はじめてのすきる
再びやってきました仙川ダンジョン。
妹や母たちへ挨拶して一層の踊り場へ。
「ちょっと二層に行ってみようか」
「階層ボスを倒さないと二層には入れないと聞いていましたが?」
「それを確かめるのさ。聞いたことがすべて真実とは限らないし、入れない時どうなるか確認するのも経験のうちだ」
「はいはーい。千紗はいってみたいです!」
「同意」
「じゃあまず二層まで降りようか」
ここから二層は一メートルほど階段を降りるだけ。
「入らないけど自動改札抜けてもいいの?」
怪しく揺れる膜状のものの前にある自動改札機。
「一応ここを抜けるとその階層に入ったとみなされるけど、すぐ出るからね。乗り越えたりするとまずいけど」
「そっかー。じゃあ大丈夫だね。みんな一緒に入ろう」
今回は三台並んだ改札機に三人が並んで入る。
「このぷにぷにした膜触っても大丈夫なの?」
「上の膜は簡単にすり抜けましたけど」
「ああ、問題ない。ちょっと触ってみろ」
JSの膜に触れとかいっちゃうとちょっとエロいな。
と言うか逮捕です。
「う、うん」
千紗が意を決して指先でツンツン。
「うわー、ぷよぷよしてる! リザちゃんも触ってみて!」
「ほんとうです。ぷにぷにしてまるでスライムっぽいです」
「ダイジョブ? これ破れない?」
「ああ、絶対破れない」
別名『鋼鉄の処女膜』とか言われているなんて言わないけど。
「だいじょうぶだって。ちょっと背中から突っ込んでみろ」
「……うん、やってみる」
千紗は背中を向けて倒れ込む。
「ほよ!」
『鋼鉄の処女膜』は優しく千紗を受け止め、そのままぽよんと跳ね返してきた。
でっかい処女膜があったらこんな感じになるかな。
鋼鉄と言う割に硬くはないのだが、
「荷物とかは普通に通り抜けるよ。落としたら千紗じゃ取りに行けないから気をつけてね」
「はーい。リザちゃんこれ面白いよ!」
「やってみます」
同じように背中から倒れ込む。
ぽよよん!
まるでトランポリンにでも寝転んだかのように戻ってくるリザ。
背中に背負ったリュックや服、肌着などは素通りして、直接背中を押されるから裸ん坊でトランポリンに寝転んでいる。そんな感じになるのだ
「面白いだろ? 君たちは入れないが僕はこうして入ることができる」
僕は『鋼鉄の処女膜』を半分だけすり抜ける。
「おー、人体切断だ!」
「導師が半分しかありません」
「いま三十層を攻略している連中だと下に階段がないからこの遊びはできないんだ。この遊びができるうちはトップ冒険者とは言われない」
「むう、トップ冒険者になりたいけどこの遊びもしたい」
「なら三十層をクリアするんだな。そうすればおそらく下の階層への階段ができて、次の四十層まではこれで遊べるぞ」
まあ、日本じゃ攻略階層が増えると、管理対象が増えるので、三十層のボスは倒さないように通達されている。ペナルティはないんだが、最下層の守護者を倒すと、それを行ったパーティー名や個人名がさらされるので自粛しているなんてことまではいわなくていいだろう。
まあ、この自粛もいつまで続くかわからないしね。
海外では五十層まで開放されているところもあり、有用な資源がいくつも見つかっていることから、日本でも近々自粛解除されるのではと言われている。
ダンジョンは厄介者ではあるが資源として必須の存在になりつつあるのだ。
日本だけ乗り遅れるなんて事になれば経済的損失は計り知れないであろう。
下層の素材なんかは各国とも輸出禁止してたりするから、自国で採取しなければ入手できなかったり、高値で買わされたりするからね。
特に問題になってるのはダンジョン特許だ。
ダンジョン素材を使った特許を押さえられると、製品そのものが製造できなくなってしまう。
製造できたとしても高いライセンス料を払うことになれば、競争力も下がってしまうし。
千紗達が最下層に挑む頃には自主規制も撤廃されているはずだ。
「うん、がんばる」
「今みたいに倒れ込んだり頭から突っ込んだりして遊べるけど、あんまり勢いをつけて飛び込むと反動で飛ばされるからな。トランポリンみたいなやつと思って、気をつけて遊べよ」
「はーい」
「命令受諾」
二人はいろんな体勢で膜に飛び込む。
僕は勢いでころんだりしないように見守った。
「そろそろ一層に行くぞー。もう警告がなりそうだし」
「もうそんな時間かー」
十分も入口付近でたむろしていると警告が出るからね。
じっくりと遊ぶには向かないコンテンツだ。
クラス単位の授業だと四人いっぺんに遊ばせてもせいぜい一人一分くらいしか遊べないかな?
「よし、今日中に土スラと火スラ倒してレベル三にしてボスを倒すぞ!」
「おー!」
千紗とリザが気合を入れ直している。
ブルマ姿なのでほとんど体育祭にしか見えない。
三人は一層の自動改札のところに戻り、『鋼鉄の処女(事後)』等と失礼なことを言われている膜を抜ける。
「この間はあっちへ行ったけど、こんどはこっちだね。GPSは使えないけど方位磁針は使える。仙川ダンジョンマップを持ってきたから、今日は君たちに先導してもらおうか」
「わかったー」
仙川ダンジョンからほぼ真北に行けば、吉祥寺ダンジョンだ。
吉祥寺は西東京エリアとしてつながっているからね。
ダンジョンなのに同じ北にあるのが不思議だけど。
ちなみにGPSが使えないのは電波が入ってこないからではないらしい。
携帯の電波が入ってくるんだから人工衛星の電波も入ってくる。
だけど、なぜかGPSの電波は同じ距離として携帯に届くらしい。
GPSはものすごく正確な時計を持っていて、その時刻を常に発信している。
ものすごく早く伝わる電波でも、距離によって微妙に到着時間が変わってしまう。
そのため複数の衛星から同じ時刻に電波が発せられた場合、地上のある地点に到達する時刻には違いが出る。GPSはその電波の到着時刻の差から衛星までの距離を測定し、位置を特定するのだが、ダンジョン内では何故かどの地点でも衛星の電波は同じ時刻に到達してしまうそうだ。
つまり時刻に差がないからズレもなく距離も測れないということらしい。
なんじゃそりゃと思うけど事実そうなのだから仕方がない。文句があるならダンジョンに言ってくれ。
ダンジョンの影響範囲はずっと広くてその中で電波の速度は無限大の速度だとか、途中をワープして伝わってるとかいろいろ説はあるのだがまだはっきりとはわかっていない。
とりあえず無事に二人の先導で荒野フィールドに入る。
「おっ、早速土スラが現れた!」
ネットじゃ砂かけばばぁがメージャーな呼ばれ方だが公式名称アーススライム。
砂かけばばぁの名の通り砂をかけてくるサンドブラストが得意技だ。
「攻撃すると砂をかけてくるから、ゴーグルをしっかりかけろよ。あとマスクしとけ」
マスクがないと口の中に入ったり、鼻から砂を吸い込んじゃったりする。
二人は討伐の準備をして、スライムを囲む。
「ウィンドスライムと同じように股を閉じてポンチョは翻らんようにね。うっかりすると服の中まで砂まみれになるぞ」
「ぱんつの中まで入ったら大変なことになるね!」
うん、そうだね。
まだ陣地作っていないから、それまで脱げないし。
この子ならジャリジャリすると言っていきなり脱ごうとしそうだから、注意しておく。
「じゃあ、リザちゃんがペンチね!」
「命令受諾」
二人が息を合わせて土スラことアーススライムに挑む。
「ふん! 今!」
「光になれ!」
「ふわー!」
ちょっとだけ砂を浴びたがまあまあいい手際だ。
「ちょっと核潰すの手間取った」
「ううん大丈夫。すぐに消えたし。ぱんつに砂は入っていないよ!」
その報告はいりません。
「さあ、どんどんいくぞ。次は火スラを見つけようか」
「うん」
「委細承知。我が邪眼の力をお見せしましょう」
二人が火スラを見つけたのはそれからすぐのことだった。
まあ火スラは赤いので比較的見つけやすい。
「火スラよ。我が邪眼より逃れるすべなどありません」
「最後のスライム、ラストスライムだね」
なんか格好いい感じがするけど所詮スライムだからね。
ただこいつもピンクスライム並みには危険だ。
「ライター程度とは言え火を噴くから気をつけろ。あとビニールとかは火に弱いから、これは逆にポンチョの裾は後ろの方に回しとけよ。万が一火がついたら火傷するかもしれないからね」
一層の火スラ程度ではHPがやばいほど削れるような威力はないが、ポンチョや服に燃え広がれば、炎の勢いは何倍にも膨れ上がってしまう。
低レベルではHPやDEFも低いから、全身火だるまなんかになれば当然HPもあっという間に全損し火傷だってする。
「わかったー」
「命令受諾」
「今度は千紗がぺちんってするね」
「承知」
役割交代して火スラに挑む。
ほぼロウソクやライター程度の火。
息を吹きかければ消える程度のしょぼいものだ。
あっさり核を抜き取られ、ペンチで潰される。
わずかに火を噴いたが熱さが感じられる前に光になった。
「「あれ?」」
「お?」
わずか二匹。
三度目となるスキルボード飛び出し現象だ。
なんか、経験値倍増というより十倍くらいになってない?
我ながら恐ろしいくらいの職業バフだ。
「あっ! スキルが有る」
「妾も!」
「なぁにぃいいいいいいいいいいい」
見れば僕にもスキルが生えていた。
【すきる:みまもり いち】
なんじゃコリャ。
見守り携帯かよって。
見たことも聞いたこともないぞこんなスキル。
異様に早いレベルアップに、異様に早いスキル取得。
普通であればレベル十前後で生えるスキルがレベル三で生える?
世界が震撼するな。
「例のごとく詳細なスキル名は言わないように。どうだ、使えそうなスキルか」
スキルと言っても中にはあんまり役に立たないものもあったりする。
いや、その人のスタイルに合わないというか。
工夫すれば使えないこともない、ちょっと使いにくいスキルも中にはあるのだ。
「だいじょうぶー。超使えるよ!!」
「問題ありません。ついに妾も魔法少女に……」
良かったね二人共。
特にリザは嬉しそうだ。
普段喜びをあまり表に出さないが、嬉しそうなのがひしひしと伝わってくる。
「そうか、良かったな。どうする? 予定のレベル三になったし、ちょっと早いが階層ボスに挑むか?」
「やる! そしてこの力を試すんだ!」
「もちろんです。初めての魔法。今使わずなんとします」
「よし、少し戻って階層ボス部屋にいくぞ」
仙川ダンジョンの階層ボスを倒すと仙川だけじゃなく西東京エリアすべての二層に行けるようになる。
これは西東京エリアの他のダンジョンでも同じだ。
なので吉祥寺ダンジョンのボスに挑んでもいいのだが、仙川のほうが近いし、吉祥寺は人気があるのでアミューズメント層に人が入っている可能性がある。
ボス部屋には六人までしか入れないし、空きがあっても誰かが入っているところに割って入ると横取り行為となってしまう。
終わるまで待っていないといけないのだ。
僕たち三人は来た方向へと戻り、ボス部屋へと向かった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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