はじめてのすらいむとうばつ
「からだは恐らく平気だが、服とかはポンチョとかでカバーしきれなかったら溶けるからな。ゴム手袋の中にポンチョの袖を入れて隙間がないか確認しろよ。ゴーグルも忘れるな」
「分かってまーす。リザちゃん、一緒にやろ」
「命令受諾」
「さっき目を付けていたのがあるんだ!」
千紗はリザと手をつないで、目標に一直線。
それでもちゃんと周りには目を配っているようなので、注意はしない。
「このぴんくのやつ! エロいやつはまっさきに処分だ!」
お、おう!
そうだな。
なんか僕が処分されそうな気迫だ。
対処としては正しい。
ピンクのやつは体液を飛ばしてくるし、他を対処している間に忍び寄られたら思わぬ場所に体液を掛けられるかもしれない、こいつは目にしたらまっさきに殲滅すべき対象だ。
「千紗が、核を取り出すね。リザちゃんはペンチでぺちんってしてね」
「命令受諾」
「こいつはスライムの中で一番危険だからな。ちゃんとガードされているか確認しろよー」
「わかったー。ポンチョよし、ゴーグルよし、手袋よし」
「こっちも問題ない」
「じゃあ、いっくよー!」
千紗は一気にピンクのやつに手をツッコミ、核を引きがす。
「いま!」
「光になれ!」
タイミングを合わせてリザが核をペンチで挟んで思いっきり握りしめる。
ぺちん!
光が灯る。
「やたー」
「作戦終了」
見事体液を一滴も飛ばされることもなくピンクのやつをデリート。
「うん、お見事!」
「ありがとー! おにいちゃん」
「感謝いたします、導師」
僕の素直な感想に二人は礼をのべる。
「さあ、ガンガンいこうぜ! 目標はレベル二だ!」
大体十匹もスライムを倒せばレベル一になれるはずだ。
職業やその人がどのような経験を得たかでも経験値の入り方は違ってくるから、必ずしもそうとは限らないけどね。
八匹でレベルアップする人がいれば二十匹までかかる人もいる。
優に数千匹倒してもレベルアップしなかった人がここにいるけどねw
割りと【上位職】とも言われるレア職業を得た人はレベルアップしづらい傾向にあるようだが、まったくレベルアップしないのは僕くらいらしい。
ちなみに僕のようにほぼ唯一の職業のことを【天職】なんていい方もする。
あまりにもその人に最適化された職業のため、その人しか発現しないなんて言われるけど本当のところは不明だ。
まあ、基本的に職業は秘匿されるから他に例が皆無とは言わないけど。
なお、二人で一匹倒したからと言って経験値が半分になるということは無いとは言われている。
基本的にはその戦闘でどんな体験や経験をしたか、人として何を得られたかが経験値の取得条件のようで、ただ機械作業のように漫然と行っていると経験値の入りは少なく、毎回工夫して倒すなどしていると経験値の入りも大きくなると言われている。
それも有って、二人にはスライムとの遊び方を教えたのだ。
スライム遊びも経験値取得アップになると様々な検証サイトや論文で証明されている。
実際モンスターを倒さずとも、ダンジョン内で活動しているだけで少しずつ経験値は入っているようで、たまにモンスターを倒したとかでもないのにいきなりレベルアップすることがあるらしい。
もちろん僕にそんな経験はないけどね!
二人はとりあえず希望に沿った職業ということなので、変な制限がかかっていない限り普通にレベルアップするだろうとは思うが。
僕はいくつか目をつけていたスライムに二人を誘導する。
一撃喰らえばやばかったこれまでとは違う。
今はせいぜい服が溶けて丸裸になる程度。その程度ならラッキーで済む。僕が。って、ちがう!
荷物や装備が失われるのに比べたらだよ!
今なら鎧も武器も身に着けていないからね。
どうせ失われるのはうん十年? 昔のばーさんの古着だ。
とりあえず命の危険はない。
レベルが上がれば上がるほど安全性が増すのだ。
ここは一気にレベルを上げたいところ。
「こっちに水スラがいるぞ!」
次のスライムを僕は指し示した。
「やっとかー」
「存在確率に偏りがあります」
「まあ水スラは基本的に水のあるところによく出るからね。ほら、あっちに川とか見えるだろ? ああいう水回りや水たまりがあるところでよく見かける。あと雨上がりとかだとあちこちで見かけるぞ」
「おにいちゃん、早くそれ言ってよね! 無駄に探しちゃったよ」
「水辺は地上でも危ないからな。基本的には近づいちゃだめだ。中に何がいるかわからんし。もし階層に第七種類目の新規モンスターがいるとしたら水の中と言われているくらいだ」
さすがに水の中はあまり捜索されていないからね。
新規モンスターが居る可能性は否定できない。
まあ、もし居たとしても見つけづらいし戦いづらいから放置することになるだろうけど。
水中戦はゲームでもたまにあるけどモンスターのハンターなゲームでもひっそりと消えていったらしいし。
「で、おにいちゃん。この水スラでどうやって遊ぶの?」
「この水スラ、刺激すると水を吐き出す。ここまではいいな?」
「うん」
「しかし通常は攻撃してきたやつとか周りにいるやつにむけて水を噴射するから、そのままじゃ自分が水浴びすることになる。まあ、中にはシャワーがわりに水スラ使うやつもいるけどね。洗い終わったら討伐すれば光になって乾くから。石鹸とか使うとそれだけ残っちゃうけど」
「なになにそれー。それも楽しそう!」
「まあ、もしダンジョンで泊まりになるとか、泥だらけになったとかしたときにでもするといいよ」
「わかった。お外でシャワーってなんかいいね!」
「言っとくけど外ではするなよ? テントの中でな。最後は光になるから、残った汚れとかは拭き取ればいいし。どうせ大した量じゃない」
「えー、ファンタジー小説じゃ川で水浴びとか普通にしてるよ? で、ラッキースケベがあるんだよね!」
「これはファンタジー小説ではありません。ラッキースケベもありません!」
なんで嬉しそうなの君は!
「さて水スラの遊び方だけど、まずはスライムが入る程度のジップロックを用意します」
「あっ、わかった! 袋に入れて水を出したい方向に向けて口を開けるんだね!」
「正解。素早く袋に詰めないと、びしょびしょになるぞ。あと当然スライムも外に出ようとするからそれを的確に阻止しないといかん」
「おにいちゃん、水スラ見張ってて! 袋取ってくる!」
千紗が陣地へ戻る。
「リザは監視な」
「命令受諾」
その後を追いかけていくエリザベート。
誰かがなにか作業している場合は、その周りを誰かが監視する。
それは欠かしてはいけない。
程なくして二人が戻ってきた。
「どれが入るかよくわからなかったから何枚か持ってきた!」
「そうだな。あんまり大きいとスライムと出し口までの距離が離れて、うまくコントロール出来ないこともあるしジャストサイズのほうがやりやすいだろう。それにスライムは不定形だからどれがぴったりサイズかわかりにくいから、袋を当てて確認するのがいいね」
「よし、どれがあなたのお家にぴったりかな、水スラちゃん」
千紗が袋を水スラにかざして、ぴったりサイズを探す。
まあ、水スラにとってはお家というより牢獄なんだが。
「これがピッタリ入りそうだけどどうかな、リザちゃん!」
「我が邪眼もそれが良さそうだと語りかけている」
「おにいちゃんは、どう思う?」
「まあ、好きにやってみろ。こういうのは場数をふまないとだめだからな」
「わかった! で、どうするの? このまま持ち上げて入れるだけ?」
「そうだ。こいつら意外と弾力があってぷにぷにしているから、普通に持ち上げられる。ただしスライムのDEFは低いから力を入れると潰れるぞ。そっと持ち上げること。まあ潰れたからって死ぬわけじゃないけど核がどっかに転がっていくと探すのが大変だ」
核は小さいからね。
ペンチで挟める程度しかない。
「なるほどー」
「あと捕まえる時は二人でやったほうが楽だな。一人が袋の口を開けて待ち受け、もうひとりが持ち上げて放り込む役だ」
「じゃあ、千紗が袋を持ってるから、リザちゃんお願い!」
「命令受諾」
千紗が袋の口を開け待ち構える。
そこへリザが両手で水スラを捉えるべく構える。
「妾が右手に封印されし邪竜よ! 今その戒めを解く! 存分に働け!」
リザが厨二病セリフを吐きながら水スラをキャッチ。
ノンアクティブだった水スラがアクティブに変わる。
「あっ!」
突然水スラが暴れだし、リザの手からこぼれ落ちた。
「きゃっ! 冷たい」
「きゃーきゃー、千紗ちゃんごめん。落としちゃった!!」
水スラ定番の水弾乱れ打ちだね!
ポンチョって基本上からの水を防ぐような構造になってるから、下からの攻撃には弱いんだよね。
特に接近してしゃがみ込んで膝とかでポンチョを挟んで押さえていなかったものだから、水弾でポンチョが捲り上がり、下半身が完全に無防備になっていた。
JS二人はあっという間にびしょ濡れになる。
「うぁーん、お尻までびしょ濡れだー!」
「ちさちゃん! 袋、袋ちゃんと持って! 水スラ入れられない!!」
もう大騒ぎだ。
千紗は袋どころではないし、リザは落っことした水スラを再び持ち上げようとするが、千紗が袋を取り落としちゃってるし、どうにも対処のしようがなく、びしょ濡れ放題だ。
生足とか水でてかてか光ってるし、ブルマからは水が滴ってるしで、おもらしでもしたかのようだ。
小学生なのにちょっとエロい。
「おにいちゃん、見てないで助けてよ!」
おっとそうだった。
堪能、もとい見守っている場合じゃなかった。
僕はリザがつかんでいる水スラに手を突っ込んで核を取り出す。
で、ペンチに持ち替え、一気に核を潰した。
ぺちん!
そんな音とともに水スラは光になって消える。
辺り一面水浸しだったので、当然その辺りが光の奔流だ。
「……謎の光?」
特に集中攻撃を受けたJS二人のブルマ付近が強く光り輝き、テレビの深夜アニメとかでよく見られる謎の光のようになっていた。
しかも明るすぎてブルマが見えなくなっていたので、やばいものを隠すためと錯覚させるかのような演出だ。
「あっ、乾いた」
「ごめんね千紗ちゃん。妾が落としたばかりに」
「大丈夫だよ! すぐに乾いたし。たしかにこれなら風邪引かないね!」
「スライムはアクティブになると急に動き始めたりするから素早くやらないとこんなふうになる。核を抜けばだいぶ大人しくなるから、核とゼリーを分けて袋に突っ込む手もある。後ほぼ無害な水スラだからって油断してはいけない。ガードは常に確認するように」
「それを早く言ってよお兄ちゃん!」
「ごめんごめん。だけど、知らないモンスターが出てきた場合、いつも誰かに聞く暇があるわけじゃないからね。想定外のことが起きても対応できるように注意しないといけないんだ」
安全なうちにこういうことは身に沁みさせておかないとね。
あえて注意しなかったのはこういうハプニングを見たかったからじゃないからね!
「今回の場合だと、相手は水魔法を使ってくるのはわかってたんだから、ポンチョでしっかりガードしてから事に及ぶべきだったね」
「ううぅ。わかった、次はもっとよく考えてやる」
「リザもね。取り落としたときに失敗したのはわかったんだから、袋に入れるのを早々に諦め討伐に移るべきだった。そうしていたら被害はもっと少なかっただろう。ダンジョンでは臨機応変な対応が必要になるんだ」
「ううぅ、ぱんつまで染みたからよくわかった。次は失敗しない」
それをいうなら身に沁みたね?
いや、たしかにぱんつまで染みたんだろうけど!
「じゃあ、気を取り直して、今日中にレベル二にするぞ!」
「「おー!」」
僕は二人を引き連れ次の順番を待つスライムの元へ移動した。
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