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はじめてのじんちこうちく

 拠点ではなく陣地と言っているのは、ここが戦場であるからだ。

 拠点じゃ足場にする場所程度の意味しかないからね。

 ここで戦うための装備を設置していくのが目的だ。


「練習通りやるぞ。間違ったことをした時以外口を出さないからまずは好きにやってみようか」


 失敗体験から学ぶこともある。

 いちいち口を出していたら思考停止してしまう。

 それではダンジョンで生き残れない。

 常に自分で考え工夫する癖をつけなければならないのだ。


「わかったー」

命令受諾(オーダー アクセプト)


 二人は中庭で何度も繰り返した陣地構築方法の手順通りにまずは周囲を確認。

 近くに脅威となるものがいないかを確認するのは重要だ。

 次に陣地構築にふさわしい場所を探す。


「リザちゃん、ここがいいと思うけど、どうかな?」

「同意します。地面が平らで、変なデコボコや石のようなものもない。見通しもいいし芝生も伸びすぎていないからスライムを見つけやすいと思われます」

「じゃあ、千紗がペグ打ちするね。リザちゃんは邪眼で監視をお願い」

命令受諾(オーダー アクセプト)。邪眼よ、その封印を解く。存分に働け!」


 おお、邪眼は意思を持つっていう『設定』か!

 厨二病心をくすぐりますなぁ。


 邪眼はどうでもいいとして、ここまでの手順は問題ない。

 一人が作業している間は一人が監視。

 決して監視を怠ってはならない。


 千紗は邪眼による監視のもと、陣地となるけっこう広めにとった四隅にビニールテープをぐるぐる巻いた長めのペグを打っていく。

 しかしこれはテントを立てるためのものじゃない。


「ここでタコ糸を取り出します」


 千紗は取り出したタコ糸をペグに引っ掛け、ぐるぐるとその四方を回る。


「こんなもんかな?」


 タコ糸はペグに三重に巻かれ、ちょっとした柵のようになっている。


「端っこを結んで止めて、四辺に鈴をくくりつけると、簡易陣地の出来上がり。どう、おにいちゃん」

「いいぞ、これまで問題ない」


 いわゆる鳴子トラップというやつだな。

 タコ糸に何かが触れれば音が鳴る。

 スライムならタコ糸を揺らさないこともあるが、自身の持つ消化液のせいでタコ糸が切れて鈴が鳴る。

 どちらにしろ侵入に気がつくというわけだ。


「次はテント張っておトイレ作っておこうか」

「わかった。じゃあ次はリザちゃんお願い。千紗が監視するね」

命令受諾(オーダー アクセプト)


 今度は役割を交代して、千紗が監視。エリザベートがテント貼りだ。


「千紗のペットボトル一本お借りします」

「いいよー」


 リザはまず二人のリュックからペットボトルを一本ずつ取り出す。

 一リットルのやつ二本ずつ持ってきているが、一人から全部取り出すと緊急時に水を回収できず、あとで困る可能性があるからだ。

 非常食にしろ水にしろ、全部を取り出してはいけない。

 必ず予備をリュックの中に置いて、万が一に備える必要がある。

 ここまでは合格だ。


「風向きはこっちか。テントはむこうに展開ね」


 リザは袋に入ったテントを手に風向きを確認する。

 このテントは軽いし袋から出すと一気に広がる。

 風下に出すと風に煽られ、飛ばされる可能性がある。その為、からだで止められるように風上に出すのだ。

 一応、飛ばされないように紐が付けられてはいるが、強風で煽られると一気に持っていかれるから、手にこの紐を持っていると摩擦で火傷をしたり、持っている手が締め付けられ思わぬ怪我をする時がある。

 その点、からだ全体で受け止めれば衝撃も少ないというわけだ。


 リザは基本通りにテントを展開。

 中に二本ペットボトルを放り込んで、手早くペグを打ち込み、テントを固定していく。

 この時リュックじゃなくてペットボトルを放り込むのもまた緊急事態対策だね。

 テントの中にリュックを放り込めば緊急時に取り出せない可能性がある。

 すぐさま荷物をひっつかんで逃げないとという場面で、テントから出す時間は致命的だ。

 その点ペットボトルを一時的な重りとするのであれば水を少しばかり失うだけで済む。

 全損か、一部損害かで大きく違うからね。

 本当なら石とか失ってもいいものを現地調達するのが理想だが、草原には意外なほど手頃な石が落ちていない。

 まあ、現実の草原だってそうそう石が落ちているものじゃないみたいだし、仕方がない。あるもので工夫だ。石がゴロゴロしてたら草原にはならないだろうし。

 こういった細かな注意と工夫を積み重ねることで、可能な限りダンジョンでのリスクを減らすことができるのだ。


「導師、テント設営とトイレの設置完了しました」


 リザはペグを四本打ち、紐の長さで張りを調整。

 もう一度風向きをチェックして、間違いなく入り口が風下を向いているか確認後、椅子と処理袋を中にセットして、重しにしていたペットボトルを回収。設置完了の報告をしてきた。


「うん、完璧だね。二人共えらいぞ」

「えへへへへ」

「状況終了」


 二人共ちょっとドヤ顔だ。


「じゃあ、最初に僕が見張りをしているから、二人は休んでくれ。水分補給と必要があれば栄養補給だ。持ってきたおやつを食べてもいいぞ」

「わーい」


 早速千紗がリュックの中を漁る。


「リザちゃんは何持ってきたの? 千紗はリトルチョコとピッグカツなの!」


 おやつは三百円までだぞ、なんて野暮なことは言わない。

 何をどのくらい持ってくるかは本人の判断に任せた。

 何度もいうがダンジョンではできるだけ自分で考えることを教えるべきと思う。

 マニュアル人間ではダンジョンで生き残れない。

 ダンジョンの中では様々な新しいことが起こる。

 その全てに対応するマニュアルなんか作れっこないからね。


「妾はおいしい棒と、いちごボッキーにしたわ。後で交換しましょう」

「うん!」


 二人はテント前にビニールシートを敷いてくつろぎ始めた。

 テントに入らないのは、基本的にテントはおトイレだからだ。

 逃げるときに中にいては一歩出遅れる。

 なので、テントに入る時間は可能な限り短くするよう指導している。

 雨のときなどは仕方がないが、その時でもできるだけタープを使用するなど、中に入らないで済む準備が欠かせない。


 少女たちのキャッキャウフフを聞きながら、僕はあたりを油断なく見回す。

 這い寄るスライムは非常に見つけづらい。

 しかし僕には邪眼がないから、これまで培ってきた経験で補う他はない。

 幸いにしてw 大学に入るまでボッチ冒険者だった僕はスライムなど腐るほど倒してきた。

 最後の方だと一日潜って百匹超えてたからね。下手したら二百匹クラス。

 驚異の発見率だ。

 普通の人ならせいぜい三十匹超がいいところ。

 スライムは非常に見つけにくいがいないわけではないのだ。


 特にクリアスライムは数が多いくせに見つけづらいから、こいつを見逃して荷物や服、装備なんかを食われるやつが続出した。

 こいつを素早く見つけられるようにならないと、一流の冒険者と言えないと僕は思う。

 まあ僕が一流かどうかは置いてだが。

 スライムはアミューズメント層でなくても出るからね。油断のならないやつだ。

 下層で荷物や装備を失えば致命的だ。決してなめてかかっていい相手じゃない。


「じゃあ、そろそろ交代しようかお兄ちゃん」

「状況開始します」

「了解。今のところ近くにスライムはいないはずだ。それでも注意を怠らないように。あいつらはゆっくりとだが確実に近づいているはずだ。人間や他の異物があれば、奴らはどこからかそれを検知して、集まってくる。気がついたら何十匹のスライムに囲まれてたとか普通にあるので監視を怠るなよ」

「ダイジョーブ。まかせて!」

「心配ご無用です」

「なら交代するか。後を頼むぞ。スライム見つけても近寄らず僕に知らせるんだ」

「はーい」

命令受諾(オーダー アクセプト)


 僕は千紗達が敷いたビニールシートのところに座って、水と携帯食料を手に取る。


「二人共優秀だな。突っ込むところがなかった」


 JSに突っ込むなんて卑猥な事ができるはずもない。

 ツッコミどころがなくてよかったよ。

 って、そういう事じゃない。

 なんか最近、自分がよくわからない。


「とは言え時間を掛けて準備してきたし、ほぼ個人授業だったから、十分なフォローもできた」


 うむ、個人授業もそこはかとなく怪しい雰囲気が……

 JSと話す時は気をつけないとな。

 どこに地雷が埋まってるかわかったものじゃない。


「これをクラスの特別授業の時間だけで教えるとなると、だいぶ密度を低くせざるをえないな」


 二人には万が一はぐれて、一人になっても生き延びられる程度に教えてきたし、装備も整えさせた。

 だが、これだけの装備を全クラスにさせるには予算が足りないだろうし、家庭への負担も大きくなる。もっと簡易的なものになるはずだ。

 装備をみんなで使い回すってことになるかもしれない。

 二クラス合同で最大八〇人とか言ってたけど、予算や引率の教員がどれだけ動員できるかによっては一クラスずつやることになるかもしれないな。

 課外授業の時間もないから、陣地の作り方やテントの貼り方も、口頭の説明だけで済ませざるを得ないかもしれない。


 まあ、いまのが過剰装備で、過剰な教育だというのはわかっている。

 実際に職業を得て、レベルをいくつか上げるだけなら、ポンチョと長靴、ゴム手袋、ペンチくらいがあればいい。

 ヘルメットもプロテクターも、大きなリュックもテントさえ個人が持つ必要はない。

 基本的には遠足装備で十分足りるし、テントなどの大物はまとめてスライム対策したリヤカーにでも積んでくれば、そう負担ではない。個別に持つよりコストは抑えられるだろう。

 この辺は引率に来てくれる先生方にやってもらったほうがいいかもしれないな。

 全校生徒全員に教えるより、先生数人に教えるほうが手間がかからないだろうし。


「まあ、それはまだ先の話だ。今回の成果を踏まえてリスクと労力予算を計算し最適化していけばいい。そのための先行講義だからな」


 今はまずこの二人に職業習得させレベルを二~三くらいに上げることだ。

 それだけでだいぶ安全が確保されるのだから。


「さて十分休んだことだし、そろそろ交代しましょうか」


 せっかく陣地を作ったのだ。

 職業取得までは見張りを交代しながらここでゆっくりしよう。

 その後はいい具合にスライムが集まりだしているだろうから、それを叩く。

 二人が職業さえ取得すれば多少のスライムに囲まれたって問題ないのだから。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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script?guid=on異世界のジョブズに、僕はなる ~定年SEの異世界転生業務報告書~
もよろしくお願い致します。こちらは異世界ファンタジーになります。
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