第67話 ダンジョン攻略は、温泉の後で
岩にだんだんとヒビが入り、岩を壊しにかかる。土は盛り上がり、岩の全貌が明らかになっていった。根っこが岩を締め付けているのが、ボクにもわかる。
さらに岩山を、木の根っこで包みこむ。
木の方もさすがに、ミシミシといい出した。しかし、確実に岩山を破壊できている。
「なんということだ。アプレンテスの開拓を阻んでいた岩山が、大量の木に蹂躙されている」
ヴェリシモさんが、驚きの眼差しで光景を見守っていた。
「硬いだけの岩石に、硬度と柔軟性をあわせ持つ大木に勝てるはずがありません」
ピオナだけ、やたら自信を持っていた。木の精霊ドリアードだからだろうか。
「いよいよですよ、コーキ様」
ピオナが、大木に手を添えた。トドメといわんばかりに、ズズズと岩山がせり上がってくる。
「コーキ様の開拓を邪魔する岩山には、消えてもらいましょう」
とうとう、大木郡が岩を壊してしまった。
「マジかよ!? 木の根っこが、硬い岩山を砕きやがった!」
ドワーフのナップルが、ぴょんぴょん跳ねながら観察していた。
「そりゃあそうだよ。岩の崖から花が咲いたりするでしょ?」
「たしかにそうだけどさ。ドワーフが束になって掘り出しても壊せなかった岩を、木で潰すとかありえねえ」
「一念、岩をも通す。ってね」
気持ちを強く望めば、たいていのことは叶うよという意味だけど。
「でも、この石どうしよう? ほとんど、使い道がないよ」
「道路に使おう。雨のときとか、路面が固くて安全だよ」
「そうだね」
樹木が岩をならしてくれているおかげで、岩の加工もしやすくなった。これで、道作りもはかどるだろう。あとは、ダンジョンを掘り起こせば。
「うわ!?」
ダンジョンのありかを、探していたときだ。ドワーフの一人が、水浸しになっている。
「熱い水が出てきた!」
地下から噴水のようにお湯が噴き出してきたのだ。
「マジか。あっつ! あっつ!」
ナップルがお湯に触れて、手をブルブルと振った。お笑い芸人みたいな動きである。
「これ、温泉だよね?」
天を穿つほどの間欠泉に触れて、ボクはピオナに尋ねた。
「間違いありません。これは温泉です」
いいなあ。お風呂。しかも岩風呂だよ。これは気持ちよくなるやつだ。
「ピオナ、魔物の気配は?」
「今のところは、なんともありません」
だったら。
「入ろう、温泉に!」
「待て、コーキよ。ダンジョン攻略はどうするんだ?」
ヴェリシモさんが、ボクの肩に手を置く。
そりゃあ、そうだろう。温泉に浸かるなら、安全を確保してからのほうがいい。
でも、眼の前には安全な温泉がある。
「そんなの、後でいいよ」
いくらお姫様の意見だとしても、これは譲れない。
「コーキ様。ここのお湯は、地上の浄化作用がございます。おそらくこの水があったから、魔物も地上にでられないと思われ」
なるほど。だったら余計に、この温泉は守らないと」
「コーキ。キミって、ウッドゴーレムなのに、温泉がスキだね」
不思議そうに、パロンがボクを見る。
「世にも珍しい、ウッドゴーレムじゃわい。身体がしけったりする心配はないのかの?」
クコが、ボクの身を案じた。
「温泉の風呂釜に、ヒノキが使われるくらいだ。身体が痛むことはないさ」
「たしかに、そうじゃのう」
日本人なら、お風呂だよ。
ボクはナップルに頼んで、ドワーフのみんなも入れるように入浴スペースを広く取った。想像以上の大浴場に。これは、お店としてもやっていけるかも。
「ふーう。最高だな」
ボク専用の入浴スペースで、お風呂を浴びさせてもらう。ボクの姿を見せて、みんなをビックリさせないためだ。
「コーキ、入るよー」
バスタオル一枚になったパロンが、こっちに入ってきた。
「女湯は向こうだよ?」
ボクは、女湯のある反対側の壁を指差す。
「いいじゃん。減るもんじゃないし。ワタシはキミの製造者なんだ。入浴して、経過を見ないとね」
「ごもっともです」
ドリアードのピオナまで、入って来たではないか。
「ピオナまで。どうしてまた」
「マスターのおそばに仕えるのは、契約モンスターとして当然です」
ピオナやヴェリシモさんのナイスバディについつい目が言ってしまうけど、パロンもムッチムチなんだよね。ずっと気になっていたけど。ぽっちゃりメイドさんなのだ。
「さすがにナップルは、ヴェリシモに連れられて、女湯の方に行ったけどねー」
だよね。でなければ、危なすぎる。
「パロンさま、最近輪をかけて、ふくよかになられていませんか?」
地雷発言を、ピオナが平然と聞き出す。
「あーっわかっちゃった? コーキの身体から生えてくるリンゴやブドウを、食べまくっているからね」
パロンが二の腕をプニプニする。
「戦闘はあるけど、狩りをする程度だからそんなに緊張感もないし。戦闘自体も危険度こそあるけど、頻度は低いんだ。動かないときは、ホントに動かないんだよね」
最近のボクたちは、移動が多くて忙しかった。しかしパロンは普段、ダンジョン攻略や開拓がなければポーション作りに引きこもっている。運動も、むくみを取る程度だし。
「ご無礼を。ハイエルフの方は、細身が多いとお聞きしましたので」
「かまわないよー。ハーフエルフが、こんな感じなんだよ」
あくまでもハーフエルフの体質なのだと、パロンは言い張る。




