はじめてのとうばつたいけんけんがく
「あれ? あそこかな?」
「え? どこでしょうか?」
「ほら、あそこの芝生。なんか変じゃない?」
「あっ、本当に草が揺れていない!」
「せーかい! あれなんだと思う?」
「一緒に答え言おうか? せーの」
「「ウィンドスライム」」
「これまた正解! ウィンドスライム。グリーンスライムなんて呼ばれ方もする。文字通り緑色のスライムだけど半透明だから、中に入り込んだ草が透けて見えているんで、スライム本体は見えにくくなっている。スライムはダンジョンに元からあるオブジェクトは溶かさないからね。草原のこいつを見つけるのは至難の業だ。で、こいつの別名が神風スライム。主に風魔法で風を起こすからだが、しょせん低層のスライムなので風そのものは大して脅威じゃない。せいぜい浅くかぶった麦わら帽子が飛んでいくとか、女の子のスカートがめくれるとかその程度だ。ダンジョンにスカートで入るやつはまずいないけど」
「うみゅ、風魔法を使うのはわかるけど何故に神風?」
「あー、なんて説明したらいいかな?」
いいのかJSにこんなの説明して。
少女紙のほうがもっと過激だったからいいのか?
いや、岩崎先生に披露していないエロネタは厳禁だ。
「大昔? に忍術で風を吹かせて『神風の術』とか言ってた忍者の漫画だかアニメだかが元ネタらしい。僕も見たことはないからよく知らないんだけどね」
この程度の説明ならいいだろう。
「へー、そうなんだ」
「そう。なのでポンチョとかめくれるから、ここにピンクスライムとかコラボしていると、エロいことになるので気をつけるように」
結局エロい方向に話がいっちゃったよ。
ピンクスライムの話は岩崎先生お墨付き? だから構わんだろう。
「なるほどー、合体技かー。リザちゃん、なにかスキルを手に入れたら合体技を考えようよ!」
「同意する。妾と千紗ならきっとかっこいい合体技ができるはず」
「うん頑張ってくれ」
ちょっとした連携だって技と言ってしまえば技だしね。
仮面ライダーなんか単なる飛び蹴りをライダーキックとか言って必殺技にしちゃってるみたいだから、言ったもの勝ちだ。
「とりあえずまだ君らは職業を手に入れていないから、このスライムを倒すことはできない。逆にスライムの粘液を浴びれば皮膚が溶けるから十分注意が必要だ。場合によっては骨まで溶けるぞ。ウィンドスライムは粘液を飛ばさないから、比較的安全だけどね。まあ、実際に倒すことができないか試してみようか」
「どうするの?」
「このメイスを使ってみるか? 両手なら持てるだろ?」
僕は括り付けてあったメイスを千紗に渡す。
「重いけど持てないほどじゃない」
まあ僕が片手で持てるくらいだからね。
「ここがスライムの核だ。わかるか?」
「うん、ちょっと色が違うところがある」
「こいつを破壊すればスライムは消滅する」
「わかった。もう叩いていい?」
「ちょっと待ってね。いまゴム手袋着けるから。スライムは基本的に攻撃するまで非アクティブ。つまり積極的な攻撃は仕掛けてこないけど、攻撃を受けるととたんに活発になる。千紗が叩いたらどうなるかちょっと様子を観察したら僕が倒すからね」
僕はゴム手袋を口を使ってはめると、ペンチをリュックのポケットから取り出す。
「準備できたぞ。やれ!」
「えい!」
千紗がメイスを振り下ろす。
ガツン!
地面を叩く大きな音が聞こえた。
スライムは未だ健在。
全くダメージを負っているようには見えない。
「いったー。手がしびれちゃったよ」
「ほら油断するな。『神風』が来るぞ」
突然の旋風。
「いやーん、まいっちんぐ!」
千紗がポンチョの裾を押さえながらそんなことを言い出す。
「おいネタが古いな。どこでそんなセリフ覚えてきた!」
「おばあちゃんが言ってた。元ネタなんてあるの?」
「おばあちゃん何してくれてんの。純真な小学生に変なこと教えないでほしい。説明に困るじゃないか。とりあえずよく見ておけ。これがウィンドスライムの特徴だ」
スライムを中心として風が巻き上がるが、せいぜいポンチョがめくれ上がってブルマが丸見えになるくらいだ。もともと半透明なんだけど、生とはぜんぜん違う。生とは。
こういうことがあるから本当は雨合羽がいいのだが、雨合羽は雨合羽で蒸れるから、激しい戦闘のあるダンジョン向きではない。
ハイテク素材ならともかくビニール等の素材じゃまったく通気性がないからね。
汗で服がすぐにびしょびしょになるのだ。
こんな薄い体操服ならあっという間に透けてしまうだろう。
その点、ブルマが丸見えになるくらいのデメリットしか無いポンチョのほうが……丸見えになるからメリット? 透けるのもいい? どっちもいいのか? これはセーフ? アウト?
いやいやいかん。
何考えてるんだ僕は。
ここは紳士になるべき時。
紳士紳士……しんし?
あれ?
なにか引っかかるような。
「おにいちゃん、早くやっつけてよ! ポンチョが飛んでいっちゃう」
「同意します」
ポンチョがめくり上がってブルマが二つ。
体操服までめくれておへそがチラリ。
うん、二人とも体操服はブルマの中に入れない派か。
できるだけそっちを見ないようにウィンドスライムに右手を突っ込む。
ウィンドスライムのDEFはあるんだか無いんだかわからない僕のATKより低いらしく、ずぼっと手がめり込んでいきそのまま核を引き抜く。
まあ、レベルゼロでこれができなかったら詰むけどね。
スライムより弱いモンスターはいないからレベルが上げられない。
レベルをあげようとしたらスライムごときにATKを上げるような武器が必要になる。
僕はどんなにスライム倒してもレベル上がらないけどね!
だがこれだけしてもまだ死んでいない。
神風は吹き続け、ブルマも生足もおへそも見えまくる。
しかし一応説明しとかないといけないし見ないわけにもいかない。
「おーい見えてるか? これがスライムの核だ」
「おー。そうやって取り出すとよく分かるね」
「同意。その状態なら核とすぐわかります」
二人はポンチョを抑えることを諦めたのかめくられ放題になっている。
「この状態でもこのスライムはまだ生きていて、こうして『神風』を発し続けている。これを壊すのは意外に手間で、握りつぶすなど到底無理、地面に叩きつけても踏んづけても、草原の柔らかい地面じゃ全く破壊は不可能だ。なのでこうしてペンチで挟んで思いっきり潰す。じゃあ、言ってみようか。せーの」
「「光になれ!」」
その掛け声に合わせて僕はペンチを強く握りしめる。
ぺきん!
そんな音を立ててウィンドスライムの核が破壊される。
同時にスライムの核と残されたスライムゼリーが神々しいまでの光のエフェクトを発し消えていく。
「ほわー。これが消えるときの現象なんだね」
「美しいと素直に表現します」
「ああ。どんな凶悪なモンスターだろうと、消える時はこんなふうに消える。いや、強力凶悪なほどいっそ神々しいと言っていいくらいの光を発して消えるそうだ。僕もまだ見たことはないけどね」
僕が行ったことがあるのは十層まで。
しかも討伐の時はぶっ飛ばされて気絶して、倒したときの光景は見ていない。
一応守護者と言われる十層の番人だ。しかも最強最大最悪種。
さぞかしきれいだったろうが、仲間はそんなもの見ている暇もなかっただろうと思うと、少し悪い気もする。
まあ、アイツラはすでに十層なんか何度もクリアしているから今更感動も何もなかっただろうけど。
光とともに消えたスライムだが、一応アイテムを残す。
大抵は小さな魔石で、一個百円とかが査定額の上限のくせに、スライムなんか一日探し回っても普通の人はせいぜい三十匹~四十匹くらいしか見つからない。なにしろアミューズメント層は広いからねぇ。
時給千円で三時間働いたらもらえる程度のお金が、丸一日朝から晩まで働いてようやく稼げる程度。
それじゃ誰も来ないよ。
今は奨励金がプラスされるし手数料も免除だから多少は上乗せされるが、たとえ倍になっても一日六千円~八千円程度。
月二十日潜ったとしても十二万円~十六万円の収入。
なけなしの十二万円から更に一万二千円が差っ引かれ、さらに所得税と住民税、消費税に国民年金等々引かれたら、いったいいくら残るんだって金額だ。
実際には手数料一〇%が取られて一個九〇円の収入だったから、月に稼げるのは五万四千円くらい。なんと基礎年金より低い金額しか稼げなかった。
今回手数料がなくなって九十円だったものが百円に、それに奨励金十%プラスだから、百十円が収入になるはずだ。
この計算だと月の収入は六万六千円程度。
九十円が百十円になっても焼け石に水だね。
ちーん。
これじゃ生活できないよ。
二層ならともかく一層じゃ生活が成り立たない。
初心者でレベルアップ目的の人を増やすしか無いよね。
レベルアップのついでにお小遣いがもらえたらいいくらいの感覚で潜る人が増えればくらいのさじ加減だね。
「今回のドロップはっと」
僕は光が消えたあたりを探す。
魔石は小さいので見逃しがちだ。
「あった。これが魔石だ。見たのは初めてだったよな?」
「うん。初めて」
「妾も見たことはない」
下見の時とかいくつかスライムを倒したので、その時の魔石を持って出ても良かったのだが、一旦ダンジョン管理局の外に持ち出すと、管理局では買い取ってくれなくなる。
魔石に変な加工がされる可能性があるからだ。
そうなると民間の買い取り所で買ってもらうしかなくなるのだがこちらは手数料が高い。
加工されていないことを確認するための手間がかかるから仕方がないが、わざわざ数百円のために売りに行って高い手数料を取られるのも癪だから、低額のアイテム買い取りはすべてセンターで行っている。
これがレア物のアイテムだったりすると、オークションサイトに流したほうが高値で売れる場合もあるので、どっちを利用するかはケースバイケースになる。
「基本的に一番大きな塊の方にドロップアイテムは出る、この場合は核を潰したところじゃなく、スライムのゼリー状本体が残っている方だね。他の魔物も残ったからだの大きい方に出るから、十七分割とかすると、探すのが大変になるから気をつけるように。特にバラしながら動き回られるとあちこちにからだが分散するから、せっかく大物を倒してもアイテムをはぎ取れなくなるからね」
剥ぎ取るはまあ俗語だね。
昔のゲーム用語から来ているそうだ。
十七分割も元ネタがあるらしいが僕は知らない。
「ほえー。十七分割とかして魔物は生きていられるんだ」
「スライムだと普通に生きているぞ。スライムをちぎっては投げ、ちぎっては投げしたり地面にこすり付けたりして、最後に核を潰し地上に光の絵を書いたり、魔石の探しっこゲームしたりとか、スライムの核を他のスライムに埋め込んでキマイラスライムを作るとかスライムは色々遊べるんだ」
「おー。千紗もやってみたい!」
「職業が得られたらな」
なんてことをやってもまだ一時間も経過していない。
後二時間以上何で時間を潰そうか。
とりあえずお絵描きでもしてみようか。
僕らは手頃なスライムを見つけに草原を歩き始めた。
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