はじめてのだんじょん
おまたせしました。
30話目にしてようやくダンジョン入りですw
「おにいちゃん、おそーい!」
入り口で考えにふけっていたので千紗がぷんぷんだ。
「ごめんな。母と妹に挨拶してたから」
「むぅ。それなら仕方ないか。許してあげる」
「ありがとう。じゃあ、最後の確認だ。危険がないようにこれまで万全の準備をしてきた。だが心の緩み一つでダンジョンは牙を剥く。本当の敵はダンジョンでもモンスターでもない。己自身の心だとしれ! 皆、心の準備はいいか!?」
「もちろん!」
「問題ありません」
「では、ダンジョンに入る。一応ここもダンジョンと言ってもいい別空間だが、ここではモンスターも出ないし職業も得られない」
「ホント不思議。さっきまでママたちが見えたのに、ここに入った途端見えなくなった。ここから外はちゃんと見えるけど中は石畳の地面とすぐそこに幅広の階段があるだけ」
「ついに妾は世界の裏側へと到達したのか?」
「世界の裏側かどうか知らないけど、ここは不思議空間であることは間違いない。ただここはまだその入口にすぎない。本当の不思議はその先にある」
僕は二人を促し先に進む。
すぐに下に降りる階段があり、その向こうに駅にあるような自動改札機が目に入る。
「ダンジョン前に自動改札機があるのって、ダンジョンが存在するのとどっちが不思議かな?」
「違和感ありすぎます」
岩の階段と自動改札機のコラボは冒険者の間でも不評なものの一つだ。
「一応入退室管理のためのものだから。誰がいつどの階層に入ったか分かれば、ライブカメラとその映像やジャイロセンサーなんかの情報をもとに対象者がどのへんにいるか判断してくれるんだ」
「はいてく?」
「ハイテクといえばハイテクだな。ダンジョンが何者かの技術で作られているのなら、こっちのほうがハイテクかもしれないけどね」
「うーん、まあいいか! いくよ!」
「おー?」
千紗の掛け声で三人が階段を降り始める。
階段は広く、五メートルくらいはあるか。
上から三メートルくらい下がると踊り場があり、そこへ自動改札機が設置されている。
普通の人用の狭い改札と、大荷物やリヤカーなどの搬入用に幅広の自動改札なんかもある。
その向こうの壁に怪しく揺れる膜状のものがあり、そこをさらに進むとダンジョンの中に入ることができるようになっていた。
ただし、階層ボスと言われる特別なモンスターを倒さないと下の階層の不思議な膜は通れない。
いま千紗達が入れるのは、最初の踊り場にある地下一層のダンジョンだけだ。
二層以下へいく場合はこの踊り場を左に九〇度曲がって更に一メートルくらい降りるとそこにも踊り場があり、突き当りが二層だ。
同じく三層はそこから左に九〇度下へ一メートルの突き当り。
これがこのダンジョンなら現在は三〇階層まで続く。
ゲームのワープポイントのようなものはないが、比較的楽に最下層まで行くことができるようになっていた。
一階層あたり約一メートル下がるので、三十階層にいくためには三十三メートルほど下がるが、一応ダンジョンの中なのでステータスによる補正値が入る。
下層まで行けるようなやつなら三十メートル程度の上り下りなど屁でもないだろう。
まあこのせいでダンジョンは人を誘い込む罠などと言っている人もいる。
美味しいアイテムと。行き来しやすい地形。
まるで入ってくれと誘っているようだ。
「さっきは千紗が最初に入ったから次はリザちゃんが最初ね!」
「承知した。状況を開始する」
リザは冒険者カードを自動改札機にタッチし通り抜け、不思議な膜の前で立ち止まる。
「いっくよー!」
千紗も続いて改札をくぐっていく。
それに僕も続いた。
自動改札は数台連なっているから、同時に入ってもいいのだのと野暮な指摘はしない。
「じゃあリザちゃん。せーので入るよ。おにいちゃんもね!」
「命令受諾」
「了解」
僕を真ん中に三人並んで不思議な膜の前に立つ。
「せーの!」
一斉に三人が第一歩を踏み出した。
「おー、すごーい! 外だぁ!!」
「さすが世界の裏側。こんなにも広大な世界が広がってるとは驚き」
二人共目を丸くしてあたりを見回している。
映像とはまた違った感動があるのだろう。
「こらこら。感動するのも辺りを警戒してからだ。出会い頭にモンスターと鉢合わせってこともないわけじゃないんだからな」
感動に水を差すようで悪いが、ここはすでにダンジョンの中。
油断していい場所ではない。
「そうだった! 安全確認実施します!! 右翼異常なし。クリア!」
「命令受諾。左翼異常なし。クリア」
「それ僕もやるのか? 前方異常なし、クリア」
「たいちょー。全方位安全確認終了しました!」
「ふむ、ご苦労」
って、僕が隊長かよ。
まあ、そうでないとは言わないが。
「よし、安全確認が済んだらとりあえず入り口から離れるぞ。いつ誰が入ってくるかわからないからな」
とりあえず三人連れ立って、予定通り下見しておいた障害物の比較的少ない方へ進む。
「一応中で冒険者があまり接近しないように、冒険者同士が接近し過ぎると警告音が鳴る。これが鳴ったら速やかに距離を置くように。救助要請もないのに近づいたら、害意があるとみなされるぞ。直接攻撃はしなくてもモンスターの横取りとか、モンスターを引き連れてのなすりつけとかされる可能性があるからな」
「だいじょうぶ。講習会でも言ってた」
「それと同系統の仕組みなんだが、同じ階層に入る際は近くに誰かいると自動改札機が開かないようになっている。入り口にとどまっているとはた迷惑だから、安全確認が済んだら速やかに移動すること。いいね?」
「わかったー」
「命令受諾」
「かといって慌てる必要はない。足元をよく見て障害物がないかスライムがいないか常に確認して歩くのを忘れるな」
僕は歩きながら、これまで繰り返してきた注意を再度繰り返す。
こういうのは何度も注意して、無意識にできるようになるまで繰り返すことが大事だ。
頭で考えて注意しているようでは、何か他のことに気を取られればすぐに注意を怠る。
体が無意識に動くようになるまで、何度も注意し経験させることが必要なのだ。
「一点に集中しすぎると他が見えなくなるから、視線は全体を見回すようにして、その中に違和感を探すんだ」
「うみゅう、難しいよ」
「そりゃ簡単じゃないさ。アミューズメント層から下層にいかないのであればこんなテクニックは必要ないんだけどね。下層に行く頃にはスライムなんか踏んづけても平気なくらいレベルも装備の質も上ってるだろうし」
「んっ、がんばる! アミューズメント層なんかすぐに突破して、このダンジョンもクリアしてママたちを助けるの! おにいちゃんもそうなんでしょ?」
「……」
千紗がダンジョン探索クラブに入った動機は聞いていなかったが、なるほど、僕と同じ理由だったのか。
僕が講師を務めるからという理由も有ったかもしれないが、そんなものはなくてもきっと千紗はこの道を選んだろう。
「ああそうだな。二人でダンジョンを制覇しよう!」
「おー!」
「二人共妾を忘れてもらっては困る。妾は千紗の守護者。どこまでも付き合う」
「ありがとうねリザちゃん」
「礼には及びません。妾には妾の理由があってそうしているまで」
「うん、わかっている。でもありがとう」
「……うん」
エリザベートが素直な感謝に恥ずかしがっている。
うん、うん、青春だねぇ!
男女なら恋人同士かと思うような甘酸っぱさだが、JS同士なので、ちょっと百合百合しい。
なんか尊い。
不意にそう思ってしまった。
リザの屋敷に撮影に来るおねーさま方の気持ちがわかった気がする。
こっちはブルマ姿だけどね!
流石におねーさま方も二人のブルマ姿を見たことはないはずだ。
僕は両方を見ている。
勝ったな!
何に勝ったかよくわからないけど。
「さて、歩きながら色々説明していくぞ。講義を聴いただけじゃ実感が伴わないだろうからな。まず注意するのは当然足元だ。アミューズメント層に飛ぶモンスターはいないから基本的に上を注意する必要はないんだが、あそこのような木のそばではスライムが降ってくる可能性があるから、近づかないか、どうしても近寄る必要がある時は、十分上に注意する必要がある。ごくたまにウィンドスライムのつむじ風で飛ばされてくるとか、地形効果で突風が吹くとかで飛んでくるスライムも稀によく見かける」
気恥ずかしくなって見ていられなくなったので、とりあえずぶった切って説明を始める。
「稀によく見かけるって結局どっちなの?」
「慣用句だ。気にするな。まあ油断しているときほどよく飛んでくると思っておけばいい」
ネットでも油断してたらスライムが飛んできて、荷物食われたw とかの発言がけっこう有ったりする。
まあ、油断していなかったらスライムが飛んできても避けるかはたき落とすからね。
そういう発言はまず誰もしないだろうし。
「わかった!」
千紗はその説明で納得したのかうなずく。
「頭上に物がないときは当然足元を注意するが、一番危険なのはスライムではあるが地形にも注意するように」
「穴が空いてたり、崖が有ったり、沼になってたりするんだよね?」
「そのとおり。こういっては何だがダンジョンの中は未整備であることを忘れてはいけない。公園や観光牧場みたいに整備された芝生じゃない。穴もあればでっぱりも崖もあるし水たまりが沼になったりする。地球の大自然だって厳しいんだ。ダンジョンはもっと厳しいと思った方がいい。
ネズミとかうさぎとかモグラ系のモンスターが居る階層だと、よく穴が空いてたりするし、雨が降れば沼になってたりもする。モンスターはでかいから人間なんかズッポリ埋まるぞ。
日本でさえ時々地面が陥没して大穴が空いたとかニュースでやってるだろ? ダンジョンはそういう現象がいたるところで起こる。天然のトラップなんて言ってる人もいるくらいだ。十分気をつけるように」
「命令受諾。油断はしません」
「うん。しっかり見てるよ」
「しっかり見てても見逃すのが地形トラップやモンスターというやつだ。中には隠蔽というスキル持ちじゃないかと言われるような隠れ上手なやつがいるから、油断がならない。ほら早速現れたぞ」
「うみゅ? どこ?」
「所在不明。ヒントを求めます」
「草が風で揺れているだろ? でも一箇所だけ揺れていないところがあるんだ。わかるか?」
僕はちょっとしたヒントを出すが、やはり見つけられないようだ。
一度見つければ見逃すことはないんだけど、気がつくまではなかなか大変だ。
人間って瞬間的に変化があるところは気が付き易いけど、じわじわ変化するものには気が付き難いんだよね。
前にテレビとかでやってたとかいうアハ体験とかいうやつだ。
二つの映像が少しずつ変わっていってるのにそれに気が付かない人のなんと多いことよ。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
ブックマーク、評価等していただければ励みになります。




