第75話 天使(よいどれ
大陸を歩いてみる。
「思っていたより、土地が丈夫だね。コーキ?」
パロンが足で、土を踏みつけた。
「わわわ。あんまり乱暴にするなって、パロン! 落ちるだろ!」
高いところが苦手なナップルが、ヴェリシモさんにしがみつく。
「心配ない。私が飛んだって、なんともないんだから」
「ううう」
覚悟を決めて、ナップルも地面に足をつける。
「おおお。地面があるって、すばらしいな!」
ナップルも、落ち着いてきた。ようやく、いつもの調子をを取り戻したようだ。
「アザレア、平気?」
「大丈夫です。コーキさんがいれば、危険な場所でも勇気が出ますので」
アザレアは、一人で着地した。
「でもこの土さあ、どの材質とも違うな。この世界とは違った成分で、できているみたいだ」
砂をつまみ、ナップルは指でこねる。
「飛んでいる間に、材料が変わったのでは? あるいは、当時の地層そのままだとか」
「どんだけオーバーテクノロジーなんだよ、この島は。誰が支配しているんだ?」
ガルバが、未知の文明に困惑していた。
ボクも、そんな感じ。
島には、木まで生えていた。動物も存在する。生態系が、できあがっているんだ。
「本当に島なんだね。で、パロン。人の気配がするって、どこから?」
「あっちだよ」
ひときわ高い山を、パロンが指差す。
「そこで何をしているのです?」
進もうとしたら、斜め前方から声をかけられた。
現れたのは、背中に羽の生えた少女である。見た目はスレンダーな子どもだが、声は大人っぽい。なんといっても、頭に輪っかが光っていた。
「おお、天使族ぞな?」
クコによると、あの人は天使らしい。天使って、この世界にいるのか。
いつの間にか、ボクたちは同じような天使たちに囲まれていた。みんな手に持った弓に、力を入れたように見える。
「ああ、怪しい見た目ですが、ここを襲いにきたのではありません」
ボクは諸手を挙げて、無抵抗を証明した。
「それはわかります。世界樹の気配を辿ったので」
手を上げただけで、女性天使は他の天使たちをとどめる。どうやら、彼女は偉い人のようだ。
これだけの天使さんが、この島に住んでいるんだね。
「パロン。あの人、世界樹の気配って、言っていたね」
「うん。おそらく、コーキの神格にも気づいているよ」
だから世界樹がニョキニョキ生えてきても、攻撃してこなかったのか。
「ボクは、コーキといいます」
「傀儡であるはずのゴーレムが、言葉を話すと? やはり、世界樹のなせる技でしょうか」
やはりこの天使さんは、ボクの正体を知っているみたい。
「コーキって、ゴーレムだったんだな」
そういえば、ガルバたちには話していなかったっけ。話す機会がなかったから、打ち明けそびれていたよ。
「たしかに、ボクの身体は、世界樹でできているんです。作ったのはこちらのハーフエルフで」
パロンを紹介して、みんなも紹介する。
「やはりコーキさんは、神様の使いだったのですね」
恐れるどころか、アザレアは尊敬の眼差しを向けてきた。
「ウッドゴーレムだからって、アタシらは差別しねえや。コーキはコーキじゃねえか」
「ふむ。コーキがゴーレムだろうと、王都の功労者であることは変わりない」
ナップルとヴェリシモさんを、ボクを特別視しない。
「我の名はドミニオン。ドムと呼んでください。ここにはどのような用件で? 世界樹を伝
ってきたのです。よほどの用事があったのでしょう」
事情を説明した。クトーニアンを撃滅したことなど。
「だいたいの事情は、飲み込めました。クトーニアンの駆除、感謝いたします。長旅、お疲れ様でした。立ち話もなんですから、我が城にいらしてください」
「ありがとうございます。あのこれ、ウチでとれた野菜や果物です。お酒もありま――」
「お酒!」
食い気味にドムさんの、目の色が変わった。
「すいませんねえ。コーキ様。どうぞどうぞ楽になさってください」
お野菜や果物は部下に持たせ、ドムさん自身はお酒を入れたひょうたんだけをかつぐ。持って帰ったりしないよね!?
「その場で食べちゃっていいですよ。いくらでもご用意いたしますから」
「ほお。ではこちらのお酒もこの場でクイッといっちゃっても?」
ドムさんが、指をおちょこを持つように曲げて、口に傾けた。
こういうところだけ、日本人みたいだ。世界共通のジェスチャーなのかな?
「まだお酒はできて、間がありません。年にわずかほど作っていますので、大事に飲んでくださいね」
「はい。大事にグビッと、いただきます」
やや警戒気味だったドムさんの態度が、えらく軟化した。
「ドム様! 戒律のために控えよと、セラフ様からは言われているではありませんか!」
配下の天使が、ドムさんの行為をたしなめる。
「ですが、お近づきのしるしと、せっかくコーキ様がくださったおみやげですし。調査しなければなりませんよね? 調査しなければなりませんよね?」
「なんで二回言うねん」
ほんとだよ。
「いやあ。この世界に毒物を持ち込むとは思えませんが、調査のために味見くらいならいいでしょう。いただきます」
ドムさんは葉っぱをちぎって、お酒を数滴ほど乗せた。こぼさないように、クッと一息に飲み干す。
「はああああああああ。やべえ。罪な味。たまんねえ……」
ため息とともに、ドムさんがつぶやく。
口調が変わったんだけど!?




