ノン子さんの活躍
魚は釣った!! と思った瞬間、逃げられた。そう、粘ったのにスールもオレも0匹、ボウズだよ。魚釣りの才能はないらしい。
魚は早々に諦め、他の食材を見つけることにした。
ノン子さんは相変わらず、森を駆け回っていて中々帰ってこない。
探している間、スールに薬草を教えてもらいながら、食べられる木の実、キノコを見つけ籠へと入れる。
オレ達が知っている植物は同じ名前で、知らないのはこちらの名前で伝わることがわかった。
「あっ、あれ! 果物だ! スール、あれ食べられる?」
楓がある木を指さす。
かなり高いところにオレンジ色の実が5、6個なっている。形は姫リンゴに似ていた。
「リリの実です! もうおわったはずなのにまだあるなんて!」
「食べれるんだね!」
「はい。甘ずっぱくておいしいです。でも……ちょっと高すぎてとれませんね」
「そうだな。枝も細いし、登ってもそこまでは行けないな」
「私にも無理そう。木登りは楽勝なんだけど」
「ぼくの足がわるくなければいけるのに……。ざんねんです。リリの実は強くゆらせば落ちてくるんですけど……」
幹を揺らしてみたが、高い場所にあるためそこまで揺れないみたいだ。今、強い風とか吹かないかぎり落ちてはこないだろう。
「仕方ない、他のを探そう。うわっ!」
「きゃあ!」
「あ!」
ガサガサと草むらからノン子さんが飛び出してきた。そして、ペッと口から何かを離す。
「これ……ウロウだ! すごいです、ノン子さん!!」
「ウロウ? これは魔獣なのか?」
見たことがない動物は、茶色でオレの手を広げたくらいの大きさ、耳がちょっと長くて兎に少しだけ似ている。体は丸くボールみたいに見え、息絶えていた。
「まじゅうじゃないです。ウロウは、けいかいしんが強くて、すぐ巣穴ににげます。なかなかつかまえられないんですよ。肉はやわらかくてすごくおいしいんです! ぼくは1度だけほんの少ししか食べたことないです。ノン子さん、狩りがじょうずです!」
「ノン子さんが、こんな大物を狩ってくるとは……」
夏になると、蝉を捕まえてミンミン言わせながら帰ってきたことが何度もあった。蛇や蜥蜴も捕まえてきたこともある。しかし、それも昔のことだ。年をとってからはそんなことしていなかったのに。
ノン子さんは、どうよ、凄いでしょ? という感じてオレを仰ぎ見ていた。
「肉は嬉しいけど、これどうするの? このままの状態のを見ているのはちょっと嫌だな」
そうなんだよな。スーパーでは売っていない。肉はパックにされているのを買って食べていたから、こういう姿を見るのは少し戸惑う。
しかし、これがこの世界なんだ。慣れないといけないんだが、捌くのオレに出来るかな……。吐きそう。
「ぼく、さばけます。お父さんから、えもののさばきかたを教わってます」
「あ、ありがとうスール! よろしく頼む!」
よかった、スールが出来て。スールのお父さんにもありがとう。感謝だ!
「川でさばきますね」
「じゃあ、戻ろう」
「あーあ。あのリリの実、食べたかったな~。落ちてこないかな」
諦めきれないのか、まだ幹を揺らす楓。そんな楓の横をノン子さんが風のように通りすぎ、ダダダッと木に登っていく。
「ノン子さん!? 登りすぎると降りられなくなるよ!」
そんなオレの声が聞こえたにもかかわらず、ノン子さんは上の方まで登っていって見えなくなる。しばらくしてユサユサと言う音と共にリリの実が落ちてきた。
「ノン子さんが、枝を揺らして落としてくれた!」
「すごい、すごいです!」
楓とスールがリリの実を拾う。
オレは「ノン子さーん、大丈夫かー?」と木に向かって叫んでいた。
猫って木に登ったはいいけど、降りることが出来ずにどうしよう? ってなるよな。
ノン子さんもある。家の庭にある木に登って降りられなくなり、ナァーナァー鳴いているところ助けに行ったことがある。降ろそうしているのに、怖いと、木の枝に爪をたてるんだ。引き離すのも大変だった。
上の方まで登っていったほうがいいのか? しかし、細い枝にノン子さんがいたらそこまで行けないし……。
どうしようかと悩んでいたら、ズササッとノン子さんが降りてきて地面に着地した。
「ノン子さん、降りられたんだ」
当たり前でしょ? というような顔をされ、テクテクと川の方へと歩きだした。
ノン子さんに違和感を感じながら、オレ達も川へと向かった。
川でウロウをスールに捌いてもらい、桶に水を入れ、火をつけるための小枝を拾いながら家へと戻る。
なんだかんだとあったけれど、かなりの収穫があった。特にノン子さんの活躍がなければ、食べられなかった肉と果物。楓もスールも楽しみなのか、会話が弾む。
さて、夕食の献立はどうしようか。ん〜、肉も果物も小さいから、素材の味そのままで食べよう。肉はシンプルに塩で焼くのがいいだろう。それだけでも旨いはずだ。
キノコは、貰ったパンと干し肉を入れてスープだな。醤油で味つけしようかな。
裏口から家と入る。
スールと楓も手伝うと言ってきた。スールはいいとしても、楓には料理、特に味つけはさせたくない。
かまどに火をつけるためにスールに小枝を組んでもらい、楓にはスープの出汁として使う干し肉を手で割いててもらう。手で割くだけなら、味は変わらないだろう。……変わらないでいてほしい。
キノコも入れれば、さらに出汁の旨味も出るはずだ。ナイフでキノコを刻もうとしていると、スールがあちこち何かを探している。
「火、使ってなかったもんね。えっと、石はどこにおいたかな?」
やっぱり火打ち石を使うのか。
「スール、石は探さなくていいよ」
ズボンのポケットから、楓から誕生日プレゼントに貰ったライターを取り出す。
「うわぁ! こんなの高価なもの見たことないです! ねこの細工もあってきれいですね。お宝ですか?」
「そこまでじゃないよ。だって私が買える値段だからね」
「値段はともかく、まあ、ある意味お宝にはなるな。大事にするし。特にここではこれは必要だ。こうやって点けるんだよ」
「うわあっっ!!?」
目の前でライターに火を点けてやれば、スールはかなり驚いて飛び上がった。
「火!? 火がついてる!!」
「ハハッ。ライターっていって火を点ける道具だよ。オレ達の世界ではいっぱいあるよ」
「道具……ま道具を持ってるなんてすごいですね! 女神さまはやっぱりすごいです!」
ま……まどうぐ? それって魔道具ってことか。魔力があるって言ってたからそりゃあるかもしれないな。
魔力――ゲームの世界みたいに魔法が使える人もこの世界にはいるんだ。
オレは水の中で息ができ、話せることがわかった。凄いことだとは思う。思うけどそれだけだ。どうせなら魔法が使えればよかったのにな。
ライターでかまどに火をつけようとした時だった。椅子の上で寝ていたノン子さんが、パッとテーブルの上に乗り、顔をあげながら耳をピクピクさせキョロキョロとしだした。




