表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/29

会いたくない人物

 1台の荷車を引きながら嬉しくて顔が綻んでしまうスール。


 スールにとって、久しぶりのいってらっしゃいだった。そして、家に帰れば、自分を待っている人がいる。そのことも嬉しい。

 

 

 村が見えて来たことにより、その嬉しさを表情に出さないようにした。

 村の中では、ひっそりと目立たないようにしなければならない。そう、村のおさから厳しく言われていた。


 誰もいない裏門で立ち止まり、門の左右に置いてある2つの水瓶を手に取ると、中に入っていた水を近くの畑に撒く。荷車から水が入っている水瓶を門に置き、空の水瓶を荷車に積むと村へと入った。

 スールは、水希達のことを村の人達に言うつもりはなかった。自分が言っても信じてはもらえないだろうし、ましてや見下している人族だ。見つかれば、どうなるかわからない 。

 出来るだけ村の者に会わないようにと、人の少ない道を進んでいった。


 村の表門に行くと、今日の門番である鳥族の男にジロリと睨まれるが、何も言われなかったので、急いで裏門と同じように水瓶を交換した。そしてすぐさまそこを離れる。


(今日はにらまれるだけでよかった……)


 人によっては相手をしろと言われ、持っている木の棒で戦いの練習をさせられることもある。もちろん、スールに反撃する力もないので叩かれるだけになり、いつも張り合いがなくてつまらんと言われて終了だ。門番のただの暇潰しだった。

 

(女神さまに会えて、うれしいことがいっぱいだ)

 

 見えないように微笑むと、村の中央にやってくる。

 中央には井戸があり、その近くに持ち手が何個もついてある大きな水瓶が2つ置いてあった。

 町で売る女神の泉の水は、この大きな水瓶で鳥族の男達が持ち手にロープをつけ、それを持ち飛んで運んでいくのだ。日によって水瓶の数が違い、必要な分だけ、スールはここに水をいれなければならなかった。


(今日は2つ。少ないほうでよかった。これなら次、多めに持ってくればあと1回ですむ)


 荷車から踏み台を取りだし、水瓶の近くに置く。次に蓋を取ると、持ってきた水瓶を1つ持ち上げ台に乗り、少しずつ大きな水瓶に水を入れていった。


 村の中心にあるため、人の行き来はある。鳥族の女達や年老いた者達は、スールを見ても関心を持たず無視するか、ヒソヒソと話をしている。

 幼い子供三人が飛びながらスールに近づき「とべない、できそこない」「できそこない。はねじゃなくて、へんなシッポ」「みみもへん~」とからかった。

 スールは何を言われても、ただひたすら水を水瓶に入れ、全部が入れ終わるとまた来た道へと戻り、二台目の荷車を持って村へとやって来た。


(そういえば、今日は男の人をあまり見ないな。狩りに行っているのかもしれない。ツイてるぞ)


 2つ目の水瓶に水を入れながら、辺りを見回し、そう思った。男達のほうが口が悪いし、スールになにかと言ってくるのも多い。しかしその中でも一番会いたくない者がいる。


「ほらきたよ」

「できそこないがきた」

「ほんとだ。いつもより早いな」


 幼い子供達だけでなく、年上の子供達もまじってスールに近寄ってきた。その中の一人の人物に目がいき、ギクリと体が硬直した。


(あ……まずい、ギルムがいる)


 13歳のギルムは、村長の遅くに出来た息子だ。娘ばかりで、やっと出来た男の子。父親と母親はの可愛がりようは半端なく、傲慢で我が儘な子供に育っていた。

 スールを見つければ、おもちゃのようにもて遊ぶ。このギルムが一番会いたくない人物だった。

 

(狩りに行っているから、ギルムは村にいないと思っていたのに……)


 狩りに慣れさせるために、10歳頃から獲物の解体の仕方や槍、弓などを教えられ、12歳になると時々狩りに連れていってもらえる。

 このバルジル村の辺りには大物の獲物はいないため、狩りをする時は遠く離れた山へ行く。

 13歳のギルムは、下手なくせに獲物をいたぶることが好きだったため、率先して狩りに出掛けていた。

 いつもスールはもっと遅くに村にやって来ていた。その時間は勉強の時間なのか、狩りがない日でもあまりギルムに出会うことがない。しかし、今日は水希や楓が手伝ってくれたことで、時間が違っていた。


「今日は寝坊しちまって狩りに連れていってもらえなかったから、ムシャクシャしてたんだよなあ~。ちょうどよかった、こいつがいる」


 ニヤリと笑ったギルムは、持っていた小石をスールに投げつけた。真似をして、他の子供達も同じように石を投げてくる。


「水瓶にはあてるなよ。壊したら後々面倒だ」

「わかってるよ、ギルム」

「誰が一番あてたか、競おうぜ。ほら、あたった!」


 スールは、黙々と水瓶に水を入れていった。言葉を発したら、もっと酷くなる。それがわかっていたから、痛みに耐えていた。


(いたいのは、力があるギルムだけ。他はまだたえられる)


 近くで見ている大人達は何も言わず、ただ見ているだけだった。言ってもギルムが聞かず、下手をすれば自分達に難癖をつけてくるかもしれない。

 幼い子供達も混じろうとしていたが、近くにいた母親が自分の子をそこから連れ出し、関わりたくないため家に戻っていく。


「おれのほうがギルムよりあたってる!」

「チッ。小さいのは性にあわん。おっ? これいいなぁ。これであてたら点数倍な!」


 ギルムは負けたくないため、近くにあった拳ふたつほどの大きさの石を手に取った。


「ギルム……それ、ヤバくないか? 大きすぎるよ」

「あたると大ケガする……」

「なに言ってるんだ。スールだぞ? 別にいいじゃねーか」


 水瓶にいれ終わったスールは、ギルムの手の中にある石を見て顔色を失った。

 あんな大きな石、体にあたったら痛みどころじゃないだろう。ここから去ったほうがいいと考え、急いで水瓶と踏み台を積み、荷車を引いてその場を離れようとした。

 子供や周りの大人達が青ざめていく中、ギルムは茶色の羽を広げ、空中へと浮かび、スールに焦点を当てた。


「逃げろ、逃げろ、スール。そのほうが面白い!」

 

 飛びながら後をつけてくるギルムに、スールは振り向かず出来るだけ足を速める。しかし、右足が悪いため速くは進まない。

 ダメだ!

 荷車を置いて逃げようとしたが、足がよろけてしまい、上手く逃げ出せなかった。


「いくぞー!!」

「ヒッ」


 スールは体を丸め、来るであろう痛みに備える。

 そんな時、声が響いた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ