はじめてのしょくぎょう
その後休憩と監視を何度か交代し這い寄ってきたスライムを撃退したりして時間をつぶす。
そんな時。
千紗がもじもじしながら言ってきた。
「おにいちゃん、おトイレ行きたい」
ついにキター。
って、喜んでいるわけじゃないぞ。
こいつの処理方法は、出ないと教えられないからな。
ホントだぞ。
「わかった。ちょっと離れているよ。あといい感じのスライムを見つけておく」
「おねがいね」
「ライブカメラ切っておくのを忘れるなよ」
普段はAIしか見ていないとはいえ、緊急事態には前に戻してオペレータが確認することもあるからね。
「うん、わかった」
千紗がカメラのスイッチを操作した後、おトイレ代わりに設置しているテントの中に潜り込む。
「リザはテントの周りを監視。僕は少し離れてスライムを探してくる」
「命令受諾」
陣地の周りには鳴子トラップ、通称『結界』が張ってあるから、少しくらい僕が離れても平気だ。
僕はリザに監視を命じてあたりを見回しスライムを探す。
「そろそろ集まってきてもいい時間なんだが」
一箇所にとどまっていれば流石に足の遅いスライムでもそれなりの距離を移動してくる。
「できればクリアスライムか水スライムがいいんだが。ぴんく、てめえはだめだ」
ピンクは見つけやすいんだがなぁ。
クリアは屈指の見つけづらさだし、水スラも負けず劣らず見つけづらい。
水スラって言ってもほんの少し水色がかっているだけだからな。
ウィンドはうっかりすると神風で袋が飛ばされ、口を閉じ忘れてたりすると、悲惨なことになる。
JSのならご褒美?
いやいや何考えてる!
そうじゃないだろ。
「クリスラちゃん、水スラちゃんどこいるの~」
調子っぱずれの歌を歌いながら辺りを捜索。
「お、こいつか?」
視界の隅に違和感。
「おー、いたいた。ここに旗を立ててっと」
僕は持ってきた割り箸と適当なチラシを切って貼り付けただけの小さな旗を立て、目印にする。
希望通りクリアスライムだ。
まあ、こいつが一番数が多いんだ。本来なら見つかる可能性は一番高い。
見つけられないだけで。
クリアスライムはお手制の旗に取り付くとシュワシュワと溶かし始める。
この程度の旗なら十分もあれば溶かしてしまうが、充分であろう。
大きい方でなければ。
違うよね?
スライムは取り込んだ異物を溶かし切るまでその場を動かないから、とりあえず放置して陣地へと戻った。
「おにいちゃん、スライムいた?」
後手に袋を持ってもじもじしている千紗。
「いい具合にクリアスライムだ。あそこに小さな旗が立っているだろ? そこにいる」
「わかった。ちょっと行ってくる」
「周りに他のスライムはいなかったけど、ちゃんと確認するんだぞ」
「うん、もちろんだよ」
千紗は袋を僕から隠すように持って旗の方へ歩いていった。
そして目的のクリアスライムのところまでいくと手に持ってた袋を投げ捨てる。
ちょっとだけそこで立ち止まり、それから戻ってきた千紗。
「ちゃんと食べてた! これで証拠隠滅は完璧だね!」
「まあそうだな。とりあえず手は拭いとけよ」
「わかった!」
千紗はポンチョのポケットからウェットティッシュを一枚取り出し手を拭く。
水は貴重だからね。
じゃばじゃば水で洗うようなことはできない。
この程度ならティッシュで拭くだけで十分だ。
「妾もしたくなってきた。導師、見張りを頼みます」
リザがおもむろにテントに入っていく。
「ああ、って、おい、見張りは千紗にお願いするよ」
「はーい」
テントは薄いから防音の役には立たない。
ここに突っ立っていたら、もろにJSのいたしている音が聞こえてしまうだろう。
僕は慌ててその場を離れる。
音姫がわりになにか音の出るものを準備しておいたほうがいいか?
スピーカー付きのmp3プレーヤーなら数千円もあれば買えるだろうし、持ってる子もそれなりにいるかもしれない。心臓マッサージ用のペースメーカーにもなるし。
今度からトイレを設置したら一緒に入れておくようにしよう。
スマホだとスライム保護のため袋に入れたりしているから取り出しにくいし、万が一放棄しないといけなくなったら連絡手段が一つ失われる上金額的にもダメージがでかいからね。できるだけ肌身離さずおいておきたい。
プレーヤーはできればボタンで操作できるやつだと袋のまま操作できるから、スライム対策にもいいんだけどいまどき売ってたかな?
最近のプレイヤーはほぼスマホ的操作になっちゃったからね。
比較的安価で買えるので、放棄上等の裸持ちでもいいんだけど。
万全の態勢と思っていてもこんな風に思わぬ抜けが見つかるもんだ。これまで女の子とはほとんど潜ったことはないからね。
そもそも冒険者になる女の子は極稀だし。
とりあえず音姫対策は戻ってからだ。ここじゃもうどうにもならないからね。
必要なら自分のスマホから音楽流してもらえばいい。
今やるべきことはスライム探しだ。
千紗も溶けかけの排泄物を見られたくないだろうし。
「ぴんくがいやがる。処理しておくか」
僕は手早くそいつを処分。
やつは光になった。
その後再び辺りを探す。
「いたいた。旗をさしてっと、うぉ!」
陣地に戻ろうとしたらリザが後ろにいた。
時間を掛けすぎたか。
「導師、持ってきました。確認されますか?」
ためらいなく汚物袋を差し出すエリザベート。
「確認って何をだよう。そこにクリアがいるから投げ込め」
僕は焦って目をそらし、旗のあたりを指差す。
「命令受諾」
リザは無造作にそれを投げ捨てクリアスライムに与える。
「溶けています、導師」
「ああ、溶けてるな」
平気なのかねこの子は。自分の汚物を見られて。
「こうなれば溶かし切るまでこいつは移動しないから放置で。戻ろうか」
「了解しました」
リザを伴い陣地へ戻ると千紗がしっかり監視を続けていた。
えらいぞ。
「あれって溶かしきったらまたこっちへ来るんだよね? 放置でいいのかな、おにいちゃん」
「ああ、このアミューズメント層のスライムは溶解力が弱いからな。あの大きさだと溶かし切るまでに一時間はかかる。そしてあの位置からこっちまで這いずってくるのにさらに一時間はかかるからまあ二時間は放置で問題ない」
これが深い階層だとスライムもアグレッシブになり、溶かす速度も移動速度も段違いに早くなる。
まあ、そこまで潜れる冒険者ならまったく脅威ではないんだけどね。
荷物以外は。
そんなこんなしているうちについにその時が来たようだ。
「あっ、なんかでた!」
「妾も」
職業を得ると問答無用でステータスボードが表示される。
「うっかり職業を読み上げたりしないように。この動画は先生方みんなが見ている可能性があるからね」
職業がわかればスキルも予想できる。
スキルが知られると、対策がとられ、襲われたりする可能性が高まる。
日本での犯罪率は低いとはいえ、注意するに越したことはない。
「わかってる。おにいちゃん以外には言わないよ」
「委細承知済みです」
「ならいい。希望の職業はとれたかな?」
「ちょっと違うけど、問題ないよ! というより希望より良かった!!」
「妾の生まれながらの職業が開放されたに過ぎません」
「そうか。それは良かった。これでスライムを安全に討伐できるようになったから、集まってきたのを片付けてしまおうか」
結構な時間ここに留まっていたからな。
それなりに集まっているはずだ。
「りょーかい」
「命令受諾」
二人は両手にゴム手袋してペンチを取り出し準備を整えた。
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