第81話 宝船
「コーキ、相手は敵だよ? お供えなんて、意味があるのかな?」
お供え用のおにぎりを作りながら、パロンがボクに問いかける。
「ボクがいた国には、『敵に塩を送る』って言葉があるよ」
おにぎり用のおコメを炊きながら、ボクは返答した。
『敵が苦しんでいるときに援助する』って意味だけど、向こうが困っているかなんて知らない。完全におせっかいだ。
みんなが食べたり売買する分には、手を付けない。すべて自分で作り出す。船に使う木材も、すべてボクの身体を使ってもらっている。
それに、お酒で天使族とクトーニアンが和解した。お供えをする意味は、十分にあると思う。
「コーキなりに考えたのだ。任せようではないか、パロン」
「そうだね。コーキだもんね」
クコとパロンが、ボクをそっとしてくれた。
ちなみに二人は、ドワーフ親子のナップルとスプルスさんを手伝う。みんな、船を作っているのだ。闇の世界樹に、船ごと供えるために。
「どうしてコーキは、世界樹とまともに戦おうとしないんだい? キミのレベルなら、神様が相手だって負けやしないと思うけど? 作り主であるワタシより、ずっと強いよ?」
「ボクもそれは考えたよ。でも、案からは除外した」
たしかにボクは、世界樹の恩恵を受けている。
レベルが上ったことによるポイントも、戦闘寄りに振ってあった。種も、主に強い相手との戦闘を想定している。
自画自賛になるけど、ボクだって神様相手に負ける気がしていない。
だが、それではダメな気がした。
神様と正面切ってをケンカしただけでは、何も解決しない気がしてならない。
「どうしてさ? コーキは、相手をなんだと思っているの?」
「闇の世界樹の正体は、【タタリ神】じゃないかって思っているんだ」
祟り神というのは、日本が独自に持っている考え方だ。
「神様とは、いわゆるアンタッチャブルな存在である」と、日本古来の宗教は考えている。見るだけでもアウトだと。
そんな相手にケンカを売ったら、間違いなく災いが跳ね返ってくる。なにもしなければ、向こうからは仕掛けない。
これらの特性から、ボクは闇の世界樹の正体をタタリ神と判断した。
普通の世界樹が恵みの神様なら、対になる存在は、おそらく逆の特性を持つ。
悪い怪物だったら、間違いなくこの村を滅ぼしているだろう。
だが世界樹自体はそんなことをせず、「襲って来たら対処する」にとどまっていた。
クトーニアンは、単に闇の世界樹を信仰しすぎているだけ。
闇の世界樹は、決して悪者の味方ではない。が、扱い方ひとつでタタリにもなるのだろう。今までのクトーニアンが、悪い方向にしか利用しなかったせいだ。
ならば怒りを鎮めてもらい、対話まで持ち込む。
「私としては、納得できないんですけどねえ」
難色を示したのは、天使のドムさんだ。
「敵の正体を知るためにも、まずは機会を伺う必要があります」
「ですよねえ。お酒がもったいないとか、思ってはいけませんよね」
お酒が惜しいんだな、ドムさんは。
「ドム、お酒はほどほどにしなよー。コーキだって、ちゃんと余裕を持って作っているけどさ」
「心得ていますよっ。コーキさんのお酒は、平和の架け橋ですからね」
ドムさんとパロンが、言葉を掛け合う。
「いえいえ。ジャンジャン飲んでください。『こんなにおいしいお酒ですよ』ってアピールしてもらったほうが、受け取る側も楽しんで飲んでくれると思うので」
「そうですか? そこまで言われたら、飲まずにはいられませんなあ!」
ドムさんはマジで遠慮せず、グイグイとお酒を飲み干す。
「コーキよ! 本気で酒がなくなりそうな勢いじゃぞ! ワシももう一杯ほしい!」
ドサクサに紛れて、クコもお酒を要求してきた。
「はいはい。あはは」
ボクは呆れつつ、さらにお酒を用意する。
こんな感じで、闇の世界樹にも気に入ってもらえるといいけど。
「いよいよだね」
ボクたちは、闇の世界樹がいるポイントへと出向した。ハィラさんに道案内を頼み、お供えを乗せた宝船を沈める先を探す。
宝船の底には、あらかじめ穴を開けておいた。フタを取り付けて、沈まないようにしてある。
闇の世界樹は海底の谷を超えた先にあり、生身ではたどり着けない。よって、船に穴を開けて沈めるのだ。
「こここ、このあたりで、いいかと、お、思います」
ハィラさんが、船に指示を出した。
「よし、船に穴を開ける。全員移動せよ!」
「おおーっ」
宝船を操っていたヴェリシモさんが、船員に指示を送る。
ヴェリシモさんを含めた船員さんたちが、ティンバーさんが用意した別の船へと移った。
「よし、穴を開けよ!」
「おーっ! せーの!」
ボクたちも手伝って、フタの紐を引っ張る。
ポンッ、とフタが取れて、船に穴が開く。
穴にドンドンと、海水が入っていった。
お供えを乗せた木製の船が、沈んでいく。
「喜んでくれるといいけど」
「大丈夫。きっと喜んでくれますよ」
ピオナが、ボクの手を取って励ましてくれた。
事態は、意外な形で現れる。
村に帰ったときだった。
「えっ、コーキが二人いる!?」
なんとボクの村に、真っ黒い姿のボクが現れたのだ。




