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ブロッコリーかと思った

 引っ張りあげたのは、自転車だ。


「今度は自転車!? これ、お兄ちゃんのだ!」

「だよな、そりゃそうだ。買い物袋がここにあるんだから、一緒に水に呑み込まれた自転車もあるよな」

「そういうことね。でも、この自転車も濡れてない」


 オレンジ色の自転車が、雲間から見える朝の太陽の光を反射してキラキラしているが、楓の言うように自転車には水滴がついていなかった。

 ふむ、自転車よ、お前もか。

 

「あの、こ、これは?」


 スールが自転車を驚きの目で見ている。ここの世界に自転車はないのか。


「自転車って言って、乗り物なんだよ。とりあえずこの近くに置いとくわ」


 自転車を転がし、女神の泉近くの木の横に置いておく。

 スールは、自転車が動くのを見て悲鳴をあげて離れた。そんなに恐ろしい物に見えたのか。


「自転車は怖くないよ。さてと、行くか。スール、3台ある荷車はまた連結させるのか? かなりの重さになるぞ」

「いつも水を入れた後は1台ずつ村まで持っていって、またここにもどってきます」


 まだ怖いのか、オレを見ないで自転車を見ながら話すスール。

 

「なら、ちょうど三人だ。荷車を1台ずつ引いていこう。そうすれば時間かからないし」


 自転車はここに置いといても大丈夫だろう。買い物袋は、動物達に食われるおそれがあるので持っていくことにした。なぜだかわからないけど、軽いしな。


 スールを先頭に、楓、オレの順番で行こうとしたが考えが甘かった。

 水瓶8個は思っていた以上に重かった。まだ男のオレはいいとしても楓には無理だ。

 スールが「下りだからまだいけます」と言ったので、スールの荷台に2個乗せてロープで固定する。そして、オレと楓の荷車を連結して一緒に引いていくことにした。水瓶の空いたところに買い物袋とノン子さんが陣取る。


「じゃあ、行こう。スール、案内を頼む」

「はい!」


 一度動かせば、ガタゴトと動いてくれる荷車を引きながら、こんな大変な仕事なのによくがんばってるなと、前を歩いているスールに感心してしまう。

 スールの後に続いて行けば、土が見える一本道に出た。そこからは下り坂だ。どうやら森というより、山の中だったようだ。

 しばらく行くと、周りの景色が見渡せる高台の開けた場所でスールが止まる。


「ここから女神さまが見えますよ」

「どれ?」


 キョロキョロと楓と辺りを見渡すが、大きな石が何個かあるだけで銅像はない。

 まさか、石が女神じゃないよな。


「そこじゃないです。ほら、あれです」

「え?」

「あれが!?」


 スールが指差す場所を見て、唖然とした。

 遠くに見えるのは、グレー色の大きな物体。それが空に浮かんでいた。


「あれが女神!? あれはいったい何?」


 まさかあれが女神とは思えなかった。どこをどう見てもブロッコリーだ。


「女神ディアさまの木、アクアです」

「女神の木!?」

「はい」


 ブロッコリーは木だったのか。ここから見える大きさであれなら、バカでかい木だ。

 そういえば、北欧神話に世界を支えているユグドラシルという世界樹があったな。


「どうして木が空に浮かんでいるんだ? それに女神の木って……」

「それはですね――」


 オレと楓は手頃な石の上に座って、スールからこの世界のことをもっと詳しく教えてもらった。


 遥か昔、この世界は地下から濁りのある魔力を地上へと放出していた。そこからいくつもの邪悪な魔獣が生まれ繁栄し、毎日のように争いを起こす。

 殺伐とした血の世界。この世は滅びゆくはずだった。

 それを見た女神ディアは不憫に思ったのか、地上に降り立つと、悲しみから七つの涙を流した。

 その涙が空中で光輝き、女神が両手をあげるとどこかへと飛び散った。涙は泉となり、この混濁した世界を浄化しはじめる。

 そして、女神の息吹きから4匹の聖獣が次々と生まれ、蔓延る凶暴な魔獣を倒していった。

 聖獣は強く、魔獣を倒すと四方に飛び去り、それぞれの土地で己の力を使い違う種族を作り国を築き上げることにした。

 一番先に女神から生まれた寡黙で圧倒的な魔力を持つ蒼竜は、北の国ノルゥーアに自分と同じように体内に強い魔力を持つ竜人族を作ったそうだ。

 次にスールのいる西の国ウェルストリアの蒼虎だ。蒼虎は、獣である自分達の姿を気に入っていて獣人を作った。力ある者は獣化でき、身体能力が優れている。

 三番目は南の国サウルシアの蒼馬。この蒼馬は、暖かく緑豊かになった土地を気に入り純真さと自然を愛する。その自然の力を体に吸収し、それを魔力として使うエルフを作った。

 そして最後は東の国イースターリア。ここは蒼鳥。

 最後に生まれた蒼鳥は他の聖獣に比べ力が弱く、魔獣との戦いでほとんど力を使い果たしてしまった。魔力も獣化する力もない一番弱い人族を作った。しかし、人族は手先が器用で細かい仕事を得意とする。繁殖する能力はどの種族よりもあり、4つの国で一番の人口の多さ、国の広さを持つ。2番目に広い国は西の国だ。

 反対に北と南は小国で、特に南のエルフは、奥深い森から出てくることはないらしい。

 聖獣は消え、それぞれの国で守護獣と言われながら繁栄していった世界だったが、浄化してもまだ濁りの魔力は所々に現れる。そこで女神は水の流れを使い、世界の中央に各地から濁りのある魔力を集め一気に浄化することを決めた。

 

 それがあのアクアという世界樹だ。


 大量の水が下から上へと組み上げられ、樹は水の力で浮かんでいる。

 樹が水を吸い上げ定期的に葉から水蒸気を出し、それが雲となり浄化した綺麗な水を雨としてアクアディアの世界に降り注ぐ。

 濁りから生まれた邪悪な魔獣は消えたが、世界が発展していく中で動物も生まれ、また新しい魔獣も生まれた。魔獣は体内に魔石を持ち、力はまちまちで倒すことはそう難しくなかったが、応戦する魔力や力がない人族は特に苦労した。

 それを知った女神ディアは、消えゆく前に残った最後の力を人族に分け与えたのだそうだ。

 人族の中に治癒能力がある者が生まれる。その力は他の種族にはない。

 女神の力を貰った証として青い瞳を持って生まれる。そしてそれは女性のみ。聖女として人々を癒す存在。


 今では濁りの魔力はなくなったが、世界樹アクアは今も水を浄化し、綺麗な水を降らせている。




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