はじめてのおかいもの
「それで何買うの? おにいちゃん」
「まずはポンチョだな」
「ポンチョってあのポンチョ?」
「うん、そのポンチョだね」
千紗が指差すサンプルを見ながら答える。
「ダンジョンの中では雨も降るからな。だから長靴も必要だ」
フィールドタイプのダンジョンでは、雨が降ったり、風が強い日があったりする。
またフィールドによって季節固定と季節変動型がある。
フィールドタイプに罠はないが、石が飛び出ていたり、底なし沼、崖やクレバス等、地形トラップはあるので、なかなかに油断がならない。
仙川ダンジョンや成城ダンジョンのアミューズメント層はどちらも季節固定型で、春先の良い陽気だが、雨が降ったり場合によっては険しい地形が有ったりする。
この辺にはないがダンジョンによってはアミューズメント層でも、冬や夏といった季節になっているものや、季節変動型で四季があるものなどなど。
中には雨季が有ってスコールが降りしきるものや、砂漠のように熱くて乾燥しているようなところもある。こちらは日本では少ないけどね。
世界的に見るとアミューズメント層は、その国や地方の特色が出やすい傾向にあるらしい。
「そっかー」
「だから予備も含めてロング丈のやつ二枚選んでくれ。あ、素材はポリエチレンとかビニールのものに限るから気をつけて。長靴は一足な」
「はーい!」
「委細承知。命令を受諾」
「ねっ、ねっ、何がいい? 千紗はねぇ、ぴんくのがいい!」
「黒はないのでしょうか? それともダンジョン内なら迷彩柄がいいのか? このような派手な色では、狙撃のいい的になります」
狙撃とかされないから大丈夫だぞ。好きに選べ。
「えー。かわいくないよう。リザちゃんもこっちのぴんくのにしようよ!! お揃いだぞ!」
「……おそろい。千紗がそう言うなら一つはそれにしましょう」
もじもじしながらポンチョのパックを手に取るリザちゃんかわいいなぁ。
ほんとにこの子、千紗のことが好きなんだとわかる。
考えてみればゴスロリに、厨二病だ。
クラスでは少し浮いているのかもしれない。
そういうの千紗なら気にし無さそうだからな。
僕の助けた千紗がいい子に育ってくれて嬉しいよ。
これまでほとんど無視してきた自分を反省する。
妹たちを見捨てたことはまだ引きずっているけど、助けた生命があったんだと思うと、なんだか救われた気持ちになった。
どくん!
なんだ?
なにか自分の深いところで何かが動きだした気がする。
「おにいちゃーん、これとこれどっちがいい? ふたつめが決めきれないんだよう!」
千紗がサンプルを二つ持ってやってくる。
やばい。これは僕を試そうとしている罠だ。
女がどっちがいいと聞いてくる時は、すでに自分で決めていて後押しがほしいときだ。
ここで外すと、お兄ちゃんセンス無いと言われるに違いない。
かと言ってどっちも似合うは地雷だ。
嫁と姑どっちが大事かと問い詰められるようなものだ。
どっちも大事だと答えたら機嫌は急転直下だ。
なんだか脂汗が出てきた。
なんだろう。この恋人同士でもないのにこの緊張感は。
「そ、そうだな。元気いっぱいな千紗ならその赤いほうが似合うんじゃないかな? ピンクと少しかぶるけど」
どうだ?
正解か?
「……うん、そうだね! そうするよ!」
ふう、乗り切った。
僕は額に浮いた脂汗を袖で拭う。
「導師、どちらが妾にふさわしいでしょうか?」
お前もかエリザベート。
究極の選択第二段。
「うっ、千紗はどう思う? 青のほうが千紗の赤と相まって映えると思うんだが」
とりあえず逃げ道を作っておく。
この子は千紗大好きっ子だからな。千紗の意見なら不満はないだろう。
「そうだね! 赤と青で信号機だね!」
「……千紗が楽しそうだからこれにする」
ポンチョについては決まったようだ。
とりあえず持ってきたカートに突っ込む。
「次は長靴だな。」
まさか長靴でも同じことが、と思ったらあっさり決めてきた。
まああんまり数もないしね。
「ちょっと時間かかっちゃったから残りはサクサク行くぞ」
「おー」
「まずは簡易トイレだ」
「おトイレ?」
「ダンジョンにトイレはないからね。行きたくなったら困るだろ?」
「にゃはは、そうだね!」
「自分が座りやすそうなのを選んでくれ。これも一個ずつね」
「わかった」
二人はサンプルに腰掛けながら選び始める。
実際には複数人に一つあればいいのだが、万が一はぐれたときのために基本装備は全員がひとつずつ持つべきと思う。
実際僕たちのサークルでもそうしていたし。
まあ、クラス合同でやる時は引率の先生方もいるし、グループで一つでもいいかもしれないけど。
その辺も先生方と相談すべきだろう。
予算の都合もあるだろうし。
先行授業は何があるかわからないし引率は僕だけだから、目が届かないこともあるだろう。できるだけ万全の備えをしておきたい。
そうやってキャンプ、もといダンジョンアタックの準備を整えていく。
「せんせー。こっちに武器があるよー」
見るとガラスで囲まれた一角に剣や槍、防具などが並べられている場所があった。
前はなかったような気がするが新設されたのか?
「ちさー、杖もあるだろうか?」
「あるよー」
「導師よ、妾も拝見したいのですが」
「うん、あらかた買ったし、ちょっとだけ見ていこうか」
「はい」
心なしか嬉しそうにうなずく。
クールぶっているけど、よく見れば感情豊かなのがわかる。
「ちさー、危ないから勝手に入るなよー」
「わかったー」
千紗は大人しく入口の前で待っている。
そこへカートを押して僕とエリザベートが到着。
「ここって前はなかったですよね? 子供達が入って大丈夫ですか?」
小部屋の前にいた店員さんに確認する。
「大丈夫ですよ。ただ危険な物があるので保護者の方はよく注意してください。ここは新設されたばかりですね。免許の取得が簡易化されましたし、未成年者へダンジョンが解禁になりましたので、その需要を見込んでということです。基本的に未成年者が来ることを見越して安全対策は取っていますが、万が一がありますから」
「わかりました。聞いたな、危ないものもあるから、はしゃぎまわったりむやみに触ったりしないように」
「はーい」
「命令受諾」
僕は二人を伴って小部屋にはいる。
「おー! ランスがあるよ!」
「杖がこんなにたくさん」
ふたりとも目を輝かせて見入る。
こんなところはやはり子供だね。
「ずいぶん展示してある武器種が多いですけど、店に在庫は?」
「基本的には展示品のお買い求めかお取り寄せになります。ここは主に展示コーナーですね。一般的なものや売れ筋に関してはいくつか在庫がありますが」
いわゆるショールームみたいなものね。
あんまり売れそうにないものも展示してあるから、商売としてはどうなの? とか思ったけど、見栄えとしては少ないより多いほうがいいもんね。
子供達も目移りしているようで、あちこち見て回っている。
「はしゃぎすぎてころぶなよー」
「わかったー!」
「妾ははしゃぎまわったりせぬゆえ、心配無用です」
そうは言うものの、うん、十分はしゃいでるから。
そういや妹の玲奈もこんな感じだったなぁ。
これまで思い出すのはあの日のことばかりだったのに、それ以前の幸せな時の妹の姿が不意に思い出された。
ああそうだ。玲奈はこんな顔して笑ってたっけ。
「……おにいちゃん? なんでないてるの?」
「えっ?」
いつの間にか戻ってきた千紗が不思議そうに僕の顔を覗き込んでいた。
「いや、なんでも無い。目にゴミが入っただけだ」
僕は慌てて涙を拭き取る。
なんで涙なんか。
これまで献花に行った時だって流さなかったのに。
泣いたらもうみんなが戻ってこない気がしたから泣けなかった。
だが二人を見ていたらそれは違う気がした。
おの笑顔が見れなくなったから悲しいんだ。
そう僕は確信した。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
ブックマーク、評価等していただければ励みになります。




