第66話 岩盤工事
ボクたちの村を悩ませている岩山を見て、専門知識を持つナップルがアゴに手を当てる。
「うーん、ダメだな。なんのお宝の反応もしねえ。加工がしづらいだけで、丈夫だったり強い武器防具になるってわけでもねえし、鉱石だって取れるわけじゃねえんだよな」
岩場に手を添えて、ナップルが残念がった。
「石炭とか油田とか魔法石とか、どの岩山にもそれなりにあるもんなんだけどな」
この岩山の素材を取ったところで、硬いだけで商品にはならないらしい。掘ったとしても、貴重な魔法石やレア鉱石など手に入らないのだとか。本当に、単なる邪魔な石の塊だという。
「採掘じゃなくて、解体工事になっちゃうのか」
労力に見合わない仕事を、ドワーフさんたちにやらせるわけには。
「泥で動かしてどけた方が、王都のためになるんじゃねえのかとさえ思うぜ」
「マッドゴーレムの効果も、薄いんだよね。表面だけしか、削れないんだ」
しかも、この岩は地下深くまで続いている。どけたくても、どけられない。
「どうしようか、コーキ? 専門家の意見でも、岩をトンネルにしても意味ないって」
「仕方がない。コラシェルへのルートは、東から伸ばしていこう」
ムリヤリ岩山を突っ切って行くより、近隣の村を経由していったほうがいいか。
回り道になるけど、仕方がないだろう。
「産業ルートがほしいなら、突っ切ったほうがいいんだけどな」
そっちのルートは、後回しでいい。今はとにかく、生活ラインの確保を重視する。
「ガルバ、アザレア。申し訳ないんだけど」
「露払いだろ? 任せな」
アプレンテスを南西に抜けていくだけなら、ガルバたちでも大丈夫のはずだ。
「ガルバさん。俺も仲間ともども、連れて行ってくれ。コラシェルのネトルシップ伯爵とも、話を通しておきたい」
ダンディ・リオンも、ガルバたちに同行してくれるという。
「もうひとりの専門家に、聞いてみようかと」
パロンが残念がる中で、ボクはピオナに調査を頼んだ。
ピオナが、岩にスライムを染み込ませていく。
ブツブツと、スライムが岩を溶かす。だが、途中でやめてしまった。
「ダメですね。硬いだけの岩です。高価な金属でもありませんし、調査してみても、高価な金属類は含有していません」
掘るだけ、ムダだそうだ。
「めんどくさ」
「まったくだ」
ナップルも、父親のスプルスさんも、唖然としている。
「ですが、奥にダンジョンがあります」
そこの魔物を撃退すれば、トンネルを掘っても大丈夫だという。
「また、ダンジョンの近くに水源があります。かなり地底ですが」
水を確保できれば、またこの土地もうるおいそうだ。
「この水が、あらゆる魔素や資源的な要素を吸い上げているせいで、地上まで素材が行き渡らないのでしょう」
ダンジョンの奥に眠っている存在は、かなり貪欲な魔物のようである。クレキシュ大渓谷にいた、【アルラウネ】みたいなボスキャラが、いるんだろうね。
出てこられないのは、地上だと資源を確保できないからだろう。おそらく地下に根っこを張りすぎて、地下でしか活動できなくなったのだ。
「ですが、迂回路という手もあります」
目的はあくまでも、流通の道をもうけること。ダンジョンは、後回しでいいだろう。
「ひとまず、街道が先決かな」
「はい。岩を削るのもいいですが、もう一つご提案が」
「なにかな?」
「岩山の上に、橋をかけちゃうんです」
なるほど。木の橋を作って囲んじゃえ、と。
「時間がかかりすぎないか?」
もっともらしい質問が、ヴェリシモさんから出た。
「大丈夫さ。ね、ピオナ」
「はい。参ります!」
ボクはピオナを伴って、木馬で岩の周辺を移動する。
岩のそばに等間隔で木を植えていく。苗木はすべて、ボクの腕から生えてきたものだ。
ヴェリシモさんと一緒に、岩を避けて木を植え続けた。
「うわうわ、早馬より、ずっと早いな。少々驚いているぞ」
木馬のスピードに、ヴェリシモさんは振り落とされそうになっている。
「木が伸びていくぞ!」
だが、ヴェリシモさんは眼前の光景に目を奪われていた。
ニョキニョキと、植えた先から苗木がみるみる育つ。
「パロンとナップルは、反対側をお願い」
「ワシも手伝おう」
「お願いします、クコ!」
パロンにも、同様の処理をしてもらう。同じように高速移動式の木馬に乗ってもらって。
「いけいけぇ!」
おっかなビックリなヴェリシモさんと違い、ナップルは楽しげだ。
木はどんどんと育ち、岩山を覆い尽くすほどに。
「これでもまだ、岩はびくともしないな」
「そう思うでしょ?」
実は、ちゃんと意味のある行動なのだ。
そうこうする間に、ボクとパロンは王都で合流する。
「帰りは、反対方向を見ていこう。王女、変化をよーく見ていてくださいね」
「うむ」
反対方向、パロンが走っていたルートで、村へと戻った。
「コーキ、なんだあれは!」
ヴェリシモさんが、岩の表面を指差す。
ピシ、と音を立てて、岩がひび割れ始めている。
「とうとう、始まったか」
木の根っこが、岩から突き出す。
コンクリートを割るほど、木の生命力は高いのだ。
木々の力を借りて、岩山を圧縮していく。




