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七つの泉とオレの……

 (あっ!)


 声が出そうになったので、慌てて口を手でおさえる。

 いたにはいたのだが、実体はなく水の中で揺らいでいた。

 オレに伝えようと、必死に何かを言っている。その姿に、前みたいに恐怖を感じることはなく、オレは立ち上がって女の子に近づいていく。


(何、何を言っているんだ?)

「ねえ、何を……ええっ!?」


 無意識に声を出したオレ。水の中で声を出したのに、ゴボコボと言うわけじゃなく普通に話せるし、息が出来ることに驚いた。それに泳がずに水底を歩いている。


「なんで…………。あっ!」


 近づくにつれ、揺らいでいた女の子が、水に溶けるように少しずつ端から消えていくのがわかり、慌ててその子に駆け寄った。


「待って! 消えないでくれ! どうしてこの世界にオレ達を連れて来たんだ!? どうやったら帰れるんだよ!」


 女の子がゆっくりと一声ずつ話す。


「い・ず・み……いずみ? いずみって女神の泉のことか?」 


 うんと首を縦に振る女の子。


「この泉がどうし……え? いずみにいけ? 泉に行けって言っているのか?」


 女の子が大きく頷き、手を組んでオレにお願いするように頼み込む。

 女の子に消えてほしくないため、捕まえられるかわからないが、右手を伸ばした。

 泉に行けとしか教えてもらっていない。他にもいろいろと聞きいことがあるんだ。


 その子に触れようとした時、女の子がまた口を開いた。


「え? じょ……か……?」


 オレの言葉に女の子が微笑み、淡く光ながらふわっと霧が晴れるかのように消えていった……。


 もっと聞きたかったのに! なんで消えるんだよ!!

 

 出てこないかと、消えた場所に両手をつき叩いていると、白い砂の中に小さな硬い物があるのに気づいた。

 何だろうと、それを手で掴む。それが何かを見ようとした時だった。


「っ!?」


 な、何? 何だ!? 両足首に何かが巻きついている! 怖っ! 怖い!! この感じ、もしかして蛇とか!? 

 オレ、地上にいる蛇は平気なんだけど、海蛇とかウツボとか、水の中にいるにょろにょろ系は苦手なんだよ!!

 子供の頃読んだマンガに、水の中の死体からウツボがいっぱい出てきたシーンがあって、トラウマになった。くねくねした動きで水の中を泳ぐ姿が怖いんだ。

 今、それがオレの足に巻きついてる…………。

 

 わあーっ!! 

 

 パニックになったオレは、足と手をできる限り動かし、その場を離れる。その動きでどっかに行ってほしいと願いながら、地上を目指した。

 水から顔出し楓達がいるほうへ、がむしゃらに泳ぐ。


「お兄ちゃん、どうしたの!?」

「女神さま!?」


 水から出ても、足に絡みついている感覚はある。

 怖くて振り向けないオレは、うつ伏せのまま「足! 何か巻きついてる!! 見て!」と大声をあげた。

 ノン子さんが楓の腕の中から飛び降りて、オレの顔の近くに来る。


「えー、何が……。ええ!? これって……それに……」

「何? 何だった? やっぱ蛇?」


 楓がオレに絡んでいるやつをはずしてくれる。お前、よく触れるなと思う。


「軽っ!? 何でこれ軽いの? 見た感じ重そうなのに……」


 軽い? 中身? 蛇じゃないのか?

 楓の声に身を起こし、それを見て「はあ?」と、素っ頓狂な声を出してしまった。

 足に絡みついていた物。それは、オレの買い物袋だった。

 2つの買い物袋の持ち手のところが、それぞれオレの両足に巻きついていたらしい。


「はあ~、なんだ~。買い物袋だったのかよ……。よかった~」


 考えてみれば、一緒に水に呑み込まれたんだ。ここにあってもおかしくはない。

 濡れてしまっているのもあるはずだが、密封してある物は使えるかもしれない。そう思い、買い物袋を引き寄せる。


「うおっ、軽っ! え? それに、なんで濡れてないんだ?」


 一晩中水に浸かっていたのに、買い物袋は濡れていない。中の物も濡れていないかった。

 軽いから中身が入ってないんじゃ……と、中の物を取りだし手に取ると、ちゃんと重さがあった。


「……お兄ちゃん。お兄ちゃんも濡れていないんだけど……」

「え?」


 楓に言われ、自分を見てみる。水に入ったのに、体が濡れていなかった。


「そういえば、昨日も濡れてなかったんだよな……。それに、水の中で息が出来たし、話せた……」

「ええ!? それってどういうこと!? 私は水に触ると濡れたよ。あと、一瞬だけど水が光った。帰れるのかと思ってロープを握りしめていたんだけど。いったい何があったの?」

「うーん、それなんだけど、なんかよくわからん」


 オレは楓に、水の中の出来事を話した。


「女神の泉に行け? ここじゃん。もう来てるよ」

「いや、スールが言うには、女神の泉はこの世界に七つあるそうだ。ここが一つ目なら残り六つ」

「そこに行けば帰れるヒントがあるんだね」

「たぶんな。スール、オレ達はまだここにいるよ。帰る道を探す」

「わあ! うれしいです」

「帰れる可能性があるのは嬉しい。でもさ、その女の子って何なんだろうね。女神の泉にいるから、女神様だったりして」

「それはありうるな。オレ達をここに連れてくる力があるってことだし。しかし、なぜオレ達なんだ? ……いや、待てよ。スールがオレを見て女神と言ったんだから子供じゃないはずだ。なあ、スール。この世界の女神ってどんなの? オレを女神と間違えたんだから大人なんだよな?」


 オレが女神様と言われてイメージするのは、慈愛に満ちた綺麗な女性の神様だ。


「この世界を作った女神ディアさまですか? 見れますよ」

「え? 見れる?」

「女神様に会えるの?」

「はい! ここでは木で見えませんが、開けた場所で見れます。少し歩くけど帰り道だし、あんないします」


 ……ん? 開けた場所に行けば見れる? 銅像とかそういう類いなのかもしれないな。顔を見ておくか。


「じゃあ、行ってみるか」

「行くのはいいんだけどさ~……」

「どうした?」


 行こうとしたオレに、楓が待ったをかける。


「お腹すいた……」


 グゥ~キュルキュルと音を出し、お腹を押さえる楓。

 オレと会えたことで緊張が解けたのか、腹が空いたことを思い出したらしい。オレはまだ平気だけど、ノン子さんもお腹が空いているはずだ。

 どうしようかと悩んでいたオレに、買い物袋が目に入った。


「ちょっと待ってろよ」


 ガサゴソと、買い物袋の中からお菓子を取り出す。誕生日だからとパートさん達から貰ったお菓子だ。


「ほらよ、楓。とりあえずこの場はこれで我慢しろよ。いつもより高級なお菓子で美味しいぞ」

「クッキーだ! チョコもある! 食べる、食べる!!」


 喜んで食べる楓を見ながら、スールも食うか? とクッキーを1つ手渡す。


「……これは何ですか?」


 手のひらにのせたクッキーをじっと見るスール。


「え? クッキーっていうお菓子なんだけど……」

「お父さんからもらって2回ほど食べたことあるから、クッキーは知ってます。でも、こんな形じゃなかった。もっとペタンとしていた……」

「嫌じゃなければ食べてみるといいよ」


 恐る恐るクッキーの端を少しだけかじるスールだったが、口に入ったとたん驚いて顔をあげた。


「甘くて、サクッとしていてすごくおいしい! こんなの初めて食べた!」


 クッキーを全部口に入れて恍惚な表情で食べるスールに、何個もあげる。


「高きゅうなものって言っていたのに、こんなにもらっていいんですか?」

「いいの、いいの。スールが喜んで食べてくれるのが嬉しいから」


 そう言うと嬉しがって、もう1つ口に入れた。

 近くにあった大きな葉を1枚取ると、残りのクッキーを葉でくるみ、ポケットにしまう。


「お父さんとお母さんにもあげたいので持って帰ります」


 優しいな、スールは。でも、ポケットに入れたクッキーが、ボロボロにならないといいけどと思いながら、チョコレートもあげようかと考えた。しかし、チョコレートって猫には毒だからあげてはいけない。でもスールは人でもあるし、あげてもいいのか迷う。

 

「あ、ノン子さんにもご飯あげなきゃ」


 ノン子さんにと、バイト先でカリカリを買っていたんだ。

 

「ノン子さん、カリカリ食べる?」


 ノン子さんの方を見れば、先ほどオレがうつ伏せになっていた場所で座っている。


「ノン子さん? おーい、ノン子さん、ほら、ご飯だよ。カリカリ」


 袋を振って音を出すがノン子さんは動かず、顔を洗っては手を舐めている。


「いつもなら来るのに。腹、減ってないのか? あの顔を洗う仕草、何か食べた後よくするよな。虫でも食ったのか」


 畳の上に、食べた後の残骸であるバッタの足や羽だけが落ちていたことを思い出した。バッタは美味しいのか、よく落ちてたな。


 そういえば手に何かを掴み、ここに持ってきたよな。そう思い出したオレは、なんだったんだろうとノン子さんがいる周辺を探す。

 そこで見つけたのは、葉が1枚ついている30㎝ほどの枝1つ。その枝を手に取り、振り回しながら辺りを見渡すが、草しかない。


「手に取ったけど、慌てていたから水の中で落としたのかもしれないな」


 持っていた枝を捨てようと思ったが、しっくりと手に馴染むので、記念にと、買い物袋にいれておく。


「よし! じゃあ女神様のところに行ってみるか。おっとその前にロープを外さなきゃな。楓も外せよ」

「わかった~」


 二人して腰に巻いていたロープを外し、水の中にまだ浸かっているものを引き上げる。


「ん? なんだ? 重いぞ」

「ねぇ、お兄ちゃん。何か引っ掛かっているよ」


 それに気づいたオレ達は、二人してロープに引っ掛かっていたものを水から引っ張りあげた。


「え?」


 それを見て驚く楓に対し、オレは納得していた。


 

 

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