はじめてのかがいかつどう
「おにいちゃんせんせー、きたよー」
「導師よ、お待たせしました」
二人が元気よく職員室に入ってくる。
「おお、来たか。じゃあ、早速出かけるか。岩崎先生、ちょっと課外活動に行ってきます」
「はい、気をつけていってらっしゃい」
そして顔を近づけて小声で言う。
「私は一緒にいけませんので、くれぐれも間違いは起こさないように。いいですね?」
「はい、問題ありません」
そう返事して子どもたちに向き直る。
こんな子供とどんな間違いが起こるっていうのかね。
「じゃあ行こうか。とりあえず玄関前で待ち合わせね」
「はーい!」
「命令受諾」
二人が慌ただしく出ていく。
「では行ってきます」
「はい、いってらっしゃい。あっ、領収書をもらうの忘れないようにしてくださいねー。でないと自腹になっちゃいますから。あと前に説明した通り宛名は小学校の名前ちゃんと入れてもらってくださいね?」
「はい。大丈夫です」
そう返事して、子どもたちの後を追い、玄関で再び合流。
守衛さんにカードを見せて、子どもたちと一緒に玄関を出る。
「おにいちゃんせんせー。今日はどこに行くの? ダンジョン?」
「君たちはまだ冒険者免許を持っていないので、ダンジョンには入れないんだ」
「なんだ、ざんねーん」
「だいたい装備もなにもないだろ?」
「そっかー。そうだよね! まるはだかじゃダンジョンは危ないよね!」
「それを言うなら丸腰ね。たしかに丸裸は別の意味で危ないけど」
しかし往来で丸裸発言はやめてほしい。
周りで聞いている人がいたら事案案件だ。
「なので今日は装備を揃えに行きます」
「装備? 千紗、ランスがいいな! こう、ずどどどどって突進するの!」
それはモンスターのハンターなゲームだね。
「残念ながらランスは予算オーバーです。千紗がたくさん稼げるようになったら買えるかもね」
「よーし、がんばるぞー!! えいえいおー!!!!」
鼻息荒いぞ千紗。
どんだけランス好き?
「妾は魔法の杖を所望する。妾の邪眼に相応しきものを」
「魔法の杖も無理かなー。あとスキルもらえないと魔法は使えないからね?」
「問題ない。魔法はすでにマスターしている。後は杖さえあれば発動するはずです」
うん、マスターしてるのに発動していないのじゃマスターしていると言えないんじゃないかな?
なんて指摘はしない。
子供の幻想を壊すのはいけないよね。
「そっかー。頑張ればきっと買えるよ」
「委細承知。入手したらその杖と契約して魔法少女になる」
「変な契約はしないようにねー。ちゃんと契約書は読むんだよ?」
「問題ありません」
問題だらけの気もするが、契約が必要な杖なんかないから問題ないか。
無いよね? そんな杖?
なんか心配になってきた。後で調べてみよう。
呪いの杖とかインテリジェントウェポンとか、ファンタジーじゃ定番だからな。
ありえない話じゃない。
「で、おにいちゃん、どこ行くの? こっちはダンジョンショップの方角じゃないよね?」
武器や防具その他装備品が買えるダンジョンショップは基本的にダンジョン入口前かそのご近所にある。
キヨスクやALoTみたいなものだね。
ダンジョン入場前に消耗品を買い揃えたい冒険者とかいるし、武器や防具、その他の整備や補修なんかもやってくれるから、官民共同で経営しているのだが、ダンジョンの人気度に比例してショップの規模も左右される。
仙川ダンジョンは成城より冒険者の出入りは多いが、都心に比べると少ないのであまり大規模ではない。
そのため高価な装備品などはほぼ注文になる。
基本的には比較的安価で需要の多い装備品や消耗品等の販売と、装備品のメンテナンスを主に行っている店だ。
「行くのはホームセンターです。ダンジョンショップでも売ってますけど、あっちはプロ仕様なんで、値段が数倍から下手したら百倍以上するので」
「びんぼーは辛いねー」
「導師は甲斐性がないのですね」
「それは確かにないかなー。って違うから。学校の予算が決められているからだね」
これでもダンジョンに潜ってたときにはそれなりに稼いでたんだからな!
今はしがない非常勤だけど。
「なのでホームセンターで買い揃えます」
実際の授業で使う分は補助金内で収まらなかったら教材費で各家庭に請求が行くようだが、今回はクラブ活動なので、はみ出た分は部費として徴収することになる。
まあ、先行授業の協力という面もあるので、部費として使える活動補助費が結構出るらしい。
その範囲内に収めれば、部費は実質ゼロ円だ。
だが無限に使えるわけでもないし、節約できるところは節約するつもりだ。
今後どんな装備が必要かわからないし、それを確認するための先行授業だ。
人数が増える可能性もなきにしもあらず、だし。
その時になって部費が足りなくて、臨時徴収とかしたくないからね。
「ホームセンターでも売ってるの?」
「大丈夫。問題ない。普通に売ってるよ。ダンジョン近くのホームセンターだから、冒険者用の装備も置いてあるしね。下手をしたら駅前のダンジョンショップより品数豊富かもね」
「おー」
ダンジョンに行く直前で武具を揃えるやつなんてまずいないからね。
品揃えなんかに関しては専門店や大型店舗にかなうはずもない。
落ち込んでいたテンションが上がったらしく千紗はスキップしながら歩き出す。
「杖も置いていますか?」
「どーかな~。ホームセンターだから武器や防具より、その他装備品がメインなんだよ」
「なんと!」
こっちはずーんと落ち込みその歩みも重いものに。
背中が煤けているぞ、エリザベート。
どんだけ杖が欲しかったんだ。
流石にゴスロリ装備一式を買い与える両親でも、魔法の杖は買い与えてくれなかったか。
まああれは基本的に魔法の補助をするものだから魔法系のスキルが無いと意味ないし、ダンジョンの中でないと使えないからね。
魔法使いでなくても使える系の特定の魔法が込められた杖はあるけど、欲しいのはそういうのではないだろう。
とかやっているうちに近所のホームセンターに。
学校の近くにこんなでっかいホームセンターが有ってよかったよ。
こういう店舗を郊外型っていうのかね。
近くにありさえすれば都心より便利だってのが嬉しい。
「さて、まずはこっちだ」
僕は二人を連れて目的の売り場に行く。
「キャンプ用品売場?」
「そう、キャンプ用品だ」
「これが今回の装備なの? おにいちゃん」
「まぁね。ダンジョンの中にはお店も休憩場所もないからね。モンスターを退治する以外はキャンプと同じ装備が必要なんだ。それも整備されたキャンプ場じゃなくて、なにもないところでするサバイバルキャンプだ」
「サバイバルきたー。君は生き残れるか? みたいな?」
「そうだ。水や食料はもちろんのこと、人が生きていくのに必要なものは全て自分で持ち込まなければならない。快適にすごそうなんて思ったら、荷車が必要になるな」
「なるほどー」
アミューズメント層とは言えダンジョンであることには変わりない。
万が一がないわけじゃないし、中はとてつもなく広く、迷子になったらマジでサバイバル生活するハメになる。
万が一というのはモンスター溢れの時だね。
この時は地上だけでなく、アミューズメント層にも下層のモンスターが溢れた。
中にいるのは冒険者だけだから問題にはなっていなかったが、小学生が潜っているときに溢れたりしたら大惨事になりかねない。
事前に大規模駆除とかお願いできないかな?
まあ、教頭に一応話しておこう。
いち小学校のために自衛隊やら警察やらが動いてくれるとは思えないけど。
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