心強い味方
うわぁー! うわぁー! とキラキラと瞳を輝かせながらテンションが高い楓を見て、オレは心配になってくる。
「おい、大丈夫か?」
「異世界だよ!? ラノベのテンプレじゃん! 冴えない主人公が異世界に召喚されて、勇者になって無双するってやつ!」
「……お前、なんでそんなに詳しいんだ?」
「さりーに教えてもらった!」
「誰だ? さりーって。聞いたことないぞ」
「さりーは、沙織里っていう新しくできた友達。ラノベが大好きで、私に話してくれるんだ。私も何本か読んだことあるよ。さりーはね、絵師なの。ファンタジーやヒストリカルの絵を描くんだ。淡い色合いがとても綺麗で、それがもう素敵すぎてさ! 私も描きたくなって、一から勉強するために美術部に入ったの。いつか、あの絵のような王子様とか描いてみたい!!」
……それでか。それでバスケ部を辞めて美術部に入ったのか。
その、さりーって子がどれくらいの絵を描けるのか知らないが、楓がそこにいくまでには、かなり遠すぎる道のりだ。千里の道も一歩からとは言うが、楓の場合は永遠にたどり着けないんじゃないだろうか。だって、猫が棒になっている絵だぞ?
「勇者ね……。女神の次は勇者か」
「ステータスオープンッッ!!」
ボソッと呟いたオレの声に、楓の大声が重なる。腕の中で、またノン子さんがビクッと固まった。
「おい、大声やめろよ。ノン子さんが驚くだろ。それになんだよ、そのステータスってのは」
「……あれ? こうすればゲーム画面みたいなのが目の前に出てきて、自分のステータスが見られるのが定番なんだけど……出てこないね」
「あのなぁ……、出るかそんなの」
「あっ、そうか! 冴えない勇者なら私じゃないよね。お兄ちゃんが勇者なんだ」
「…………」
お前、オレを冴えないって……。そりゃーそうだけどさ、もっと何ていうかオブラートに包んで……まぁ、いいや。
「ね、ね、ステータスオープンって言ってみてよ」
「オレも!? 嫌だよ!」
「いいから、いいから。ステータスが出たら魔法が使えるかもしれないよ。魔法、やってみたくない?」
「うっ……」
やってみたい。20歳になっても、そういうのは憧れる。っていうか、憧れないヤツっているのか? 一度は夢見るだろ。
「スゥ、ス、ステータスオープン!!」
吃りながらも言ってみた。鏡を見なくても、顔が真っ赤になっているのがわかる。
楓が、わくわくした顔で見つめる中、ノン子さんがオレを冷めた目で見てくるのが辛い。
「どう? 目の前に何か見える?」
「……何にも変わらない。やめときゃよかった。恥ずかしいわ!」
「おかしいな。勇者じゃないってことか……。あっ、聖女っていうのもあった! 私が聖女としてこの世界に癒しを……」
楓が、聖女ね~……。
聖女って清楚なイメージだ。
黙って大人しくしていれば、それで通るかもしれないが、楓は元気よすぎて無理だろう。ガンガン突き進んでいくタイプだし。
「女神さま」
「そうそう、めがみ……。えっ!? 聖女じゃなくて私、女神なの!?」
食いつくように大声を出す楓にビクつきながら、スールが近づいてきて声をかけた。
「あの……女神さま。この方は?」
オレに楓のことを聞いてくるスールに、楓が「ええ!?」と今までで一番デカい声をあげた。
「女神!? こっちが!? 私じゃなくて、なんでお兄ちゃんが女神って呼ばれるのよっっ!!」
オレを指さし何度もスールに確認する。
楓に何回も名前を伝えたが、なぜかイサールには、めがみに聞こえるらしいと教えてやった。
「ふぅーん、そういうことで女神か。不思議だね、どうしてそうなるんだろう。……ああ、真名だから教えちゃダメってことなのかもしれない」
「まな?」
「うん。力ある者に自分の名を言っちゃうと支配される話があるんだって。だから、異世界では名前だけを教えて、名字を教えないほうがいいらしいよ。もしくはあだ名とか。お兄ちゃんの場合はちょっと違うけど、そういった類いじゃないかな。水希が女神になるのはわかんないけど」
「へー」
「お兄ちゃんが女神なら、私もそうなるよね。それとも他の何かになるのかな?」
紹介してよという顔をされ、スールに楓を自分の妹だと紹介する。
「女神さまのいもうと……」
「そう、楓っていうの。よろしくね、スール。ね、私の名を呼んでみて」
なんて呼ばれるんだろうと、楓は期待した顔でスールが呼んでくれるのを待っている。
「よ、よろしくです。カエデさま」
「か、かえで……」
楓はカエデだった。
オレの横でガーンという効果音が聞こえるほどの顔をした楓は、ショックをうけヨロヨロと草むらに膝をついて項垂れた。
orzなんて、本当にやるヤツいるんだな! ちょっと面白くて笑ってしまう。
「あ、あの、ぼく、へんなこと言いました?」
楓の姿を見て、スールがオロオロしだす。
「アハハッ。いいや、スールは悪くないよ」
「でも……」
「ほっときゃいーよ。どうせすぐ立ち直るんだから」
その言葉と同時に、楓がすくっと立ち上がった。
ほらな、楓って小さい頃は内気だったけど、ばあちゃんと暮らすようになって超ポジティブになったんだよ。
何かあってもその壁を突き破って進んでいく強さはあるが、それは家族がいないと一瞬で弱くなる。
オレに出会えて泣く楓は、可愛かった。なかなか見れないレアな姿だったもんな。
「大丈夫ですか? カエデさま」
「うん。ここに来れて、獣人に会えただけでも儲けもんだからね。話変わるけどさ、私のこと様つけないでいいから。憧れはあったけど、実際に様つけられて呼ばれるとむず痒い 」
「でも……女神さまのいもうとだし……」
「いいの、私は女神じゃないし。様なんて呼び慣れていないから、かえでがいい」
「わかりました。カエデさま。いいえ、えっと、カエデさ……ん」
「カエデさんか。ま、いいよ。それでお願いね」
「はい! カエデさん!!」
「へぇー。獣人を生で見たらどうかと思っていたけど、スールは可愛いね、お兄ちゃん」
「うん、オレもそう思うよ」
オレ達の言葉に、スールは顔を赤くして恥じらうように微笑んだ。
「今日も女神さまにかわいいって言われた。それにカエデさんにも! どうしよう、うれしい!」
「な、なにこれ!? マジ可愛いんですけど!! 写メ撮りたいのに、スマホがない~っ。さりーに見せてあげたかった!」
「だよな~。アハハハハッ」
楽しいなぁ。異世界に来て不安になっていたけど、楓とノン子さんがいるだけで、笑えるオレがいる。
二人がいるだけでこんなにも心強いし、なんとかなるんじゃないかと思えてくる。
オレは、心強い味方を手に入れた。




