表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/29

心強い味方

 うわぁー! うわぁー! とキラキラと瞳を輝かせながらテンションが高い楓を見て、オレは心配になってくる。


「おい、大丈夫か?」

「異世界だよ!? ラノベのテンプレじゃん! 冴えない主人公が異世界に召喚されて、勇者になって無双するってやつ!」

「……お前、なんでそんなに詳しいんだ?」

「さりーに教えてもらった!」

「誰だ? さりーって。聞いたことないぞ」

「さりーは、沙織里っていう新しくできた友達。ラノベが大好きで、私に話してくれるんだ。私も何本か読んだことあるよ。さりーはね、絵師なの。ファンタジーやヒストリカルの絵を描くんだ。淡い色合いがとても綺麗で、それがもう素敵すぎてさ! 私も描きたくなって、一から勉強するために美術部に入ったの。いつか、あの絵のような王子様とか描いてみたい!!」


 ……それでか。それでバスケ部を辞めて美術部に入ったのか。

 その、さりーって子がどれくらいの絵を描けるのか知らないが、楓がそこにいくまでには、かなり遠すぎる道のりだ。千里の道も一歩からとは言うが、楓の場合は永遠にたどり着けないんじゃないだろうか。だって、猫が棒になっている絵だぞ?


「勇者ね……。女神の次は勇者か」

「ステータスオープンッッ!!」 


 ボソッと呟いたオレの声に、楓の大声が重なる。腕の中で、またノン子さんがビクッと固まった。


「おい、大声やめろよ。ノン子さんが驚くだろ。それになんだよ、そのステータスってのは」

「……あれ? こうすればゲーム画面みたいなのが目の前に出てきて、自分のステータスが見られるのが定番なんだけど……出てこないね」

「あのなぁ……、出るかそんなの」

「あっ、そうか! 冴えない勇者なら私じゃないよね。お兄ちゃんが勇者なんだ」

「…………」


 お前、オレを冴えないって……。そりゃーそうだけどさ、もっと何ていうかオブラートに包んで……まぁ、いいや。


「ね、ね、ステータスオープンって言ってみてよ」

「オレも!? 嫌だよ!」

「いいから、いいから。ステータスが出たら魔法が使えるかもしれないよ。魔法、やってみたくない?」

「うっ……」


 やってみたい。20歳になっても、そういうのは憧れる。っていうか、憧れないヤツっているのか? 一度は夢見るだろ。


「スゥ、ス、ステータスオープン!!」


 吃りながらも言ってみた。鏡を見なくても、顔が真っ赤になっているのがわかる。

 楓が、わくわくした顔で見つめる中、ノン子さんがオレを冷めた目で見てくるのが辛い。


「どう? 目の前に何か見える?」

「……何にも変わらない。やめときゃよかった。恥ずかしいわ!」

「おかしいな。勇者じゃないってことか……。あっ、聖女っていうのもあった! 私が聖女としてこの世界に癒しを……」


 楓が、聖女ね~……。

 聖女って清楚なイメージだ。

 黙って大人しくしていれば、それで通るかもしれないが、楓は元気よすぎて無理だろう。ガンガン突き進んでいくタイプだし。


「女神さま」

「そうそう、めがみ……。えっ!? 聖女じゃなくて私、女神なの!?」


 食いつくように大声を出す楓にビクつきながら、スールが近づいてきて声をかけた。


「あの……女神さま。この方は?」


 オレに楓のことを聞いてくるスールに、楓が「ええ!?」と今までで一番デカい声をあげた。


「女神!? こっちが!? 私じゃなくて、なんでお兄ちゃんが女神って呼ばれるのよっっ!!」


 オレを指さし何度もスールに確認する。

 楓に何回も名前を伝えたが、なぜかイサールには、めがみに聞こえるらしいと教えてやった。


「ふぅーん、そういうことで女神か。不思議だね、どうしてそうなるんだろう。……ああ、真名だから教えちゃダメってことなのかもしれない」

「まな?」

「うん。力ある者に自分の名を言っちゃうと支配される話があるんだって。だから、異世界では名前だけを教えて、名字を教えないほうがいいらしいよ。もしくはあだ名とか。お兄ちゃんの場合はちょっと違うけど、そういった類いじゃないかな。水希が女神になるのはわかんないけど」

「へー」

「お兄ちゃんが女神なら、私もそうなるよね。それとも他の何かになるのかな?」


 紹介してよという顔をされ、スールに楓を自分の妹だと紹介する。


「女神さまのいもうと……」

「そう、楓っていうの。よろしくね、スール。ね、私の名を呼んでみて」


 なんて呼ばれるんだろうと、楓は期待した顔でスールが呼んでくれるのを待っている。


「よ、よろしくです。カエデさま」

「か、かえで……」


 楓はカエデだった。

 オレの横でガーンという効果音が聞こえるほどの顔をした楓は、ショックをうけヨロヨロと草むらに膝をついて項垂れた。

 orzなんて、本当にやるヤツいるんだな! ちょっと面白くて笑ってしまう。

 

「あ、あの、ぼく、へんなこと言いました?」


 楓の姿を見て、スールがオロオロしだす。


「アハハッ。いいや、スールは悪くないよ」

「でも……」

「ほっときゃいーよ。どうせすぐ立ち直るんだから」


 その言葉と同時に、楓がすくっと立ち上がった。

 ほらな、楓って小さい頃は内気だったけど、ばあちゃんと暮らすようになって超ポジティブになったんだよ。

 何かあってもその壁を突き破って進んでいく強さはあるが、それは家族がいないと一瞬で弱くなる。

 オレに出会えて泣く楓は、可愛かった。なかなか見れないレアな姿だったもんな。


「大丈夫ですか? カエデさま」

「うん。ここに来れて、獣人に会えただけでも儲けもんだからね。話変わるけどさ、私のこと様つけないでいいから。憧れはあったけど、実際に様つけられて呼ばれるとむず痒い 」

「でも……女神さまのいもうとだし……」

「いいの、私は女神じゃないし。様なんて呼び慣れていないから、かえでがいい」

「わかりました。カエデさま。いいえ、えっと、カエデさ……ん」

「カエデさんか。ま、いいよ。それでお願いね」

「はい! カエデさん!!」

「へぇー。獣人を生で見たらどうかと思っていたけど、スールは可愛いね、お兄ちゃん」

「うん、オレもそう思うよ」


 オレ達の言葉に、スールは顔を赤くして恥じらうように微笑んだ。


「今日も女神さまにかわいいって言われた。それにカエデさんにも! どうしよう、うれしい!」

「な、なにこれ!? マジ可愛いんですけど!! 写メ撮りたいのに、スマホがない~っ。さりーに見せてあげたかった!」

「だよな~。アハハハハッ」


 楽しいなぁ。異世界に来て不安になっていたけど、楓とノン子さんがいるだけで、笑えるオレがいる。

 二人がいるだけでこんなにも心強いし、なんとかなるんじゃないかと思えてくる。

 オレは、心強い味方を手に入れた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ