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化け物じゃなかと!

間が空いてしまいましたが、よろしくお願いします。



 ガッチャン、ガッチャンという金具の音の後、チリンッ、チリリリンッと音が鳴る。

 これ、自転車のベルの音だ! この世界には自転車はない。ということは、オレの自転車だってことだよな。いったい誰が乗っているんだ? 

 (じじい)達のせいで、自転車が見えない。


「うわぁー!! な、何だこれは!? こんなの見たことがないぞ!?」

「化け物だ!! 魔獣だ!!」

「どうして? ここには人を襲うような魔獣はいないはずなのに、なぜいる!?」

「と、父様! 怖いっ!!」


 スールと同じで、初めて見る自転車は大人でもかなり怖いらしい。

 爺達が慌てて離れた。オレの視界に自転車が映る。

 やはり、オレのオレンジの自転車だ。


「…………はあ?」


 目をパチパチさせて、よく見る。よく見るが……誰も自転車に乗っていない……。

 そう、自転車が……自転車本体が、自分でペダルを後ろに回転させ、チェーンをカラカラと音をさせて回していた……。


「お、お兄ちゃん、自転車が勝手に動いてるよ!?」

「ああ。オレもビックリだ!」


 また自転車が、ガチャン、ガチャン、チリリリンッと音を鳴らす。威嚇しているようだ。

 漫画みたいなことってあるんだな。

 颯爽と現れたのはヒーローではなく、ひとりでに動く自転車だったが、オレ達を守ろうとしてくれているのはわかる。


「わ、儂と息子を守れ! 魔獣を退治せんかっっ!!」


 爺とギルムは、二人の鳥族の男達の後ろに隠れる。

 弓矢の男が、自転車に向けて矢を放った。

 矢が、ガツンと自転車のハンドルに当たるが、金属なので跳ね返り地面へと落ちていく。


「矢をはね除けるだと!? 体は、硬い甲羅か何かか?」

「まだ射れ! 倒れとらんぞ!」


 爺の言葉に続けて何本も矢を放つ。数本の矢が、自転車の籠の網目に刺さった。


「当たったぞ!」

「よし、よくやった!」


 喜びもつかの間、自転車はハンドルを左右に動かし、籠にあった矢を振り落とした。

 さらに大きな音を立ててこちらに近寄ってくる。


「な、なぜだ!? あんなに矢が当たっているのになぜ動ける? それに血が出んなどと……」


 そりゃそうだ。血が通った生き物ではなく、自転車だからな。

 自転車の弱点といえばタイヤだが、オレが爺達に教える訳がない。


「矢がなくなったぞ、長!」

「こうなったら、ナイフでやらんか! 接近戦で倒せ!!」


 怖さで戸惑いながらも、男二人はナイフを持ち、空中へ飛び上がる。 

 

 その時、バキッと音がした。

 


「ぎぃやあぁぁぁーーーっっ!!!!!」


 大音量の悲鳴が轟く。


「グガアッ、痛いッ、痛いッッ!!」


 見ると、爺の自慢の羽からポタポタと血が滴り落ちる。右側の羽が根元近くから折れて、羽が変な方向へ曲がっていた。

 痛さで立っていられないのか、爺が地面に膝をつく。


「と、父様っっ!?」

「長!!」


 爺の横で、ノン子さんが口についた羽をペッと吐き出した。

 ノン子さん、自転車に気をとられていた爺の羽に噛みついたのか! 


「ネ、ネコが……ぐぅヌヌヌ……」

「このネコが父様の羽を!? このくそ野郎! 殺してやるっ!!」

『フン』


 ギルムが爺の腰にあったナイフを取り出し、近くにいたノン子さんに切りつける。

 来るのがわかっていたみたいで、ノン子さんはそのナイフを避け、ギルムの腕を足場にして、ポンとギルムの肩に飛び乗る。そして体を逆にし、後ろ足を下にしてギルムの後ろを降りていった。


「ぐうわぁーーーっっ!!!」


 バリバリバリと音が聞こえ、ギルムの悲鳴と空中に舞ういくつもの茶色い羽。

 今度はノン子さん、ギルムの背中にシャキンと爪をたて、四方八方に羽を引っ掻いたようだ。

 地面に華麗に降り立ったノン子さんが、スタタタッとオレの足元に来る。


「ノン子さん……強すぎ」

『なんか、からだがわかがえったみたいにかりーとよ』

「軽いって?……本当に若返ったんじゃないか?」

『そうかもしれんね。わかいってよかね(いいね)! ちからがみなぎるとよ!』


「羽が、羽が!」と喚くギルムと、痛みで青ざめている爺。それを呆然と見ている鳥族の男達。

 こっちにもいるぞと、チリリリンッと鳴る自転車のベルの音だけではなく、キーーーッとブレーキ音も加えてきた。

 

「ヒッ」

「ネコも化け物だ!」

『ばけものとはなんね!?』


 怒ったノン子さんと自転車を怖がっている男達に、爺が「儂と息子をを連れて飛べ。む、村に……早く治療……せんと……儂の翼……」と、怒鳴りたいのに大声が出せず痛さと怒りからか、地面をダンダンと叩いている。

 男達はノン子さんと自転車が襲ってこないかビクビクしながら、羽を傷めないように爺とギルムを抱きかかえると、すぐに己の翼を広げ空へと舞い上がる。そして、こっちを見ないで急いで村へ飛んでいった。


 カロンの父親も、見たことがない自転車とノン子さんが怖いのか、息子の前に立ちカロンが攻撃されないように守っていた。

 ふむ、考えを改めたみたいだな。


「カロンの親父さん、ノン子さんも自転車も、スールの友達のカロンには攻撃しないよ」

「!? 人族が魔獣を操るとは……」

「魔獣じゃないから! ノン子さんは、オレ達の家族だ。それになんで勝手に動いているかわからないが、自転車は乗り物だからね」

「の、乗り物!? あれが?」


 カロンの親父さんは、驚いた顔で自転車を暫く見てから、オレ達に頭を下げるとカロンを抱いて村へと飛んで帰っていった。


「とりあえず、助かった」


 空を見上げ、オレはホッと息を吐いた。




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