皆で囲むご飯は美味しい
ガタゴトと音がし、スールが扉を開けて部屋に入ってくる。
「おかえり、スール」
「おつかれー、スール」
「ナァー」
オレと楓だけじゃなく、ノン子さんまでスールに労いの言葉をかけてくれた。
「たっ、ただいまです!」
ただいまを言いなれていないスールは、顔を赤らめ恥じらう。
オレは楓と顔を見合わせる。これは同じことを思っているな。スールは可愛いって。で、スマホ、なぜここにはないんだ! って。リュックを置いてきたのが悔やまれる。
「あ、あのこれ。カロンからもらったパンと干し肉です」
スールは、持っていた剥き出しのパン1つとビーフジャーキーに似た平べったい干し肉1つをオレに渡す。
「カロンって、スールの友達?」
「はい! カロンのお母さんが、ときどきぼくにくれるんです。それでその、女神さまからもらったクッキーをカロンにあげました。いつももらってばかりだから……」
「全部?」
「はい……。ダメでしたか?」
「いや、スールにあげたやつだからスールのものだ。好きにしていいよ。このパンと干し肉だけど、また今度にしよう。ご飯は出来ているから。食べる前に桶に水が入ってるから手を洗ってきて」
「はい!」
手を洗うスールを待っている間、煮立たせないようにしていた味噌汁を3つの木の椀に入れ、テーブルに置いた。
真ん中には、おにぎりがドンッとある。
ノン子さんも1つの椅子に丸まって寝ていて、全員が座ったところで、いただきますだ。
「いた? いただき?」
手を合わせて「いただきます」と言うオレと楓に、スールがわからないみたいで聞いてくる。
「そう。いただきます。これはオレ達の国の言葉で、ご飯を食べる時に言うんだ。命をいただきますという意味合いもある。色んな命を食べて、自分の血や体、命を作っていくんだ。いただきますは、食べ物に感謝する言葉だよ。ばあちゃんからの受け売りだけどね」
「かんしゃする言葉……。はい、ぼくもいただきます!」
ちゃんと手を合わせて真似をするスールに、微笑みながらどうぞと答えた。
箸はないので、木のスプーンで食べることになる。
オレの向かいに座っているスールは、はじめて見る食べ物に戸惑っていた。
「スール。これは味噌汁と言って、こっちでいうと、うーん、そうだな、スープだよ。熱いから気をつけて」
「は、はい」
スールは猫だから、猫舌なのか? と思いながら、スプーンで味噌汁をすくい、フーッフーッと息をかけ冷ましながらゆっくりと飲むスールを見つめる。
「味はどう?」
「ん~……、かわっている味だけど、おいしい。魚の味もする。このピロピロはなんですか?」
「フハッ。ピロピロって。それはワカメ、海藻だよ」
「へぇー、ワカメ。これもはじめてだ」
美味しそうに食べるスール。味噌汁は気に入ったみたいだ。でも、少し熱そうだな。
「お兄ちゃん、おにぎりの中は何?」
「あー、こっちがおかかで、こっちは何にも入ってない」
「んー、おかかにする」
「あ、ちょっと待て楓! これこれ」
「買ってあったの!?」
「もちろん。ちょうど切れそうだったんだ」
部屋の隅に置いていた買い物袋の中から取り出したもの、それは海苔だ。おにぎりには海苔!
オレと楓は、しっとりしたおにぎりの海苔より、噛んだときパリッとした方が好みなので食べる直前に巻く。
封を開けると、ノン子さんが起き上がってきた。鳴き声と手を使い、くれといわれる。
やっぱりな、そうくると思った。
ノン子さんの好物は海苔。大好きみたいで、手巻き寿司とかするときは海苔の争奪戦だ。くれといわれればやるのだが、あげすぎると酢飯が巻けなくなり、手巻きにならず、ただの酢飯の上に刺身がのってる状態で食べることになってしまう。ノン子さんは海苔を食べたあと、刺身も食うけどな。
ノン子さんの体のことを思って、味つけ海苔ではなく焼き海苔を買っている。
今回は横にノン子さんがいたから、くれといわれることはわかっていた。
ノン子さんって、めざといんだ。部屋で食べ物の封を開けた瞬間、なぜか隣にいるんだよ。
なに? なにを食べるの? って開けたものを知りたがる。
いつの間に!? さっきまで、いや、確実に部屋にいなかったよな! なぜここにいる!?
って何度思ったことか。まるで瞬間移動しているみたいに何処からともなく来て、横にいるんだよ。
それが不思議なことに、食べ物じゃなければ封を開けても来ない。耳が良いのか、鼻が良いのか。
オレの腕を右前足でチョンチョンと叩いて、早くくれと催促される。
「待て待て、ノン子さん。先に楓とスールにだ」
楓とスールに海苔を手渡す。貰った海苔をスールは裏返したりして、まじまじと見る。
「この黒いのも食べ物?」
「ああ。海苔と言って、これも海藻から作られる。楓、スールに海苔の巻き方を教えてやってくれ」
「わかった」
オレは、くれくれ攻撃をするノン子さんに、焼き海苔を小さく千切りながら食べさせる。
「スール、こうやっておにぎりを手に取って、海苔をこう巻くの。で、パクッと食べる。うん! 美味しい!」
「お、おにぎり? あ! 白い食べ物だ!! こんなにまっ白いのはじめて食べます」
米を見たことないんだ。この国は主食はパンみたいだな。
さっきスールから貰ったパンは茶色で少し固そうだった。パンもだが干し肉も、そのままではオレ達の口には合わないだろう。どちらもスープに入れて食べた方がいい。
「茶色くなってるところは、おこげと言ってそこも旨いから。腹持ちもいいし、力がでるよ」
「力……ですか? 力ほしいです。食べます!」
具なしおにぎりを1つ手に取り、あらゆる角度から見る。
「まっ白でキラキラしてる~」
キラキラしているのは、スールの目のほうだ。ぎこちなく海苔を巻く。
「あ! ノン子さんと同じ色ですね!」
「え? あー、そう言われればそうだな。思ったことなかった」
海苔はよく見ると黒ではないが、パッと見、ご飯の白と海苔の黒で白黒になる。
おにぎりがノン子さんか、面白いな。そのノン子さんに、もう海苔はおしまいと、ストップをするみたいに手のひらを見せれば、また椅子の上に丸まって寝る。海苔は食べるけど、やっぱりお腹はそこまで空いてないみたいだ。
はむっと、おにぎりを食べたスールは「やさしい味で、すごくおいしい」と食べた一口を味わって噛む。
「ご飯は、噛めば噛むほど甘くなる。甘くなってきただろう?」
「は、はい。スープもこのおにぎりもおいしいです!」
オレもおにぎりを手に取り、食べる。うん、旨い!
三人と寝ているノン子さんで囲むご飯は美味しくて、楽しかったが、スールはすぐお腹一杯だと言ってあまり食べられなかった。急にたくさん食べても体が受けつけないだろうし、無理はさせたくない。
楓がほとんど腹の中に入れて、ご馳走さまと言って食事が終わった。
「はぁ~、満足、満足♪ で、これからどうするの?」
食器を片付けた後、自分の腹をポンポンと叩きながら、楓が聞いてくる。
「そうだなぁ。女神の泉を探しに行かなきゃならないけど場所もわからないし、こっちの金もない……。しばらくスールの所に居てもいいか?」
これからの考えをまとめなきゃいけないのもあるが、もう少しスールのそばにいてやりたい。
「スール、仕事は? また水汲みに行くのか?」
「いえ、水くみには行かなくていいみたいです。外にある泉の水をお墓に持っていけば今日は…おわ…りに……あれ? きゅうにねむ……くなって……」
かくんかくんと顔を上下に揺らしながら、スールの瞼が下がってくる。腹が一杯になったから眠くなったみたいだ。
「いろ…いろあった……から……」
「だろうな。仕事ないならちょっと休みなよ」
「は……ぃ」
テーブルに顔をふせ、すぐに眠ったスール。
オレはスールを抱きかかえて、寝床へと連れていった。楓も後をつけてくる。
「軽いな……。軽すぎるよ……」
「お兄ちゃん。これ……」
横にならせた時、薄い服が捲れスールのお腹が見えた。
痣が何個もあった。自分でぶつけて出来た痣ではないのがわかる。腕や足にもだ。村で何かされているんだ。
「酷いよ! これ!」
「ああ。酷い。何とかしてやりたいな」
「うん」
痛いとも言わず、がんばるスールの頭を撫でてやる。無意識にスールは微笑んで、オレの服を掴んだ。
離す気にもなれず、そのままオレもスールの隣で横になる。楓も「私ももう少し寝る」と言って、スールを挟み横になった。
「ゆっくり休みな、スール」
スールの寝顔を見ていると、オレにも眠りが訪れてきた。
◇◇◇
温もりに包まれてスールは目を覚ます。
(あ……)
スールを挟み、水希と楓がスールを守るかのように寝ていた。
(人ってあたたかいな。うれしいな)
久しぶりの人肌に包まれてスールは微笑むと、この幸せにもう少し浸りたくて、また目を瞑り、眠りにつく。
椅子の上で寝ていたノン子さんがそっと目を開け、その様子を静かに見ていた―――。




