はじめてのよりみち
千紗リザコンビに引きずられるようにして連れて行かれた一軒のお店。
オサレなかんじで僕一人じゃ絶対に入らないタイプのお店だな。
「リザちゃん、何がいい?」
「チョコかそれとも定番のいちごか。それがもんだいです」
「なら問題ないよ! どっちも買って二人で分けっこすればいいんだよ!!」
「千紗がそれでいいのなら無問題ね」
もっと悩むかと思ったら意外に即決。
まあ千紗は悩みなさそうだからな。
これと決めたら一直線。
悩むくらいなら突っ走れ!
みたいな。
「飲み物はどうするんだ?」
「妾はダージリン、ホットで」
「千紗もそーする! ケーキにはやっぱり紅茶だよね」
一応ちゃんとこだわりはあるみたいだ。
「じゃあこれとこれ、ダージリンティー三つで」
店員さんに注文して席に移動。
準備ができたら持ってきてくれるようだ。
「みんなはここ初めてか?」
「そうなんだよ。お小遣いだけじゃ、ここでちょっとケーキ食べただけで現ナマが尽きちゃうんだ。他にも買いたいもの沢山あるけど、ぱぱが自分で稼いだお金じゃないのに贅沢しちゃいけませんって」
おい、今どき現ナマなんて言葉使うやつはそうそういないぞ。
それはいいとして、パパはけっこうスパルタなのか?
「いつかお大臣してやろうと狙ってたんだ」
それで店選びしていたときもすぐにホームページ開けたのか。
「こんなこともあろうと、常日頃の情報収集は欠かさなかった成果だね!」
「幸運の女神には前髪しか無いのにその数少ない前髪を見事につかむなんてさすがね千紗」
「それほどでもー。えへへへ」
ちょっとディスってないかリザ?
数少ないとかつけると、『さすが』の意味が変わってくるぞ?
さすがね、が非道ねに聞こえてくるw
いい子のみんな、女神の前髪は引っ張ってもいいけど、波平さんの髪の毛も引っこ抜いちゃだめだぞ。
「そういえば、モンスター倒した時に出るドロップアイテムって、換金できるんだよね? そのお金はどうなるの?」
「授業の時に出たアイテムで得られたお金の方はまだ決まっていない」
魔石だけならいいけど、確率は低いがレアアイテム出ると数千円から数万円くらいはいっちゃうからね。
万が一というか億が一? URアイテムなんか出たら億の単位だって珍しくはない。
ここまで来ると絶対モメるから、上の方でもいくつか案を出して、保護者にアンケートを取って決めるとかいってたな。
「ただ、クラブ活動で得た利益に関しては、その時参加した人数で頭割りだね」
「えっ? いいの?」
「一般的な冒険者パーティーだと、パーティーでの共有財産として何割かプールして、後は頭割り。もし売らずに自分たちで使うような武器や防具が出た場合はパーティー共有の財産として使用者に貸与する。パーティーを解散するとか誰かが抜ける場合は売るなり、相応の価値のあるものを分け合ったりするみたいだから、うちもその方式にする。僕と君たちで頭割りだね。部活でかかる費用については基本的に活動補助費で収まるようにするつもりだが、もしこれを超えた場合は部費として徴収することになる」
「頑張ればお小遣いが増える?」
「うん、そうだね」
「やったー。千紗がんばるね! ケーキ食べ放題だー!!」
うん、頑張ってくれたまえ。
成長期とは言え、横に成長しないように気をつけようね。
とかだべっているうちに店員さんがやってきた。
「おまたせしました。チョコムースケーキのお客様」
「とりあえずリザちゃんでいいかな?」
「問題ありません」
「じゃ、そっちに。千紗は苺ショートね!」
ケーキをそれぞれの前に置き、紅茶は三人同じなので適当に回す。
「「いただきまーす」」
「おう、召し上がれ」
「んーあまーい。いちごちゃんと二つ載ってるから一つ残しておくね」
「ん、こっちはウワモノがないので問題ありません」
上モノって家じゃないんだから。
でもケーキの上に乗ってるいちごとか一般的になんていうか知らんけど。
デコレーション?
「くー。ごぞうろっぷに染みますなぁ」
やっぱりお前いつの時代の親父だよ。
ばーさんの家でも入り浸ってるのか?
こりゃあ多分じーさんの影響だ。なんか昔聞いたことがある。
じじばばの家も一応ご近所だし、千紗には僕みたいなわだかまりもないだろうし。
一度家庭訪問する必要があるかもね。
ご無沙汰しているので敷居が高いのだが。
「妾の右手に封印し邪竜よ、静まれ! 全部を食べてしまってはいけない」
それは厨二病じゃありません。単なる食いしん坊だから!
これだけ喜んでくれると奢った甲斐あるけど、お小遣いあんまりもらってないのか?
「んじゃ、交換ね。んでこっちはどんな感じ?」
「ふわふわで甘々でした。邪竜の封印が解けかかったほどです」
「そっかー。期待大だね! こっちはねぇ、定番の安定した美味しさだよ! いちごショートにハズレ無しだね」
確かに。
いちごのショートケーキで外れたとか聞いたことがないね!
二人はお皿を交換し合ってそれぞれのケーキをつまむ。
「とろけるー」
「うむ、いつもの味。ホッとします」
僕も二人を見ているだけで幸せになるような笑顔だった。
しかし女子小学生二人を侍らせてケーキを食わせて、それをニヤニヤ見てる図って誘拐犯ぽくない?
しかも片方がゴスロリ少女。
もう片方だってそれに負けていない可愛らしい少女。
その辺歩いてたら絶対誘拐される。
と言うか僕がお持ち帰りしたい。
やばい、僕がおまわりさん呼ばないと。
おまわりさん僕です!
大丈夫だよな?
おまわりさん来てないよな?
とりあえず挙動不審な様子を見せたら間違いなく通報されるだろう。
僕なら通報する。
単なるつきそいですよー。親戚のお兄ちゃんです、みたいな顔して紅茶をすする。
「この紅茶もなかなか。香りがいいね」
淹れ方がいいのか、茶葉のせいか。
安物ティーバッグでは出せない味だ。
男所帯だから、生ゴミの出る紅茶はあまり飲まないんだけどね!
たまに飲みたくなって最小パック十個入りのやつとか買ってきても、半分くらい使って後は放置とか稀によくある。
そんな程度の飲み方じゃ紅茶の淹れ方も上達しないか。
なんてことを考えていたら、もう二人共食べ終わってしまったらしい。
「うはー、美味しかった! もう一個食べたい!!」
「同意します」
「でもこれ以上食べたらお夕飯がムリー」
「妾は問題ありませんが、千紗が我慢するのであればお付き合いするのが人情というもの」
厨二病から人情物に変わってるぞリザリザ。
いいのかそれで。
これがシュガーハイってやつか?
二人共甘いもの食べてちょっと興奮気味だね。
「二人共あまりケーキとかは食べないの?」
「まあね。ぱぱ、独り者だからそう言うのに疎くて。帰りもけっこう遅いから、割とおばあちゃんのところにいたりするんだけど、おばあちゃんちは和菓子とかお煎餅が多いんだ。きらいじゃないけどこれじゃない感がー」
あー、男親だとそうなっちゃうか。
子供一人置いておくのも不安だし、それで頻繁にばーさんのところに行ってるのね。
「妾のところは割と出るけど、それはそれ、これはこれ」
「リザちゃんところはいいよね~。写真撮影の小物とかいって撮影に来るおねーさん方が色んなスイーツ買ってきてくれるんだって。流石に撮影する人だけじゃ食べきれないので、リザちゃんちとか工房の人とか、他に撮影に来たみんなに分けてくれるんだって」
「工房? おねーさん?」
「言ってなかったっけ? リザちゃんちはリザちゃんがいま着ているようなお洋服の工房を兼ねているんだよ! 素敵なお家でね、そこでお洋服買うとね、そのお家で撮影もできるんだよ。だからいつ行っても素敵なおねーさんたちでいっぱいなの!」
おう。
両親が厨二病だったわけじゃなく、家業? だったのか。
「なるほど?」
素敵なお家というのは想像も付かないが、まあゴスロリ着て似合う家ということなんだろうな。
そうなればしょぼいお菓子じゃ見劣りするだろうからな。
ボリームもそれなりにないと見栄えしないだろうし。
少人数じゃ食べきれないというのもわかる。
「撮影に協力すればいつでも食べられる」
「そうなんだけどねー。やっぱりちょっと気がひけるというか」
「なんだ? 写真とか撮られるの嫌なのか?」
「ううん、それは問題ないんだよ。綺麗に撮ってくれるし。でも撮影に行くと着ていた服とか小物、みんなくれるんだ」
「? その何が問題だ? モデル料代わりなんだろ?」
「そうなんだけど、おにいちゃん、これ見てよ。安いやつでも十万とかするし、下手したら三十万円とか超えてるでしょ?」
僕は千紗に手渡れさたスマホの画面に目をやる。
「『ロリータの退廃的な館』? コスプレサイトかと思ったらちゃんとした販売サイトなんだな。おう、たしかに千紗もいる。背景に写ってるのがそのお家か」
「でしょでしょ。かわいく撮れてるでしょ!」
「うん、そうだな。でも千紗はいつもかわいいぞ」
「えへへへへ」
はにかむ笑顔が可愛い。
「お、おう。いや、確かにいい値段だな。こんな値段で売れるのか? というか買うやついるんだろうな。ゴスロリ道は厳しいな」
「まあ、うちはフルオーダーで素材もいいの使ってるし、その後の仕立て直しとかもほぼ実費のみでやってるから、どうしてもこの値段になるって。一生モノどころか孫の世代まで受け渡せる品質とか、ホンモノの求めるお客さんにしか売らないとか、ママが言ってた」
うはぁ、本物志向と言うか本物を提供するお店か。
しかも撮影場所まで提供するこだわりよう。
千紗が写っている写真の背景が千紗の言う素敵な家なのだとしたら、こりゃあ相当だぞ。
原価も高くなるが、それに見合った値段にしないとやっていけないだろうな。
「一日撮影して下手すると、ン十万とかの服をもらうことになっちゃうわけなのよ。リザちゃんと違って早々着る機会もないし。ああいう服きらいじゃないけど、よそ行き? みたいな」
まあ、活発な千紗じゃあんなの着たら気になって動き回れないよね。
「気にしなくていいのに。千紗のモデルさんは好評と聞いている。十分元は取れている」
「まあそうだな。千紗はあれ売値で気にしているみたいだけど、原価で言えばもっと安いはずだぞ?」
「原価って?」
「あれ、小学校じゃ教えないんだっけ? 原価とか仕入れ値とか販売価格がどうとか?」
「しらなーい」
「じゃあ、簡単に説明すると、ここのサイトで売ってる値段の中には、売ってる人が手にする利益ってのが含まれてるんだ。例えば千紗が持ってるこの携帯。普通に買えば十万円はくだらない。これを十万円で買って十万円で誰かに売ると千紗の手元には何も残らない。損もしないけど得もない。まあ千紗の手間がかかる分損をしているとも言える。ここまではわかるね?」
「うん」
「だから商売ってのはたとえば五万で買ってきて十万円で売るなんてする。そうすれば五万円の利益が出るという寸法だ。この五万円は千紗の手間賃になる。で、この売値に対する仕入れ値なんかを原価と言って、お客さんには十万円で売ってるけど業者さんはこれを五万円で仕入れている。よって業者さんがこの携帯を他の人に売らずに千紗にプレゼントするとなると五万円で買ってきたものだから、損失は五万円で済むというわけだ」
「じゃあ、あのお洋服、ホントは半分のお値段しかしないのに、あの値段で売ってるってこと!?」
「半分かどうかはわからないけどね」
原価率をどの程度にするかはメーカーや業界なんかでも違うから一概には言えない。
「飲食店あたりだと食材の仕入れ原価は二割からいいとこ三割くらいだとか聞いたことがあるぞ。だからさっき千紗が食べたいちごショートなら原材料価格だけなら六〇円から九〇円くらい? 紅茶はもっと安いぞ。ドリンク系なんか下手したら一割いかないからね。ドリンクバーくらいは頼んだことくらいあるだろ? あの値段で飲み放題だからな。それでも利益が出るとなるとどんだけ原価が安いかわかるだろ? まあ、ゴスロリ服なら布とかの購入費の他に縫製とか手間がかかるから、原価や製造コストとかは高めかもしれないけど」
よく携帯電話をバラして部品一つ一つ買って自分で組み立てたらいくらになるみたいなことをしているサイトがあるけど、そこでも二割程度とか言ってたかな。
まあどんなに多くても五割は超えないだろう。
超えないよね?
個人商店あるいは薄利多売のところはけっこう原価率が高いかもしれない。
本屋とかコンビニなんか一個なんか万引きされたらそれを取り返すにはかなりの数を売らないといけなくなるとか聞いたことがあるし。
オーダーメードで数が出そうもなさそうなお店だと、相当原価率低くしないとやってけないだろうな。
その後のサービス込みでしょ?
「それにあれは千紗が仕事した正当な報酬。もらってくれないと母が搾取したことになる」
「そうだな。リザママが千紗のことタダでこき使ったなんで噂が流れたら大ダメージだろう。服を貰わないんならちゃんとモデル料をもらうべきだね」
「うう、リザママが悪く言われるのはヤダよう」
「それに千紗がもらってくれないと、千紗が着た服は捨てるしか無い」
「そうだった。あれ売れないんだよね。オーダーメードだし」
「そうなると服を捨てた上にモデル料を払わないといけなくなるな。二倍に負担をかけることになる。もらってあげたほうが断然安く上がるじゃないか。だいたいプロの子役モデル一日拘束ならけっこうするだろ? 特に人気のある子とかだと。しかも捨てるはずのものを現物払いってわけにもいかないだろうし、オーダーメイドだから撮影だけじゃなく採寸とか仮縫いとかでも拘束されるんじゃないか?」
「うん、ママも千紗がモデルしてくれると助かるって言ってた。撮影に来るおねーさま方も妾と二人並ぶと尊い? とかいって、二人の撮影日を狙って予約するとかきいた。一緒に撮影してあげると喜ぶよ。お菓子もくれるし」
ゴスロリスト? それともゴスロリラー――じゃ、ゴリラみたいだな――の業は深そうだな。
「そっかぁ。ならまた行こうかな!」
「帰ったらママに言っておく。スケジュール調整はまたいつものように、千紗パパとすると思うけど」
「わかった。でも課外クラブがあるから、ちょっと調整が難しいかも」
「うん。妾と一緒の撮影になるはずだから、クラブの日付は伝えておくよ」
「お願いね」
うん、いい感じにまとまったようだ。
たしかに千紗とリザのペアロリは可愛いからな。
おっ、写真集とか出てるな。あとで買っちゃおうかな?
いやいや、やましい気持ちはありませんよ。
従妹の晴れ姿を保存布教鑑賞するためですから従兄として当たり前の行為だよね?
「じゃあ、遅くならないうちに帰ろうか」
千紗とリザのゴスロリ写真をもっと堪能したいけど、あんまり遅くなるとまずいしな。
「うん!」
「命令受諾」
三人まとめて席を立つ。
「ごちそうさま! 美味しかったです!!」
「またきまーす」
「ありがとうございました」
お店のおねーさんに挨拶して店の外に。
「それじゃあ気をつけて帰るように」
「はーい。おにいちゃんさよならー」
「導師、時満ちる時、再びお会いいたしましょう」
二人は手を振りながら家路につく。
騒がしいのがいなくなったらなんか物足りない? みたいな感じになるのは何なんだろうな。
もっと一緒にいたかったような……
こうして一人になってみると急にある思いがこみ上げてきた。
僕もなんか食えばよかったかな。
はらが減った!
ぴんっ、ぽんっ、ぱんっ。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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