どっちが可愛い?
「ご、ごめんなさい。ぼくのせいで……」
スールを地面に下ろすと、すぐにオレ達に向かって頭を下げた。
「スールのせいじゃない。あいつらが悪いんだ。 ありがとう、楓、ノン子さん、それに自転車、助かったよ」
楓は「うん!」と言い、自転車はチリンとベルを鳴らす。
『そうよ、スールわるくない。それにべつにあやまることなか。あたりまえ。よわきをたすけつよきをくじく! よくみてた! さいごはせいぎがかつんよ!』
それ……時代劇だ。
ノン子さん、ばあちゃんの膝で寝てたんじゃなく一緒にテレビを観ていたのか!
「女神さまも、ノン子さんも、ぼくのことわるくないって言ってくれてありがとうございます」
「ん? あれ? スール、ノン子さんの言葉わかるの?」
「え? あっ、わかります! わかりました!! どうしてでしょう?」
「なんで? ノン子さん」
『さあ? スールきにいったとよ』
「気に入った……心を開いたからとか? ま、会話が通じるのはいいことだよ。しかし、予想がつかないことがおこるな」
「そうだね。でも、どうして自転車が勝手に動くの?」
オレ達の近くにいた自転車に楓と一緒に触ってみる。しかし、パッと見、触ってみても前と同じで変わったところはなかった。ただ、自分で動くということ以外は。
「やっぱり能力じゃないかな!」
「能力か……」
「そう! 異世界に来るとさ、それぞれに合った能力とか、欲しいスキルとか、何かしらもらえることがあるもんね。言葉がわかるのもそうだし、お兄ちゃんは水の中で息が出来るし話せる。ノン子さんは私達と喋れるようになって、自転車はひとりで動けるようになった。買い物袋はあんなに入っているのに軽いじゃない」
「そう言われれば、そうだな」
「でしょ? それって、女神の泉の水が関係しているんじゃないかな? お兄ちゃん達は泉の中から出てきたし、ノン子さんはその水を飲んだ。生き物じゃない自転車や買い物袋に力があるのは、そのせいだと思うよ。……ん? あれ? 私だけ何でなにもないの? 私も泉の水、飲んだよ?」
そうだな、楓だけ今のところ何も変わっていない。
「なんでよ!! ノン子さんは水を飲んで、めっちゃ強くなったじゃないの! ハッ! もしかして……ノン子さんが勇者? 勇者なの!? 猫なのに!!?」
勇者……。
魔法は使えないがノン子さんは、かなり強い。戦闘では一番頼りになる存在だ。
ノン子さんが勇者―――。
ゲームとかでいえば、勇者は主役だ。ノン子さんを召喚するために、オレ達も一緒に連れてきたということか?
何かをさせるために呼んだんだ。何を…………。
考えてもわからん。ま、他の女神の泉に行けば自ずとわかることになるか。
横にいたノン子さんをチラリと見れば、オレを見て聞いてきた。
『ミズキ、ゆうしゃとはなんね?』
「ん~、勇敢な者。さっきノン子さんが言った、弱気を助け強気を挫くことが出来る者だね」
『フンフン。いろんなばしょにいって、わるものたいじしてた、ごいんきょみたいなもんやね』
ちょっと……いや、だいぶ違うけど、時代劇好きなノン子さんだからいいのか。
「なんだかわからないけど、ノン子さんが勇者で、お兄ちゃんは女神。じゃあ、私は? 私は何なの!?」
『きまってるとよ、カエデはおとものもの!』
ノン子さんが、きっぱりと楓に言った。
「ええーっ、誰がお供よ!!」
『それがいちばんカエデに、にあうっちゃが』
「嫌だっ!! 魔法が使えるようになりたい。魔法使いがいい! 火! 水! 風!」
魔法が出るようにと、一生懸命に空に向かって手を振りながら唱える楓だったが、何も起こらなかった。
『まほうつかいってなんね?』
「うーん、呪文を唱えて、火や水、風などを使って攻撃する人かな」
『フゥーン』
「諦めない! 絶対に魔法を使えるようになってノン子さんより強くなってやる!」
『フフン。アタシごいんきょゆうしゃで、カエデはおとものもの~』
「くっ……まだお供の者って言うのね! ねえ、ノン子さん知ってる? ご隠居って、一線を退き若い者に譲る。ようは年寄りっていう意味だよ。ノン子さん、年寄りだもんね。ご隠居勇者、似合ってる~」
『フン! としよりじゃなかと! アタシ、わこーなったんよ』
「 そうだな。ノン子さんは若返った。それに時代劇なら、ノン子さんはご隠居というより、忍者のほうが似合っているよ。猫だから身軽だし、足音がしない」
『にんじゃ! しのびのものやね!! それにすると! アタシ、ごいんきょゆうしゃじゃない。しのびのゆうしゃ! それでカエデはおとものもの!』
「何よ! 私はお供じゃなく、可愛い魔法使いになるの!」
『むじぃーなら、まけんとよ!』
ノン子さんと楓って、どっちも気が強くて負けず嫌いなんだな。……似た者同士なんて言ったら二人に怒られるから黙っとこう。
「お兄ちゃん! どっち!?」
『ミズキ、どっちね!? どっちがむじぃーと?』
「うおっ!?」
二人がこっちを振り向いて、どっちが可愛いかを聞いてきた。
まさか、オレにその話を振ってくるとは。
「いや、その……どっちも可愛いよ、うん」
楓は、男勝りなところもあるが文句なく可愛い。
ノン子さんも可愛い。顔も可愛いし、眠っている姿に癒される。寝ているとき、顔を腹につけてモフモフを堪能していた。
どっちが可愛いかなんて比べられるものではない。
「お兄ちゃん、答えになってない!」
『なってなかとよ!』
「あー、もう! そんなことより暗くなってきた。一度、スールの家に戻るぞ!」
これからのことを考え、スールの家に戻ることにした。
スールがオレの横を歩き、自転車もついてくる。
そして、ノン子さんと楓がまだ言い合いながら後ろから追ってきた。




