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はじめてのきゅうきゅうしょち

 帰りの会を挟んで即課外活動の時間だ。

 僕は担任も副担任も持っていないのでこの小教室で次の講義の準備。


「おにいちゃん、たっだいまー!」

「導師、講義を所望致します」

「おう、ちょっと待ってな」


 僕はビデオの電源を入れ録画を開始する。


「今度は救急救命措置の講習だよね? 今は岩崎先生がいないからしてもいいんだよ? 人工呼吸の練習。それとも千紗がしてあげようか?」

「しません」


 このおませさんめ。


「では心臓マッサージなどはいかがですか、導師。へらべったいのでやりやすいのではと愚考いたします」

「それは個人情報です。漏らしてはいけません、危険が危ないです」


 あとでビデオはカットしとかないと。

 脳内メモからは削除できないけどね!


「リザまで悪乗りするんじゃありません。基本的には救命措置のビデオ見てちょっとだけシミュレーションしてみるだけです。人工呼吸や心臓マッサージのやりかたや注意ポイントをここでは学びます。もし実地で試してみたい場合は消防署などで講習会を行っているようですのでそちらに申し込むこと。テキスト代とかもかかるようだから、親と相談してから申し込みしてね」

「えー。見るだけなんてつまんない」

「同意します。妾の胸、マッサージしてみたくありませんか?」

「マッサージするのは心臓だから! 胸じゃありません!! とにかく大人しくビデオを見なさい。話はそれからだ」

「そうだね! まずは説明。その後に実地だね!」

「実地はありません。別途消防署とかでお願いします」

「むぅ!」

「膨れてもだめです。ビデオ再生するぞー」


 問答無用で救急処置の動画を再生する。

 流石にそこまでされると騒ぐわけにもいかず二人は映像に目を向けてくれた。

 まあたいして長いビデオじゃないので、十分程度で終わる。


「ビデオの中でも説明があった通り、人工呼吸も心臓マッサージもそのテンポが大事だ。一分間に何回やるかで蘇生率が大きく変わってくるんだ」

「わかったけど、なんか難しそう」

「一応スマホアプリなんかもあるけど、スマホがすぐに取り出せない場合や壊れたりして使えない場合もあるから、そのための対策をしておく必要がある。まあ、試験では出ないと思うが、実際のダンジョン探索では必須の技能だからテンポは体で覚えておくんだ。よく使われるのは歌だな。ある特定の歌は心臓マッサージとして最適なテンポだと言われるものがある。ネットで探せばいくつか見つかると思うから、気に入った曲を覚えるといい」

「ほー。そういった方法があるのね。でもリズム感ない人だとだめじゃないかなぁ」

「うん、そういう人は素直にスマホを使おう。衝撃に強いのとか軽くて小さいのを予備として持っておくとかで対応だな。あと超小型のメトロノームなんかもあるみたいだから、最適なリズムにセットして持っておくといいかもしれない。MPプレイヤーに曲を入れておいてもいいぞ」


 AEDがもっと小型化すればいいのではあるが、今のところ探索で使える程度の大きさ重さじゃないし、AEDでは救えない心停止もある。

 心臓マッサージが不要になるわけでもない機器を常に持ち歩けるような荷物に余裕のある冒険者は少ないだろうな。

 基本的に緊急事態に対応するより緊急事態に陥らないようにするのが重要だからだ。

 緊急事態に対応する装備を優先して、緊急事態に陥ってたら本末転倒だ。


「というわけで今日はエア心臓マッサージをします。ロッカーからタオルを出して、床に積み上げます。ビニールシートを下に敷いてね。後ヘルメットも出して人の頭の位置に置きましょう。倒れた人をイメージしてね。状況開始!」

「はい!」

命令受諾(オーダー アクセプト)


 二人は即座にロッカーからビニールシートとタオル、ヘルメットなどを取り出し、床に積み上げ、人の身体に見立てて並べる。


「準備できたな? そしたらまずやるのは声掛けだ。肩などを叩いたりしてもいい。意識があれば問題ないけど、意識がなかったら次に脈と呼吸の確認を行う。ビデオの通りにやってみて」


 二人はちゃんと内容が頭に入っているようで、即座に確認開始する。


「そうそう、胸やお腹が動いているか、首の位置に手を当てて脈があるか確認だね。ただしここで時間を掛け過ぎたらだめだ。心臓が動いていても脈が検知できなかったり呼吸しているかよくわからないときもあるけど、わからないからよく確認しようではなく、直ちに心臓マッサージに移行します」


 僕はビデオの手順をなぞりながら説明していく。

 まあ、見ただけで出来るようになるなら実地訓練はいらない。

 こういうのはやってみないと身にはつかないのだ。


 僕の声かけで二人は体の位置を変え、心臓マッサージの体勢になる。


「じゃあ、音楽流すぞ。このペースに合わせて心臓マッサージだ」


 僕はタブレットPCを操作して予め用意した音楽を流す。

 その音楽に合わせて二人が心臓マッサージを始めた。


「ほっほっほっほ、なんちゃら、なんちゃら」


 千紗は歌に合わせて変な掛け声を掛けながらタオルを上下に圧迫。

 リザは無言で心臓マッサージ。

 でもなんで君らこっちにお尻向けて心臓マッサージしてるんですか?

 いや、ビデオに映像撮ってるからそっちを向いたほうがいいのか?

 しかし胸部圧迫のたびにちっちゃくてカワイイお尻が揺れるのがモロに見えてしまい目のやり場に困る。

 リザはゴスロリでひらひらドロワーズがちらちらしてるし、千紗の今日の服装はミニスカートでちょっと白いものが見え隠れしている!

 どっちを見ればいいんだ?

 いやいや、どっちを見てもだめだろう!

 僕は慌てて前に回り、ペースが合っているか力加減が適当か確認する。

 まあ僕だって講習会で一、二度やった程度だから、まあほとんど素人と変わりないんだけどね。


「心臓マッサージは真上から五センチ程度沈むくらいの力でやるんだ。大人や子供で多少力加減の調整が必要だけど。君たちじゃ十分に押しきれないかもしれないが、やらないよりやった方がいい結果になるようだ。あと心臓マッサージは腕の力でやるんじゃない。ひじを曲げず真上から体重を乗っけるようにして押すんだ。斜めになっていたり腕の力だけで押すと力が足りなかったりすぐに疲れたりするぞ」


 僕の注意で二人はすぐ姿勢を改める。


「三十回やったら人工呼吸だ。ちゃんと数を数えてるか? 数える自信がなかったら歌のどの部分で終わるか記憶しておくんだ。再度やる時は最初から歌えばいいからね。終わったら顎を上げて気道を確保し、鼻を摘んで人工呼吸だ。うまく息が入らなかったら何かで喉が詰まっているか、呼吸が回復しているか、息が何処かからか漏れているかだ。喉の奥を見てなにか異物があったら顔を横にして異物をかき出す。なにも見つからず呼吸が回復もしていなかったら、気道の確保が十分でなかったか見えない奥の方で詰まってるか、息が漏れているかだから、再度気道確保と漏れがないか確認し、息を吹き込んで見る。それでもだめなら再び心臓マッサージだ。人工呼吸は三回以上試みてはいけない」


 二人は三十回を終えた時点で体勢を入れ替え人工呼吸の真似事。


「吹き込む時は一秒間だけだ。胸が上がるのが見える程度に吹き込み、息が自然に吐き出されるのを待ち二回めだな。これが終わったらまた心臓マッサージに戻る」


 再び音楽に合わせて心臓マッサージ。


「これを心臓の鼓動が戻るか、救急隊員が来るまで繰り返す。救急隊員が来るまで早くても五分はかかるからな。複数の人がいる場合は程よく交代して行うこと。一人しかいない場合は人工呼吸を省略して体力を温存するのも手だ。力を使わず心臓マサージするには慣れが必要だ。よく練習しておくように。状況終了!」


 その声と同時に二人が床にへたり込む。


「うみゅー、疲れたよう」

「まさか救急処置がここまで疲れるとは思いませんでした」

「レベルが上がれば多少は楽になるはずだ。僕はレベルが上ったこと無いからどのくらい楽になるかわからんが」

「レベルが低いうちは無理するなってことね?」

「いや、レベルは高くなっても無理しちゃだめだ。本来こんな技術なんて不要となる行動をとらなければならない。常にイレギュラーがあることを前提に安全マージンを十分取ることが必要だね。この技術が必要になった時点で、安全マージンが十分でなかったということだな。レベルを十分上げて装備を揃えれば、まず大怪我することはないからね。まあ、それでも避け得ないトラブルは起こる。そんなときに初めて役立つ技術だ」


 こんな技術出番がない方がいい。

 だが、ちょっとした油断と慢心で事故は起こる。

 最後の砦があるからと安心してはいけない。


「とはいえ出番はまずないと言っていい。その前にポーションを使うからね。ポーションをぶっかければとりあえず呼吸は戻るし心臓も動きはじめる。心臓や肺が潰れていなかったらね。出血も程なく止まるはずだ。低級のポーションでもだ。ポーションはまず心臓の鼓動や呼吸を正常化し、血管の修復を行って、その後内臓系を修復し始め、最後に骨や肉の修復と、治す順番は不思議な力で優先づけされている。

 呼吸と脈があり出血が止まっていれば、わりかし人間は生きていける。ダンジョンでの死因の第一位は出血多量だそうだ。重要な器官がある胴体部分や頭は普通鎧やヘルメットなどで保護してあるからね。そこを一撃で致命傷なんてよっぽどその装備がヘボいか適正レベルに達しておらずDEFやHPが極端に低いかだ。適正なレベルに適正な装備ならいきなりHP全損とかはないからね。HPが心もとなくなったらHP回復ポーションで回復すればいい。パーティーメンバー全員が適正レベル適性装備なら、その程度の隙は作れるはずだ。その隙が作れないようでは適正でなかったということだな」

「おにいちゃん、適正かどうかなんて事前にわかるものなの?」

「昔はともかく今はほぼ分かるな。ネットなんかで検証動画や検証サイトがいっぱいあるからね。モンスター毎に攻撃力、防護力、素早さ、持っている装備なんかが細かく検証されている。ステータスボードを見ればどのくらいHPが減ったか一目瞭然だからね。DEFとATKの差がHP減少量という至って簡単な数式で計算できるから、自分のDEFと装備による補正値が、相手の攻撃モーションや武器のATKとステータス上のATK+モンスター固有のATKなどの合計を上回っていれば絶対にダメージを負うことはないんだ。一度の攻撃で十パーセント程度のダメージが有るのなら十回までは攻撃を耐えられるということになる。この辺は次回の課外活動で説明しよう。今日はここまでだな。後片付けして帰ろう」

「はーい!」

命令受諾(オーダー アクセプト)


 二人は取り出したタオルやビニールシート、ヘルメットを片付ける。

 その間僕はビデオの撤去とタブレットPCのお片付けだ。


「忘れ物ないなー」

「ないよー」

「ありません」

「じゃあ鍵かけるぞ」


 僕は入館証で小教室の鍵をかける。


「寄り道せずに帰れよ、さようならだ」

「らじゃー、おにいちゃん、さようなら」

命令受諾(オーダー アクセプト)、さようならです」


 僕は二人を見送り職員室へ戻る。

 まずはやばいシーンはカットだカット!


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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script?guid=on異世界のジョブズに、僕はなる ~定年SEの異世界転生業務報告書~
もよろしくお願い致します。こちらは異世界ファンタジーになります。
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