はじめてのすてーたすせつめい
一日空けて次の課外活動日。
いつものように小教室に集合。
当初の予定通り、ステータスについての講義を始める。
「二人はステータスってどんなものか知ってるよな?」
「うん、ちょっとだけだけど。ゲームみたいなやつなんでしょ? ATKとかDEFはよくおにいちゃんが言っているし」
「ゲームでも色んな種類があるから一概には言えないけど、まあ基本的にはそんな感じだな。各個人や国籍使用言語なんかによっても表示文字や内容が変わるらしいが、基本的に数字は共通だ。つまりATKと書いてあろうが攻撃力と書いてあろうが、そこの数字が十なら、攻撃力に十の補正値が付くことになる」
「補正値?」
「基礎能力にプラスされる数値のことさ」
「マイナスもあるの?」
「基本的にはないはずだ。例えば職業が重戦士だったりすると素早さのAGIが伸びにくくなり、耐久力VITやDEFが大きく補正されるようになるなど、伸び率や補正値にばらつきはあるけど。例えばVITの十倍が最大HPになってるんだが、VITがマイナスだとHPもマイナスになっちゃうしATKがマイナスなら攻撃したら自分がダメージを受けるのか、相手が回復するのかとか色々矛盾が生じるからね」
ステータスのばらつきが大きいのは特化型の職業に多い。
ある部分が突出している代わりにある部分が低くなるというわけだ。
さすがにいくら低いと言ってもマイナスになることはない。
「基礎能力というのは職業やステータス補正やスキル補正のない、いわばダンジョンの影響を得けていない人間の持つ素の能力。これにステータスボードで表記される数値で補正した値が実際のダンジョン中の総合力ということになる。ここで重要なのはあくまで自分の体のスペックがベースになってるってことだな。例えば僕と千紗の各ステータス値がまったく同じでも基礎能力が高いほうが能力が高いということになる」
「導師、魔法とか元々備わってない能力の場合はどうなのでしょう?」
「いい質問です。魔法にかかわるステータスはMND、INT、MP、MATの四つ。MNDはMPの最大値を決定します。HPに対するVITのような役割だね。MPの回復速度などにも影響を与えます。MPは後どのくらい魔法が使えるかの値。INTはMATに影響を与えます。で、MATが武器攻撃に対するATK補正値と同じく魔法攻撃の補正値をあらわしている。だけど元々人間には魔法攻撃能力はない。つまり基礎能力はゼロ。なので、同じだけMPを使用した魔法は同じ威力になるはずなんだが、実はならない」
「? MATがおんなじなんですよね、導師?」
「おんなじだけど同じにはならない。何故か分かるか?」
「……わが深淵なる叡智を持ってしてもわからないとは。これも全て妾の遠視の力が封印されているせいか?」
はいはい、チャイルドロック、チャイルドロック。
「千紗はわかるか?」
「むみゅう。わかんなーい」
「まあ、二人共ネットで見れないんじゃ、あんまり細かい情報まで調べられないからね。答えは技量が違うからだ」
「技量とは。そのようなステータスがあるのですか?」
「無い、いやあるかもしれないけどステータスとしては見えない。近接職だって格闘技や剣術なんかをやっていれば、やっていない人より格段に動きが良くなる。あくまで人間の基礎能力がベースになっているから魔法も練習すればうまく使いこなせるようになるし、使いこなせれば同じMP使用量でも敵に与えるダメージ量は増えるということだな」
例えば同じ魔法でも一点集中したり全エネルギーを無駄なく敵に叩き込めば同じエネルギー量でも威力は上がる。
「要は指向性爆弾と無指向性爆弾の違いみたいなものさ」
爆発系の魔法なんかは敵本体だけでなく周りの空気だの地面だのにまでエネルギーが分散するため、威力の割に敵に与えるダメージが少なかったりする。
その為爆発に指向性をもたせ、敵にぶつければ、無駄がない分威力も大きくなるというわけだ。
そういったことを二人に説明していく。
「ということは魔法は自分の好きに作れる、あるいはある程度制御できるということでしょうか?」
「そういうことだな。魔法に特に決まった呪文はない。スキルによってはある程度決まった形があるが威力はいじれる。スキルが【火魔法】なら火を使った魔法が使えるがこれの応用範囲はとてつもなく広く百人いれば百通りの魔法、いや、無数の魔法があると言われるくらいだ。魔法はイメージ次第でスキルの範囲以内ならどのようにでもできるからね。前に炎で火の鳥を作ってる動画とか見たことがあるぞ」
「ゆ、夢が広がります! 妾だけのオリジナル魔法が実現できるなんて!!」
「たとえスキルがファイアーボールだとしても、ボールの形や速度、温度なんかをいじることができるぞ」
殊の外リザ様がお喜びのようだ。
それだけ魔法使い、いや特殊能力に憧れがあるんだろうな。
厨二病だし。オリジナル魔法は憧れの的であろう。
だがこの動画。
火の鳥で焼き鳥を作るとかのギャグ色の強いものだったとは言わないほうがいいんだろうなw
威力と見た目は別だからね。
だいたい威力を上げると見た目は地味になる。
当然だな。
同じMPで高い攻撃力を出すためには無駄をなくさないといけないのに、派手な演出なんかしたらそっちにMPが取られちゃうよね。
そして肝心なのは魔法職に就いてスキルを覚える必要があるってことだな。
魔法のスキルカードが入手できれば魔法職でなくても魔法が使えるようになるが、こちらは魔法職に就くよりドロップ確率は低い上に魔法職ならではのステータス補正がないので、レベルに見合った魔法が使えるかどうかは微妙だ。
まあ子供の夢を壊すほど無粋じゃないから、黙ってるけど。
会長の言う通り、職業はその人自身の性質や性格、心、経験などを反映したものという言葉が当たっているのであれば望む職業が得られる可能性は高い。
その場合より強く望めばより得やすくなるとも言える。
ならばここで取れないかもなんて水を指して、自身を否定するような考えに至ると取れるものも取れなくなってしまうからな。
「りざー、落ち着いたら説明の続きいくぞ」
「問題ありません、導師。妾は常に冷静ですので」
「そうか? なら話を戻すぞ」
ソワソワしていてとても冷静には見えないが、本人が冷静だというのを否定しても始まらない。
酔っ払いはみんな酔ってないというようなものだ。
否定すればするほどムキになるだろうからな。
「まあそんな感じで、たとえ元から持っていない能力でも、人間には隠しステータスとも言える技量という目に見えないステータスがある。人間というやつはただ歩くだけでも下手な人間とうまい人間がいて、前者と後者では歩ける距離や速さで大きな差が出る」
僕もリハビリで思い知ったね。
しばらく歩いていなかっただけで体は歩き方を忘れていた。
筋力が落ちたというのもあるだろうが、自分がこんなにも歩けなくなったのかと愕然としたものだ。
まずバランスが取れない。
まっすぐ立ち上がることさえ難しかった。
前は何も考えず手足が動いたのだが考えないと動かせない。
無意識には歩けないのだ。
さらには履きなれた靴であったにもかかわらず靴擦れしたのにはまいったね。
歩き方が悪いのか皮膚が軟弱になったのか。それとの両方か。
「だからステータスが高いと慢心して努力を怠ってはいけない。人の本当の力はステータスなんかじゃ測れないんだからな。努力を忘れるな!」
「「はい!」」
自慢するわけじゃないが、僕がレベルゼロスキルゼロで十層まで行けてしまったのは、下手に自身のスペックがそれなりに高かったせいなんだろうな。
たとえDEFが低くとも受け流しがうまくできれば低い自分のDEF内でもさばける。
ステータス上のATKが低くても、体重を十分乗せたり、高いATK値の武器を使い、その重さと遠心力などを利用すれば、総合的なATKを向上させることができる。急所を狙えば尚良し。
相手のDEFをわずかでも上回ればHPを削ることができるし、HPが削れるならこちらの体力が続く限りいつかは削りきれる。
たとえ回復系のスキルがあろうとも、スキル発動にはMPが消費されるからね。
MPが切れれば、後はじっくり削っていくだけだ。
そしてそれを出来るだけの体作りはしてきたし、技量だって磨いてきた。
それがたとえ妹を見捨てた罪悪感から逃れるためだろうが。
「もちろんレベルを上げてステータスを上げるのも大事だ。自分の技量にプラスアルファが付くんだからな。このプラスアルファが途轍も大きければ、多少の技量の差なんか簡単に吹き飛んじまうぞ」
僕がアーマードベアにやられたのも、技量云々より圧倒的なステータス差のせいだな。
もちろん中身に人間の入っていない本物のくまクマ熊ベアーに人間のような技量などあるはずもない。
ただステータスや基礎能力の高さで手足をぶん回していただけだ。
しかしそれを僕は避け切れもせず受け流しもできなかった。
盾と左手の手甲や胴の鎧に肋骨何本かを犠牲にしてなんとか生き延びたに過ぎない。
ぶっとい丸太のような腕をぶんぶん振り回してくるのだ。
あれを受け流しでどうにかできる人間など存在するはずもない。
DEFとHPが十分高ければノックバックだけで済んだのに、僕にとってはオーバーキルな一撃だった。
「ステータスに頼りっきりもいけないが、鍛錬だけでもだめだ。バランスよく鍛えていくことが大切なんだ」
「りーかいです」
「理解しました」
「よろしい」
「これはモンスターにも当てはまる。ひと型の例えばオーガなんかは基礎能力や技量が高いためステータス以上に強い個体がいたりするぞ」
「導師、攻撃力とは基礎能力や技量とステータスの合わさった総合値なのですよね? どうやってステータスや基礎能力を測ったのですか?」
「そうだな。まずわかりやすい方法といえば【鑑定】というスキルだな。鑑定持ちはまあ少ないがレアと言うほどじゃない。鑑定持ちならステータスやスキルがある程度見えるらしい」
「ある程度とはどの程度でしょう?」
「この能力はレベル差なんかも関係してくるが、圧倒的なレベル差があればステータスがかなり正確にわかるそうだが、レベル差が小さかったり、相手のほうが高かったりすると、ほとんど見えないかまったく見えなくなるらしい。オーガのレベルはけっこう高いが、トップ冒険者ほどではないので、ステータスがそれなりに公開されている。そのステータスを他の同じような数値の人間やモンスターと比べた場合、明らかにオーガのような知恵のあるひと型のほうが強いと皆が感じている」
ひと型と言ってもどれもが頭が良かったり、技量に優れているわけでもないけどね。
ゴブリンも低級ならかなりお馬鹿さんだし、技量もなくただ棍棒や手足を振り回して来るだけのやつが多い。
これがゴブリンメイジ級になってくるといろんな技や知恵を使い始める。
冒険者がゴブリンに罠にはめられるとか珍しくもない事例だ。
「あとは自分の攻撃力がわかれば逆算して相手のステータスの一部がわかる」
「どうやるのですか、導師」
「自分や仲間のステータスはボードを見ればわかるし、総合ATKは、仲間を攻撃してみればわかる」
「仲間を攻撃するんですか!?」
「まあ、模擬戦みたいなものだ。HP全損しない限り、怪我することはないからね。最初は様子見しながら問題なければ思いっきりやったり、攻撃方法を変えたりしながら自分の総合ATKを把握していく。で、本番で何回どのように切りつけたかで相手に与えた総ダメージがわかる。HPがあるうちはダメージが入らないからダメージが入った時点でHPがゼロになったのがわかるわけだ。総ATKが百で、ダメージが入った場合、最大HPは百、DEFはゼロとわかる。こう仮定した場合はVITは十だな。特に補正がない場合HP最大値はVITの十倍だからね」
「DEFがゼロのモンスターっているの? おにいちゃん」
「今のところ確認はされていないが仮定する分には問題ない。DEFがあろうがなかろうがHP全損させるためにはDEFを抜いてHPを枯渇させる必要がある。結局のところHPをどれだけ減らしたかが問題であってDEFの数値は関係ないんだ。DEFが九十九でHPが一でもATK百をぶち込めばHP全損するんだからな。
これで一応HPの最大値が仮定できたんで、後は一回の攻撃力を少し落としてみる。もしDEFが攻撃力を上回っていればHPはいつまでたっても削れないし少しでも上回っていれば少しずつ削れていく。で、攻撃した回数と一度に与えた総合ATKを最初のと比較することでDEFとHP、VITが予想できる」
DEFがゼロで一回のATKが十で十回攻撃し総ATK百で倒せたなら、同じくDEFはゼロの時一回五ATKなら二十回の攻撃で倒せるはずだが二十六回かかったとすると後は簡単な連立方程式を解けばDEFとHPがわかる。
上記の結果から『(10-def)*10回=HP』と『(5-def)*26回=HP』の二つの式ができるわけで、この式なら右辺は同じHPのため消し『(10-def)*10=(5-def)*26』と変形できる。
これをざっと計算するとDEFは約二。HPは約八十だ。もちろんHPに損耗がない状態ならVITは八。
人間のやることなので一回のATKにはいくらかの差分が出るから正確性がどの程度確保できるかは各人の技量によるが。
「鑑定結果を投稿したり、こんなのを真面目に検証している人がいて、wikiなんかでまとめてたりするから、各モンスターのステータス値がほぼ調べられる。その結果ボス部屋を除けばその階層の同じモンスターのステータスは全て同一。ただしモンスターにより技量や基礎能力にいくらか差があることがわかってきたんだ。ボス部屋についても強さは六種類しかない。ここで言う強さはステータス値のみの話だね。この六種類はボスモンスターによって固定で、一発攻撃を食らってみればどの強さ区分なのかは予測がつくんだ。大きさによって基礎能力に補正が入るからそれを考慮する必要があるけど」
「うーんと、なんか難しい?」
「なぜそれで計算ができるか意味不明です」
「あー、連立方程式って中学生からだっけ?」
じゃあ、ちょっと難しいかな?
「まあ、とりあえず各モンスターのステータスはネットを調べれば大抵書いてある。基礎能力や技量は個体差があるが低階層なら誤差の範囲だ。気にする必要はない。自分のDEFが相手の想定最大ATKを上回っていれば絶対に怪我を負うことはないし、逆もしかりだ。多少ATKが上回ってたところでHPに余裕があればかなり安全に立ち回れる。自分の挑んでいる階層にどのモンスターがいて想定最大ATKとDEFがいくらか、特殊能力が何なのかを事前に調べて余裕のある階層以外挑まなければ、特殊な例を除きほぼ危険はないと判断できる」
まあこの特殊な例が予想付かないから、ギリギリ大丈夫ではなく、余裕でだいじょうぶ程度のマージンはほしいのだけど。
「ほー。わかんないけどわかった!」
「能力一覧が見られさえすれば対策はできるということですね? 妾の能力は封印されていますが」
「あー、モンスターの能力一覧はチャットのファイル置き場においておくよ」
「うううー。なんか宿題増えた気がする」
「同意」
「おそらくモンスターのステータス値についての問題は試験に出ないと思うぞ? モンスターのステータス値はあくまで有志による予測値だからね。実際に潜るときまでに見ておけばいいし、本来なら保護責任者である僕が気にすべき項目だ。君たちは僕の指導のもとでダンジョンアタックするのだからね」
「ですが上に行くためには自分でできないといけないのでしょう、導師よ」
「それはそうなんだが、いっぺんに全部はできないからね。無理してはいけないよ。かえって混乱するだけだ。今はいつ試験が始まるかわからないし過去問集もないから過剰に詰め込んでいるだけで、本来アミューズメント層に潜るだけなら必要ない知識も混ざっている。アミューズメント層を卒業するのだって結構時間がかかるからね。その間にゆっくり覚えればいいんだ」
そう。
焦らずとも良い。
自分のペースで成長していけばいいんだ。
成長を止めてしまった僕の妹とは違って。
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