第62話 カレーライスを食べよう
「おお。コラシェルの、ティンバー・ネトルシップ伯爵令息か」
ダリエンツォ国王が、パロンに向けて身を乗り出す。
「うん」
その紳士の名前が出た途端、ボクたちは心底安堵した。
たしかにボクは、始めて会った貴族はティンバーさんだ。
彼自身も、アプレンテスを気に入ってくれていたみたいだし。
「ティンバーに対応してもらったら、貴族はヘタに手を出せないからね」
「しかし、ティンバー殿が承諾してくれるかどうか」
「国王が直接選んだって言うなら、誰も文句は言わないんじゃない?」
「左様か。たしかに、あんな土地はティンバー殿でなければ、持て余すからな」
ティンバーさんに手紙を出して、コラシェルから王都に来てもらうという。
「一旦帰ったのに、またとんぼ返りとか。ティンバーさん、忙しいね」
「貴族なんて、そんなもんだよ。本来だったら、コーキだって爵位くらいもらってもいいくらいの活躍なんだよ?」
ボクが、貴族様ぁ?
「そうだな。お主に爵位を授けても、王家としては差し支えない。どうだろう?」
「いえ、お気持ちだけで」
ここで断ったら、無礼なんだろう。とはいえ、もう厄介ごとは引き受けたくないよ。貴族様たちを相手に、上手に振る舞える自信もないし。
「欲のない男だな。では、報酬を上乗せしておこう。存分に使うがよい」
さっきもらったお金の、倍額をいただいた。おお。こんなたくさんもらっても、使いきれるかなあ?
「……あっ」
ボクは、一つの考えを思いつく。
まあそれは、ティンバーさんが来てからでいいかな。
ティンバーさんがこちらに来るまで、ボクたちもしばらく王都に滞在することとなった。
「他に希望はあるか?」
「カレーが食べたいです。それも、庶民的な」
「そんなものでよいのか?」
「今のボクにとっては、最高のごちそうです」
「では、スプルスについて参れ。スプルスよ。王都の城下町でうまいカレーを出す店を探して参れ」
国王からの指令を受けて、スプルスさんが、「はっ」とかしずいた。
「じゃあ、コーキ、オレについて来な」
ボクたちは、スプルスさんの後をついていく。
「ドワーフとは、協力関係なんですね?」
「そうなんだ」
王都が食糧や衣料品、どこでも使用可能な通貨を。ドワーフたちは鉱山資源と加工技術を、それぞれ提供しあっている。
「だから、国産品が水不足で減るのは、避けたかったんだ。ドワーフは反乱を起こさないのはわかってらぁ。ビジネス的な関係が崩れっちまう。なにより、申し訳なくてよお」
威厳を保つためではなく、彼らの生活を第一に考えるとは。すばらしい王様だ。考え方はドライでありつつ、人情が厚い。
「ドワーフどもだったら、オレっちに任せな。色々当たってみるさ」
「助かるよスプルス」
「オレっちとアンタの仲ですよ、パロン殿。コーキも、心配しなさんなっての」
「お願いします。それでさあ、どうしてお姫様までついてくるの?」
ボクたちの後ろに、ヴェリシモさんがずっと歩いてきていた。装備も、戦闘服に戻っている。
「王都は、退屈なのだ。みんなが開拓で忙しいのに、私だけ王都で花嫁修業とか、ありえん」
ヴェリシモさんが、不満を口にする。
「真の王族は、民のために働いてこそ信頼を得られるのだ。私にできることは少ないが、可能なことは全部したいのだ」
道楽で冒険しているふうには、思えない。姫様はちゃんと、国のことを考えているんだなぁ。
スプルスさんが「着いたぜ」と、一件のお店に入っていく。
こじんまりとした店内に入ると、香辛料の香りがふわっと広がった。
ここのカレーは、絶対にうまい。
「いらっしゃい。今日は大所帯だね」
ふくよかなオバちゃんが、厨房から現れる。筋肉質で、ずんぐりむっくりしていた。彼女も、ドワーフのようである。
「そうなんだよ。カレーライスを五人前くれ」
「あいよ」
スプルスさんからオーダーを受けて、オバちゃんが奥へ引っ込んだ。
開いているテーブル席に、座る。
「スプルスさんとパロンは、どういう関係なの? 仲間だったんだよね?」
「ワタシは大昔、スプルスの父親とパーティを組んでいたんだ」
道中で王都に立ち寄ったとき、スプルスさんが産まれたという。
「はい、おまちどう」
五人分のカレーライスが、テーブルに並んだ。
これだよ、これ。野菜たっぷりの、カレーライス!
「いただきます……うん!」
野菜がホロホロと、口の中で崩れていく。うまみがジュワッーと、広がっていった。
これだよ。ボクが追い求めていた、家庭の味だ。
他所の家のカレーって、案外クセが強い。
けど、ここのカレーは誰にでも食べやすかった。チェーン店のような繊細さまでは求められないけど、十分に合格点だ。
「辛さもちょうどいいな」
姫様のお口にも、合ったみたい。
「若干、漢方も入っているね。身体が温まってきた」
ショウガの効果だろうね。このショウガが、実にいいアクセントになっていた。
「ごちそうさまでした」
最高の体験だったな。異世界で、こんなおいしいカレーを食べられるなんて。スプルスさんに感謝だ。
「うむ。馳走になった」
身体の小さいクコも、カレーを全部平らげちゃった。
スプルスさんが、ボクに視線を向ける。
「コーキよぉ。カレーのついでに、最強のドワーフを紹介してやろう」




