スールの両親
「へえ~、スゲーんだな。あの大樹」
「そうだね。それにエルフとかいるなんて、会ってみたい!」
楓と遠くに浮かぶ世界樹アクアを眺める。ブロッコリーに見えていた物が、今では神聖な物に変わる。
「なあ、スール。青い瞳は女神の力を貰った証しと言ってたよな」
「はい。青は女神の色とも言われ、高きで特別な色です。人族は女の人だけですが、他の種族では性別を問わず、うすい青い目を持って生まれることもあるらしいです」
「いるのか、獣人にも青い瞳」
「ぼく、この村から出たことがないから会ったことはないですね。青い目でも人族のような能力はないみたいですよ。周りからとく別な者として、あがれられると聞きました」
「ハハッ。あがれらるじゃなく、崇められるだよ」
「あ! あがめられる……あがめられるでした。むずかしいですね。全部お父さんから教えてもらった話なんです」
「木ではなく女神はどんな姿だったのか、お父さんから聞いてないか?」
「……わかんないです。だからぼく、女神さまが泉から出てきた時、ディアさまが人のすがたであらわれたんだと思いました」
それで、男のオレを女神と呼んだのか。
「オレが泉の中で見た青い髪と瞳の女の子……。女神ディア……」
「女の子がいたんですか? 泉に?」
「ああ、儚く消えたけど」
「あの泉は本物の本物だ! 女神さまが二人もいる!」
「いや、オレはいれなくていいよ」
あの女の子は、髪も瞳も青。やはり、女神。
しかしなあ、あの子が女神なら、オレに何をして欲しいんだろう。名前が女神になるのも関係あるのかもしれない。
ま、他の女神の泉に行けば自ずと答えは出てくるか。
楓は今の話、何か気づいたことがあるか聞いてみよう。
「かえ――」
グッグゥ~~、キュルル……
スゴい音が聞こえ、お腹を押さながらオレを見る楓。
「お兄ちゃん、お腹すいた。クッキーじゃ足りない、何か食べたい。それに疲れた。横になって眠りたいよ」
「…………」
あのな~……。大事なことを話そうと……ま、腹が空いてちゃ考えもまとまらないか。
「うーん、減ったと言われてもな。調理できないし、そこら辺に寝るのもな。一応、女の子なんだし」
「一応って、何よ!」
「あ、あの! ぼくの家に来ますか?」
スールの言葉に二人で振り向く。
「ぼくの家、もう少ししたらあるんです。ほら、見えますか? あの屋根です。きれいじゃないけど横になるくらいはできるし、台所もあるから。食材も少しはありますよ。クッキーのお礼です」
下り坂の途中に木々の間から、ちらりと屋根が見える。スールの家だ。そしてそこからまだ下ったところ、他の山々に囲まれた場所に家々が見えた。あれが村か。
「いいのかな?」
「はい」
「行こう、行こう!」
楓が乗り気だし、お言葉に甘えて、スールの家にお邪魔することにした。
◇◇◇
「ここです」
「「…………」」
スールの家についたオレ達は言葉を失う。
スールの格好からして裕福ではないとは思っていたけど、ここまでとは思わなかった。
木で出来た小屋。しかし、いたるところに穴や隙間があり、ボロボロで半分朽ちかけてる。
「ボロい……」
「コラ、楓。そんなこと言うなよ」
「えー、お兄ちゃんだってそう思ったでしょ?」
そう思ったさ、そう思ったよ。でも、口に出しちゃ言っちゃいけない言葉ってのもあるのさ。
「それにあれ、お墓だよね」
「そうだと思う」
道を挟んだ向かいには柵で囲まれ、中にこんもりとしたものがいくつもある。墓石とでもいうように大きめな石が一つ一つ置いてあった。
二人してコソコソと話す。
「えっと、どうぞ」
荷車を玄関前に置いて、スールは傾いている木の扉を開けてくれた。もちろん、鍵などない。
ノン子さんが荷車からトンッと降り、スールの家へ入っていく。オレ達も後へと続いた。
「これまた中もすごいね」
「ああ……」
玄関から入れば、すぐに部屋。部屋の床は腐っていたり、隙間から雑草が生えている。
スールには大きすぎる木のテーブルと4つの椅子が部屋の真ん中にあり、壁側に石で作った小さなかまどがある。鍋を上から吊るして火にかけるのだろう。
裏口もあり、その横には大きな水瓶と桶が置いてある。
部屋の隅の一角に、たくさんの藁みたいなものが敷いてあった。その藁の上にノン子さんがトテトテと歩いていって匂いをフンフン嗅ぎながら暫く考えたあと、そこに寝っころがる。
「あそこでスール、寝てるの?」
「そうみたいだな」
「前はあっちでねてたんですけど、ねれなくなってしまって……」
その場所の上を見れば天井に大きな穴があり、そこから空が見える。雨が降ったら、ここはびしょ濡れになるからか。床も腐ってるし。
この部屋の他には、あとはトイレしかなかった。
「さいしょはここまでひどくなかったんですよ。自分でなおそうとしたんだけど、上手く出来なくてやめました」
「なあ、スール。さっきクッキーを親にあげるって言ってたけど、ここに住んではいないのか?」
ここにいるのはオレ達だけで、スールの親がいる気配はない。小さな棚とかはあるが、あとはほとんど何もない部屋。ここに親子三人で住んでいるとは思えなかった。
「ここではなく、あそこにいます」
スールは開けたままの玄関を指差した。指の先にあるのはさっき見た墓だ。
亡くなっていたのか―――。
「二人とも? 一人でここに住んでいるのか?」
「はい」
楓と顔を見合わせる。
オレ達の両親が亡くなった時、楓は今のスールと同じ八歳だった。
辛くて悲しかったが、楓にはオレがいたし、オレにも楓がいたから寂しくはなかった。それに心強いばあちゃん、ノン子さんもいてくれた。
でも、こんな朽ち果てた家にスールは一人。
「それは寂し……いや、偉いな、スールは」
寂しいって言われなくてもわかっている。悲しませることより励ます方をオレは選んだ。
「えらい?」
「そう、偉い! その年齢で一人で暮らしているだから」
「ほんと、スールはすごいね!」
楓もオレと同じで、スールを元気づけてくれる。
「えらいですか、えへへっ。ぼ、ぼく、水を村にはこんできますね!」
赤くなって恥ずかしがりながらも、スールは張りきっていた。
「家の中の物はなんでも使ってください。水がめの中には水は入ってないです。ぼく、一人なのでためるほどでもないかなって。そこのうら口から出て少し行けば川があるのでそれを使ってください」
「わかった。ここにあるもので作ってみるから、スールが仕事終わったら、一緒にご飯食べよう。あと、さっき渡したクッキーはスールが食べちゃいな。お父さんとお母さんには、別のを持っていけばいい。オレ達もスールの親に挨拶したい」
「あ……ありがとうございます」
ペコリと頭を下げて外へ出たスールに、オレと楓も玄関先まで出る。そして、スールに声をかけた。
「いってらっしゃい、スール」
「あとでね、スール」
「あ…………。ぁっは、はい!! い、いってきますっ!!」
いってらっしゃいが久しぶりに言われた言葉なのだろう。
嬉しそうに、本当に嬉しそうに満面の笑顔で手を振りながら、スールは村へと下りていった。
「苦労しているんだな、スールは」
「うん。あんなに良い子みたことないね」
「よし! スールが帰ってくるまで美味しいご飯を作るとしよう」
「私も手伝う!!」
「いや、楓はいいよ。疲れてるんだろう? 休んどけ」
「スールだって頑張ってるんだから、休んでる場合じゃないよ」
「いやいやいや」
楓とワイワイ言いながら、家の中へと入っていった。




