第1章「記憶の断片」2節:女神の談笑
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
私が再び意識を感じた場所…。そこは不思議な空間だった…。いや、不思議な空間なんだろうとしか推測することしかできなかった。意識はあるが身体も動かず…何も見えず…会話することさえできない。漆黒の空間…。微妙に感じる肌とも肌でもないとも言い難い自分の身体…。
今の私が、どういう形をしていて、どのような状態であるかさえも知ることも知りえない…。
ただ、そこに今の”私”を創りたもうた慈愛の声の主と、もう1人、誰かがいる…という事だけ…。
「願居ちゃんは助かったんだね。流石、姉さん。これでやっと少しは紅ちゃんへのお礼もできた。」
もう1人は女性の声の様だった。容姿も年齢も今の私には分かる術もない。ただ、この声も、慈愛の声の主も同じ優しい声…。でも、聞くと陽気な気持ちになる声…
「何が、流石、姉さんよ。全部、あなたが仕組んだことでしょう。紅ちゃんも仲良し2柱ちゃん達の事もぜ~んぶよ。姉を騙すなんて、本当に悪い妹…。ふふふふふ…。」
「騙す?し、仕組んだ?私は、この数十億年、何も仕組んだことはないし…。騙したこともないわよ。それにいまは善良な普通の…」
陽気な声の主は、慈愛の声の主の妹らしい。でも、慈愛の声の主の言う通り、この陽気な声の妹は何かを仕組んでいたというのは、声しか聞こえない私も何となく分かった。少し胡散臭い言い方だったからだ。
「普通ね…。まあ、良いわ。そういう事にしときましょうか。それで今日は、そんな可愛い可愛い妹のあなたにお願いがあるのよ。」
「わああああ…。珍しい姉さんからお願いされるんて…。ここはきかないと今後に響くわね。」
「別にあなたにとっては難しいお願いではないわ。」
その言葉と同時に私の”新しい身体”が慈愛の声の主に抱きかかえられ包み込まれた感じがした…。抱えられているのか抱きしめられているのかさえ分からないけど、煩雑にされていない事だけは分かる。何者かも分からない私はこの暖かな空間で、このままでいたいという仄かな期待さえも浮かんでくる。そんな感覚…。
「シュカちゃんか…。姉さんの娘ってことだね。」
陽気な声の女性の声。この会話から私は、慈愛の声の主の娘らしい事が分かる…。ただ、その母の姿は分からない…。分かるのは、その声と温もりだけ…。
「この子は、いや、シュカは私の娘であり、最後まで誇り高く戦った有明海の戦乙女達の忘れ形見…。この子を暫く、あなたに見守って欲しいの…。どうせ、あなたはリアルに子育て真っ最中なんでしょう。1人位増えても構わないわよね。ふふふふふ…。」
「ははは…。それは正直、返答し難しって感じ…。リアルな子育ては本当にしんどいよ。姉さんも1度、人間になってみてよ。火雷も1度、1000年以上前に人間になった事があるけど、それは大変だったと今でも愚痴をこぼしてるよ。う~ん、でも、今回は仕方ない。姉さんの頼みだから良いよ。それにこの子を見守れる良い場所がある。」
「ハハハハ…。あの場所ね。確かに良い場所ね。この子が、今後、守るべき場所に1番近くて、そして、この子がその役目を果たすべき力を持つまでの間、見守れる1番安全な場所…。」
「あの場所なら、古い友人と友人の眷属ちゃん達が可愛がってくれる。ちょっと困るだろう人間も約1名もいるけど…。彼なら何とかするでしょう。」
2人の会話の意味は正直分からない。でも、私の名前が”シュカ”って名前なのは分かる。でも、そのほかの記憶は全て曖昧で少しづつ、鮮明に覚えていたはずの昔の記憶も薄っすらになっているのが分かる。何も分からなくなる感覚…。怖いはずなのに怖いという感覚すらも消えていく…。
「あら、まあ、シュカ。今、少し意識を覚ましていたようね…。まだ、その時ではないから、あともう少しお眠りなさい…。”可愛い私達の娘”…。」
その会話の直後、急に私の意識が暗闇の中に再び遠のいていった…。まるで、この出来事が夢幻だったかのように…。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




