せっかくお湯を沸かしたんだからスープをもらおうか」

命令受諾(オーダー アクセプト)


 リザがフリーズドライのスープをカップに入れてお湯を注ぐ。


「どうぞ、導師」

「ありがとう」


 僕はそれを受け取り、口をつけた。


「ふう、生き返るよ」

「中で準備出来れば火にあたれたのですが」

「それは仕方がない。中にはウィンドスライムが二匹いるからな!」


 固形燃料の火力はそう強いものでのはない。

 ウィンドスライムの神風の中に置いても消えはしないだろうが、熱気などどこかに飛んでいく程度のささやかなものでしかない。

 お湯も体も温まらない内に燃え尽きること請け合いだ。

 そうして交代交代で、ボス部屋の温度が上がるのを待った。

 寄ってくるウィンドのやつを時々奥に押し込みながら。

 近寄れるようになるまでにけっこうな時間かかったけど、その時は来た!


「千紗、いけ!」


 JSにイケとか何言っちゃってるのと思いつつ、千紗を促す。

 すでに邪魔なウィンドは討伐済みだ。君の勇姿は忘れないw


「とつげきー」


 【とつげき】スキルを発動し、千紗が突っ込んでいく。

 すでに表面は溶け始めている。

 中はまだ少し冷えているかもしれないが、少しずつ削っていけば一気に冷気が吹き出すこともあるまい。


「手加減して殴れよー」

「わかってるー」


 千紗は様子を見ながらだんだん強くメイスに力を込めて叩いていく。

 そして。


「光になった!」


 何十発の打撃の結果、スライムの核は無事破壊され、ぴんくのやつは光となって消えた。

 冷気は残ったけど大したことはない。


「ボスの初討伐おめでとう!」

「なんか疲れたよう」

「ごめんなさい」

「謝ることじゃない。不測の事態というやつはいつでも起こりうる。温度を下げるように命じたの僕だし。覚えて間もない魔法をちゃんとコントロールしろという方が無茶なんだよ。リザは僕の要請に対して精一杯応えようとしてくれただけなんだから、謝るなら僕の方だよ。たとえ失敗したとしてもそれをフォローするのもパーティーメンバーの役割だ。フォローし合うことが大切なんだ。それに謝るよりお礼のほうが嬉しいな」

「そうだよ! 今回はりざちゃんがやっちゃったかもしれないけど次は千紗がやらかすかもしれない。その時はリザちゃんがフォローしてくれて、千紗がお礼言うの。そのほうが気持ちいいよ!」

「うん、ありがとう千紗ちゃん、導師」

「「どういたしまして!」」


 二人共笑顔で返した。


「さて、ドロップは何かな?」


 ぴんくのやつが消えたあたりを探すとそれはあった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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script?guid=on異世界のジョブズに、僕はなる ~定年SEの異世界転生業務報告書~
もよろしくお願い致します。こちらは異世界ファンタジーになります。
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