食材探し
ぷにぷにとほっぺたを押される感覚に、沈んでいた意識がゆっくりと持ち上がる。
あー、気持ちいい。これ、ノン子さんの肉球だぁ〜……。にく…きゅう……肉球!? ヤバッ、肉球だっ!!
パッと目を開けるとノン子さんがオレの顔を覗きこんでいた。
以前、元気だったノン子さんはこうやって、オレを起こすことがあった。起きないでいるとシャキンと爪を出し、カリッといかれる。
明るい! 嘘!? 寝過ごした?
今日、休みじゃないかったよな!? とガバッと起き上がり周りを見て、自分が地球じゃなく異世界にいるんだと把握した。
「脅かさないでくれよ、ノン子さん。何、どうした? お腹が空いたのか?」
フンッと鼻息を出し「ナァ」と鳴いた。腹が減ったのでオレを起こしたのか。
横を見ると、スールと楓が背中合わせに丸まりながら同じような格好で寝ていた。
「ンナア」
まだ? というような声で鳴くノン子さん。
「ちょっと待ってろよ。えーと、カリカリに水……」
小さめの少し深さのある木の皿を2つ持ってくると、そこにカリカリと水を入れる。ノン子さんは、それを勢いよく食べはじめた。
珍しい。年を取ってからはこんなには食べなかったのにな。
オレが、ごそごそと動いたことで二人も起きてきた。
「ふわぁ~、よく寝た! だいぶ疲れもとれたよ」
「ぼくも。それに何だか痛みがとれたみたいです」
「それはよかったな。じゃあ、スールの両親の墓に行こうか」
お菓子を持って、三人で外へ行く。ノン子さんもカリカリを食べ終わったようで、一緒に出てきた。
水瓶を乗せた荷車は、家の横、屋根だけある小屋に置かれていた。
「スール、少しもらってもいい? この水を飲むとなんだかさっぱりするんだ」
「はい、どうぞ」
楓が水瓶の水を少しもらい飲んだ後、荷車を引いてお墓がある方へと歩き出す。
木で出来た大きな柵の扉を開け、中へと入る。
ノン子さんはタタタッと柵の上に登り、そこに座った。中へは入らず、ここで待つらしい。
ひとつひとつ、小さな木の器に入っている水を捨て、水瓶の中の新しい水と変えていった。オレ達も手伝う。
「こうやって泉の水をまくと、よく草花がそだつんです」
スールが捨てる場所は毎回同じところなのか、そこだけ異様に育っていた。
「ここです。こっちがお父さん。あっちがお母さん」
隣同士にあるスールの両親の墓。
スールが草取りをしているのか、こんもりしている場所は他のよりも土が見え、その周りは小さい白い花がたくさん咲いていた。
「はじめまして。スールのお父さん、お母さん」
途中で取ってきた葉の上にクッキーを二枚ずつのせ、それぞれの墓石近くに置いくと楓と共に手を合わせた。
スールは、そんなオレ達の前でしゃがみこみ話しだした。
「あのね、このかたはちがう世界から来た女神さま。そして、いもうとのカエデさん。あ、ノン子さんっていうねこもいるんだ。かっこいいんだよ! 女神さまたちが来てくれてにぎやかでたのしいよ。そう、このクッキー。すごくおいしんいんだ。食べてみて、おどろくよ! それにまっ白い食べ物も食べたんだ。それでね、あとね―――」
一生懸命、両親の墓に向かって話すスール。
スールの両親は鳥族の村にいるから鳥なんだろうか。しかし、スールが猫ならどちらかが猫じゃないとないとおかしい。でも……スールはたぶん猫と言っていた。自分のことなのにわかっていない。
ん~、この世界にも隔世遺伝とかあるのか? それでわからないとか? 聞いてみようと思ったが、楽しそうに一生懸命話すスールを見て、別に今ではなく後でもいいと考えた。
「ありがとうございました。お父さんもお母さんもよろこんでいます」
「うん。オレ達もスールの両親に挨拶出来てよかったよ。この後なんだけど、そこまで腹は減ってないから昼飯は抜きにして、早めに夕飯にしよう。その食材を取りにこれから皆で行かないか?」
「いいね、それ」
「ぼくもてつだいます! あ、お父さんと作ったつりざおがあったはず。さがしてみます」
ノン子さんを連れて、スールの家へと戻る。
荷車を置いてから、桶や探しだした釣竿、小さなナイフ、籠などを持って川へとやって来た。
スールが見たことのない少しグロテスクな小さな虫を捕まえて、釣竿の糸の先に結ぶ。
「釣りかー。オレ、食パンでザリガニはあるけど魚は初めてだ。釣れるかな……。スールは?」
「ぼくはお父さんと何回かあるけど、こんなちっちゃいの一匹だけです。お父さんはいっぱいつってました」
「上手かったんだな」
そんなお父さんと比べられてもオレは敵いっこないが、大きい、いや中ぐらいのやつ二匹は釣りたい。焼き魚もノン子さんの好物だから、必ずくれと言ってくるはずだ。皆で半分ずつ食べるためにも二匹は最低目標だ!
「頑張ろう。スール、楓」
「はい!」
「私は見てるだけだけどね。応援はするよ」
「あれ? ノン子さんは?」
さっきまで近くにいたのに、ノン子さんがいない。
釣りをしながら探していると、バババッ、ダダダッとノン子さんが元気よく駆け回っていた。
「…………なあ、ノン子さんって元気過ぎないか? 年をとってからはあんなに走り回れなかったのに」
「元気が有り余ってるぐらいに見えるね」
「どうしたんだろう?」
「女神さま! 引いてます! 引いてますよ!」
「おおっ!? かかった!!」




