はじめてのきょうりょくようせい
はあ、焦った。
「変な汗かいちゃいましたよ」
『すまんすまん。俺も後輩が思い余って外道に落ちたかと。女児を連れ込んだと聞いたらそりゃこうなるだろ?』
「いや、そうですけど、僕だって通報しますけど! 女児を連れ込むとか人聞きの悪い事言わないでください。引率です引率!!」
『おう! そうだな。引率引率』
「ちゃんと説明しますから、いきなり通報とかやめてくださいよ?」
『分かった分かった。通報は最後まで聞いてからにする』
「いや、だから!」
『いや、マジだ。お前も人にこの話する時は話す順番とかに気をつけろよ。法改正なんか興味ないやつはまったく知らないぞ?』
「肝に銘じておきます」
まあ僕だって入院中ワイドショーとかニュースとか暇にあかせて見まくってたから知ってるけど。
通常、法律なんかは告示期間をいくらかとって施行だけど、それでも知らない人が多いからな。
今回は告示後即施行だから知らない人も多いだろう。
第二種試験も数えるくらいしか行われていないし、子供を入れて入ダンしているのってマジで僕くらいみたいだからな。
先輩のこの反応を見る限り。子供が入ダンできると知ってるのは、仙川ダンジョンで僕らを見た人ぐらいかもね。
とりあえず本日レベルアップするまでの経緯をざっと説明した。
「というわけで、さっきもいった通り、二人を引率している時にモンスターも倒してもないのにレベルアップ。それが二回ですからね」
『そうだな。JSとダンジョンに入ったからか、それとも子供ならいいのか子供も関係なく指導したから良かったのか、JCやJK以下はどうなのか。これだけだと判断できないな。お前の精神状態が絡んでいる可能性もあるし』
「そうなんですよね。僕も何がキーになっているか、はっきりとはわからないんですよ。だけど、おそらく子供達の成長が僕の経験値になっているんじゃないかと」
『その可能性は低くはないかもしれないが予断は禁物だ。お前は情報を集めることに注力しろ。その分析はうちのゼミでやる』
「ええ、それをお願いしたくて。当事者だとどうしても、予断が入っちゃいますからね」
『そうだな。いや、俺達だって入らんとは言わんが渦中にいる者よりはマシだろう』
「で、相手は小学女子なので、データの取扱には十分注意してください。ゼミのみんなが信用出来ないというわけじゃないですけど、うっかりってこともあるので。できるだけ少人数で信頼できる人を集めていただきたいんです」
情報が広まれば広まるほど、外部に漏れる可能性は高まる。
意図しなくとも盗み見られるとか、PCを何処かに置き忘れるとか、ウィルスかなんかに引っかかって盗まれるとかね。
『それは当然だな。お前のときだって職業を知ってるのは俺や教授を含めて数人だ。情報管理には十分気をつけている。一次情報に触れられるのは主要メンバーだけにして、個人情報に繋がりそうなデータは削除し、支障のないところだけ公開して協力してもらってたからな』
「そうですね。その点は信用しています」
『お前を追い出した身としては、気が引けるんだが、また関わる事が出来て嬉しいよ。お前の事は、こういっちゃ何だが、心残りになってたからな』
「ええ、僕もそうです。あの時は本当にざまぁ出来るとは思ってもいなかったんですが」
『そんなことも言ってたな。思う存分ざまぁしてくれ』
「ええ、そうさせて頂きます」
『程々にしてくれよ。自分がざまぁされるために協力するとか、訳がわからんぞ』
「レア好きのゼミメンバーには、たまらないんでは?」
『俺たちはマゾかなんかか? まあ、研究者なんかみんなそんなもんだ』
「研究者ディスってません?」
『意外な結果がでる方が喜ぶ研究者は多いぞ。予想通りだと、それ以上研究する事はないからな。俺たちは、未知に飢えているといっていい。知らないことを知ることが何よりの喜びなんだ』
「それは分からないでも無いですが」
僕も研究者の卵ではあるからね。
『お前の存在そのものが未知だからな。お前の存在は、俺たちにとって麻薬その物だ。また暴走しないとも限らないから、十分注意しろよ。女の子達を守れるのはお前しかいないんだからな』
「分かってます。協力してくれる先生方や親達がいますからね。いい重石になってくれると思います」
『そうだな俺たちには、止めてくれる人が必要だ。大切にしろよ』
「ええ、分かってます」
『とりあえずはまだデータが足りない。まずはデータ集めだな。保護者にも許可を取らないといけないし。大体お前の事情だけじゃ説得するネタとしては弱いだろ?』
「それなんですけど、彼女たちのレベルアップが、異様に早いんですよね。最初のレベルアップはたった三体を二人がかりで倒しただけですから。彼女たちの職業が僕のような【天職】という訳でもないので、恐らく僕の職業が影響していると思うんですよね」
早くてもスライム八体。平均十体。
レベル一になるのにそのくらい必要とされている。
しかも二人の共同作業。
経験値が半分になるとは言わないが、それでも幾分削られるはずだ。
いくらなんでも二人がかりにもかかわらず三体は早い。
『職業のバフ効果か?』
「恐らく」
『その辺も検証が必要だな』
「ええ。ですが、僕ひとりだと手が回りません」
『そうだろうな。その辺は俺たちに任せとけ』
「はい、お任せしますので、よろしくお願いします。僕のステータスの値も平均値から明らかにマイナス方向に逸脱しているんで、バフ効果は子供達だけでなく、僕自身にも効果が及んでいるのは確実です。僕にはデバフですけど!」
『その辺もちゃんと記録しとけよ。ステータスはビデオじゃ撮れないからな』
「ええ、大丈夫です。僕の今の仕事は子供たちのダンジョン探索教育用のカリキュラムを構築することですから、できる限りのデータは記録してあります。整理するほうが大変なくらいで」
特にビデオとかは回しっぱなしだからな。
不要なところをカットするだけでも時間がかかる。
あまりにも時間がかかりすぎるので、動画処理用のPCを新たに導入してもらったくらいだ。
『ああ。まあしばらくは、これまで通りデータ集めしとけ。データの整理や集計はこっちでもできるだろう。それはこっちの得意分野でもある。口が固くて信頼できそうな連中に声をかけておくよ』
「よろしくお願いします」
『となると次の目標はスキルか?』
「そうですね。まだ、スキルが取得できるかわかっていませんからね。こっちにもなにかロックがかかっている可能性もありますし、逆にバフがかかって覚えやすかったりなにか効果の高いスキルが生えてくるかもしれません」
『何をどれだけやったら何が起こったのか。それを記録するのも大事だが、お前が何を思い何を考えていたかという主観も大事だぞ。職業制限にお前の心情が関わっていないとはまだわからないからな』
「とは言え、その時その時自分が何を考えていたとか、そうそう記録にはとれませんね」
『別に全部とる必要はないさ。人間いつもいつも有益なことを考えているわけじゃないからな。いや、ほとんどが益体もないことしか考えていない。感動したとか新たな発見があったとか、悲しかった嬉しかった。そんな心の揺れ動きだけを記録しておけばいいさ』
「わかりました。やってみます」
『こっちで人集めが終わったら連絡する。データ集めと親や学校側の説得はお前に任せる』
「これ許可が出なかったらすみません」
『なに、お前個人のデータなら誰はばかることなく出せるだろ? それだけでも十分研究に値するさ』
「わかりました。許可が降りなかったら、そうします」
『ああ、じゃあ、今後は連絡を密に取るとしよう。こっちでグループを作っておくんで、資料の受け渡しや連絡はそこでやろう』
「よろしくお願いします」
『ああ、じゃあまた連絡する』
僕は電話を切る。
とりあえず今日はここまでかな。
精神的にも体力的にも疲れちゃったよ。
小学生をダンジョンに連れていくという初めての経験だし、職業を得ていない状態の三時間は本当に気が抜けなかった。
そりゃあ疲れるよね。
しかしすでにレベル二。
僕はともかく女の子たちはこれだけあれば階層ボスだって安全にクリア可能だ。
安全でないのはブルマだけで。
まあ、着替えも用意しているし、一層にはほぼだれもいないからね。
僕以外見るやつもいないだろう。
僕が独り占め、もとい、僕以外やばい連中はいない。
って、なんか僕がやばいやつみたいじゃないか!
僕はやばくないぞ。
とにかく来週はもう少しスライム退治を体験させてからボスを倒して二層だな。
何しろ僕の職業のバフ効果のせいか、レベルの上がりが早すぎる。
もう少し実体験をさせたいところだ。
モンスターもまだ全種倒していない。
結局火と土のスライムは出なかったからね。
階層ボスはその層で新規に出るモンスターと同じ種類が出る。これは僕が知る限り、例外は出ていない。
アミューズメント層では初期ならともかく現在では、死者どころか重症者が出たという話すら聞いたことがないから、イレギュラーもまずあり得ないが、討伐したことのないやつとボス部屋で相対するのは避けたい。
倒したことがないってことは彼女たちにとってはイレギュラーってことだからな。
まあ、アミューズメント層はすべてオープンフィールドだから基本的にボス部屋から離れればそれ以上追いかけてくることはないが、それも絶対ではない。
常に最悪を予想しろ。
イレギュラーなボスで、イレギュラーな状況というのは起こりうるとして、準備を怠るな。
考えられるとしたらイレギュラーなモンスター。
モンスター溢れの時にボス部屋にいたらどうなるか、はっきりとはわかっていない。
しかしその階層に本来いなかった下層のモンスターが現れたとの報告があったらしいから、ボス部屋でも出ると考えたほうがいいだろう。
後はデスマッチ部屋の存在。
アミューズメント層では確認されていないが、なにか特殊な条件で発動する可能性は否定できない。
ラノベなんかでよく有るのはトラップの存在とかだな。最下層に転移させられるやつとか。
その他突然魔族なるものが出てきたりと、最悪を考えればキリがない。
まあここまでいくと極端にすぎるが。こんなの対応しようにも無理だからね。
となるともう少しレベルアップさせてから挑んだほうがいいかもしれないな。
本当はスキルが有るといいんだが一層程度でスキルが生えるのは難しいだろう。
スキルが生えるのは平均だとレベル十前後。
早くても大体三層から先に行ってからだ。
一層の限界レベルは五といわれているが現実には四まで上げるのもけっこう厳しい。
大抵の人はレベル二もあれば二層に行ってしまう。
これじゃあ、スキルは期待できないか。
僕の装備があれば対応できないということもまずないだろうが。
ステータスこそショボいけど、十層でも過剰装備だからね。
適正レベルなんて言っているが、実際に必要なのは基礎能力や装備+ステータスボードに記される補正値が合わさった総合ステータスだ。
総合ステータスが十分上がれば、討伐における危険は下がっていく。
とはいえ今の総合ステータスなら三層ソロはちょっと危ないかもね。左腕がちゃんと使えた頃ならともかく。
できればもう一レベル上げたいところだ。それでどのくらいステータスが上がるかわからないけど。
女の子たちもまた同時に上がれば、なおよし。
僕の職業バフが次も効けばおそらくレベルアップも早いことだろう。
結局のところダンジョン内での対応力はパーティーの総合ステータスと技量に依存するからね。
僕だけが頑張ってもだめだし、一人が足手まといになってもだめだ。
僕が怪我をしたのも結局は僕が足手まといだったからだ。
他が素晴らしくてもひとつの弱点により全てが崩壊することもある。
皮算用になるかもしれないが、まあレベルアップを試みてもいいだろう。
火と土のスライムを倒し経験を積ませるのと、僕たちのレベルアップ。
そして階層ボスを討伐して二層に。
ここで最低五まで上げれば、まあ、三層でもそうそう怪我を負うことはないはずだ。
その後は学校側と親とでどうすればいいか話し合う必要があるな。
ここで止めるのか。
それとも更に先に進むのか。
武器や防具なんかも必要になってくるだろうし。
僕としては今後彼女たちがどんな道に進もうと、ダンジョンでの経験は決して無駄にはならないはず。
僕だって左手に障害が残っても、これまで培ってきた経験でお金が稼げるわけだし。
ただそれを僕はできるだけ長く見守りたい、そう思うのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
ブックマーク、評価等していただければ励みになります。




