第76話 世界樹のダークサイド
「ドミニオン様!」
天使の一人が、ドムさんをたしなめた。
「……コホン。コーキ殿。最高の贈り物を、ありがとうございます」
すぐに、ドムさんが我に返る。さすが上役、といったところか。
「私的にキープさせていただけましたら、セラフ様とのお取引なども、円滑に進めさせていただきますが」
「普通の対応で、お願いします。おみやげは、いくらでも安定供給できますので」
「はいー。やったー」
ドムさんが、ウキウキで対応してくれた。
これで、天使の王様とも会えるようだ。
「コーキ。どうやら我々は、とんでもない方を味方につけてしもうたようだな」
「まあ、会ってみればわかるさ」
ドムさんに先導してもらい、天空にあるお城に案内される。
「これ、ウチの技術じゃ作れねえな」
柱に触りながら、ナップルが呟く。
お城は外装・内装共に、変わった金属を使っていた。
ボクの住んでいた日本でも、こんな鉄は見たことがない。
「なんていう金属なんだろう?」
「ミスリルです」
出た。魔法の銀だっけ。
「まあ、ミスリルってのは、王都でも採れるんだけどな。魔法銀の純度を維持したまま強度ここまで高く加工できるなんて、ありえねえ」
ナップルが、ただただ感心していた。
それでも通行形式は、王都と似たようなものである。
「クコ、天使ってどんな種族なの?」
「魔法使い族としては、魔族と並ぶ最高位に属しておる。だが、ややトンデモ思想じゃな」
王様のところに到着した。
天使の王様らしく、誰よりも大きな翼を持っている。さらに、その翼は太陽のように光っていた。
「我が名はセラフ。此度の働き、大義であった。コーキとやら、なんと感謝すればよいか」
席を立ち、王が頭を下げてくる。
「いえいえ。クトーニアンはボクたちにとっても敵だったので」
「それでもだ。世界樹の一部を失い、我々は故郷を火の海にするところだったのだ」
彼ら天使が考えていたのは、大地の浄化だったという。
「具体的には、どういう?」
「雷の槍を放ち、クトーニアンもろとも大地を滅ぼす作戦である」
なるほど、たしかに論理が飛躍し過ぎだね。
「ひええええ……」
「Gが出てきたのにキレて、家ごと燃やす主婦じゃないんだから!」
この世界ってそんな過激なの!?
「パロン、ちょっと話が飛躍し過ぎかなって」
「いやいやコーキ。Gが出たらすぐに家を破壊しないと」
常識であるかのように、平然とパロンは語る。
「そもそも、クトーニアンってなんです?」
「世界樹の、ダークサイドだ。キミらの言葉で、『ヨルムンガンド』というそうだが」
「ヨルムンガンド! あの!」
パロンが、コクコクと首を縦に振り続けた。
「なんなの、それ?」
「世界樹を食べる、伝説のヘビだよ。そうか。だから奴らには、世界樹が必要だったんだ」
天使たちが世界樹を作って守っているように、クトーニアンたちにも世界樹は存在しているらしい。
「世界樹を食い尽くして、世界を作り替えてしまうことが、奴らの生態だ。我々はその所業を許せなかった。天空へ逃げて、雷を落としたのだ。根絶やしにしたと思われたが、生き残りがいたらしい。奴らは世界樹をコントロールして、我が物にしようとしたのだ」
天使族とコンタクトできなくなった世界樹は、どれだけ地上にいても弱ってしまうらしい。
「我々も、地上への未練があったので戻ろうとした。しかしクトーニアンとの戦いに、我々は疲れたのである」
はあ、と天使の王様はため息をつく。
「なにより、奴らは世界樹を食らってしまう」
魔力の塊である世界樹を食べられると、世界は存在すらしなくなってしまう。新たに闇の世界樹が生まれて、クトーニアンたちに都合の良い世界ができあがるらしい。
ボクがこの地に生まれた理由が、なんとなくわかってきた。クトーニアンたちを止めるためだったのか。
「今でも、その作戦は生きているのですか?」
「まあな。キミらが尋ねてこなかったら、あのトレントもろとも再び砂地に変えていただろう」
あの大陸を荒野にしたのは、天使たちだったのか。
「どれだけ天罰を下しても、クトーニアンたちはしぶとく侵攻・侵食を続ける。しかしキミらなら、どうにかできるかもしれない」
「戦う以外の手立てが、ボクにあるかも、と?」
「左様。げんにドミニオンは、お主をいたく気に入っているようなのでな」
あっはっは、と、愉快そうにセラフ王様は笑う。
「そうだ。お酒があるんですよ。王様もぜひ」
「うむ。いただこう」
王様がお酒を欲しがると、ドムさんはガッカリしたような表情に。独り占めしようとしていたんだね。
「我々も、もらってばかりではなあ。そうだ。ドムを仲間にしてやってくれんか? コヤツも、地上のほうが住みやすかろう。クトーニアン撃退にも役立つぞ」
「え、いいのですか?」
「よい。酒蔵のワインを盗み飲みされずに済むでなあ。あっはっは」
常習犯かい。
セラフさんの魔法で、地上へと一瞬で戻ってきた。
「え、みんなどうしたの!?」
髪の長い少女を、村人たちが取り囲んでいる。
少女は怯えていた。
「待って。話を聞いてあげないと……」
「コーキさん、下がって」
「ドムさん!」
「この人物は、クトーニアンです!」
あわあわと、クトーニアンの少女は体を震わせて怖がっている。
村人は武装こそしていないが、少女を村に入れるまいと通せんぼしていた。




